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良心的裁判役拒否(連載第16回)

2011-12-23 | 〆良心的裁判役拒否

実践編:裁判役を拒否する方法を探る

第8章 合法的に拒否する方法(続き)

(3)心裡留保による辞退 
 
前回見た「精神上の重大な不利益」による辞退を下手に申し立てると、内心事情を詮索されて、それこそ「精神上の重大な不利益」をこうむりかねないという皮肉な事態を避けたければ、良心的拒否であることを内心に隠して(=心裡留保)、法律上認められた通常の辞退を申し立てる方法があります。
 このような方法は一見してフェアーでないようにも見えますが、辞退を申し立てるに際しての内心の動機は何でもよいので、完全に合法的な方法です。
 辞退の制度についてはすでに理論編でも先取り的に概要をお示ししましたが、ここではより細かく整理します。まず、もう一度辞退の制度をおさらいすると、辞退には(A)無理由辞退と(B)理由付き辞退の二種がありました。以下では、この分類に従って各々どのような場合が含まれるのかをまとめておきます。

(A)無理由辞退
 〈a〉70歳以上の者
 〈b〉学校教育法上の学校の学生・生徒(常時通学を要する課程のみ)
 〈c〉地方公共団体の議員(会期中のみ)
 〈d〉裁判員経験者等
(B)理由付き辞退
 〈a〉健康・体調によるもの
   a1 重い疾病または傷病
   a2 妊娠中または出産直後
 〈b〉介護・養育・付添い等の必要によるもの
   b1 同居の親族の介護または養育の必要
   b2 別居の親族や同居人の介護または養育の必要 
   b3 配偶者、直系親族、兄弟姉妹、同居人が重い疾病または傷害の治療を受ける場合の入退院に付き添う必要
   b4 妻や子が出産する場合、入退院に付き添ったり、出産に立ち会ったりする必要
 〈c〉重要な用務によるもの
   c1 自ら処理しなければ事業に著しい損害が生ずるおそれのある重要な用務
   c2 父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務
 〈d〉不便・不利益によるもの
   d1 住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地で出頭が困難
   d2 裁判員の職務を行うこと等により、自己または第三者に重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当な理由

 理論編でも述べたように、(A)の無理由辞退は一番簡単なので、該当者はこれを申し立てればよいわけですが、(B)の理由付き辞退は各理由の存在を申立者自身が証明する必要があります。
 立法者としては案外親切に細かな事情を配慮したつもりかもしれませんが、かえって申立者は家庭内事情まで裁判所に事細かく説明させられ、場合によっては医師の診断書など各種証明書の提出も求められることもあるでしょう。
 なお、d2は(1)で見た「精神上の重大な不利益」による辞退を含む政令条項に定められていますが、それ以外に「身体上の重大な不利益」と「経済上の重大な不利益」による辞退も認められています。
 これも漠然としていてわかりにくいのですが、a1のような重い疾病ではないものの、例えば人前で緊張すると腹痛を起こすなど、緊張性の身体症状が出やすいような場合が想定されそうです。
 一方、「経済上の不利益」もなかなか見当がつきにくいのですが、c1の不可代替的用務とまで言えないものの、自らが裁判役に就いていたら、著しい収入減が避けられないとか、第三者である取引先に重大な損失を及ぼしかねないといった場合が想定されているのでしょうか。
 いずれにせよ、こうした心裡留保の方法による場合は、内心事情の詮索は避けられる反面、所定の理由の存在を証明するためには、自身や第三者のプライバシーまで開示せざるを得ないことは覚悟する必要があります。

(4)「排除」を仕向ける方法
 
前回までに見てきた「辞退」という方法によっては裁判役を拒否し切れない事情がある場合に残された一種のウルトラ手法は、意図的に「排除」を仕向ける方法です。
 第2章のタイトルにも冠したように、裁判員制度は「強制と排除」の制度ですから、「排除」の規定も備えていたのでした。「排除」は裁判員を積極的にやってみたいと思う人にとっては由々しきことでしょうが、拒否したい者にとっては当局側から肘鉄を食らうことは好都合な面もあるわけです。
 中でも有用なのは、例の「不公平な裁判をするおそれがある」者を不適格者として排除する規定です。良心的拒否者は「人を裁くなかれ」という信条を持つのですから、裁判員選任手続の際、「私が裁判員になったら、どんな場合でも無罪の意見を述べます。」と宣言するとよいでしょう。
 「どんな場合でも無罪の意見を述べる」とは、要するに裁判員として公平な立場に立たないと宣言するに等しいことですから、間違いなく「不公平な裁判をするおそれがある」と認めてもらえるでしょう。しかも、この理由で排除されても、それ以上何らの制裁も科せられませんから無傷で済みます。
 ほとんど考えられないことではありますが、そのように宣言しても万が一裁判官が等閑に付してしまった場合は、どんな場合でも被告人を無罪にしてしまう裁判員の存在を許すことのできない検察側から敢然と忌避の申し立てがなされることは確実ですから、結果としてやはり排除されます。
 こうした方法はいささか脱法的だとお感じの向きもあるかもしれませんが、これも法律の規定に準拠した合法性の範囲内ですから、自信を持ってよいと思います。ただし、若干の「演技」が必要になるかもしれませんが・・・。


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