現在FAIRCHILD 531Aに搭載されているのは同社のMODEL 202モノラルアームで非常に個性的な外観と仕様。
1955年 Graybar catalogより
1955年のGraybar catalogの説明にもあるように1本のアームに3個のFAIRCHILD製カートリッジが装着されて前面のダイヤルで回転、選択される。78SP用、LP用の混在も可能で選択すると針圧も自動で変更される。2個収納アームは見ることはあるが3個はめずらしい(というかこれ以外は知らない)がなぜ3個なのか?SPレコード初期には通常の横振動のほかに縦振動レコードがあり専用のカートリッジが必要だった。したがって3個のうち1個はLP、2個はSP用でこれは自動的に切り替わる針圧の関係から。
アームのデザインは当時の工業デザイナーの第一人者レイモンド・ローウィーで他のFAIRCHILD機器も多く手がけている。コイルスプリングによるダイナミックバランス型だが3個装着することでバランスが取れるため1個もしくは2個の場合はバラスト(ダミーウェイト)が必要とされる。後ろにあるネジで全体の針圧調整がされ個別の調整は通常はできない。シリコンオイルによるラテラル方向のオイルダンプ方式でアーム本体にローラーベアリングが組み込まれている。
現在カートリッジ2個しか装着していない。カーソルは使わずに直接ねじ止めされる。
LP用はFAIRCHILD 225A
ターレットのリングにつながる金属ワイヤーは最も緩められてスプリングは弛緩し針圧も低くなる。(4〜8g)
SP用はFAIRCHILD 215C(3mil)
この位置ではスプリングは大きく引かれて針圧が増加する(10g以上)。ピックアップとの接点は切り替え時にopenにならないように配慮されている。
古いオイルをパーツクリーナーで洗浄して少し粘度の低いオイルにした(今までのオイルが劣化して硬くなっていたのを見た反動で特に意味はなし)。
1個少ない状態だがメインのスプリングを調整して225Aは7g 215Cは14gに設定できたので問題ないように思われる。
中心近くまでカッティングしてあるディスクだと大きなヘッドがスタビライザーに当たってしまう。出力はDecca Decolaのphono入力に繋いだがステレオセットなので(モノ入力はない)両chモノ出力できるように結線した。
FAIRCHILDのモノラルカートリッジはMC型。通常は昇圧が必要なのだが多く巻かれたコイルなので出力が大きく特に必要ないとされる。それでも自社の昇圧トランスは用意されていた。
FAIRCHILD MODEL 235
昇圧比は1:5 音量、音質に応じて接続するか判断した。
Brahms symphony no,1 ベイヌム/アムステルダム・コンツェルトヘボウ
今世紀の初めころキングレコードが発売していた「スーパーアナログディスクシリーズ」は当時何枚か入手した。この演奏はオリジナルのLONDON ffrr盤も持っているのだがオリジナルの方を225Aで試聴した。ダンパーのコンディションが心配だったが特に歪み感なく再生されて一安心。このカートリッジはステレオレコードには使ってはならない(盤が傷む)。SPレコードはワルター、クライスラーなどを215Cで。
電源は100V60Hzでは78回転定速が出なかったので115Vに昇圧して稼働させている。メカニカルノイズはやはり大きいが特に78SPレコードの場合はスクラッチノイズが大きいためほとんど気にならない。LPレコードの場合は(当たり前に)静かな曲では気になるかもしれない(設置場所の工夫がいる)。音の出方はDecca Decola stereoのコラーロ+Decca MKⅠとはかなり異なる。音に勢いがあって緊張を感じ聞き流せない。普段はなかなか聴くことができない音、マニア宅にお邪魔した時に聴くような音。原音とはちょっと離れている(特に弦)が説得力がありこの音を否定するのは勇気がいる。通常はまずスピーカーがあって理想の出音に近づけるために苦労しながら周辺機器を整えると思うが出口の反対のまずプレーヤーありきから出発する険しい(楽しい)道のりになる予感がする。システムの潜在能力は十分に感じるがクセが強い。