アーバンライフの愉しみ

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解体新書~吉村昭著「冬の鷹」

2015年09月02日 | 読書三昧

吉村昭氏の記録文学を読み続けている。

今回手に取ったのは、「解体新書」の作成秘話を扱った「冬の鷹」である。月刊エコノミスト連載、1979年毎日新聞社刊。

江戸中後期(安永3年・1774年)、当時の医家に衝撃を与えた人体絵図の「解体新書」は、杉田玄白の作とされているが、実は、蘭語版(原本は仏語)ターヘル・アナトミアの訳本であり、主として前野良澤(りょうたく)の編纂によるものであったという。

学研の徒であった良澤は、「解体新書」の出版に必ずしも乗り気でなかったことから、同書に名前を出すことを固辞したため、玄白は、自らを訳者として出版に踏み切った。

これが当時の医学に与えた影響は大きく、また、玄白のすぐれた商才や後進の育成が彼の名声を不動のものにしただけでなく、自らの栄達と一門の繁栄をもたらした。

一方、人付き合いが苦手で、生涯を蘭書の翻訳に費やした良澤は、次第に世間から忘れ去られ、経済的にも厳しい老後を余儀なくされたという。

こうした玄白と良澤の処世の違いが、如何に大きく人生を分けるものかを精緻に描いてみせた佳作である。

写真は、ウイキィから借用しました。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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こんにちは♪ (にゃんにゃん)
2015-09-02 09:58:57
この作品は読んでいません。
吉村さんの作品は、かなり読んだ気になっていましたが、
とにかく膨大で、ほんの一部だったのかもしれません。
長編は事実をもとにした作品が多いですが、短編はフィクションが中心で色合いが異なります。
短編では男女の織りなすドラマも多く取り上げられていて、
巧みな心理描写が感性豊かに描かれており、結構好きでした。

貴ブログの「読書三昧」、私の楽しみです。
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にゃんにゃんさん (エゾフクロウ)
2015-09-02 11:24:47
コメントありがとうございます。

そうですか。
同氏の短編もいいようですね。(小生はまったく読んで
いません)

もっぱら伝記もの中心で、古いものは活字が小さかっ
たりで苦労しています。

昨日は、「落日の宴~勘定奉行川路聖謨」を借りて
来ました。
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