【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「叫」:明治学院前バス停付近の会話

2007-02-28 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

宵闇の大学っていうのも妙に不気味な感じね。
誰かに襲われそうになったら、叫びをあげるんだぞ。
黒沢清の映画「叫」に出てくる女性みたいに?
ああ、それにしても黒沢清は健在だったな。
あなたが観るから、仕方なく観たけど、たしかにつまらなさは健在ね。
そうなんだよ。つまらないってわかってるのに、新作の映画ができると観たくなってしまうのが、黒沢清映画の不思議なところなんだ。
何見たっけ?
「CURE」「ニンゲン合格」「大いなる幻影」「カリスマ」「回路」「アカルイミライ」「ドッペルゲンガー」「LOFT」・・・。
思い出してもつまらない映画ばかりね。
ところが新作というとつい観たくなる。映画の中にこっそりと催眠術の素でも仕込まれてるのかな。
催眠術の素?
次の新作が観たくなる、催眠術。
それこそ、ホラー。
ホラーといえば、この映画の葉月里緒奈は最高のホラー顔してたな。あれは見ものだった。
ときどき見せる凍るような目つきがね。
生身の人間の役よりこういう役のほうがぴったりだったりして。
それって、ほめことば?
もちろん。
だけど、ときどきギャグかましたりしてた。
典型的な「お化けだぞー」スタイルになったり変な格好で空を飛んだりして、おちゃめ。
「LOFT」のときも思ったんだけど、笑わせるシーンとは思えないところで妙に笑えるシーンがあるのはわざとなの?
あれが黒沢清映画の特徴なのかもな。高尚にいえば異化効果。ふつうにいえば、いいかげん。
じゃあ、他には?
取調べ室とか医務室とか、明らかにリアルとは縁遠いチープなつくりなのに、妙にアートしてて映画の世界になじんでいる。あの造型力も黒沢清映画ならではの特徴だ。
そういう不可解なところが尾を引いてついつい次の映画も観ちゃうのかしら。
でも、今回の映画は黒沢清映画にしては、わかりやすくなかったか?
たしかにいつもの映画より理屈でちゃんと説明しようという努力はしてたわよね。
そのわりに最後のほうはいつもどおり、わけわからなくなってたけどな。
小西真奈美の存在なんて明らかに、娯楽映画してみました、っていう魂胆が見え見えだったわね。
詳しくは言えないけど、どんでん返し用の存在だよな。ラストシーンは、ま、かわいいいたづらということで。
それもまた、次の映画を観たくなる要因のひとつなのかしら。
何しても許されるみたいで、得だよなあ、黒沢清って。
そこは黒沢明と似てるわね。
いいや、二人は全然関係ないと思うよ。
あ、そう。
さ、暗くなる前に早く帰ろう。
暗くなったら、叫びをあげながら帰ろう。
アーアアー。
そりゃ、ターザンよ。


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アカデミー賞に反対1票

2007-02-26 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

臨時便です。
初めて映画の話ではなく、映画賞の話をします。
今年のアカデミー作品賞を「ディパーテッド」が、監督賞をマーチン・スコセッシが取ってしまったのです。愕然としています。「ディパーテッド」は香港映画「インファナル・アフェア」のリメイクですよ。それも、明らかにオリジナルより劣るリメイクですよ。アメリカの映画人はオリジナルを見ていないんじゃないかと疑ってしまいます。そして、それを監督したマーチン・スコセッシ。彼が名監督なのは論を待ちません。大好きな監督です。けれど、よりによって「ディパーテッド」で監督賞を取るなんて・・・。「タクシー・ドライバー」でもなく「レイジング・ブル」でもなく、「グッド・フェローズ」でもなく、ああ、「ディパーテッド」のアカデミー賞監督として名が残ってしまうなんて・・・。今まで何度も候補に上りながら取れなかったとはいえ、残念でなりません。この際、次の一本、次の一本を待つことはできなかったのでしょうか。
でも、取れるときに取っておいたほうがいいんじゃない?
俺は、もっとスコセッシにふさわしい舞台を用意してあげたかったの!


