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■新制作展―北海道ゆかりの作家たち (2017年6月16~25日、札幌)

2017年06月21日 00時59分59秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 道内の公募展で脂ののった活躍をしている画家たちの力作と、ふだんあまり見ることのない彫刻部・スペースデザイン部のメンバーの作品とが相まって、見応えのある展覧会でした。

 吹き抜け空間で圧倒的な存在感を見せていたのが加賀谷健至さん「時の刻みかた」です。
 黒く塗った、高さ4メートルはありそうな板に、左右から水平の削り跡が何百本もついています。
 加賀谷さんは、さいとうギャラリーの企画展などに出品したのを見たことがありますが、それ以外ではあまり見る機会はなく、今回3点もあったのは良かったです。

 最初の踊り場には、橋本諭さん「ささやき」。存在感ある木彫。
 相模原在住で、全道展会員。

 見ごたえがあったというか、個人的に好みだったのは絵画です。
 板谷諭使さん(旭川、会員)「Gran via」は3連画形式で、イタリアとおぼしき町並みが見える部屋が舞台です。板谷さんの割にはふしぎなところの少ない絵ですが、窓の向こうの景色は続いて見えるのに、左右のカンバスに描かれた女性の背中が省略されているのはやはりふしぎ。中央の絵の真ん中には、時計やワインのびん、胸像が載った台があり、その向こうに見える建物には「ROLEX」の文字が見えます。

 そのとなり、木滑美恵さん(旭川、協友)「あなたの若い日に 洗礼の朝」。
 おおまかに言えば、横向きにおかれたチェアに座る女性と、真横に置かれたソファに、正面向きに座る女の子の2人を描いた室内画ですが、とにかく情報量が多い。画面上からはカーテンのようなものが垂れ下がり、女性は右手でねこをなで、画面右億には金魚蜂が置かれて鳥が舞い、女の子の横には人形があり、その上にはろうそくが数本立ち並んでいます。足元には水が押し寄せて、画面左下には魚がはね、さらに左上に、目を凝らすと、屋外の情景が見えます。
 一般的にはやや描きこみ過剰ということになるかもしれませんが、どの部分にも画家の思いがこめられていることが伝わってくるので、これはこれでよいのだと思います。

 塚崎聖子さん(札幌)は昨年、新制作賞を受けて協友になりました。
 彼女も以前は、わが子とおぼしき女の子をモデルに、背景に欧州の風景を入れて鳥も飛ばすなど、仕掛けと要素の多い画面を構築していましたが、近年はどんどん要素が省かれ、中世の絵画のような簡素な構図と、硬さと抵抗感あるマチエールが特徴になっています。
 今回の「月の舟歌(鳥の声)」も、女性2人がモティーフ。画面下部に昔のタイル風の絵が付され、初期イタリアルネサンスの壁画を思わせる静けさをたたえています。

 八重樫眞一さん(札幌)「雲の行方」。
 近年は、横長の画面に、広角レンズでとらえたような風景を描いています。道路の左奥から右奥まで1枚の画面におさまるように描いているのです。今回の作でも、中央の建物は茶色で強調され、1階のガレージのような部分には人影らしきものも見えますが、判然としません。左億には階段のアーチもたっています。八重樫さんの絵の特徴として、手前の地面が雨上がりのようにぬれて見えることで、今回も目を凝らすとプリウスのような車が見えてきます。遠い記憶のような世界です。

 ほかにも具象画や抽象画、彫刻の首、ソフトスカルプチュアなど多彩なラインナップです。


 新制作協会(新制作展)は、有力な団体公募展の一つですが、巡回展や支部展を道内で開催したことが、筆者が知る限り一度もありません。
 これは、行動展、独立展、自由美術、主体美術といった公募展が巡回展を開いたことがあったり(行動はかつては函館で毎年)、また日本水彩画会や春陽、二科、二紀、水彩連盟、一水会、現代工芸展などがおおむね毎年、支部展を開催していることとは、対照的です。

 もうひとつ特徴を挙げるとすれば、独立や行動に出している人の大半が道内では全道展、二紀や日水は道展―などと色分けされている場合もありますが、新制作は道展、全道展、新道展が完全に入りあいになっています。これもおもしろいと思います。


 新制作展は、1936年(昭和11年)、猪熊玄一郎や小磯良平らが旗揚げした、非官展系の団体公募展です。当時の名称は「新制作派協会」でした。
 その3年後の39年、本郷新、山内壯夫、舟越保武、佐藤忠良、柳原義達らによって彫刻部が設立されました。
 今回、支部展としては珍しい会場になったのは、こうしたいきさつがあったためと思われます。


 他の出品作は次のとおり。
野田恭吾(小樽)「崖横林(流れる)」
安孫子雄子(釧路)「風の予感」
丸藤真智子(札幌)「白い土の洞」

馬場拓也(帯広)「線と点と円ママ」「woodle」
大谷実佳子(岩見沢)「カムパネルラ」「森の時間」
秋谷祐子(札幌)「群青のラプソデー」
野口真理(さいたま。出身は旭川)「そらの椅子」「あおの中」

おおひらよしこ(東京。出身は美唄)「守り人」「NOA」
中野威(東京。生まれは夕張。会員)「部分習作 1」「部分習作 2」
末次弘明(札幌)「I wish I've on your cornea」
松木義三(東京。生まれは旭川。会員)「子供の時間」
加藤寛之(函館出身)「ベイエリア」
大橋弘子(函館)「INTERSECTION」

※松木さんのところに「会員」と注記すべきでしたが、他の出品者のところに書かれていました。おわびして訂正します。



2017年6月17日(土)~25日(日)午前10時~午後5時(入館は4時30分まで)、初日は午後1時30分~、最終日~4時、月曜休み
本郷新記念札幌彫刻美術館(中央区宮の森4の12)


□新制作協会 http://www.shinseisaku.net/wp/





・地下鉄東西線「西28丁目」駅で、ジェイアール北海道バス「循環西20 神宮前先回り」に乗り継ぎ、「彫刻美術館入口」で降車。約620メートル、徒歩8分

・地下鉄東西線「円山公園」駅で、ジェイアール北海道バス「円14 荒井山線 宮の森シャンツェ前行き」「円15 動物園線 円山西町2丁目行き/円山西町神社前行き」に乗り継ぎ、「宮の森1条10丁目」で降車。約1キロ、徒歩13分

・地下鉄東西線「西28丁目」「円山公園」から約2キロ、徒歩26分

※札幌宮の森美術館から約690メートル、徒歩8分


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