麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第752回)

2022-01-30 09:34:09 | Weblog
1月30日

 近所の古本屋で「チェーホフの手帖」(新潮文庫、平成5年復刻版)を買いました。とてもおもしろいです。いくつか書き写します。


嘘をつく人は穢ならしい。

教育。—―「よく嚼(か)むんだよ」とお父さんが言う。そこでよく嚼んで、毎日二時間ずつ散歩をして、冷水浴をした。だがやっぱり不仕合せな無能な人間が出来あがった。

45歳の女と関係して、やがて怪談を書きだした。

女への恋が冷める。恋から解放された感情。やすらかな気分。のびのびとやすらかな想念。


 この、最後の「やすらかな気分」は、男なら誰でも知っている自由そのものの気分ですよね。もうこれでいい、俺はこのままいく。そう思う。だけどしばらくするとまた女に縛り付けられたくてフラフラと近づいていく。その繰り返し。


「なぜお前さんの歌はそんなに短いの?」と或るとき小鳥にたずねてみた。「もしや息が続かないのじゃないの?」
「私には歌が沢山あるのです。それをみんな歌ってしまいたいので。


 これは短編ばかり書くことについての、チェーホフの言い訳ですね。なるほど、と思いました。

 2008年11月の書評。「俳句脳」(茂木健一郎/黛まどか著、角川書店)。

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生活と意見 (第751回)

2022-01-22 16:33:05 | Weblog
1月22日

この書評を書いていた雑誌の編集長は、以前私の部下でした。だから、本のセレクトも書き方も好きなようにやらせてもらいました。おかげで、当時の私の「くたばりたい節」が随所に反映された文章になっていると思います。2008年10月の仕事。「悩む力」(姜尚中著、集英社)
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生活と意見 (第750回)

2022-01-15 17:13:11 | Weblog
1月15日

この何か月の読書で、最も衝撃的だったのは、ヴィクトル・ユゴーの「ノートルダム・ド・パリ」です。およそ20年前に神田の小宮山書店で講談社世界文学全集版を買い、いつか読もうと思っていたのですが、「古典」「歴史小説」という外ヅラに圧を感じて敬遠していました。ところが、何を探していたときかは忘れましたが、たまたまこの作品が電子書籍になっているのを知りました。試しに読んでみようと思い購入。メガネをかけるのは面倒なので字を大きくして読書開始。と、いきなりそのくだけた口語文体に驚き、大げさにいうと脳ミソを吹き飛ばされました。なんだこれは。どこが古典なんだ。なぜ、100年以上前に書かれた小説が、まるで昨日書かれたような若さと新しさを持っているのか。そんな驚きとキラキラの連続で、あっというまに読み終えてしまいました。すごい。感動。まさに天才の仕事。「レ・ミゼラブル」よりも、ユゴーをもっと身近に感じました。2万分の一の才能しかない私ですが、なにかを刺激されたことは間違いありません。と、そんなことを考えていたら、2月に、角川文庫から、この小説の縮約版が出るというお知らせが目に入りました。いまなら岩波文庫で全訳も読めますが、とりあえず、最新訳ではあるし長さも適当だと思うので、読んだことのない方は、その角川文庫版をぜひ読んでみてください。

以前、毎月書評を書くのが仕事でした。2008年9月の仕事。「書き込み式 自分史サブノート」(岳真也監修、祥伝社)
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生活と意見 (第749回)

2022-01-10 22:09:10 | Weblog
1月10日

しばらく前に「失われた時を求めて」の井上究一郎訳がようやく電子書籍化されはじめました(まだ完結していません)。元の版元である筑摩書房からではないので少し誤植があるのが残念ですが、やはりとてもうれしく、ゆっくり読んでいます。今回は、光文社古典新訳文庫と岩波文庫も手元においてわかりにくいところは参照しながら読んでいます。もうすぐコンブレーを読み終わります。
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生活と意見 (第748回)

2022-01-02 13:57:44 | Weblog
1月2日

「風景をまきとる人」の、二回目の、ここでの連載を終えました。初めはあまり読まれている感じではありませんでしたが、12月にはかなり多くの方が読んでくれたようです。ありがとうございました。「風景をまきとる人」はそのうち削除しますので、なお再読を希望される方はkindle版をご利用ください。この場所はまた、老人のつぶやきのような形に戻すつもりです。また、ここで書いて完結せず、宙ぶらりんのままになっているものを、開き直って「未完小説集」として、まとめていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
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