勝敗は短時間で決した。
俺は後始末をダンカン達に任せ、王妃軍へ向かった。
途中で見つけたウィリアムに声をかけた。
「ウィリアム、一緒に来て」
「えっ、王妃様のところにですよね」
「当然だろう」
「私如きがいいんですか」
「王妃様のご尊顔を拝める機会を無にするの」
「いきます、いきます」
遣り取りを聞いていた傭兵団の団長とクランの団長が羨ましそうな顔。
無下にはできない俺。
「二人も一緒に来るかい」
「本当にいいんですかい」顔を緩ませるアーノルド倉木。
「喜んでお供します」駆け寄るピーター渡辺。
王妃軍の兵士達が俺達を見て困惑の表情をした。
味方とは認識しているが、先頭にはお子様の俺。
どう扱っていいのか分からないらしい。
兵士同士、互いに顔を見合わせた。
近くにいた近衛兵が兵士達を掻き分けて、前に出て来た。
「ダンタルニャン佐藤子爵様ですね」
「そうです。
王妃様にご挨拶できますか」
「はい」近衛兵は頷き、傍らの従士らしき者を振り向いた。
「私が案内するから、君は先触れで王妃様の下に走ってくれ」
「はい、承知いしました」
王妃軍の隊列が俺の為に二つに割れた。
そこを通ると皆にジロジロ見られた。
主に上から見下ろされる格好。
それも致し方ないこと。
俺、子供だから。
王妃様は騎乗していた。
その周りには大勢の護衛の女性騎士の姿。
そこを割って、王妃様が馬を進めて来た。
俺は片膝ついて顔を伏せた。
後ろの三人も俺に倣う気配がした。
馬の前足が目前で止まった。
俺の髪に馬の荒い鼻息がかかった。
「あっ、これ」王妃様の慌てた声。
手綱を引かれたのだろう。
馬が二、三歩後退した。
頭上から言葉が下りて来た。
「佐藤子爵、ご苦労かけましたね。
頭を上げなさい」
「はい」
ベティ様は疲れているにも拘わらず優しい目色。
「無勢にもかかわらず、よく敵の前進を食い止めました。
新たに家を興したばかりで、立派です」
「これも偏に大人達が私を支えてくれるお陰です」
ベティ様は俺の意を汲んでくれた。
俺の後ろで顔を伏せている三人に声をかけた。
「後ろの三人、遠慮はいりません。
顔を見せなさい」
戸惑いながらも三人が顔を上げる気配。
俺は後ろも見ずに紹介した。
「一人は屋敷の兵を指揮しているウィリアムです。
一人は傭兵団・赤鬼を率いるアーノルド倉木です。
一人はクラン・ウォリアーを率いるピーター渡辺です」
それぞれが紹介に応じて元気に応答した。
「ウィリアムです」
「アーノルド倉木です」
「ピーター渡辺です」
考えてみると倉木と渡辺は爵位持ち。
貴族家の生まれ。
嫡男ではない為、成人したのを機会に生家に爵位を買い与えられ、
独立させられたと聞いた。
比べてウィリアムは俺の実家の村出身の為、当初から爵位も姓もない。
これは拙い。
他家との交渉に支障をきたす。
ウィリアムを含め、主要な使用人には爵位を買って与えよう。
傭兵団とかクランとかには縁がなかったのだろう。
ベティ様は物珍しそうに三人を眺め渡した。
「それはそれはご苦労様。
よくぞ子爵を助けてくれました。
感謝します」
代表するかの様にウィリアムが応じた。
「とんでも御座いません。
主を助けるのが我らの仕事です。
これからも主と共に王家を支えてまいります」
満点の返答だったのだろう。
ベティ様が大いに頷いた。
「頼みましたよ」
示し合わせた訳でもないのに三人が揃って返事した。
「御意に」
ベティ様の視線が俺に転じられた。
物問いたげな目色。
