天網恢恢疎にして漏らさず

映画レビューを中心に(基本ネタバレバレです)スキーやグルメ他、日々どうでもいいような事をダラダラと綴っています。

【映画】「流浪の月」@34作目

2022年05月26日 | 映画感想
「流浪の月」

凪良ゆう氏著の同名タイトル小説を実写映画化。原作小説は2020年の本屋大賞を受賞されています。おめでとうございました。
実は本作の原作小説をちょっと前に購入していたんですが(自分、常に5~6冊の本を買い置きして気分で色々読み散らかすタイプ)、そろそろ読もうかな~と思っていたトコロで映画化するという情報が入ってきて、コレは先に原作を読んでしまうか先入観なしに映像見たい気もするから映画が公開されるまで原作小説に手を出すのは止めておくか…迷いに迷って、結果映画を見るまで原作小説は読まずに封印していましたw

あらすじ
雨の公園で、10歳の少女・家内更紗(白鳥玉季・子役)がびしょ濡れになっているのを目にした19歳の大学生・佐伯文(松坂桃李)。更紗に傘を差し出した文は、引き取られている伯母の家に帰りたくないという彼女の気持ちを知り、自分の部屋に入れる。そのまま更紗は文のもとで2か月を過ごし、そのことで文は誘拐犯として逮捕されてしまう。被害女児、加害者というらく印を押された更紗(広瀬すず・現在)と文は、15年後に思わぬ再会を果たす。(Yahoo!Movieから丸パク)

李相日氏監督・脚本なんだよね。
この方非常~に評価の高い監督さんで、実際素晴らしい作品を次々と世に送り出しているんですが、以前この監督さんの作品で「怒り」というのを観まして、それも本当に凄く良く出来ている作品なんだけど、余りにも描写が丁寧過ぎて(話の内容が内容なだけに)それはそれはえも言えぬ不快な気分になったのが自分には若干トラウマで…
しかもね、その「怒り」で最も自分の中で不快だったエピソードの主人公が本作のヒロインを演じている広瀬すずちゃんなんだよね。まあ彼女自身がこの監督さんの作品に心酔していらっしゃるのだろうなぁと推察しますが…うん確かに描写凄いんだよね本作も。でもどうしてこの監督さん性描写とか暴力シーンがやたら生々し過ぎるんだろうか^^;

ただね、本作観て本当に思ったけど…李相日という監督さんは役者のポテンシャルを100%の更に上まで引きずり出してくれる素晴らしい監督さんなんだろうなぁと。
とにかく本作に出演している全ての役者さんの演技の素晴らしい事と言ったら!近年ここまで役者の演技に魅入られて鳥肌が立つ程ゾクゾクした事なんてあっただろうか。
特に松坂桃李さんはこの「文」という役を演じるのが相当難しかったんじゃないだろうかと。多分自分の中に全く持ち合わせていない特殊環境下で育った青年役で、役作りの為に相当体重を落として本当にギリギリの体力で演じられていたのではないだろうかと。彼が所々で見せる「目」が実に凄い。誰とも視線が合わない、虚空を見ているでもない、瞳に何も映っていない、本当に「がらんどうで空っぽの目」の凄みたるや。
広瀬すずちゃんの役はまだ役作りしていく上で想像が付く感じあるよね。幼少期に受けた性的虐待によるトラウマとかは割と取り上げられやすいテーマでもあると思う。

意外だったのは現在更紗と同棲中の恋人・亮を演じた横浜流星君。ある意味ヒール役なんだけど、こういうキャラを演じるのは珍しいのでは?そして、この「亮」という人物を演じるのも凄く難しかったのではないだろうかと思う。精神的にバランスを欠くと言うか亮もまた歪な心の持ち主で…亮の実家に更紗を伴って帰省した際のエピソードで更紗が1人でいるトコロに亮の親戚の女性がやって来てそっと亮の事について語るあのシーンはゾッとした。
その後亮のエスカレートしていく(壊れていく)様子…女性側から見たらただの「DVクソ野郎」なんだけど、あの親戚の女性のエピがバックで効いてるんだよな。
更紗に暴行を加えるシーン、マンション入口での恫喝シーンやその後のシーンも…横浜流星君の鬼気迫る演技には息を呑みましたよ。

そう、本作はセリフの中にもあったけど「人は見たいようにしか見ない」というのが最大のテーマになっていました。

15年前の「幼女誘拐事件」も世間が知っている(マスコミによって知らされている)情報と当事者達の実際の姿の著しい剥離。15年後に再会した事件当事者達の様子を面白おかしくゴシップネタとして取り上げて「洗脳」という言葉で粉飾しては嫌悪する事を楽しむ市井の人々。
先ずからして「幼女誘拐」=「性的暴行込み」がデフォルト情報として世間で共有されている訳で。更紗が当時も「(性的暴行事実は)何もなかった」位は警察に話しているんだろうけどそんな言葉は「可哀想に本当の事は話せないよね」と勝手に思い込まれて「更紗=幼女性的暴行の被害者」として周囲から腫れ物扱いされているという事実。
もうそうなったら19歳の文青年は「小学生にしか性的興奮を得られないクソロリコン変態野郎」のレッテルが貼られて、何年経とうが変態ロリコン野郎でしかなくなる。
変態ロリコン野郎には正義の鉄槌を下さなければならないのだ、というネット集団心理が働いて「こういう悪者を皆で叩くのは正義」という集団自慰行為に発展しているのも如何にもSNSが浸透している現在社会を皮肉っているなぁ~と。実際こういう案件、多いですよね。

上映時間が150分もあって、正直観る前は「2時間半もあんの?マジかよぅ~」と思っていましたが、どんどんスクリーンに引き込まれてあっという間でした。
映像も美しくて、何より役者の演技にこれ程までに惹き込まれるとは…これぞ日本映画!と快哉を叫びたく…ん、んー。いや、素晴らしい作品だったけど、やっぱり自分は李相日監督の何と言うか「人の心の汚い部分をほじくってさらけ出す」みたいな、何とも言葉にするのが難しいんですが、そんな、どうしようもない不快感がやっぱりトラウマになりそうです…

それにしても、文が言っていた「誰とも繋がれない」が「(物理)」だったとは…コレ原作小説どう描写されてるんだろう…なんか今更だけど原作読むの怖くなって来たわ
コメント
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