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■第44回キヤノンフォトコンテスト入賞作品展 (2月22日まで)

2008年02月15日 21時14分15秒 | 展覧会の紹介-写真
 たとえば森山大道や中平卓馬などに影響されて写真を撮っている人にとっては、写真雑誌の投稿欄やフォトコンテストというのは、1枚きりの作品で写した人を判断する因襲的なものであって、現代的な表現とは無縁であると思われるかもしれない。しかし、因襲的に見えるものがあるとしたら、それは、推測でものを言うのは申し訳ないけれど、おそらく、これらのコンテストで落選している人の写真(グループ展などでよく見かけるたぐいの)であって、さすがに入賞作品展ともなると、「どこかで見たような写真」「ほかの人とおなじような写真」はまずお目にかからないといっていいし、思いがけずおどろくような作品に出くわすこともある。

 筆者には、伊藤誠「名古屋・笹島ガード下」というモノクロ3枚組と、山本広之「夕照」というカラー2枚組が、強い衝撃を与えた。

 前者には、浮浪者とおぼしき目つきの悪い老人や腰の曲がった老婆、地面にへたりこんだ子ども、どう猛そうな犬などが写っている(さいきんは「浮浪者」は「ホームレス」ということになっているが、外来語のほうが響きがいいからだろうか。でも、ほかの「差別語」とおなじく言い換えただけでは解決できない問題は残るのだ)。それぞれの被写体もすごいが、おなじフレームに収まった複数の人のあいだに、つながりのようなものがまったく感じられないことに驚く。
 わたしたちはゴヤ「カルロス4世の家族」を見ると、なんだかまとまりのないロイヤルファミリーだなあと思うけれども、被写体相互がこれほどまでに「断絶」している写真というのは、ちょっとめずらしいのではないか。たとえば、公園や街路でなにも考えずにスナップを撮っても、それぞれ関係のない人たちとはいえ、なにかしらおなじ空間を共有しているという感じをどこかに持っているものだ。ところが、ここに写っている老人たちのバラバラなこと! 寒々しさはかなりのものだ。

 「夕照」は、上に貼ってあった写真は、あざやかなオレンジの光の中、古い木の橋(けたがとても高い)と、それをわたる自転車をとらえたもので、たしかに美しいが、それほどめずらしいショットではない。
 ところが、下に展示されている写真は、おなじオレンジの光の中、まさに人が水面に飛び込もうとする一瞬がうつっているのだ。水面にはっきり影が反射しているから、合成などではあるまい。着水までコンマ何秒というような一瞬である。人のとなりには、たぶん淡水魚の漁につかうと思われる大きな紡錘形の道具が浮かんでいる。
 橋脚などから推して、かなり大きな川だと思う。逆光のため、どんな人なのかは皆目わからないのだけど、彼(彼女)はいったいどんな理由で水に飛び込むのか。事故なのか。

 2点とも、なにか見てはいけないものを見てしまったような、どきどきさせる要素をはらんでいるのだ。

 ちなみに、この2点は「自由部門」の「推薦」10点に入ったもの。
 この上位に「準大賞」の2点があり、さらに「大賞」が1点ある。
 大賞は、亀田満喜代「炭焼きの夫婦」で、鼻先を真っ黒にした60代ぐらいの夫婦がとてもいい表情をしている。

 このほか「ネイチャー」「スポーツ/モータースポーツ」の2部門があり、3部門あわせての最優秀作品に「グランプリ」が贈られるしくみのよう。
 今回のグランプリは、小南忠雄「水浴び」。鮮烈な朱色の鳥が羽をふるわせている瞬間をとらえた完成度の高い作品だった。


08年2月12日(火)-22日(金) 土、日、祝日休み 9:00-17:30
キヤノンギャラリー札幌(北区北7西1 SE山京ビル 地図A)

※銀座、梅田は終了。名古屋に3月13-26日、仙台に4月14-25日、福岡に5月12-23日、それぞれ巡回する。


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2 コメント

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たしかに (sue)
2008-02-16 00:11:06
あのガード下の光景は衝撃的でした。ブレッソンや木村伊兵衛に通じる「決定的瞬間」を捉えながら、それとはまったく違う不協和音がきこえてくるようで、つらいほどでした。
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Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2008-02-16 23:25:52
sueさん、いつもありがとうございます。
なるほど「不協和音」というのは、ぴったりの形容詞ですね。
あの写真の奏でる不協和音の強さはすごかったと思います。
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