(長文です)
月刊誌「美術の窓」をひさしぶりに買った。
今月は、北海道の美術ファンにとって親しい名前がめじろおしなのだ。
「美術手帖」が現代アートを取り上げ、「月刊ギャラリー」が美術館展覧会の予告を中心とした誌面を展開し、「芸術新潮」が話題の展覧会に登場する過去の大家を多く登場させるのに対し、「美術の窓」は団体公募展の情報が詳しい。
団体公募展については、すでに全国紙が取り上げなくなって久しく、北海道新聞の夕刊文化面も昨年から扱いを小さくしている。したがって「美術の窓」は貴重な媒体である。
団体展だけではなく、美術館の展覧会や、ギャラリーでの個展の情報もまんべんなく載っているほか、「現代美術の歩き方」というページまであり、現在刊行されている美術雑誌の中ではいちばんカバーしている範囲が広いのではないだろうか。
もっとも、以前は、大丸藤井セントラル7階の喫茶店とか、札幌市民ギャラリーのロビーなどで読むことができたのだが、その喫茶店はすでに閉店し、札幌市民ギャラリーも雑誌の新規購入をしていないため、手にとって気軽に眺める場所がなくなってしまった(「買えよ!」と言われそうだな)。
特集は「美術団体はどうなる?! 実力派125名の作品を一挙紹介」。
巻頭に「美術団体を作り上げた巨匠たち」。
まず「三岸好太郎・佐伯祐三」。
三岸好太郎「海と斜光」の図版が紹介され、「この作品にはここで出会えます 日本近代洋画と三岸好太郎 Part2 9月11日(土)~10月24日(日) 北海道立三岸好太郎美術館」とある。
また「立軌会 公募をしない美術団体の作家の在り方」と題して、立軌会の笠井誠一代表が談話形式で語っている。
次のコーナーが「東京都美術館はこう変わる」。
公募展の入場者は昨年度で141万人。ピークは1991年の225万人。
六本木・新国立美術館に有力な団体公募展が移ったことを思えば、これは大健闘である。
で、これはなかなかタイムリー記事だと思う。
同誌がつかんでいるだけで、日本にはおよそ160もの団体公募展がある。そのうち、日展や二科など規模の大きな団体は、数年前に東京・六本木に国立新美術館が完成してそちらに会場を移したのだが、中小の団体を中心に、長年親しまれてきた東京都美術館で開催を続けてきたところも少なくない。ところが、同美術館が本年度から改修工事に入ってしまい、各団体は代替会場の確保に頭を悩ませているのだ。
この特集では、改修後の同美術館の様子を載せるとともに、各団体の代替会場も一覧で掲載している。
続いて、「美術団体の底力 ベストセレクション」。
見開きで大きく取り上げられているのは
鈴木竹柏(日展会長)、島田章三(国展)、奥谷博(独立)、雨宮敬子(日展、彫刻)、山本貞(ニ紀)、馬越陽子(独立・女流画家)、石坂春生(新制作)、森長武雄(新世紀)、中村英(水彩連盟)、山田展也(モダンアート)、嶋田明子(立軌会)
このうち山田は留萌管内天塩町の出身だ。
次の
「美術団体で活躍する人気作家ベストセレクション」
は、1ページないし半ページでの紹介である。
先のコーナーと合わせると250人になるのだが、この顔ぶれをどういう基準で選んだのかどうかはよくわからない。複数の画家が選ばれている団体もあれば、ひとりも取り上げられていない団体もあるので、「各団体から推薦」というような、主体性のない選出ではないと思われる。
ただし、ふしぎなのは、日本画の団体がまったく触れられていないこと。やはり日本画の世界は特別なんだろうか。そういえば版画家もいない。
もっとも、団体アンケートなどには水墨画の団体がいくつもあった(日本にこれほど多くの水墨画団体があるとは初めて知った)。
掲載されている道内関係者は次の通り。
笠井誠一(立軌会。1932年札幌生まれ)
濱 實 (春陽。34年函館生まれ)
大和屋巌(日本水彩画会顧問。18年生まれ)
大野哲司(二科。35年札幌生まれ)
藤野千鶴子(美術文化常任委員。37年生まれ)
藤井高志(蒼騎会。53年生まれ)
まあ、人口比を考えればこんなもんだろう。
笠井誠一氏は、明快な静物画で知られる画壇の重鎮である。立軌会は、公募をせず-という方針を貫いて半世紀以上続いている珍しい団体展である。
