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解釈

2008年07月06日 | カ行
1、解釈と思いつき

 古典文学作品の注釈には、もっともらしく見えながら、実は大変あやしげな説明が累積されており、現在でも次々と誕生しつつあるようです。そのような場当たりにすぎない思いつきやこじつけを、気軽に某氏説などと呼び習わす安易な体質は改善されなければなりません。

 説(theory)というのは、本来、それをもって多くの現象を統一的に説明することが可能な、一般性のある原理を指す言葉であるべきだからです。もちろん文献上に具体的な裏付けが求められない場合でも、この条件を満たしているならば、「仮説」としての価値は十分に認められてよいはずです。

 ところが、「日暮(ひくらし)硯」とか「蜩(ひぐらし)硯」とかいう解釈は、あえてそれを解釈と呼ぶにしても、そこで行き止まりになり、一般性を持っていません。兼好愛用の硯がそう呼ばれていたとしても、読者の側にそれについての知識が期待できないわけですから、兼好が断りなしにそういう言葉を持ち込むはずがありません。

 従って、この解釈は、結果として禁漁区の外にあります。積極的に否定すべき文献上の証拠がないから安泰だとその提唱者が思い込んだのでは、裸の王様に等しいでしょう。

 (小松英雄「徒然草抜書」講談社学術文庫、 102-3頁。仮名書きの一部を漢字にしました)

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