サユリ(完全版)/押切蓮介著(幻冬舎)
もとは1,2巻あった漫画の合本の上加筆されたものらしい。夏なのでホラーものを紹介されたものを読んで、手に取ることになった。
念願のマイホームを手に入れて、引っ越してきた家族があった。海の見える大きな家だが中古物件である。この機会に父の両親も呼び寄せて、一緒に住むことになる。ところがこの家には何か問題があって、なにかの気配がしている。壊れたテレビは電源すら入らず、放置されている。そうして具合の悪くなる人が出たり、父親が心筋梗塞で亡くなったりする。間違いなく憑き物のある家なのだ。家族が次々に犠牲になっていく中、学校の霊感の強い女性が気にしてくれたりするのだが、何しろ自分には力が無い。どんどんエスカレートして訳の分からない犠牲者が増えていく中に、これまでボケていたと思われた祖母が、急に復活してイニチアチブをとるようになって、少年は勇気づけられるようになるのだったが……。
前半と後半がまるで違う展開を見せるホラー劇になっている。後半の方が畳みかける展開を見せて面白い訳だが、おそらく前半は、そのカタルシスを得るための伏線ということになるだろう。読み終わってみると、本当にこんな話になるとは、まったく予想できなかった。怖がらせられると思っていたのに、なんとなく勇気が湧いてくるようないい話なのだ。いや、厳密にはいい話ではないのかもしれないけれど、そう思わせられるというか……。
著者もあとがきに書いているが、確かに日本のホラーでは、犠牲者がやられすぎるばかりで、バランスが悪いのかもしれない。理不尽にやられたら、人道的には復讐しなければならない。まあそういうのは歴史をみても負の連鎖で、戦争が無くならない原因でもある訳だが、読み切ることができる漫画なので、それでいいのである。さらにものすごく恐ろし気な絵を終始見せられているにもかかわらず、そんな気分にさせられるのだから、実に儲けものである。妙なものを読んでしまったという読後感はあるが、それはもちろん満足感も兼ねている。まったく世の中の創作ものは、このようなものがあるから目が離せない、ということも言えるのではないだろうか。