ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

9条安全保障論(連載第14回)

2016-08-27 | 〆9条安全保障論

Ⅳ 過渡的安保体制

八 自衛行動の許容範囲②

 前回は日本国単独での個別的自衛権を前提にした議論を展開したが、近年ホットな議論の的となってきたのは、外国との集団的な自衛権の行使の可否であった。この点で、2015年に制定された安保法制は、「限定的な」集団的自衛権を解禁することで、戦後防衛史における歴史的な画期を作り出した。
 たしかに自衛行動は一国のみで完遂できるに越したことはなく、第一義的にはそうした個別的自衛権の行使で対処すべきだが、9条下で抑制された自衛隊編制及び装備では対処し切れない場合に、個別自衛行動の補充または補強のため外国の力を借りることが一般的に禁止されるわけではない。
 そうした外国との協調的な自衛権行使の方法として、防衛同盟を前提とする共同自衛権の行使と、多国間での集団的な自衛権の行使とは概念上区別されるべきである。その点、安保法制が前提としているのは、ほとんど専ら前者の共同自衛権、それも日米同盟に基づく米国との共同自衛なのである。

 周知のように、戦後日本は先の大戦では敵国であった米国との二国間防衛条約―日米安全保障条約―に大きく依存してきた。日米安保条約は、最高裁判所が憲法判断を回避してきたことから、憲法的に宙に浮いた状態で今日まで維持されたうえ、それが「ガイドライン」という条約外の外交文書を通じてなし崩しに拡大されてきた。その結果、日米安保条約は、政治的現実においては憲法に優位する超憲法的規範だと言っても過言ではない状況にある。
 しかし、9条に適合する過渡的安保体制は日米安保条約のような外国との防衛同盟条約に基づく共同自衛行動を必ずしも禁止するものではないとしても、9条はそのような共同自衛行動の条件を厳格に制約する。

 まずは共同自衛する同盟国の選択である。それは9条の趣旨を理解する国でなくてはならない。9条に適合する防衛同盟とは同盟国間で9条の趣旨を共有することでもあるからである。その点、米国は「押しつけ」の怨念を生み出すほど昭和憲法の制定にも深く関与しており、いちおうは同盟相手の条件を満たしているだろう。仮にも米国の態度が明確に変わり、9条廃止を要求してくるなら、それこそ日米安保条約を破棄すべき時である。

  次に、同盟に基づく共同自衛体制のあり方として、同盟相手の軍隊または軍隊相当の武装組織(以下、「外国軍」と総称する)が日本国内に常駐することは許されない。その点、最高裁は、安保条約の憲法判断を回避しながら、9条が保持を禁ずる「軍隊」は自国の主権が及ぶ軍隊をいうとして、外国軍はこれに当たらないという形式的な解釈を示すことで、実質上は条約の合憲性を示唆している。
 しかし、主権の及ぶ国内に外国軍が常駐するなら、一体性が強まり、軍隊を共同保有しているに等しくなるので、最高裁のような形式論は不当である。外国軍の駐留が許されるのは、共同自衛権発動時における基地の共同使用及びその他演習等の目的での短期駐留の場合だけである。従って、政府は日本国内の全米軍基地の撤去へ向けた対米交渉義務を負わねばならない。懸案の沖縄米軍基地問題も、その一環で解決するであろう。

 さらに、共同自衛権の具体的な発動要件であるが、9条下では原則として日本国と同盟国の双方に自衛権の発動要件となる事態が生じた場合に、共同武力をもって対処できるにとどまる。従って、専ら一方の国のみが有事の場合に共同自衛行動を取ることは許されない。
 また、日本国が核兵器使用効果の受益者となることは認められないから、共同自衛行動における同盟国による核兵器の使用は予め条約中で禁じておかなければならない。その他、反人道的兵器の使用についても、同様である。

 以上の趣旨を明確にするためには、日米安保条約の合憲的な改訂が必要である。現行安保条約はその法文を極めて簡素に定めつつ(全文わずか10箇条)、具体的な解釈運用指針を法規範性のない「ガイドライン」に丸投げするという粗野な体制は法治国家原則を軽視するもので、本来認められないやり方であった。
 これを改め、9条に適合する形でより具体的な規定を置く安保条約の抜本的な改定を構想すべき時機である。もし米国が条約本文の全面改定に難色を示すならば、せめて9条に適合するような合憲解釈に基づいた「9条ガイドライン」を策定し直すべきである。それをすら米国側が拒否するなら、安保条約の破棄も辞するべきでない。
  さらに、日米安保条約はあくまでも9条下での「過渡的安保体制」を支える手段にすぎないから、恒久的なものではあり得ず、10年程度の期限を区切り、必要に応じて更新していく期限付き条約としなければならない。


コメント    この記事についてブログを書く
« 9条安全保障論(連載第13回) | トップ | 「女」の世界歴史(連載第4... »

コメントを投稿