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「さくらん」:高輪警察署前バス停付近の会話

2007-02-24 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

この異様な建物は何?
高輪消防署の火の見やぐらだ。昭和8年築っていうから歴史的な建造物だな。
火の見やぐらって、昔はたくさんあったのかしら。
「火事とけんかは江戸の花」っていうくらいだから、とくに江戸時代にはたくさんあったのかもな。
その江戸時代の吉原遊郭を舞台にした映画が「さくらん」。写真家の蜷川実花が監督して、モデルの土屋アンナが主演しているだけあって、なんとも豪華絢爛な映画。
「絢爛」なんて、鉛筆で書けっていわれても書けない文字だけどな。
狭い世界で美しく着飾って過ごす遊郭の女たちを金魚にたとえるなんて素晴らしい想像力。フォトグラファーならではの感覚に感激したわ。
そうか?
なに、しらけてるのよ。画面もすごくおしゃれだったでしょ。
そうか?
やな反応。気に入らなかった?
いやあ、遊郭を金魚鉢の世界にたとえるのはわかるけど、ああしじゅう金魚が出てくるとなあ。あんなに出すなら、もうちょっと金魚の使い方もあったろうに。
たとえば?
激情のあまり、土屋アンナが金魚を食べちゃうとか。
趣味わる!猟奇映画じゃないんだから。
しかし、北野武の「血と骨」だったか、人間の骨を食べてしまう男が登場して、あの鬼気迫る怪演には背筋が凍ったもんだけど、そういう突き抜けた表現がないんだよな。きれいなだけで。
そうかしら。土屋アンナが遊郭で暮らすのに陰々滅々とすることなく、勝気で健気に生きる女の子を好演してたじゃない。
彼女ももっと緩急自在というか、最初から元気なんじゃなくて、陰々滅々としてたのにどんどんたくましくなっていくとか、なにか、経験を重ねる中で成長したとか世界の見方が変わったとかいう部分がわかる映画的表現があってもよかったんじゃないか。「武士の一分」の木村拓哉なんて、盲目になることで顔つきまで変わったじゃないか。
ずいぶん高いレベルを求めるのね。映画第一作目の写真家が監督してるのよ。
そうそう、写真家が演出してるわりに、切り取って静止画として残しておきたいようなゾクゾクする瞬間がなかった。
そうかなあ、もみじが木の床に映るシーンなんてとってもきれいだったけどな。
美しいけど、感情の高まりが乗り移ったような必然を感じさせる要素が見られなかった。ラストシーンなんて、もっとなにか、観客をうならせるような表現があったんじゃないのか。「魂萌え!」みたいに。
ずいぶん手厳しいわね。女性監督が気に入らないの?
いや、「ドリームガールズ」のときも話したけど、ひとことで言うと、俺はきちんとよくできたドラマが好きなんだ。残念ながらこの映画はまだまだドラマとして弱い。ストーリーをなぞっているだけだ。土屋アンナは「下妻物語」とか「どろろ」とかいい存在感を出す女優なんだから、もっときちんとしたドラマの映画で見てみたい。
私はきれいだからよかったわ。目の保養ね。
だったら蜷川実花の写真集で十分だと思うけどなあ。
あなたは男、私は女。女の子を対象の映画だから、あなたには受けなくてもいいいのよ。
そこまで言われちゃあ、俺は高見の見物でもしてるしかないな。
火の見やぐらの上でね。


