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9条安全保障論(連載第18回)

2016-09-16 | 〆9条安全保障論

Ⅵ 恒常的軍縮政策

二 国境問題の凍結

 海防と防空に重点を置いた統合自衛隊は、それ自体としてもかなり軽量の自衛武力ではあるが、統合自衛隊のさらなる削減に向けた恒常的軍縮政策を実現するうえでは、日本国が周辺諸国との間に抱える/抱えさせられている国境問題が障害となる。

 その点、周知のとおり北に北方領土問題、南に尖閣諸島問題、西に竹島問題と三方に火種があるが、いずれも陸上の国境線ではなく、海上という物理的に明確な国境線を引くことのできない領域内での国境問題であり、その解決は容易でない。主権国家という相互に排他的な法的枠組みが存在する限り、永遠に解決しない可能性もある難題である。それが解決しない限り、所要の自衛武力を恒久的に保持するということになりかねず、恒常的軍縮は実現しない。
 未来の非武装世界は国家という偏狭な枠組みを取り払って初めて真に実現され得ることであるが、それはさておいても、まずは海の国境問題を完全には解決できずとも、これを顕在化させない方策を追求する必要がある。それは、国境問題を凍結することである。

 ここで言う「凍結」の意味は、国境主張の取り下げではない。(相応の理由がある限り)主張を国際法上の理論的なものに閉じ込め、主張に沿った軍事的・外交的行動は控えることである。
 如上の三つの国境問題は、いずれも現時点で日本国民が居住していない島嶼部の領有権に係る問題であって、そこには緊急性の高い人道上の問題は含まれていない。この事実を直視し、自国側から挑発的な行動を起こさないことは当然として、相手国側の示威・挑発行動に対しても即時反応せず、警戒監視活動にとどめることである。警戒監視活動には、領海と認識する海域での自衛隊艦船による警戒監視航行、あるいは自衛隊機による警戒監視飛行のような可視的行動も含まれるが、それらを示威行動と受け取られないよう慎重さを要する。
 ちなみに相手国の示威・挑発行動に対して外交上抗議するということは、挑発ではないにせよ、国境主張に沿った外交的行動の一種であり、その結果いかんでは武力衝突にもつながり得る行動であるから、やはり控えるべきことである。警戒監視活動を続けつつ、外交上は沈黙を守る。これをサイレント・プレゼンス・ポリシー(silent presence policy;黙示の存在政策)と呼ぶことにする。

 このような微妙政策には、相当の忍耐を要するだろう。愛国主義的な衝動や国家的な面子を抑えなければならないからである。しかし、9条はそうした忍耐を要求している。おそらく、それに耐え切れない心情が9条の排除を欲求するのかもしれない。


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