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東川町フォト・フェスタ(3) 長文です

2006年08月02日 22時04分50秒 | 展覧会の紹介-写真
 東川町フォト・フェスタの続きです。筆者のお目当ては、東川賞受賞者とゲストが、受賞作が展示されている会場でくりひろげるトークセッションなのですが、ことしは聴衆がやや少なめで、さびしいというか、せっかくの機会なのにもったいないと感じました。

 ことしの東川賞は
海外作家賞がインドのKetaki Sheth(ケタキ・シェス)さん、
新人作家賞が安楽寺えみさん、
北海道ゆかりの写真家に贈られる特別賞が綿谷修さん、
国内作家賞が鈴木理策さん
という顔ぶれ。
 授賞式は、例年前日に行われているようです。

 ムンバイ在住の女性写真家Ketaki Shethさんの受賞作は「ボンベイMix」。全点モノクロです。
 被写体は少年少女が多いのですが、まさに、混沌という形容がふさわしい、ムンバイの今に迫った作品だと感じました。少年、少女たちは、貧しくても、生き生きとしています。
 走る少年の後ろに建設中のビルが見えたり、宗教行事の遠景に近代的なビル群が写っていたりするあたり、めざましい経済成長と古いものが混然としているインドの現状の反映なんでしょう。
 「眠る少年と笛を吹く男」といった、ふしぎな光景もあります。
 といって、思いいれたっぷりというのとはちがって、佐藤時啓さんがおっしゃっていたように、視線はニュートラルだと思います。

 Ketaki Shethさんは、現在取り組んでいる、アフリカ系インド人の集落をとらえたシリーズや、出世作となった、双子をインドと英国で写した一連の作品をスライドで紹介しながら、自作について語りました。
 受賞作のタイトルは、インドでよく食べられているスパイシーなお菓子の名前だそうです。貧しい人、富める人、知識のある人…いろんな人が交じり合っているこの都市のイメージにあっているのだと感じたそうです。
 暗室や発表場所などの確保がインドでは大変だとも語っていました。

 新人作家賞の安楽寺さんは、武蔵野美大で油彩を習い、卒業後は10年余りも闘病生活をおくっていたそうです。
「病気は、さめない悪夢でしたね。この悪夢の余韻を背負ったまま創作活動をしています」
 この間につくった手づくりの写真集が40冊!
 なんか、執念を感じますね。
 ちなみに、ペンネームの「安楽寺」は、unluckyのもじりだそうです。

 写真は、散らばるポップコーンとつけまつげ、とか、草むらに投げ出された水玉模様の枕、とか、体を這うアリとか、なんとも説明のむつかしい、独特の世界です。ちょっとエロティックでもあり、どこか草間彌生の世界を思い出させるなにかもあります。
 いちばんびっくりしたのは、蜂蜜をつけたまま死んでいく女王蜂をアップでとらえた1枚でした。
 8月に米国の出版社から写真集が出るそうです。
 山岸亮子さんは「世界に羽ばたく寸前」と評していました。
 また、昨年東川賞を受けた札幌の鈴木涼子さんが、わたしの世界に似ているけれど違う、と感想を述べていました。

 綿谷さんは網走管内遠軽町出身で、写真を撮るほかに、ヒステリックグラマーの写真集の編集も手かげています。
 デビューとなった「遠軽」、東京の街角を写しまくった「Agenda」、ドヤ街・寿町をパノラマ画面で、やや引き気味の位置からとらえた「昼顔」の3シリーズが展示されています。
 とりわけ、「遠軽」における、森山大道さんの影響は明らかです。コントラストの強い、荒れた画面。野良犬がこっちを見ている写真まであります。
 「遠軽」が初期ダイドーなら、「Agenda」は近年のダイドーさんかな。ヒステリックグラマーの写真集は300ページとか500ページとかの厚いものなので、いきおい枚数も多くなったようです。考えて撮るんじゃなくて、身体とカメラが一体化したようなものを感じます。

 大道さんとの出会いは、編集者として写真を借りに行ったときのことだそうです。
 その時代の大道さんは、布団に入ったままボソボソしゃべるような状態で、それでも「1枚貸すだけじゃ、何だから」
と言ってくれたそう(綿谷さんはこの場では言っていませんが、ここから後年のヒステリックグラマーにおける爆発的な大道復活につながっていくのでしょう)。そして
「あなたも写真家なんだろ。いっしょにやりましょう」
と言ってくれたうれしさで、綿谷さんは本格的に写真の道を歩むことになったのだそうです。
 なんか、いい話ですね。というか、うらやましい。

