12月31日(2句)
★蕎麦食えば何処か遠くに除夜の鐘/桑本栄太郎
年越し蕎麦と除夜の鐘。時代が変わっても変わらない風習があることがうれしい。その風習が年を行かす情緒となって残っていることは貴い。(高橋正子)
★大根抜く地中に深き穴残し/古田敬二
あおあおと葉を茂らせ、よく育った大根を抜こうとすると、大地を持ち上げるかのような力が要る。抜いた後は、穴が地中深くまで空いている。穴の深さは大根の生命力そのままだ。(高橋正子)
12月30日(2句)
★年惜しむ山から城を見下ろして/多田有花
山の上から、街の中心である白壁のまぶしい城を見下ろす。俯瞰することは全体を見ること。一年を振り返る思いが湧き、自然にこの一年が惜しまれる。(高橋正子)
★海鳴りを遠くに聞きつ松飾る/桑本栄太郎
故郷山陰のことであろうか。海鳴りの聞こえる家に松を飾り、新年を迎える。それぞれの土地にそれぞれの人たちの新年がある。(高橋正子)
12月29日(1句)
★注連飾る飛び立つ鳥の晴れやかに/廣田洋一
注連飾りをし、年を迎える準備が整った。改まる気持ちだ。飛び立つ鳥も胸を張って晴れやかな姿に見える。(高橋正子)
12月28日(3句)
★一夜明け眼間雪の榛名山/小口泰與
一夜明けると、雪の榛名山が眼間に迫り来た。眼間に見ればこそ、その雪を冠った威容に圧倒される。「眼間」に実感がある。(高橋正子)
★畑の畝きつちり並ぶ年の暮/廣田洋一
年の暮には、畑のごみなども取り払われ、野菜も寒さに耐えて緑を濃くしている。畝が整然として、気持ちの良いものだ。(高橋正子)
★枇杷の花うすき日差しが似合う花/多田有花
枇杷の花には「うすき日差し」が一番似合う。私もそう思う。うすき日差しに、枇杷の花のつんとしたいい香りがしてきそうだ。(高橋正子)
12月27日(1句)
★裏白を採る人たちとあいさつを/多田有花
年の瀬に山に行くと、裏白を採る人に出会う。新年を迎える準備だ。裏白は裏の白さを見せて、鏡餅の下に敷き、また注連飾りに使う。関東では、裏白を注連飾に使わないようだが、瀬戸内のわが生家でも裏白を飾った。裏白を採る人を見ると、同じく年を迎えることに親しみを覚えてあいさつを交わすことになる。(高橋正子)
12月26日(1句)
★布団干す遠く見やれば鈴鹿嶺/古田敬二
布団を干す日は、もちろん良い天気。布団を干しながら、つい目は遠くを見てしまう。「遠く見やれば鈴鹿嶺」と、リズムもよく、気持ちのよい句となった。(高橋正子)
12月25日(1句)
★マリア像に祈りを今宵聖誕祭/多田有花
聖誕祭は、クリスマスのこと。聖誕祭といえば、少し敬虔な気持ちになって大方の人は迎えるだろう。私は詳しくないが、マリア像は、時期によってそれぞれの意味での像が描かれている。また宗教画はある決まりで描かれているのだが、読み手は、マリア像を自由に想像してみていいだろう。当たり前を当たり前に詠んでいるが、事実としての価値。(高橋正子)
12月24日(1句)
★鐘楼の鐘鳴り渡り聖夜なる/多田有花
教会の鐘は傍で聞くとその力強さ大きさに圧倒されるほど強く鳴らされているがが、遠く離れて聞く聖夜の鐘の音はじみじみ清らかな思いにさせられる。(高橋正子)
12月23日(2句)
★初雪よ嬉しいでしょう三回忌/川名ますみ
12月18日の秀句にこの句を挙げています。ご確認ください。
★火起こしの火花や妻の機嫌にて/小口泰與
妻が火を熾している。妻の熾す火から勢いよく火花が飛んで、その具合に、妻の機嫌が知れるというもの。家事にいそしむ妻の機嫌のいい顔は何より。(高橋正子)
★すっきりと畑整い冬至かな/多田有花
冬至のころ、白菜、大根、葱などは、正月用にも抜かれはするが、まだ畑に残って生き生きとしている。畑のごみもきれいさっぱり取り除いて、畑はすっきりと整っている。正月を前にすっきりと整った畑を見るのはいいものだ。(高橋正子)
12月22日(1句)
救急車冬枯道を帰りゆく/多田有花
特に枯れの季節、救急車が走ると、何事かと気が引かれる。この句の救急車は急病人を搬送して帰ってゆくのだ。冬枯れの道を帰る救急車にもその走り方に安堵の気持ちが感じられる。(高橋正子)
12月21日(1句)
★湯豆腐や終わる頃には雨上がり/廣田洋一
外は雨もよう。湯豆腐桶に湯豆腐をゆっくりと味わっている間、雨も上がった。湯豆腐のやわらかさ、あたたかさに、「雨上がり」が情緒的に働いて、湯豆腐を食べている間のあたたかく、心和む時間が想像できる。(高橋正子)