【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「告発のとき」:越中島バス停付近の会話

2008-07-02 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

ここは?
東京海洋大学。かつての商船大学と水産大学が一緒になった大学だ。
海の男たちを育ててきたところね。規律とかも厳しかったんでしょうね。
アメリカの軍隊に比べりゃ、たいしたことないだろう。
映画の「告発のとき」なんて見ると、“たとえ人が目の前に現れようが走っている車を停めるな”なんて凄い規律があったりする。
イラクの最前線から帰ってきた息子が殺害され、トミー・リー・ジョーンズ扮する父親が犯人を追ううちに戦争の実態が明らかになっていくという物語。
軍隊の隠蔽体質とか国家の非情さとか、そういう大きな組織の腐敗が暴かれるのかと思ったら、そんな展開じゃないのが意外だったわ。
終わってみれば、犯罪自体は、あっさりしている。
ミステリータッチだから、意外な犯人が後ろで操っていたとか、二転三転するドラマが繰り広げられるのかと思ったら、案外そういう大仕掛けな話じゃなかったわね。
退役軍人でアメリカ軍を信用しきっている父親のトミー・リー・ジョーンズが徐々に徐々に戦争の実態を知り、軍に不信感を強めていく。その心の動きが実はいちばんの見どころだった。
自慢の息子が死んだっていうのもショックだけど、勇壮に戦って、というのとはほど遠い死に方だし、戦場での無残な出来事を知ると、いっそう地面が割れたような気持ちになる。
物語が地味なぶん、息子を失ったトミー・リー・ジョーンズの一挙手一動が切なくてなあ。
くぼんだ目としわが心境を表して、さすが、缶コーヒーのCMとはまるで違うわね。
美人女優のシャリーズ・セロンが、地元の警官役で派手さを抑えた演技を見せている。彼女もしみじみいい俳優になった。
母親役がスーザン・サランドン。出演場面は少ないものの、息子を失った悲しみを十分に感じさせる演技で映画に奥行きを与えている。
一昔前なら、ベトナムを舞台にしただろう物語が、今はイラクでも成立するっていうのは、どういうことなんだろうな。
舞台が変わっただけで、戦争の本質とか悲劇の構図は21世紀になってもまったく変わらない。
大義名分がいかに変わったところで、戦争が人々にもたらすものはいつも同じだってことか。
兵士たちの精神的な荒廃は戦場だけじゃなくて、戦争から帰ってきたからも続くっていうのがやるせないわよねえ。
登場人物の一人が、「イラクは最悪だけど、戻って2週間もするとまた行きたくなってしまう」ってつぶやいていたけど、その気持ちって「ディア・ハンター」に似てない?
異常な体験をすると、それくらい心を病んでしまうってことね。
こういう真摯な映画がいくら生まれたところで、偉い人たちの気持ちを動かすまでには至らないと思うと、絶望的な気分になるな。
せめて、日本をはじめ、世界のこれからの若者たちがこのような目に遭うことのないように祈るしかないわね。
戦前は、この海洋大学の前身の学校は、海軍予備士官を育てる学校でもあったらしいからな。
え、そうなの?
昔の話だ。
昔の話であり続けてほしいわね。



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ふたりが乗ったのは、都バス<門33系統>
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