未だ戦が終わった訳ではないので、個人的な質問はし難いのだろう。
丁度よかった。
背後から駆け寄る足音がした。
複数の者が手前で足を止めた。
片膝をつく気配。
俺の隣にカトリーヌ明石大尉が並び、片膝ついて顔を伏せた。
そんな中、一人だけが進み出て来た。
イヴ様を抱きかかえた侍女だ。
真ん前に出ると、イヴ様を下ろして片膝ついた。
テトテト、テトテト、テトテト。
怪しげな足取りで駆け寄るイヴ様。
「おかあさま、おかあさま」
ベティ様は娘を認めても最初は動けなかった。
ジッと見て、それから慌てて下馬された。
感情を露わにされた。
笑顔され、両膝を地につけて愛娘を迎え入れられた。
「イヴ、イヴ、元気でしたか」
激しく抱擁し、抱え上げられた。
「ちゃんと食べましたか」
イヴ様も感情が爆発した。
返事代わりに声を上げて泣かれた。
俺達に為す術はない。
ただジッと二人を見守るだけ。
そんなところに騎乗の者が現れた。
遠目にも高位の者と分かる鎧兜。
周囲の兵士達を掻き分け、ベティ様に馬を寄せて来た。
国王陛下の最側近で、王妃様の縁戚であるポール細川子爵だ。
下馬して周囲に、「失礼いたす」と声をかけ、ベティ様の脇に来た。
耳元に短く囁かれた。
ベティ様は声にはされない。
目顔でポール殿に問われた。
残念そうに深く頷かれるポール殿。
子供の耳は優れもの。
聞き取れた。
ポール殿は、「陛下が見つかりました」と囁かれた。
俺は知らぬ振りをした。
子供が係わる事ではない。
迂闊な言動は諍いの元。
ましてや俺は子供。
疑念や嫉妬を呼ぶ。
今の俺の手が届く範囲は短い。
王家の内情にまでは関わるべきではない。
イヴ様までが限度だろう。
子供は子供同士とも言うし。
正確には幼女だけど。
俺は後始末をダンカン達に任せ、王妃軍へ向かった。
途中で見つけたウィリアムに声をかけた。
「ウィリアム、一緒に来て」
「えっ、王妃様のところにですよね」
「当然だろう」
「私如きがいいんですか」
「王妃様のご尊顔を拝める機会を無にするの」
「いきます、いきます」
遣り取りを聞いていた傭兵団の団長とクランの団長が羨ましそうな顔。
無下にはできない俺。
「二人も一緒に来るかい」
「本当にいいんですかい」顔を緩ませるアーノルド倉木。
「喜んでお供します」駆け寄るピーター渡辺。
王妃軍の兵士達が俺達を見て困惑の表情をした。
味方とは認識しているが、先頭にはお子様の俺。
どう扱っていいのか分からないらしい。
兵士同士、互いに顔を見合わせた。
近くにいた近衛兵が兵士達を掻き分けて、前に出て来た。
「ダンタルニャン佐藤子爵様ですね」
「そうです。
王妃様にご挨拶できますか」
「はい」近衛兵は頷き、傍らの従士らしき者を振り向いた。
「私が案内するから、君は先触れで王妃様の下に走ってくれ」
「はい、承知いしました」
王妃軍の隊列が俺の為に二つに割れた。
そこを通ると皆にジロジロ見られた。
主に上から見下ろされる格好。
それも致し方ないこと。
俺、子供だから。
王妃様は騎乗していた。
その周りには大勢の護衛の女性騎士の姿。
そこを割って、王妃様が馬を進めて来た。
俺は片膝ついて顔を伏せた。
後ろの三人も俺に倣う気配がした。
馬の前足が目前で止まった。
俺の髪に馬の荒い鼻息がかかった。
「あっ、これ」王妃様の慌てた声。
手綱を引かれたのだろう。
馬が二、三歩後退した。
頭上から言葉が下りて来た。
「佐藤子爵、ご苦労かけましたね。
頭を上げなさい」
