【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ツリー・オブ・ライフ」

2011-08-31 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

テレンス・マリック、いつかこういう映画をつくるんじゃないかと思ってた。
“こういう”って?
自然とか神とか精神的なものにググッと寄った、ある意味宗教的な映画。
でも、50年代アメリカの父子の葛藤の物語よ。
そう、そう、そうなんだよ。テレンス・マリックって、いつも物語は至って下世話な話なのに映像が崇高というか神がかってるというか思わせぶりなんで、何かとてつもなく深遠なものを見せられてしまったような気がするんだ。特に今回は、そういう部分が異様に膨れ上がってきた。
なにしろ、地球の誕生から神の世界まで映像が拡がっちゃうんだもんね。
それをまた、きっちり撮ってるからグゥの音も出ない。
ドラマは厳格な父親とそれに反発する息子という単なる家庭の事情の話なのに。
いたってユニバーサルな映像といたってパーソナルな物語がどこで結びつくのか。ショーン・ペンの語りに頼るしかない。
でも、映像の感性は、その二つを分断してないと思ったけど。
ドラマ部分でも、ふっと誰の視点だかわからなくなる瞬間があったりするんだよな。
こういう映画はあんまり頭で考えながら観ちゃダメっていうことかな。
観るより感じる映画、っていうとなんだか陳腐な映画にも思えてくる。
でも、何と言っても演出力が並みはずれているから文句のいいようがない。
足元にも及ばない。
絶賛の嵐。
もうちょっと俺たち庶民の感覚に近くなってくれたら言うことないんだけど、どんどん離れて行くような予感がする。
崇高な映画で有名なスタンリー・キューブリックだって、実は結構くだけた感覚を持ってた。
この映画と似たようなトリップシーンの出てくる「2001年宇宙の旅」だって、考えてみれば相当ハッタリを効かした、いい加減な映画だった。
「デイジ~、デイジ~」なんてね。
それに対し、この映画、息を抜くところがない。
恐竜が出てきたときには“おちゃめ”と思ったんだけど、それだけだった。
いい映画なのか、そうでないのか、俺たちの手には負えないな。
器が大きすぎ。

「一枚のハガキ」

2011-08-27 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

新藤兼人監督、99歳。余裕綽々だなあ。
戦争の残酷さをおとぎ話のようなセンスで描いて、間然とするところがないって感じ。
キーワードはなんといっても「風情がない」のひとこと。森田芳光の映画「それから」の中で藤谷美和子が呟く「さみしくっていけません」に匹敵するような、なんとも感情を揺さぶる日本語だ。
その「風情がない」の書かれたハガキが主人公の豊川悦司と同じ兵舎の仲間のところに届くんだけど、新藤監督がほんとに経験したことだっていうんだから凄い。
そして、もうひとつのキーワードは「くじ引き」。
100人の男たちの中、くじ引きで戦場に行く94人が選ばれるんだけど、その94人がほぼ全員戦死する中で、豊川悦司はたまたま選ばれず、生き残りの6人のうちのひとりになる。
これまた、新藤監督がほんとに経験したことだっていうんだから、ぞぞっとする。
で、戦友の形見のハガキを未亡人のところへ返しに行くんだけど、その未亡人が大竹しのぶ。
この濃い二人が出会ったら何も起こらないわけがない。
まるで舞台劇のような丁丁発止があって、納まるところに納まる。
たしかなものは足の下の土の感触しかないんだよ、という大団円。
でも、戦争という不条理に対する怒りはふつふつと流れている。
新藤監督の中では戦争体験っていうのがすべての創作の源だってよくわかるような映画だ。
これが最後なんて言わずに新藤監督にはもっと、もっと映画を撮ってほしいわね。
100歳になっても101歳になってもな。
「101歳目のプロポーズ」なんてどうかしら。
「ボクは死にましぇん」って新藤監督が叫ぶとか?
あなた、大監督をバカにしてない?
それはお前だろ。


「行け!男子高校演劇部」

2011-08-24 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

明らかに「ウォーターボーイズ」の線だ。
お気軽な男子高校生たちがひょんなことから演劇を始める、恋あり笑いありの青春コメディー。
ただ、「ウォーターボーイズ」の矢口史靖監督よりこの映画の英勉監督のほうがヤブレカブレで、節操に欠けるところがある。
これに比べると矢口史靖監督って意外に真っ当だったのね、と思ってしまう。
軽味を出そうというのはわかるんだけど、もうちょっと抑えてもよかったかな。
いまの若い客層はこれくらいバカッぽくやらないとついてこれないのかもしれないわね。
単純明快、裏表のないことおびただしい。
そのせいで、暗闇で観る映画というより寝っ転がって見るテレビドラマに近い感触になってしまった。
そこが微妙なところでね。「ウォーターボーイズ」なんて、ちゃらんぽらんやっているようで、どこかしら映画の匂いを放っていた。
じゃあ、この映画、見どころはないのかというとそんなことなくて、彼らが演劇祭で演じる「最後の一葉」。あれはたしかにアイデアものだった。
最後のピンチをどう切り抜けるかも含めて、決して悪くない。演出力があればもっと盛り上がったところだ。
大和田伸也の登場はやり過ぎの感もあるけど、ああいう出し方って最近の流行りなのかしら。
なんだか「キサラギ」の宍戸錠を思い出しちゃったな。
そういえば、「キサラギ」は続編が出来てもいいいような終わり方だった。
この映画も続編を作ろうと思えば作れる内容なんだろうけど、いまひとつ魅力がほしいところだなあ。惜しい。

