【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ぐるりのこと。」:深川一丁目バス停付近の会話

2008-07-09 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

ここは、深川閻魔堂って言ってな、本堂の左側の建物の中に閻魔様がいるんだ。
閻魔様って、あの恐ろしいエンマ様?
ああ、エンマ様だ。
じゃあ、こんなところでうっかりしたこと、言えないわね。
死んだ人が、地獄に行くか極楽に行くかを決める究極の裁判官みたいなヤツだからな。
でも、リリー・フランキーは明らかに極楽行きよね。
なんだ、いきなり話が飛ぶな。
だって、「ぐるりのこと。」のリリー・フランキーは、何が起きてもあわてず騒がず、静かに妻を見守る、夫のかがみみたいな存在だったじゃない。明らかに極楽行きよ。
「ぐるりのこと。」かあ。ごく平凡な夫婦の10年に渡る物語。子どもが死んだり、そのせいで妻がうつ病になったりはするけど、とくに大きなドラマがあるわけでもない。淡々と時間は流れていくのに、飽きる瞬間がない。
妻を演じるのがこれまで脇役が多かった木村多江、夫を演じるのが俳優が本職じゃないリリー・フランキー。それだけに、色のついていない新鮮な組み合わせで、夫婦の情愛が、なんとも自然に感じ取れたわ。
リリー・フランキーの自然体も見ものだけど、この木村多江がとうとう本領を発揮した素晴らしさ。
ちょっと影が薄い隣の若奥さんみたいな役が多かったんだけど、その影の薄い若奥さんも、本人に照明を当てれば、これだけいろいろな葛藤を抱えているなかでなんとか生きているのよ、っていう感じが伝わってきて、ドキドキした。
また、撮り方がやたらきれいに魅力的に撮るもんだから、身を乗り出しちゃったぜ。
リリー・フランキーとじゃれあうシーンを延々と撮ったりしているんだけど、ああいう何げないシーンがどういうわけか、感動的なのよねえ。
人のセックスを笑うな」にも、同じように男女がじゃれあうだけのシーンがあったけど、あっちは恋人同士、こっちは夫婦同士。その違いがまた、いかにもって感じで、見比べてみるとおもしろいよな。
「ぐるりのこと。」のほうが全体に、おとなっていうか、しっとりしている。
夫の職業が法廷画家っていう設定がまた効いている。
夫婦という単位の小さな世界のお話なんだけど、その間に夫が法廷で被告たちの似顔絵を描くシーンが出てきて、小さな話の中に日本の社会を揺るがした大事件の犯人たちが裁かれるという大きなエピソードがはさまってくる。
エンマ様に言わせりゃ、地獄行きの人たち。
ああいう大きな世界と、夫婦だけの小さな世界。どちらも等価で、それで世の中、ぐるりはできているっていう、とても深みのある映画になった。
歩いても歩いても」とか「ぐるりのこと。」とか、最近は家族の日常を丁寧に描く秀作が立て続けに出てきたけど、日本映画に何か起こっているのかな。
映画人たちもきっと気づいたのよ、空虚な嘘ばかり重ねていると、エンマ様に舌を抜かれちゃうって。
なーるほど。って、ほんとか?


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ふたりが乗ったのは、都バス<門33系統>
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