『法金剛院
五位山と号する、京都では数少ない律宗寺院である。極楽浄土に見立てた浄土式庭園は有名で、平安末期の姿をとどめている。花の寺としでも知られ、とりわけ蓮の名所として名高い。
平安時代の初めに右大臣清原夏野がこの地で営んだ山荘を、没後、寺に改め、双丘寺と称したのが当寺の起こりで、大治五年(一一三〇)に鳥羽上皇の中宮待賢門院が再興し、寺名を法金剛院と改めた。四季折々の美しい景観は、待賢門院を深く慕ったといわれる西行の歌にも詠まれている。その後、弘安二年(一二七九)に円覚により再興され、律宗に改められた。
本堂は元和四年( 一六一八)に再建されたもので、堂内には、本尊の阿弥陀如来坐像、四本の手を持つ珍しい十一面観音坐像、僧形文殊坐像(いずれも重要文化財)などを安置している。また、寺宝として、蓮華式香炉(重要文化財)などの工芸品や書画など多数を蔵している。
庭園は、昭和四十五年( 一九七〇)に発掘、復元されたもので、池の北側にある巨石を並べて造られた「青女の滝」は、五位山と呼ばれる背後の山とともに国の特別名勝に指定されている。
京都市』 (駒札より)
『法金剛院は律宗、唐招提寺に属している。この寺は平安時代の初め、天長の頃(八三〇)右大臣清原夏野が山荘を建て、死後、寺として双丘寺と称した。その頃、珍花奇花を植え、嵯峨、淳和、仁明の諸帝の行幸を仰いだ。殊に仁明天皇は内山に登られ、その景勝を愛で、五位の位を授けられたので、内山を五位山という。
次いで文徳天皇が天安二年(八五八)大きな伽藍を建て、定額寺に列し天安寺とされた。
平安時代の末、大治五年(一一三〇)鳥羽天皇の中宮待賢門院が天安寺を復興し、法金剛院とされた。寺は五位山を背に中央に池を堀り、池の西に西御堂(現本尊丈六阿弥陀如来)南に南御堂(九体阿弥陀堂)東に女院の寝殿が建てられ、庭には瀧(青女の瀧)を造り、極楽浄土を模した庭園とした。その後、三重塔・東御堂・水閣が軒をならべ、桜・菊・紅葉の四季おりおりの美観は見事なもので、西行はじめ多くの歌人が歌を残している。又、西行は美貌の待賢門院を深く思慕していたと言う。
なんとなく芹と聞くこそあはれなれ
摘みけん人の心知られて
(「芹摘む人」と言うのは后ど高貴な女性にかなわぬ恋をすることを意味する)と歌い、又待賢門院が亡くなられて、次の歌を残している。
紅葉みて君が袂やしぐるらむ
昔の秋の色をしたひて
鎌倉時代になって円覚十万上人が融通念仏(壬生狂言・嵯峨念仏)を広め、寺門を復興したが、応仁の乱・天正・慶長の震災で、堂宇を失い、元和三年(一六一七)照珍和尚が本堂・経蔵等を建立されたが旧に復することが出来なかった。』
(パンフレットより)
JR山陰本線花園駅の向かい側にある。山門は比較的小さく、外から見ると樹木に覆われてさほど大きなお寺であるようには見えない。しかし内部に入るとかなり広い境内・庭園を有しており、さらに絵地図によると背後の小山の方も含めて、相当大きな敷地を有する寺院であることがわかる。そのうち実際に入れるのは手前の方の一部となる。
元々は平安時代の貴族が建てた山荘であり、後にそれがお寺となったもので、名称も後年改められて法金剛院という名称になった。無論長い年月の間に建物が荒廃したりして再建されたものも多いが、一部のものは江戸初期に再建されたものが、今現在も残っている。本来ならば文化財指定になっていてもおかしくはないが、建物は本堂をはじめとして何も無指定だ。
このお寺の大きな特徴は、平安時代の山荘であった頃の庭園が再現されており、中央に少し広めの池と周回路が設けられ、それに沿ってさまざまな樹木が植えられ、四季折々の花で賑わうということころ。もう一点は、国宝に指定された阿弥陀如来坐像を有しており、それ以外に多数の重要文化財指定の仏像を安置しているという点で、これらは公開日にはごく普通のように拝見することができる。中でも国宝の阿弥陀如来坐像は、偉大な仏師、定朝の様式の特徴を持っており、おそらく平等院の国宝である阿弥陀如来坐像、そして伏見区の法界寺に安置されるやはり国宝指定の、阿弥陀如来坐像を合わせた3躰の阿弥陀如来坐像が、ともに少し大きさに違いはあるものの、おそらく同一人物の仏師による制作だと思われる相互によく似た阿弥陀如来であるというところだ。私はこの3躰とも実際に目の前で拝観しているが、何も顔の造形や表情が非常によく似ており、なるほどなと納得させられるところが多い。大きさから言えば平等院の阿弥陀如来坐像が最も大きいもので、法界寺及び法金剛院の阿弥陀如来坐像はほぼ大きさが同じくらいだと思われる。いずれにしろこの3躰の国宝の阿弥陀如来坐像はじかに見ておく価値が十二分にある。
この日はもちろん桜撮影に訪れたが、池の周囲に沿って枝垂れ桜やソメイヨシノなど、様々な桜の花が満開だった。池を手前に、そして建物を奥に撮影することによって、撮影写真に深みのようなものが出てくる。そういった意味では周回路のどの場所から撮影しても自己満足にせよ、我ながらいい写真が撮れたなと思わせるものがある。平日ではあったが、けっこう人が来ており、庭園全体の景色に感嘆の声も聞かれ、すぐ目の前の桜の花に思わず綺麗だという声も聞こえてくる。
法金剛院はこの桜だけではなく、季節によってはすの花や秋の紅葉なども名所の一つとなっている。そのようなシーズン以外は閉門されていて非公開となる。従って訪れる場合には、公開されているかどうか確認しておく必要がある。お寺全体も仏像なども、十分満足させてもらえるものが、このお寺にはあると言える。
(パンフレットより)