「はい」
ベティ様は疲れているにも拘わらず優しい目色。
「無勢にもかかわらず、よく敵の前進を食い止めました。
新たに家を興したばかりで、立派です」
「これも偏に大人達が私を支えてくれるお陰です」
ベティ様は俺の意を汲んでくれた。
俺の後ろで顔を伏せている三人に声をかけた。
「後ろの三人、遠慮はいりません。
顔を見せなさい」
戸惑いながらも三人が顔を上げる気配。
俺は後ろも見ずに紹介した。
「一人は屋敷の兵を指揮しているウィリアムです。
一人は傭兵団・赤鬼を率いるアーノルド倉木です。
一人はクラン・ウォリアーを率いるピーター渡辺です」
それぞれが紹介に応じて元気に応答した。
「ウィリアムです」
「アーノルド倉木です」
「ピーター渡辺です」
考えてみると倉木と渡辺は爵位持ち。
貴族家の生まれ。
嫡男ではない為、成人したのを機会に生家に爵位を買い与えられ、
独立させられたと聞いた。
比べてウィリアムは俺の実家の村出身の為、当初から爵位も姓もない。
これは拙い。
他家との交渉に支障をきたす。
ウィリアムを含め、主要な使用人には爵位を買って与えよう。
傭兵団とかクランとかには縁がなかったのだろう。
ベティ様は物珍しそうに三人を眺め渡した。
「それはそれはご苦労様。
よくぞ子爵を助けてくれました。
感謝します」
代表するかの様にウィリアムが応じた。
「とんでも御座いません。
主を助けるのが我らの仕事です。
これからも主と共に王家を支えてまいります」
満点の返答だったのだろう。
ベティ様が大いに頷いた。
「頼みましたよ」
示し合わせた訳でもないのに三人が揃って返事した。
「御意に」
ベティ様の視線が俺に転じられた。
物問いたげな目色。
未だ戦が終わった訳ではないので、個人的な質問はし難いのだろう。
丁度よかった。
背後から駆け寄る足音がした。
複数の者が手前で足を止めた。
片膝をつく気配。
俺の隣にカトリーヌ明石大尉が並び、片膝ついて顔を伏せた。
そんな中、一人だけが進み出て来た。
イヴ様を抱きかかえた侍女だ。
真ん前に出ると、イヴ様を下ろして片膝ついた。
テトテト、テトテト、テトテト。
怪しげな足取りで駆け寄るイヴ様。
「おかあさま、おかあさま」
ベティ様は娘を認めても最初は動けなかった。
ジッと見て、それから慌てて下馬された。
感情を露わにされた。
笑顔され、両膝を地につけて愛娘を迎え入れられた。
「イヴ、イヴ、元気でしたか」
激しく抱擁し、抱え上げられた。
「ちゃんと食べましたか」
イヴ様も感情が爆発した。
返事代わりに声を上げて泣かれた。
俺達に為す術はない。
ただジッと二人を見守るだけ。
そんなところに騎乗の者が現れた。
遠目にも高位の者と分かる鎧兜。
周囲の兵士達を掻き分け、ベティ様に馬を寄せて来た。
国王陛下の最側近で、王妃様の縁戚であるポール細川子爵だ。
下馬して周囲に、「失礼いたす」と声をかけ、ベティ様の脇に来た。
耳元に短く囁かれた。
ベティ様は声にはされない。
目顔でポール殿に問われた。
残念そうに深く頷かれるポール殿。
子供の耳は優れもの。
聞き取れた。
ポール殿は、「陛下が見つかりました」と囁かれた。
俺は知らぬ振りをした。
子供が係わる事ではない。
迂闊な言動は諍いの元。
ましてや俺は子供。
疑念や嫉妬を呼ぶ。
今の俺の手が届く範囲は短い。
王家の内情にまでは関わるべきではない。
イヴ様までが限度だろう。
子供は子供同士とも言うし。
正確には幼女だけど。