マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

和歌山県(01、実力)

2008年07月05日 | ワ行
 和歌山県は奥深い。北西端の和歌山市から南東端の新宮市までは、黒潮洗う海岸沿いに特急で3時間。大阪経由で新幹線に乗れば、静岡や山口に到達できる。

 果てなく続く山中に分け入れば、世界遺産・高野山や数多くの秘湯が古(いにしえ)のまま残る。大和、出雲と並ぶ太古から木の国=紀州として歴史を刻んできた土地でもある。醤油製造や各種の先進漁法、鉄砲も、ここから全国に広まった。  

 県勢の良しあしも簡単には割り切れない。国勢調査にみる2000~20O5年の人口増減率は秋田に次ぐ都道府県ワ-スト2。

 しかし2005年度の実質経済成長率は6.0%と全国平均2.8%の倍の水準を達成。人口当たり県民所得増加率6.4%は全国一だった。鉄鋼、石油精製、化学の各大工場の高収益と設備投資が原動力だ。

 ただ、県内製造業の現金給与総額は減っており、計算上の「成長」を実感できない県民も多いだろう。筆者はむしろ、ブランド化の進む果樹農業にこそ当地の懐の深さを感じる。

 秋の一日、ふと立ち寄ったみなべ町で、季節はずれの梅の花の香りが鼻腔に満ちた。いや花ではない、天日干しの梅の実の放つ、えもいわれぬ芳香だ。

 梅干しはかつて、高齢者だけが口にする先細りの伝統食品だった。それが今では、紀州梅のおにぎりは子どもも好きな日常食の定番だ。梅と並んで生産量全国一のミカンも、近年の昧の改良とブランド向上で、どっこい日常生活の中に生き残った。

 千年忘れられていた熊野古道には、ここ数年驚くほどの数の中高年ハイカーが訪れ続けている。

 一筋縄では分析できないこの県の存在は、日本という国の味わいを、濃く、深くしている。

 (朝日、2008年06月28日。地域経済アナリスト・藻谷浩介、協力・日本政策投資銀行地域振興部)
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