尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

橋下市長は「田中真紀子」に学んでないのか?

2013年01月21日 00時43分26秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 大阪市立桜宮高校の「体罰」問題について、書こうか書くまいか少し迷っていた。自分で好きなことを書いてるんだから、自分で決めればいいんだけど、この問題は奥が深い。というか、こういう形で明るみに出てしまえば、誰も批判するしかないので、書く意味が少ない。だが、教育の問題が社会問題になるときは、誤解や理解不足があるものなので、僕も一言言いたくなる。本当は部活動はあまり取り上げたくはない。なんというか、部活は教育界の「グレーゾーン」のようなところにあって、その問題を考え始めていくと、かなり時間がかかるのである。

 それでも書こうかなと思うのは、橋下市長が「入試中止」を言い出しているということを聞いたからである。こんなバカな話を持ち出す人がいるのかとビックリしたのである。まあ総選挙後の首班指名で一時は「安倍に投票」などと言いだした御仁である。勝手に「押しかけ連立」したいのかと思ったら、自公が大量議席を取って安倍になるに決まってるから、最初から安倍指名でいいじゃないかということだったらしい。さすがに政党政治の原則にはずれた暴言に従う人はなく、「日本維新の会」で当選した議員は「維新」トップの石原慎太郎と書く常識的な行動を取ることになった。だから今回も事情をよく知らないまま、思いつきでパワハラ発言をしてるだけなんだろうと思う。これで思い出すのは、田中真紀子前文部科学大臣が、大臣に権限があるとして大学設置を突然認めないなどと言いだした事件である。今後のルール改廃を検討するのはいいけれど、今までのルールで認められてきたことが突然認められないというのは、権限の濫用である。この問題があったからだけでもないだろうが、田中真紀子氏は総選挙で落選して「ただの人」になってしまった。こういう事例をよく見て生かすということが橋下氏にはないのだろうか。歴史認識問題などでは全然意見を異にするはずの下村文科相の言動が、なんだかいやにまっとうな感じに思えてくる。

 さて、入学者選抜についての事実から確認したい。(なお、大阪でも「入学者選抜」と呼んでいるが、高校のホームページでは「入試」とも書いているので、今後は「入試」と表記したい。東京では「入選」と略し、公的文書上では「入試」とは言わないが。)桜宮高校のホームページに出ている。この高校では、体育科(80名)、スポーツ健康学科(40名)、普通科(160名)の募集を行っている。(他に普通科に「知的障がい生徒」の「自立支援コース」3名の募集がある。)今回橋下氏は、体育科の募集を中止し、普通科を増員すればいいと言っているが、それは中学生にとって非常に酷なな措置である。

 というのも、体育科と普通科では、入試科目も日時も異なっているのである。体育科、スポーツ健康学科は、前期入試で、学力検査は2月20日に、国数英の3科目で行う。さらに21日、22日の二日にわたって運動能力検査、運動技能検査が行われる。一方、普通科は後期入試で、学力検査は3月11日に、国数英に加え社理の5教科で行う。なお、体育科、スポーツ健康学科に入学した生徒は、部活動に参加することが原則と明記してある。

 ところで大阪市立高校ではあるものの、この桜宮高校の体育科、スポーツ健康学科は大阪府全域から応募できる。(普通科は学区制限あり。)また市立だからと言って大阪市が独自に入試を行うのではなく、試験のやり方等は、「平成25年度大阪府公立高等学校入学者選抜実施要項」に基づいて行うと明記してある。このように、高校入試はずっと前から準備され、やり方が受験生、保護者、市民・府民に公表されてきたものである。突然入試中止と言われても、試験方法も日時も違う普通科を増やすと言われても、体育科をめざしていた生徒は普通科には流れない。大体学区制限があるんだから、受験そのものが多くの場合できない。

 では、どうなるかというと、他の体育科設置校に流れるだろう。体育科は設置校がない県もあるし、高校数が多い東京でも、2校(駒場と野津田)しかない。だから東京ではスポーツ技量が優れた中学生は、有名私立高に進学することが多く、都立体育科という選択はあまりないだろう。一方、大阪府では「日本の体育科設置高等学校一覧」というウィキペディアのサイトでは、全国最多の6校(府立2校、市立2校、私立2校)もある。まあ私立はともかく、桜宮高校体育科が募集停止になったら、他の3校に通える人はそちらをめざすだろう。そこをもともと受けるつもりの中学生には、えらい迷惑である。入試中止になって困るのは桜宮高校ではなくて、体育科をめざして受験するつもりだった中学生である。特に技量、学力がギリギリの生徒は大変であるが、いまさら社会、理科の勉強を始めるわけにもいかないだろう。

