ポスターを見ると、ロシアの小説家・戯曲家アントン・チェーホフ(1860~1904年)の肖像が大きくあしらわれているので、彼に焦点を当てた展示なのかと思いました。たしかに、彼の長編ルポルタージュ『サハリン島』をめぐる展示が大きな核となっていますが、会場は大きく四つのパートに分かれています。
1. チェーホフの『サハリン島』
2. 大地に生きる人々 -ニブフとウイルタを中心に―
3. 文学を呼び覚ます場所
4. 息づく美術家たち
という構成です。
北海道のすぐ北側にあるわりには知られていないこの島について、さまざまな知識を得られる展示なので、皆さんに見てもらいたい特別展です。
ただし、このブログの読者としては「息づく美術家たち」が気になるところでしょうが、ここは油絵が1点あるだけで、あとは風景画などを撮った写真が約40点すき間無く並んでおり、はっきり言って、こんな展示をするぐらいなら、このセクションは無い方がいっそマシだと思います。本物が版画なども入れて5点あればそれでコーナーになるのだし、もし作品画像中心で行かざるを得ないというのであれば、美術展の会場風景なども入れて、サハリンのアートシーンが全体としてわかるつくりにしてほしかった。
サハリンには美術館はないのか? キュレーターはいないのか? そんなところが気になります。
とはいえ、1.のセクションで、1920年代と現代のサハリン各地を写真で見比べてみるだけでも、興味深いですし、また3.では、三島由紀夫の祖父がサハリン開発と密接なかかわりを持っていたことなど意外な挿話も紹介されています。
3. ではほかに、宮沢賢治や北方謙三、李恢成、知里真志保、北原白秋、寒川光太郎ら、さまざまな文学者とサハリンとのかかわりが紹介されているのですが、いまの文学愛好者にいちばんなじみが深いのは村上春樹『IQ84』かもしれないですね。筆者は、村上春樹は『ねじまき鳥クロニクル』まではほとんど読んでいますが、最近は遠ざかっているので、あまりえらそうなことはいえません。
なお、筆者はこの展示のために事前に『サハリン島』を読みましたが、かならずしもその必要はないでしょう。
チェーホフの「かもめ」など四大戯曲は有名ですし、「中二階のある家」「犬を連れた奥さん」といった後期の短篇小説はぜひ皆さんに読んでいただきたい珠玉の作品ですが、それらにくらべると『サハリン島』は、大部のルポルタージュで、けっして取っつきやすい本ではありません。
ただ、流刑囚や徒刑囚がいて、さいはての島だった19世紀末のサハリンを知る貴重な資料であることは間違いなく、相次ぐ脱走、悲惨な病院施設、厳しい自然環境や炭鉱労働、抑圧される先住民族(ただしオロッコ=書物ではギリヤーク=やアイヌ民族は記述があるが、ウイルタはほとんど触れられていません)について、チェーホフは落ち着いた筆致の中で記録しています。おそらくは、非人道的な状況への、静かな怒りを込めて。
『サハリン島』のなかに、作家が旅の途中で会った青年に、来年は日本に行くつもりだと話しかけるくだりがあります。実現はしませんでしたが、実際に来ていればおもしろかったのになあと思います。
ところで、今回の展示で、チェーホフはサハリンからの帰路は航路だったと知りました。
そりゃ、シベリア鉄道の開通前なんだから、当たり前です。チェーホフは、行きは雪解け水による洪水で行く手を阻まれるなど、たいへんな苦労をして馬車でシベリアを横断しています。
どうして、わざわざ陸路で行ったんだろう? と思いました。
2017年9月9日(土)~11月19日(日)午前9時半~午後5時(入館は4時半まで)、月曜休み(ただし祝日は開館し翌火曜休み)。11月6日(月)は開館し8日(水)休み
道立文学館(札幌市中央区中島公園)
一般700円など
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出口から約410メートル、徒歩6分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約480メートル、徒歩7分