山田展也氏は、阿部典英さんや林亨さんら道内のベテラン美術家と、首都圏在住の道内出身者が、札幌と東京で交互に開催している「WAVE NOW」展の出品者である。抽象画のよき作家だと思う。
大和屋巌氏は夕張出身なので、夕張市美術館で所蔵作を見たことがある。現在、市立小樽美術館で開催中の「小樽・水彩画の潮流」にも出品されているという。日本の水彩画の重鎮である。画風は穏健な写実。
藤野千鶴子さん、藤井高志さんは、それぞれ新道展、全道展で活躍しており個展なども札幌でひらいているから、ご存じのかたも多かろう。
あとのふたりは、初めて名前を聞いた。
さて、特集以外の連載記事にも、道内に関係してくる記事が多いのだ。
「山下裕二の今月の隠し球」
渡邊希 漆の巫女、その大いなる野望(上)
渡邊希さんは札幌在住の若手漆作家で、昨年は東京でも個展を開いた。
山下裕二さんといえば、赤瀬川原平さんらとの共著「日本美術応援団」などで知られ、彼によって発掘された画家も多い。
そんな人にポートフォリオを持って説明にいく渡邊さんは積極的な人だな~と思う。というか、「自分の出し方(言葉はわるいけど)」に、たぶんいまの北海道の作家でいちばん自覚的なのではないか。
(上)ってことは、来月号も続くんだろうなあ。
「彫刻家の現場(アトリエ)から」(武田厚)は、小寺真知子さんを取り上げている。
小寺真知子さんはイタリア在住の具象彫刻家である。
動きのある裸婦などで知られ、近年は函館に野外彫刻が増えている。2004年には札幌彫刻美術館で個展を開いている。伎倆は相当なものだと思う。
なお、筆者の武田さんは、以前は道立近代美術館に勤務し、その後横浜美術館の館長に転じた方である。
大型展評FOCUSは、3月に札幌時計台ギャラリーで開かれた第9回サッポロ未来展を大きく取り上げている。
図版と紹介が載っているのは
北田沙知子「沈黙」、佐藤仁敬「Paranoid」、波田浩司「舞う日」、宮地明人「paradox」、谷地元麗子「いつか見た夢」、渡辺元佳「dreamer」など3点
である。
というわけで、元を取った気分になったのであった。
来月号は恒例の新人特集である。
月刊誌「美術の窓」をひさしぶりに買った。
今月は、北海道の美術ファンにとって親しい名前がめじろおしなのだ。
「美術手帖」が現代アートを取り上げ、「月刊ギャラリー」が美術館展覧会の予告を中心とした誌面を展開し、「芸術新潮」が話題の展覧会に登場する過去の大家を多く登場させるのに対し、「美術の窓」は団体公募展の情報が詳しい。
団体公募展については、すでに全国紙が取り上げなくなって久しく、北海道新聞の夕刊文化面も昨年から扱いを小さくしている。したがって「美術の窓」は貴重な媒体である。
団体展だけではなく、美術館の展覧会や、ギャラリーでの個展の情報もまんべんなく載っているほか、「現代美術の歩き方」というページまであり、現在刊行されている美術雑誌の中ではいちばんカバーしている範囲が広いのではないだろうか。
もっとも、以前は、大丸藤井セントラル7階の喫茶店とか、札幌市民ギャラリーのロビーなどで読むことができたのだが、その喫茶店はすでに閉店し、札幌市民ギャラリーも雑誌の新規購入をしていないため、手にとって気軽に眺める場所がなくなってしまった(「買えよ!」と言われそうだな)。
特集は「美術団体はどうなる?! 実力派125名の作品を一挙紹介」。
巻頭に「美術団体を作り上げた巨匠たち」。
まず「三岸好太郎・佐伯祐三」。
三岸好太郎「海と斜光」の図版が紹介され、「この作品にはここで出会えます 日本近代洋画と三岸好太郎 Part2 9月11日(土)~10月24日(日) 北海道立三岸好太郎美術館」とある。
また「立軌会 公募をしない美術団体の作家の在り方」と題して、立軌会の笠井誠一代表が談話形式で語っている。
次のコーナーが「東京都美術館はこう変わる」。
公募展の入場者は昨年度で141万人。ピークは1991年の225万人。
六本木・新国立美術館に有力な団体公募展が移ったことを思えば、これは大健闘である。
で、これはなかなかタイムリー記事だと思う。