「この愛のために撃て」

2011-08-20 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

どの愛のために撃つんだ?
あの愛のために撃つのよ!
なるほど、その愛のために撃つのか!
なんて、バカっ話をしている隙もないほどスピーディーに物語は展開する。
誘拐された妻を救うため、平凡な男が孤立無援の状態で疾走する姿を描くフランス映画。監督は、あまりなじみのないフレッド・カヴァイエ。
バカっ話の続きをすれば、あの愛もその愛も出てこない。この愛しか出てこない、思い切りの良さ。
そのために素人の男が走ればプロの悪人もパリの町中を突っ走る。
準主人公かと思っていた人が映画の中であっけなく消えてしまうのもあっけにとられる。
おかげで、どうせ主人公は助かるだろうというこちらの読みも揺らいで緊張感の真っただ中に突き落とされる。
鬼面人を驚かすような仕掛けがあるわけじゃなく、無骨なほど真っ当な犯罪映画なんだけど、余計な贅肉がないから1時間25分に見事に納まっちゃった。
1時間25分、駆け抜けたっていう印象だよな。無駄に長ければいいってもんじゃないっていう見本のような映画だ。
短くても、頭から尻尾の先まで中身が詰まっているタイ焼きのような映画。これが娯楽映画の理想よね。
こういう映画らしい映画が日本では小さな映画館にしかかからないっていうのは、どういうことなんだろうな。
あなた、以前もそんなようなこと言ってたわね。もしかして満足度は上映時間に比例すると思っている野暮な映画関係者が増えたっていうことじゃないかしら。
俺たちの会話も、野暮になる前にきょうはお開きだ。



「未来を生きる君たちへ」

2011-08-16 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

NHKのテレビ番組みたいな日本題名も、英語題名の「IN A BETTER WORLD」も甘っちょろく感じるほどシビアな映画だった。
原題は「復讐」だもんね。
まさしく、暴力や憎しみの連鎖とその行きつく果てを描いたスサンネ・ビア監督の厳しくも切っ先鋭いドラマ。
先進国デンマークの一見平和な港町と、アフリカの不毛の大地のコントラストがまず凄い。
そこで展開される暴力の質はもちろん全然違うんだけど、デンマークとアフリカを行き来する一人の医師が介在することによって、天と地との開きがあるように見える暴力の質が実は同じ根っこを持っているということを感じさせる構成の妙。
デンマークで繰り広げられる暴力は学校のいじめとか隣近所のいさかいといった、社会的にはとても小さなできごとなんだけど、でもコミュニティの中ではとても重大なできごとで、一方、アフリカで繰り広げられる暴力は文字通り世界の悪がすべて象徴されるような残酷極まるできごとで、そのコントラストが凄いんだけど、それを等質な目線で捕えたところに震えが来ちゃったわ。
どんな世界にも暴力は存在すると暗示させる映画の構造にも目を見張るけど、それを描写する監督の硬派な演出力にも圧倒される。
アフリカの子どもたちの笑顔、デンマークの子どもたちのおどおどした目つき。彼らに大人たちは何を伝えられるのだろうという絶望と、かすかな希望。
とにかく、デンマークの子どもたちのたたずまいがいい。
いわゆる美男子系とちょっと崩れた系のコンビが、あの年代ならではの闇と純粋さを併せ持っているっていうところがね。
一方、彼らの父親でもある医師は、暴力はいけないというおとなの節度、絶対の信念を持っているのに、究極の選択を迫られる中で感情を爆発させてしまう。
それを人間的と呼ぶか非人間的と呼ぶか。とっても難しいところよね。
お前ならどうするって迫られるような、難しい線上を歩かされているような映画だよな。
子どもたちの行動にも一理あると思ったり、おとなたちの言動こそ正しいと思ったり・・・。
デンマークのできごとは最悪の一歩手前で止まるんだけど、アフリカのできごとは最悪の一歩手前で終わったと言えるのかどうか。
デンマークのできごとだって実はまだわからないわよ。車を爆発させられた男の反応が描かれていないんだから。
でもまだ救いはあるっていう終わり方だ。
かすかな願望ね。BETTER WORLDに対する。