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共産論(連載第23回)

2019-03-30 | 〆共産論[増訂版]

第4章 共産主義社会の実際(三):施政

(2)地方自治が深化する

◇基軸としてのコミューン自治
 英語で共産主義を意味するコミュニズム(communism)という語は同時に比較的小さな地方自治体を意味するコミューン(commune)にも語源的に通ずるように、共産主義は本質的に地方自治を内包している。ここに国家の揚棄のもう一つの意義として、地方自治という古くて新しい問題が改めて浮上する。
 共産主義とは、政治的に見ればコミューンを基軸とする政治である。市町村のような基礎自治体に相当するコミューンは、共産主義の地方自治の基本的な最小単位である。
 実は、資本主義ブルジョア国家においてさえ、コミューン自治は地方自治の柱であるが、現代ブルジョワ国家では集権制がはびこっている。このブルジョワ的集権制は中央集権国家だけでなく、連邦を構成する州が重要な権力を保持している連邦州でもコミューン自治を脅かしているのである。

◇三層の地方自治
 共産主義における地方自治制度のあり方に絶対的な公式があるわけではないが、さしあたり三層ないし四層の地方自治を想定することができる。
 まず「基礎自治体」が基軸となることはすでに述べた。共産主義における基礎自治体はその基軸的地位にふさわしく、住宅をはじめとする日常的な暮らしに関わる生活関連行政全般と住民登録・身分証明など身分関係行政を幅広く管轄する。
 なお、共産主義社会の基礎自治体には人口規模に応じた階層的な種別は原則として存在せず、市/町/村等々名称のいかんを問わずすべて同格である。(※)
 しかし、基礎自治体が地域医療や義務教育といった普遍性の高い行政まで担うのは過重負担となるので、基礎自治体より一回り大きく、それらの分野を担える中間自治体として「地域圏」(郡)を設定する。
 一方で、基礎自治体が担うには細目的すぎる身近な民生行政(例えば放置自転車問題など)の最前線として、基礎自治体の内部に任意の最小自治単位として「街区」を設置することができるものとする。これを通じて新たな地域コミュニティーの形成を促すことも可能となろう。
 他方、広域自治体は集権化することのないよう、その任務は秩序維持や消防・災害救難、道路・河川管理のようなメンテナンス行政、また地域圏ではまかない切れない高度医療などに限定される。そのようなものとしての広域自治体を「地方圏」(道)と呼ぶ。
 ただし、地方圏よりもさらに高度な自治権(自主権)を保持する「準領域圏」―小さな領域圏に近い―によって構成される連合領域圏―その対語は統合領域圏―、あるいは領域圏の一部地域に準領域圏の地位を与える複合領域圏というバージョンも認められる。
 なお、最終章で詳しく述べるが、地方圏または準領域圏は世界共同体の超域的区分である汎域圏の民衆会議代議員選出区としても使われるブロックとなる。
 以上のように、基礎自治体―地域圏―地方圏または準領域圏の三層の各自治体は相互に対等な水平関係に立ちつつ(ただし、街区は基礎自治体の下位にある)、有機的に機能しながら共産主義的自治を展開していくのである。
 このうち街区を除く三層のレベルには、領域圏と同様にそれぞれローカルな民衆会議が設置される。これにより、地方のレベルでも役場や県庁といった一種の「政府」機構は廃止され、それらは各圏域の民衆会議に直属する純粋な住民サービス機関や地方的な政策調査機関に転換される。
 なお、街区については民衆会議でなく、免許制によらず単純にくじで選ばれた地元住民代表から成る「街区協議会」のような簡易な代議組織が設置されれば足りるであろう。

※基礎自治体の名称を日本の現行制度のように市/町/村と複数使い分けることはあってよいが、それらもすべて同格である。一方、特に人口の多いいくつかの大都市を地域圏と同格の特別都市としてくくり出すこともあってよいが、大都市を基盤とする資本主義的商業活動が廃されれば、特定都市への人口集中を解消する方向へ人口動態が変革され、大都市の数は減少すると考えられる。

◇枠組み法と共通法
 ブルジョワ国家における中央と地方の関係は、米国のように純度の高い連邦国家にあっても本質的には上下関係で規律されている。しかし、それでは地方自治を叫んだところでほとんど空文句に終わる。
 これに対して、共産主義社会における中央と地方の関係は完全な対等関係である。中央の領域圏と地方の各自治体の間には明確な役割と任務の分配がなされるからである。従って、「中央」という用語は原則として使用すべきでなく、厳密には「全土」と呼ぶべきものである。
 具体的に言えば、街区を除く各圏域の自治体は、領域圏憲章の範囲内で、独自の憲法に相当する憲章を制定すること―例えば「A道憲章」、「B郡憲章」、「C市憲章」のように―ができ、かつ各々の権限に属する事務について中央の領域圏と同様に固有の「法律」―「条例」のような劣位的法規範ではない―を制定することができる。
 とはいえ、全土的な問題は領域圏の法律をもって規律される。しかし、その場合も領域圏法が当然に優越するのではなく、地方自治を尊重しつつ全土的な制度の標準的な枠を定める「枠組み法」を基本としながら、全土統一的な共通制度を施行すべき分野については「共通法」で規律するという方式が採用される。
 このうち「枠組み法」で定められる枠組みとは、領域圏内どの自治体でも標準的に備わっているべき制度の基準である。従って各自治体はその基準を順守しなければならない一方、基準の範囲内で、または基準を超えて地方的実情に応じた独自の施策を導入することができる。
 それに対して、「共通法」にあってはそこに盛られた内容は領域圏内の全自治体が順守しなければならず、自治体独自の修正も許されない強行法的性格のものである。
 いかなる分野を枠組み法と共通法のいずれで規律するかは個別具体的に検討しなければならない問題であるが、代表的なものを挙げれば、基礎自治体の担う保育や介護、地域圏の担う地域医療などは枠組み法によるべき分野である。こうした厚生分野ではどの自治体でも等しく提供すべき標準サービスが定められるべき一方で、実情に応じ自治体独自のサービスも認められるべきだからである。
 それに対し、地球環境問題のように世界共同体が制定する法律(世界法)に基づいて授権される分野は共通法(環境法典)によらなければならない。また、市民法や犯則法のような社会秩序に関わる基本法典も、一般に統一的な共通法によるべき分野であるが、上記の連合領域圏ではこの限りでない。


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