Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Western Electric 陣笠 について

2016-08-31 23:59:28 | Western Electric

 Western Electricのマグネチックスピーカーは数種類ありますが一番有名なタイプでその形状から(もちろん日本だけだが)通称「陣笠」と呼ばれています。
 大きさは3種類でN.H.Ricker、R.L.Wegelの特許をもとに1924年に開発された。

 特許図ではコーンを保護する金網が描かれていて興味深い。なぜ省略されたのだろう?もし金網が付いていたらオリジナルコーンの生存率は飛躍的に上がっただろうに。。

 「540-AW」 は直径18inch(45.7cm)でモニター、PA用。「548-AW」「548-CW」「548-DW」は各々「フロアースタンド型」「フック付き吊り下げ型」「壁面固定型」で直径36inch(91.44cm)の超大型でPA用だった。
 マグネチックスピーカーということでいずれも4kΩ〜10kΩのハイインピーダンス。
 1926年には「540-AW」に代わり直径24inch(60.96cm)の「560-AW」が発売された。
 「540-AW」は3機種の中で一番量産されていて現在でもよく目にします。しかし1925年にはより性能の勝るライス・ケロッグ型のダイナミックスピーカーが発表されModel 104としてRCAから発売されたためその優位性は短期間で終わりました。


 今日は8月31日 夏休み最後の日の午後4:30分 県北の静かな公園です。子供たちの姿は見られない。空は青いが吹く風はすでに秋の気配。幾つになってももの寂しさ、もの悲しさを感じてしまう。明日からほんとの「秋」になります。  っと書いてから周りの人達に聞いてみると9月から秋だと思っているのは私を含めて少数派だった。やっぱり学校嫌いが未だに尾を引いているらしい。

 WE540AW


 
 20年ほど前にお店で購入。メンテナンスしていません。分解してみる。
 
 まず中央の手ネジを緩めます。


 内側のネジを外すと メカニズムが見える
 

 外側のネジを外すと
 
 コーンが外れます。中央一点がドライブされるのでここの剛性は決定的に重要。この個体は良好です。しかし

 表裏の接合部が大きく離れているが軽傷。修理すれば良いので問題無し。

 メカニズム部








 コードにも製品番号が付いています。やっぱり高級品。



 「のり」を塗ってクリップ(只の洗濯バサミ)で留める。決してのり以外は使わない。次の補修ができなくなるから。
 コーン周囲には地味なモノクロ模様があります。控えめで好ましい。元々のコーンの色はもっと白かったと思う。


 補修完了しました。のりの乾くのを一晩待って音出し。

 この「陣笠」はNHKの取材を受けたことがあり、後述の自作25BとともにNHK BSと地上波に出たことがあります。番組の制作意図は「真空管の音は気持ちを穏やかにする」といったもの。当時1000万円するといわれたハイビジョンカメラを担がせてもらいました。見られたかたも居られるかもしれません。


 WE560AW  その1

 10年ほど前に個人売買で入手したもの。売り手が機嫌を損ねたのか分かりませんがなかなか送ってくれなかったのでこちらから出向いて回収した。コーンの痛みも激しく入手金額が高額だったこともあって当時一生懸命に補修した。
 当時のメーリングリストに投稿した記録が残っているので再度載せておきます。


 


土曜の夜からWE560AWの修復をはじめました。
 作業に先立ってメカニズムを540AWと比べましたが、全く同一ですね。(大きさ3種類の陣笠はすべて同じなのでしょうか。)
このスピーカーのコーン紙の程度は個体によってそれこそ様々で、ガムテープや瞬間接着剤での修理(破壊)も多いと聞きます。
 修理の560AWの様子は、大きな音が出ない、ビリツキ感がある、、などで540AWと比べても一聴劣っています。
 コーン紙は以前にリペアしてありましたが、一番の問題点はアーマチュアを固定する部分の剛性の不足で、ここが傷んでいると全体をドライブすることは困難になります。幸いに再修理可能な前修理のようです。

 以前のリペアーに用いてあった紙、のりをお湯で溶かしながら除去してみるとコーン頂点部分はかなりのダメージを受けていたのがわかります。
 (手を着けたことを一瞬後悔しました。ホントに治るのだろうか?)
 コーン紙と接合する部分の金属パーツが疲労でヒビが入っていました。
 金属パーツのリペアーを行い、あらためて和紙とのりで固定するわけですが、軽量、剛性、コーン紙の形状、表面の幾何学模様を極力損なわぬように行います。それでも最終的に模様のとぎれた所は、水彩絵の具を調色して小筆で慎重に描き足しました。
 美術品の修復そのものの作業でしたがその他10カ所程度のリペアーを完了することができました。
 所要時間は20時間程度でしたが、そのほとんどは「のり」の乾燥待ち時間です。
1600年代のバイオリンが現在でも使用できるのはバイオリンの組み立てが膠でされているために分解可能であるためです。次の修理が可能であるように修理することは貴重な文化遺産を守るうえでも必須だと思います。
 それにしても鉄が主体の車の再生と比べて、植物材料の堅牢なことには驚かされます。
 再組み立てを行って音出しです。(アンプを組み立てた時のようにドキドキしました)アンプはこれまた再生したWE25Bで電源トランスだけは旧タンゴ特注です。
 シューベルト 死と乙女 Vienna Konzerthaus Quartet (Westminster)  ・・・!! おー! おもわずカミさんを呼んでしまいました。
 まず音圧が十分とれます。540AWは精緻な音がしますが、あたりまえですが低域がちゃんと出ています。特徴ある音が部屋一杯に広がります。(大興奮!)
 一言、やって良かった・・・。

