宝賀さんは札幌在住の版画家。
年賀状づくりなどが高じて木版画に没頭し、道内の高名な版画家の門をたたいて習得したという経歴の持ち主だけに、学生時代から美術に浸っていた人とはひと味違った画風だと思う。
会場には、文字のたくさん入った、カニやシャコを彫った作品なども展示されている。洋画のタブローこそが美術であると思っているプロの目からは、どこかアマチュア的な薫りを残した作品のようにも見えるかもしれない。ただ、版画の世界では、たとえば川上澄生や香川軍男のように、一見しろうとっぽく感じられて実は巧みという味わいも評価される-という面もあるだろう。
宝賀さんの作品は、才気走ったうまさとは一味違う骨太の力があるんだと思う。
筆者のつたない感想はこれぐらいにして、宝賀さんの作風のはっきりとした特色として、先人の作を引用しての作品がときおりあることが挙げられる。
全道展で(現在は退会)話題になった「うちの野菜涅槃図」は伊藤若冲を下敷きにしたものだったし、今回出品されている、冒頭画像右端の「版画の国のアリス」もすごい。手島圭三郎、棟方志功、川上澄生、葛飾北斎…、さまざまな版画家の作風が「引用」されているのだ。ぜんぶで10人ぐらいにはなると思う。
こちらは、最近始めたという銅版画。
むかし作った立体がもとになっているというが、軟体動物みたいで、不気味というか、不思議な作品だ。
そういえば、何年も前の版を引っ張り出してきて再制作するのも、宝賀さんの特徴だった。
いずれにしても、宝賀さんの版画は、日常生活の中で生きているものだという気が、見ていて強くする。
日常を超越した大芸術もいいけれど、こういう作品もいいものだ。見ていて、なんだか口元がゆるんでくるのだ。
2009年11月2日(月)-7日(土)10:00-6:00(最終日-5:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■宝賀寿子・木版画「わが街」展 (2007年)
■宝賀寿子と松井さんち展 Ⅲ(2003年)