 会場からも
「森山さんの影響を感じるが、じぶんの立ち位置をどう考えるか」
みたいな質問が出て、綿谷さんは
「森山さんは好きで、すばらしいと思うし、影響されちゃいけないですか? そこから逃げると、より森山さん的になってしまうと思う。好きなものは避けてはいけない。やるしかないんです。新しい写真なんて、ないんですよ」
と、本音を語っていました。

 最後に鈴木さん。
 会場には、「熊野」のシリーズと、サントヴィクトワール山、サクラのシリーズが展示されていました。が、筆者は、この人の写真のどこが良いのか、さっぱりわからなかったです。
 サントヴィクトワール山は、セザンヌが晩年にくりかえしモティーフにしたことで有名です。一連の写真は、中判や大判カメラで撮影した即物的なもので、作者のセザンヌへの
思いなどはとくにこもっていません。ならば、自然のありのままの様相が、前面に出てくるのだと思いますが、それは特筆すべきものでもないように感じました。ネイチャーフォトに接することの多い北海道の人間の見方かもしれませんが。おなじ山なら、たとえば市根井さんの写真のほうがずっとおもしろい。
 さらに、それを言っちゃあおしまいよ、と言われそうですが、写真のサントヴィクトワールよりも、現実の藻岩山や長万部岳のほうがずっといいわけですよ。筆者は、アウトドア人間ではなく、山や自然に接した経験はけっして豊かではありませんが。


 というわけで、鈴木さんのトークを中座して帰路につきました。
 冒頭の写真は、中座したときに撮りました。
 道草館(バス停の近くにある道の駅)で、及川修さんたちの3人写真展を見るつもりですが、すでに終了していました。ざんねん。
 
 もうひとつ失敗だったのは、この日(7月・日)の夜、「写真夜会」というパネルディスカッションが企画されていたんですね。ことしの東川賞受賞作家や審査員が勢ぞろいして車座で話すという、めったにない企画で、知っていれば参加したのになあ。

 来年は、事前に日程をよく調べてから参加したいと思うのでした。
 
第22回東川受賞作家作品展
7月29日-8月27日 10:00-17:00  

□フォトフェスタのホームページ「空飛写助」

■北海道美術ネットの2002年の東川フォト・フェスタ

■浅野さんによる、2004年の東川リポート


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2 コメント

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Unknown (asano)
2006-08-03 01:23:05
日程面での周知の点と、終了時間・日程の関係でトーク終了後まで他の作品展をご覧いただけないという点は来年に向けての課題にさせてください。



今年はどういうわけかトークの参加者が若干少なくてもったいないなぁと私も思いました・・・もっとも現場系はあの時間は大騒ぎタイムなのですが・・・





夜会は昨年も開催されました、実はその前に開催される町主催のお別れ会や、前日に開催された写真月間フォトミーティングプレイスなどなど一緒に食事をしながら酒を酌み交わしながら、受賞作家のかたや審査員の方と身近に接する機会はたくさんあります。



どなたかが言われてましたが、東京でもありえないくらいのメンバーが半径100m以内に存在していることはすばらしいことだと思います。





綿谷さんとは直接お話しする機会が(写真のはなしでは)なかったのですが、ずーっと昔の若い頃に流行った大道病を思い出しました。

浅野的には森山大道を好きなのは確かに認めるけどちょっとどうかなと・・・新しい写真は確かにないかもしれないけど70年代も80年代ももう終わったんだけど・・・とある面同じ年齢の人間として頭に閊えている前の世代に決別するべきではというのを感じました。

同じ年齢というもあり考えさせられました。



来年は是非土曜日からお越し下さい(準備作業をしている金曜日からでもOKですけど)
返信する
亀レス失礼します (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-08-05 06:16:52
 asanoさん、長文コメントありがとうございました。

 展覧会終了時間のことですが、日程をちゃんと確認していかなかった筆者がわるいのであり、撤収に時間がかかることを考えれば、あまり気にしないでくださいということです(ヘンな日本語ですいません)。



 「大道病」、おもしろい言葉ですね。

 でも、わかるような気がします。
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