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9条安全保障論(連載第13回)

2016-08-26 | 〆9条安全保障論

Ⅳ 過渡的安保体制

七 自衛行動の許容範囲①

 9条の下で自衛権の行使として、どこまでどのような武力行使ができるかということは、最も実際的な問題として、常に論議され、それなりの基準も設けられてきたところである。しかし、近年は国際情勢の変化に対応するとして、武力行使の要件や方法に関する基準を緩和・拡大する傾向にある。
 その点、安保法制制定以前の旧自衛隊法では自衛隊の主任務として、「直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛すること」旨が明記されていた。この文言は自衛隊の任務規定であると同時に、「侵略」という事象の発生を大前提として自衛権が発動されるという武力行使の大枠規定でもあったのだった。

 これはいわゆる「専守防衛」が国是とされた時代を反映し、9条との整合性を考慮した合理的な規定であったが、「間接侵略」の概念は曖昧で、例えば同盟国の基地や艦船・航空機等が攻撃された場合でも、「間接侵略」とみなす余地があった。
 厳密に言えば、9条下で可能な武力行使は、日本領土への直接侵略を排除するための自衛権行使としてのみ認められるべきものである。しかも、それが自衛戦争という形で継続的な戦争へと展開していくことはまさに戦争放棄を定めた9条に違反することになる。従って、ひとまず侵略排除に成功したら、それ以上の追尾攻撃や報復攻撃は厳に自制し、武力行使を直ちに中止しなければならない。
 さらに、いわゆる先制的自衛権の行使も禁止される。先制的自衛権は「攻撃は最大の防御なり」の軍事格言に基づき、先に相手を叩くことで、侵略を先制的に抑止するという戦術であるが、これはまさしく先制攻撃に他ならず、自衛戦争の一種だからである。

 一方、侵略を未然に防ぐための領海警備行動については現在でも自衛隊ではなく、海上保安庁の主任務とされている。これも9条の趣旨を考慮し、自衛隊の任務をできる限り限定するという観点からの役割分担政策であり、評価に値する部分はあるが、海上保安庁の本務は「海の警察」であり、国境警備隊ではない。
 過重任務や権限の重複という問題を回避するためにも、海難事故・海上事件の処理に関わらない領海警備活動の任務は一括して自衛隊(統合自衛隊)に移管し、海上保安庁は海上警察機関として純化したほうが合理的であり、そのことが直ちに9条に反するとは考えにくい。


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