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行政改革(01、事務次官職を廃止せよ)

2008年07月10日 | カ行
          千葉大教授(行政学) 新藤 宗幸

 与野党の対決法案であった国家公務員制度改革基本法が06月06日、国会で成立した。

 基本法は政治主導の強化をうたっている。このため「国家戦略スタッフ」「政務スタッフ」を設け、首相や各省大臣のスタッフ機能を強化するという。だが、基本法から抜け落ち、議論すらされなかったのは、事務次官職の取り扱いである。

 縦割り官僚機構と官僚主導体制を支えてきたのは、採用時に将来の昇進可能性を区別した「入り口選別」と、府省別採用である。この体制の下で事務次官は、キャリア組官僚の最高ポストとなった。事務次官と同期入省者は同じ府省内にいない。これに象徴される入省年次による序列が、事務次官を頂点とした官庁の一体性を強めてきた。

 事務次官職は、たんに府省内の職業公務員に絶大な影響力をもっているだけではない。府省の事務次官からなる事務次官会議は、閣議提出案件を事前調整している。閣議はここで合意された案件に、閣僚が黙々と署名する場でしかない。しかも、この会議は旧自治省、旧厚生省など戦前の内務省系列に属する官庁の事務次官OBから登用されている内閣官房副長官(事務)によって、主宰されている。

 日本の官庁は「主任の大臣」制の下に、それぞれの大臣によって所轄されており、法制度からいえば、首相といえども自らが主任の大臣である内閣府を除けば、各省に直接の指揮権をもっていない。各省大臣は交代が頻繁であるばかりか、官庁の政策、事業、行政実務に精通しているわけではないから、事務次官会議こそ「官僚内閣制」の中枢なのである。しかも事務次官会議には、なんら設置の法的根拠はない。明治以来、慣行として敷けられてきたにすぎない。

 2001年の行政改革は、こうした官僚主導体制を改革するとして副大臣、大臣政務官制度を導入した。副大臣会議も設けられているが、それは閣議提出案件とのかかわりをもっていない。

 今回の基本法は事務次官、局長などの幹部については、内閣官房長官が人事リストを作成し、各省大臣はそれにもとづき首相、官房長官と協議のうえで人事を行うとしている。だが、官庁内で実務を通じて育ってきた高官の府省間異動など、現実には機能しないであろう。

 基本法はプログラム(手続き)法であって、今後、国家公務員法などの改正を必要としている。政治主導体制の確立をほんとうに追求するならば、国家公務員法の法案作成や国会審議過程において、事務次官職を廃止し、大臣-副大臣-政務官の指揮系統の確立を追求すべきである。また、局長級人事についても、内閣による直接任用に改めるべきであろう。

  (朝日、2008年06月10日)