 通常、12月に保護者も交えて三者面談を行い、中学3年生の受験予定高校はもう決まっているはずである。もちろんそれは絶対ではない。直前に変える生徒もいる。多くの都道府県では「願書取り下げ」「再提出」も認めているだろう。つまり、高校にもなると学力ランクがあることが多く、思い切ってあげたり心配になって下げたりをするわけである。しかし、それは普通科高校内、あるいは商業、工業の上位校志望者の話で、今の時期になって普通科にしようか工業科にしようか、はたまた体育科にしようかなどと、学科を変える生徒なんていない。だから高校の学科別定員数を直前に変えられたら、大変に困る。アンフェアである。問題が起きたなら問題に対処すればいい。火事で全焼したとか物理的に受け入れ不可能な状態があればともかく、大人が起こした問題で子どもに負担を掛けるのは、アンフェアな行為である。これでよくよく判ったのは、やはり教育委員会という制度は絶対に必要だということである。変なことを言いだす首長がいると生徒が困るという実例があったわけだから。

 大体、今まで橋下市長は「競争」で教育がよくなると言ってきたはずである。桜宮高校を中学生、保護者が選択するかどうか見守っていればいいはずである。皆があの高校は避けたいと思えば、受験が減り「定数に満たない」応募が3年続けば閉校になるとか言う話だった。まあ府立の場合かもしれないが。だからなんでも競争させたい市長は、市民の選択に任せればいいではないか。この高校を閉校させるつもりならともかく、生徒というのは「再建学年」の誇りをもって入学する生徒だってきっと多いはずだと僕は思うが。

 東京では、入選要項に反する行為があったとして校長を免職になる事例がある。入選要項には出ていない頭髪等の乱れを見て、点数を操作して人為的に不合格にしていた事例が数年前に発覚した。つい数日前には、某都立高校で民間人校長が知人に入選結果を事前に伝えていたことが発覚して校長を免じられるというありえないようなケースが起こっている。詳しく知りたい人はここを。ちなみにこの前校長はなんと東京電力から来た人である。東電という組織は危機管理ができてないということのもう一つの例証なのかどうかは判らないが。とにかく、入選業務というのは気を遣うもので、要項に反することがあってはならない。入選要項説明会は東京では9月頃に行われ、僕は中学側でも高校側でも出席したことがある。細かい変更点などが説明されるが、とにかく日時、受験科目、応募要件(学区等)などが皆書かれている。直前に変更できるものではない。

 なお、「体育科」について。そんな高校があるのかと思った人もあるだろう。普通科以外に職業高校があることは誰でも知っている。農業、工業、商業が多いが、他に水産、家庭、看護、福祉、情報などがある。一方、普通科の科目をさらに専門的に行う高校というのも認められていて、体育科以外にも、理数科、音楽科、美術科、外国語科(主に英語科)、国際科がある。さらに複数の科目を設置できる総合学科もある。名前はいろいろカタカナにしてカッコよくする場合もある。さらに「コース制」を取っている高校もあり、案外高校段階で様々な進路先が準備されているのが最近の実情である。昔だと、普通科以外は商業、工業、農業(地域によっては水産も)くらいしかなかったが。
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1 コメント

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批難されるかもしれませんが (さすらい日乗)
2013-01-21 09:15:06
橋下徹という人は、明らかに異常な精神の人物だと思います。だからいくら論理で反論されてもまるで気にしないのです。

ブログにも書きましたが、『復讐するは我にあり』の主人公のような、いくらでも、別の人格、意見に変わってもそれが本心と自分も信じてしまう人間なのです。でなければ、前の発言とすぐに違うことを言えるはずがありません。

しかし、なぜそれが若者に受けるのでしょうか。
多くの政治家や役人が本気でものを言っていないように見えるのに対し、彼は本気で言っているように見えるからだと思います。
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