青の炎/蜷川幸雄監督
母親の以前の再婚相手である男がいきなり転がり込んできて、息子である高校生の青年は、いつも不機嫌になる。男は傍若無人にふるまい、酒を飲むばかりで何もしない。何もしないどころか、時折妹に危害を加えそうになる始末だ。このような男を受け入れる母親もどうかしているのだが、この家庭には事情もあるらしく、それは示唆されるものの、はっきりとは明かされない。青年は思い悩んだ末、緻密な計画を立て、男を殺す決心をするのだったが……。
原作小説があるようだ。映画化に当たって、演出にうるさいといわれる蜷川監督下に、ジャニーズの二宮和也、アイドルの松浦亜弥などが出演している。という事は多少は話題になったはずだが、僕はまったく知らなかった。二宮はのちに俳優としてそれなりの地位を築くので、その片鱗が十分にみられる。いや、むしろ新人としては上手いのである。彼の映画だという事が言えて、二宮演じる高校生の苦悩こそが、この映画そのものである。
周到な計画をもって殺人を実行するものの、落とし穴が待ち受けていて、青年は大変な窮地に陥ることになる。しかしながら機転の利くところがあって、これもなんとか乗り越えたように見えるのだが、さらにまた追い込まれていく。青年は逃れられない定めの中を、ただただ疾走していくしかないのである。
友人関係も悪くないし、好きな女の子もいて、きょうだい仲も悪くない。母親は不可解だが、親子の愛も間違いなさそうだ。すべては転がり込んできた男が悪いわけで、平安を乱したものを青年は排除しなければならないような正義感があるようだ。それは大人に対しての反抗でもあって、先生に対してもとんがったところがある。まあ、誰にでもある思春期の反抗を、このような姿であらわしている訳である。なかなかに難しい年ごろを、みな通過しなければ大人にはなれない、という事なのだろう。
勧められて観た映画なのだが、たまにはこういうのも観なければならない。それはすべて忘れてしまった感情だから、かもしれない。僕らは皆サバイバルしてきた、という事なのであろう。もう高校生になんて、二度と戻りたくないものである。