同誌がつかんでいるだけで、日本にはおよそ160もの団体公募展がある。そのうち、日展や二科など規模の大きな団体は、数年前に東京・六本木に国立新美術館が完成してそちらに会場を移したのだが、中小の団体を中心に、長年親しまれてきた東京都美術館で開催を続けてきたところも少なくない。ところが、同美術館が本年度から改修工事に入ってしまい、各団体は代替会場の確保に頭を悩ませているのだ。
この特集では、改修後の同美術館の様子を載せるとともに、各団体の代替会場も一覧で掲載している。
続いて、「美術団体の底力 ベストセレクション」。
見開きで大きく取り上げられているのは
鈴木竹柏(日展会長)、島田章三(国展)、奥谷博(独立)、雨宮敬子(日展、彫刻)、山本貞(ニ紀)、馬越陽子(独立・女流画家)、石坂春生(新制作)、森長武雄(新世紀)、中村英(水彩連盟)、山田展也(モダンアート)、嶋田明子(立軌会)
このうち山田は留萌管内天塩町の出身だ。
次の
「美術団体で活躍する人気作家ベストセレクション」
は、1ページないし半ページでの紹介である。
先のコーナーと合わせると250人になるのだが、この顔ぶれをどういう基準で選んだのかどうかはよくわからない。複数の画家が選ばれている団体もあれば、ひとりも取り上げられていない団体もあるので、「各団体から推薦」というような、主体性のない選出ではないと思われる。
ただし、ふしぎなのは、日本画の団体がまったく触れられていないこと。やはり日本画の世界は特別なんだろうか。そういえば版画家もいない。
もっとも、団体アンケートなどには水墨画の団体がいくつもあった(日本にこれほど多くの水墨画団体があるとは初めて知った)。
掲載されている道内関係者は次の通り。
笠井誠一(立軌会。1932年札幌生まれ)
濱 實 (春陽。34年函館生まれ)
大和屋巌(日本水彩画会顧問。18年生まれ)
大野哲司(二科。35年札幌生まれ)
藤野千鶴子(美術文化常任委員。37年生まれ)
藤井高志(蒼騎会。53年生まれ)
まあ、人口比を考えればこんなもんだろう。
笠井誠一氏は、明快な静物画で知られる画壇の重鎮である。立軌会は、公募をせず-という方針を貫いて半世紀以上続いている珍しい団体展である。
山田展也氏は、阿部典英さんや林亨さんら道内のベテラン美術家と、首都圏在住の道内出身者が、札幌と東京で交互に開催している「WAVE NOW」展の出品者である。抽象画のよき作家だと思う。
大和屋巌氏は夕張出身なので、夕張市美術館で所蔵作を見たことがある。現在、市立小樽美術館で開催中の「小樽・水彩画の潮流」にも出品されているという。日本の水彩画の重鎮である。画風は穏健な写実。
藤野千鶴子さん、藤井高志さんは、それぞれ新道展、全道展で活躍しており個展なども札幌でひらいているから、ご存じのかたも多かろう。
あとのふたりは、初めて名前を聞いた。
さて、特集以外の連載記事にも、道内に関係してくる記事が多いのだ。
「山下裕二の今月の隠し球」
渡邊希 漆の巫女、その大いなる野望(上)
渡邊希さんは札幌在住の若手漆作家で、昨年は東京でも個展を開いた。
山下裕二さんといえば、赤瀬川原平さんらとの共著「日本美術応援団」などで知られ、彼によって発掘された画家も多い。
そんな人にポートフォリオを持って説明にいく渡邊さんは積極的な人だな~と思う。というか、「自分の出し方(言葉はわるいけど)」に、たぶんいまの北海道の作家でいちばん自覚的なのではないか。
(上)ってことは、来月号も続くんだろうなあ。
「彫刻家の現場(アトリエ)から」(武田厚)は、小寺真知子さんを取り上げている。
小寺真知子さんはイタリア在住の具象彫刻家である。
動きのある裸婦などで知られ、近年は函館に野外彫刻が増えている。2004年には札幌彫刻美術館で個展を開いている。伎倆は相当なものだと思う。
なお、筆者の武田さんは、以前は道立近代美術館に勤務し、その後横浜美術館の館長に転じた方である。
大型展評FOCUSは、3月に札幌時計台ギャラリーで開かれた第9回サッポロ未来展を大きく取り上げている。
図版と紹介が載っているのは
北田沙知子「沈黙」、佐藤仁敬「Paranoid」、波田浩司「舞う日」、宮地明人「paradox」、谷地元麗子「いつか見た夢」、渡辺元佳「dreamer」など3点
である。
というわけで、元を取った気分になったのであった。
来月号は恒例の新人特集である。