 このリペアーが比較的うまくいったので調子に乗ってしまって、、現在拙宅には5台の陣笠が居座っています。久しぶりにコーンを外して点検してみる。







 周囲の模様はWE540AWとは異なって朱色が入り華やかです。

 中心部はかなり手が入っている。当時の必死さが伝わって来る。

 裏の文字はくすんでいてほとんど判読できない。



 メカニズムは「WE540AW」と同じ様子。今回駆動子のハンダによる固定が緩んでいたため磨いて再度ハンダ付けして固定した。


 音色は重厚で深い。反面高域はちょっと寂しい。でも聴いてるとしだいに気にならなくなる。


 WE560AW  その2






 国内オークションで入手したものだが輸送が比較的良好だったのでコーンのダメージは少ない(これでも)。修復が少ない分コーンの重量増が少なかったため「WE560AW その1」より高域がよく出る。







 駆動子は途中の中継子で振幅が2/3に減衰されその代わりに駆動力が3/2倍になっている。この駆動子は永久磁石の磁力とともにとても重要で調整によって音質がかなり変化する。「WE560AWその1」は少し曲がりがあり気になってきた。


 WE560AW  その3

 海外オークションで入手。完全ジャンクで激安。相手はそのままダンボールに詰めて送ってきたのでコーンは酷く破損していた。気合いを入れて修復したが途中で駆動軸にコーンを留めるネジを紛失してしまった。コロコロところがってそれっきり。異次元空間に落ちたのだと思う。

 当時の修復の様子。









 今回適当なインチネジをさがしてなんとかネジ山を合わせて長年の懸案が解消した。

 ワニの背中ではありません。しかし一聴音が小さい。なぜだろう?

 ウチのWE560AWはすべて音質が異なります。メカニズムは同一なのでコーンの状態の差ということになる。しかしコーン紙以外でも音質を変える要素として考えてみると
 ・ 磁力の低下  U字磁石が減磁していないか気になるが、金属片をくっつけて比べた感じでは(かなりテキトー)ほぼ一緒だった。
 ・ アーマチュアから駆動子、中継子、駆動子の調整。 コーンの固定によって前後的なテンションをかけるとかなり歪んだりすることからアーマチュアの最適位置についての検討が必要。(目視でわかるのだろうか?)またコーンの中央がストレスなく駆動子に接続することも必要(な気がする)。
 ・ 駆動子の剛性。 ドライブにあたって十分なものが必要  
 ・ 音質評価の判断は限界までパワーを入れて判断することも必要。 現在CDプレーヤーから直接WE25Bに信号を入れているので多分限界駆動にはなっていない。プリアンプで昇圧して再度比較してみよう。

 早速やってみましょう。Western ElectricとMarntzの夢の共演か。CDプレーヤ出力を「Model 7C」で昇圧してWE25Bに繋いでみる。
 これは「その3」です。能率が低くて小さな音だったのですがパワーを入れても(といっても0.38W)破綻が目立たず大きな音が出る。また低域の伸びもあってコントラバスが唸る。

 逆に一番優秀だった「その2」は破綻が早く要調整。さてどこを調整するか?ボリュームをあげるとチリチリ、バリバリ言います。

 再度「その2」を分解してみる。マグネチックスピーカーのメカニズム部分の分解は初めて
 

 

 
 コイルとヨーク、ヨークと磁石はリジットに固定されていて調整代(しろ)は無し。すべてキツキツに締めてあるようす。各部を掃除して再度組み立ててもアーマチュアの位置は安定している。(コイルの中央でアーマチュアはどのように設置されているのかは不明)したがってこの部分のメンテナンスは必要はなさそう。永久磁石も強い磁界の中にあるわけでは無いので減磁は起こりにくい。メンテナンスは駆動子の固定に緩みが無いかの1点と考えます。アーマチュア、駆動子、中継子、駆動子各部の半田固定をやりかえて再組み立てしてみる。駆動子に前後的なテンションをかけた時に不具合が生じたのは単に接続部の緩みが招いたものと思われました。

 うまくいきました。大きな音が出ます。低域も伸びたようでバランス良好、聴き易い。WE540AWと比べても音質面ではWE560AWの方が明らかに勝っている。WE560AWはRCAの新製品に対してWestern Electricにとっては起死回生の一発だったのかもしれない。しかしWE540AWほどは製造されずバランスドアーマチュアマグネチックスピーカーは終焉に向かっていくが「陣笠」は結構長い間使われていたという記述もあります。
 ところで「バランスドアーマチュア」を検索するといっぱいヒットしておどろきます。どうも現代に新製品として復活している様子


