麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第647回)

2019-05-19 22:09:53 | Weblog
5月19日

けっこう本を読んでいます。新刊でいいのが出たからです。

ひとつは「物語として読む 全訳論語 決定版」(トランスビュー)。私と同い年の、弘前大学の先生による論語の新訳です。この訳文がとてもいい。論語は、いまでいえば、孔子の塾の日常をボイスレコーダーで録って、おもしろい発言をセレクトしてまとめたライブ盤のようなもの。だから、もっともっとくだけた話し言葉のはず。これまで、スタンダードな金谷訳などを読むたびにそう思い、頭の中で訳文を自分なりに作り替えたりしていました。それが、この本ではまったく必要ありません。そのままで、すっと入ってくる。まさに「これがほしかったんだよ」と言いたくなる新しい論語です。本のつくりも堅苦しくないソフトカバーでとてもいい。難点は、ときどき訳者の解説が暴走気味になるところで、「あんたは孔子か」とツッコミを入れたくなることも。そこはまあ飛ばして読んでもいいでしょう。この本をメインに、岩波の井波律子訳をときどき参考にしながら読むと、新しい孔子体験ができます。

次に、「マハーバーラタ」の新刊。「インド神話物語 マハーバーラタ」(上下巻、原書房)です。1970年生まれのインドの学者が語り直したものを、原典訳を手がけながら惜しくも途中で亡くなられた上村勝彦さんの弟子といえる監訳者が、もう1人の翻訳者の協力を得て和訳したもの。レグルス文庫とはまた違う語り口で、とてもわかりやすい「あらすじ本」になっています。私はこれを読みながら、山際版(英語からのほぼ全・重訳)を読み返しています。いちおう、「万年入門者」の域は超えたと自負していますが、とにかく同じエピソードでも、何度読んでも面白い。今回の本は最初に読むマハーバーラタとしてもいいかもしれません。見てみてください。

そうして、うれしすぎてまだ少ししか読んでいませんが、古典新訳文庫より、「パイドン」の新訳が出ました。「友だち」という創作のために、浪人時代に買ったツァラトゥストラを最近はずっと携帯していますが、その作者に言わせると、ソクラテスはニヒリストで、プラトンは「死を説教する者」ということになるのでしょう。それはわかっていますが、私は、ツァラトゥストラも心底好きだけど、ソクラテス・プラトンもすごく好きなんですよね……。日向の、強烈な光をながめながら日陰のベンチのひんやり感を楽しむというか。日向と日陰のどちらが本当にほしいのかと言われても、それはダイヤモンドゲームのコマみたいに、赤がいいと思える日は絶対に赤で、緑がいいと思える日は絶対に緑なんですよね。ただ、老いが深まるにつれて、「すっきりしたい」という感じがなによりも大事になってきているのはたしかで……。とりあえず、読んでから書きます。
コメント
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