マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

林業(02、トヨタ式林業)

2008年10月05日 | ラ行
 雨、雨、雨……。降雨量が国内有数の大台ケ原に近いとあって、大きな雨粒が
地面をたたきっける。三重県大台町にあるトヨタ自動車の林業現場を訪ねた。

 世界的な山林家、諸声(もろと)林産から昨年09月に購入した1630ヘクタール。スギやヒノキが育つが、最近20年は間伐などの手が入
っていない。モヤシのようにひょろ長い木立も目立つ。

 トヨタはここで何をやるのか。担当主査の加藤博見(ひろみ)さんは「50年かけてまじめに林業をやるんです」と笑う。

 まずはITを駆使した「森」の現況の徹底調査だ。細かく網目状に区切ったエリアごとに、木の直径や高さ、樹齢の分
布を洗い直し、地理情報システム(GIS)に落とし込む。下草など下層植生も調べ上げる。木の太り具合から正確な二
酸化炭素の固定量を推計する。

 伐採や植林など森林の管理は、先進的な山林経営で知られる速水林業に委託した。だが、任せっきりではない。速水式
の作業を、トヨタ式の合理化ノウハウで徹底解剖している。10年ほどかけてトヨタ式林業を構築する気構えらしい。

 林業では経験則が幅をきかせてきた。ここにエンジニアリングの権化のようなトヨタが参入した。トヨタが自動車以外
の産業に進出して大成功した例は聞かないが、林業に工業の合理精神を持ち込んで、再構築しようという挑戦は、それだ
けでも大いに価値がある。

 この森が新しい林業のショーウインドーに育てば面白い。
  (朝日、2008年09月30日。論説委員、川戸和史)

     関連項目

林業(01、先進地)
コメント (1)
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