 WE548CW

 「WE548CW」は「WE540AW」と同じ年(1924年)に発表された3種類の陣笠の一つで「フック付き吊り下げ型」、直径36inch(91.44cm)の超大型でPA用。
 WE548AW   WE548CW    WE548DW


 WE548CW

  



 

 

 



 オープンラックに穴を開けて逆さまにして蝶ネジ2本で固定しています。
 ここまで大きいと陣笠というより大きな銅鑼といった感じ。デザインもジャポネスクからはずれて中華銅鑼。巨大だがメカニズムは「WE540AW」「WE560AW」と同じ。紙の厚みも(多分)変わらない。PA用ということで業務的な酷使がされたと思うがWestern Electricはこの機構に絶対の自信を持っていた(と思う)。現存数はわかりませんが自重で前方にお辞儀してしまいそうになるほど華奢なので残っている数は多分少ないと思われます。しかし以前に国内の方で「私も所有しています」という連絡をもらったことがあります。 
 この個体は海外オークションで見つけたが旧オーナーはpic up onlyの希望だった。なんとか拝み倒して(?)木箱を作って送ってもらいました。ダメならこちらで箱作って送ろうかと思ってましたが。木箱ができて本体を固定した写真が送られてきまして「これでよろしいか?」と。先方も貴重品だとわかっていたので最良な状態で届きました。いまでも親切に感謝しています。直射日光で紙の繊維が脆くならないように、また湿気で剛性が落ちないように、使わないときは水平に保管する、、など気を使います。ここ数年は寝ていました。

 「WE548CW」の音は拙宅に来ていただいた方には聞いてもらった事がありますが、当たり前のようですが低音がしっかり出ます(そりゃまぁそうだろう!と、、)しかしもやもやする低音ではなくとても良質なものでまた全域のバランスが良く聞き易い、迫力がある、大きな音が出る。この大きさではなかなか一般家庭にには持ち込めなかったと思いますが圧倒的な差があります。
 しばらく聞いていたら歪みっぽくなってきました。メカニズムを取り外してみます。裏ブタをはずすと駆動部分を停めている3本のネジが見えますのでここのみ外します。コーンの補修は無いので外さない。







 緩んでいる駆動子を再度ハンダで固定する。面倒がらずにしっかり磨いてハンダ付けするのが近道。かなりの力がかかります。

 再度取り付けるわけですがコーンの自重で前下がりになっているのでそれにあわせてロッドを調整します。駆動メカニズムを留めている3本のネジだけでは調整がきかないときは中継子を留めている1本のネジを短いマイナスドライバーでゆるめて一旦フリーにしてその後固定する。ロッドに側方のテンションをかけないためにしています。でもこれが正しいかはわかりません。

 ダイナミックスピーカーは口径が大きくなるほど低域の伸びに比べて高域が寂しくなってくるものでバランスのとれた所謂フルレンジスピーカーは20cm前後に限られています。マグネチックスピーカーの「WE540AW」「WE560AW」「WE548CW」を聴き比べると高域の状態はそのままに低域が伸びてくれる、バランスが崩れないのが不思議です。4倍ものコーンの面積の違いにもかかわらず駆動ユニットが共通というのも全く驚異的です。これだけ聞いていると陣笠の感想でよく言われるセリフ「もう他にはなにもいらないんじゃないか、、」という気になってくる。コーンに触れるとかなり振動しているのが分かる。「EMTの鉄板エコー」ではないが、「紙エコー」状態になっているのかも知れない、、などと妄想。
 自分の葬式ではこのスピーカーでBGMを流してほしいものです。(ムリだろうなぁ)



 お読みいただきありがとうございました。



 後日談1
 ラインアンプが「Model 7C」ではやっぱりどうかと思うので以前作ったラインアンプに取り替えた。もともとWE231用だったのをWE101Fに改造してライントランスの1次からコンデンサーで信号を取り出したもの。

 UXソケットなのでWE101F(ウソ。NUです)の足にスリーブを被せている。ヒーターは3素子のリップルフィルター付き。

 一応音量調整も付いてます。どの程度昇圧しているかはよくわかっていない。

 これで聴いてみると、、いい感じです。

 後日談2
 行方不明になっていた「ネジ」が2年近く経って発見されました。

 適合してほっとしました。素直に嬉しいです。
 


 




 

 
 


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2 コメント

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560AW (暇人)
2023-09-26 17:40:38
こんにちは、初めまして・・・ ブログに出ている、560AW(ご主人の遺品)を手放そうとしている人がいますよ。 そこそこ、綺麗です。 鋳造アンプもあります。 他にも、信じられない位、色々お持ちのようです。
陣笠 (koban)
2023-09-26 19:44:35
こんにちは 遺品整理ですか。。私も常々家族から終活を迫られていますがもしもの時はお金を払って全部捨ててくれと言ってます。

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