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9条安全保障論(連載第8回)

2016-08-06 | 〆9条安全保障論

Ⅳ 過渡的安保体制

二 過渡的自衛力論①

 9条の現在時間軸に基づく過渡的安保体制として、どのようなことが想定できるか。これが、「9条安全保障論」と題する本連載の最大の焦点であり、核心部分である。まず、大きな枠組みとなるのは、「過渡的自衛力論」である。
 「過渡的自衛力論」とは、自衛のための武力の行使とその目的を達するための非軍隊的な国家武装組織の保有を過渡的に認めるという命題である。というと、これは現実の必要性から必要最小限度の自衛武力の保持は憲法に違反しないとする政府見解その他の「現実主義」の立場と重なるように見えるかもしれないが、二つの点で大きく異なる。

 一つは過渡性という時間概念を導入する点である。これは、たとえ自衛武力の保持といえども恒久的なものではなく、未来的非武装世界が到来するまでという時間的な限定性を伴った保持であることを明確化するものである。その意味では、まさに未来時間軸を意識した現在時間軸なのである。
 もう一つは、非軍隊性という視点の明確化である。これは、9条が非軍国主義体制という過去時間軸から軍国主義の復活阻止を現在に対し課していることに由来する視点である。「現実主義」にあってはしばしばこの認識がぐらつき、ともすれば自衛隊を安易に軍隊と同一視し、そこから9条2項を排除して自衛隊を正式に軍隊化すべく改憲に結び付けようとするのが通例である。

 とはいえ、このような「過渡的自衛力論」は、9条の法文から直接に定立されるものではなく、言外の命題として、言わば不文法的に導出されるものであり、その意味でも過渡性の強い際どい解釈を強いられる。その具体的詳細は次回以降順次見ていくが、ごく簡単に概略を述べれば、次のようになる。

 1項に関して言えば、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と宣言する同項は、自衛のための武力の行使については「永久に」放棄しておらず、過渡的な留保を認めている。ただし、戦争放棄の命題から「自衛戦争」については永久に放棄していると解される。
 1項の目的を達するため、戦力の不保持と交戦権の否認を宣明する2項は、自衛のための武力の保持についてはさしあたり保留にしているが、それとて「戦力」に該当するような武装組織であってはならない。


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