・市電「中島公園通」から約550メートル、徒歩7分
・中央バス「中島公園入口」から約200メートル、徒歩3分
1. チェーホフの『サハリン島』
2. 大地に生きる人々 -ニブフとウイルタを中心に―
3. 文学を呼び覚ます場所
4. 息づく美術家たち
という構成です。
北海道のすぐ北側にあるわりには知られていないこの島について、さまざまな知識を得られる展示なので、皆さんに見てもらいたい特別展です。
ただし、このブログの読者としては「息づく美術家たち」が気になるところでしょうが、ここは油絵が1点あるだけで、あとは風景画などを撮った写真が約40点すき間無く並んでおり、はっきり言って、こんな展示をするぐらいなら、このセクションは無い方がいっそマシだと思います。本物が版画なども入れて5点あればそれでコーナーになるのだし、もし作品画像中心で行かざるを得ないというのであれば、美術展の会場風景なども入れて、サハリンのアートシーンが全体としてわかるつくりにしてほしかった。
サハリンには美術館はないのか? キュレーターはいないのか? そんなところが気になります。
とはいえ、1.のセクションで、1920年代と現代のサハリン各地を写真で見比べてみるだけでも、興味深いですし、また3.では、三島由紀夫の祖父がサハリン開発と密接なかかわりを持っていたことなど意外な挿話も紹介されています。
3. ではほかに、宮沢賢治や北方謙三、李恢成、知里真志保、北原白秋、寒川光太郎ら、さまざまな文学者とサハリンとのかかわりが紹介されているのですが、いまの文学愛好者にいちばんなじみが深いのは村上春樹『IQ84』かもしれないですね。筆者は、村上春樹は『ねじまき鳥クロニクル』まではほとんど読んでいますが、最近は遠ざかっているので、あまりえらそうなことはいえません。
なお、筆者はこの展示のために事前に『サハリン島』を読みましたが、かならずしもその必要はないでしょう。
チェーホフの「かもめ」など四大戯曲は有名ですし、「中二階のある家」「犬を連れた奥さん」といった後期の短篇小説はぜひ皆さんに読んでいただきたい珠玉の作品ですが、それらにくらべると『サハリン島』は、大部のルポルタージュで、けっして取っつきやすい本ではありません。
ただ、流刑囚や徒刑囚がいて、さいはての島だった19世紀末のサハリンを知る貴重な資料であることは間違いなく、相次ぐ脱走、悲惨な病院施設、厳しい自然環境や炭鉱労働、抑圧される先住民族(ただしオロッコ=書物ではギリヤーク=やアイヌ民族は記述があるが、ウイルタはほとんど触れられていません)について、チェーホフは落ち着いた筆致の中で記録しています。おそらくは、非人道的な状況への、静かな怒りを込めて。
『サハリン島』のなかに、作家が旅の途中で会った青年に、来年は日本に行くつもりだと話しかけるくだりがあります。実現はしませんでしたが、実際に来ていればおもしろかったのになあと思います。
ところで、今回の展示で、チェーホフはサハリンからの帰路は航路だったと知りました。
そりゃ、シベリア鉄道の開通前なんだから、当たり前です。チェーホフは、行きは雪解け水による洪水で行く手を阻まれるなど、たいへんな苦労をして馬車でシベリアを横断しています。
どうして、わざわざ陸路で行ったんだろう? と思いました。
2017年9月9日(土)~11月19日(日)午前9時半~午後5時(入館は4時半まで)、月曜休み(ただし祝日は開館し翌火曜休み)。11月6日(月)は開館し8日(水)休み
道立文学館(札幌市中央区中島公園)
一般700円など
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出口から約410メートル、徒歩6分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約480メートル、徒歩7分
・市電「中島公園通」から約550メートル、徒歩7分
・中央バス「中島公園入口」から約200メートル、徒歩3分