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「エレクション」:高輪三丁目バス停付近の会話

2007-02-21 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

あそこに見えるのは、衆議院議員宿舎だ。
選挙で選ばれた政治家が暮らしているのね。
ま、選挙で選ばれるのは政治家だけじゃないけどな。
そうなの?
やくざの世界だっていまや同じだ。
うそ!
観たろ、香港映画の「エレクション」。香港やくざの跡目を選挙で決める話。
そういえば、そうね。二人の候補のどちらを選ぶか、よーく考えてみようって話だもんね。
まあ、やくざだけにやり口は乱暴だけどな。
「インファナル・アフェア」みたいな、サスペンスと人間味がからみあった奥の深いドラマを期待したんだけど、ちょっと違って、いわゆるやくざ映画になってたわね。
いやいや、どうしてどうして、対立候補同士の腹のさぐりあいなんて、サスペンスそのものじゃないか。
でも、善悪がからみあうんじゃなくて、しょせん悪者同士の話じゃない。
いやいや、香港の状況を知らないよそ者だから、そんなのんきなことを言ってられるんだ。現地の人間にしてみればこれこそ香港の今を映したリアルな話だぜ。
そうなの?
わかんないけど、そんな切実感が画面からあふれているじゃないか。
そうかしら。暗いシーンが多くてよくわからなかったけど。
陰影の深いシーンて言ってほしいね。「黒社会」っていう原題にふさわしく、暗いシーンが多いのは事実だけど、それが緊迫感をもたらして、香港ノワールの面目躍如だ。
そんなに誉められても、私にはピンと来ないな。
まあ、女にはわからない世界かもな。ほとんど女優も出てこないし。
ハンサムな男も出てこないし。
ははあ、お前は「インファナル・アフェア」のトニー・レオンやアンディ・ラウみたいな美男子が出てくると思ってたんだろ。
トニー・レオン、哀愁が漂っていてよかったじゃない。アンディ・ラウも男の色気プンプンで最高だったじゃない。
それに比べると、「エレクション」の男優たちはいまいちってことか。
たしかに、「エレクション」の主演がこの二人だったら、もっと楽しめたかも。
それは、「ディパーテッド」の主演がこの二人だったらよかったって言ってるようなものだぜ。
どういう意味?
この二人が主演したら「インファナル・アフェア」そのものになっちまうってこと。
いいじゃない、いいじゃない。
でもなあ、ほんとのやくざの世界なんて、そんなハンサムなかなかいないぜ。それは、政治家の世界も一緒だけどな。
やくざか政治家か一見するとよくわからない人って多いもんね、日本でも。
そういう存在感はこの映画の主演のサイモン・ヤム、レオン・カーフェイに出てただろ。
いいえ、存在感より色気よ、男は。
そういうお前は、食い気だろ。
当たり・・・。


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「ドリームガールズ」:新高輪プリンスホテル前バス停付近の会話

2007-02-17 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

新高輪プリンスホテルって、日本アカデミー賞の授賞式があったところだろ?
そう、みごとに「フラガール」が作品賞を獲ったわ。
ところが同じガールでも、本家アメリカのアカデミー賞では「ドリームガールズ」は作品賞にノミネートさえされない。不思議だ。
とてもよくできた映画なのにね。
ノミネートされた「ディパーテッド」なんかと比べてもはるかにいい出来だと思うんだけどなあ。
女性ボーカリストの頂点をめざす三人組の物語。いわゆるバックステージものの正統派ミュージカルよね。
この前見た「ハッピーフィート」みたいにペンギンのアニメが歌い踊るミュージカルも楽しいけれど、やっぱり本格的なミュージカルは見ごたえがあっていい。
それこそ、ホテルでディナーショーを見てるみたいなぜいたくな気分に浸れる二時間よね。
なにしろ、主役が今をときめくビヨンセ・ノウルズだもんな。
肩で風切る世界のセレブなのに、最初は妙にはかなげに出てきたからどうなるのかと思ったら、どんどんケバくなって本領発揮。
ショービズ界にはいるんだよなあ、最初は田舎っぽい純情娘だったのに、芸能界の水に浸かるうちに、どんどん垢抜けてその分鮮度が落ちていく女。
なんか、業界を知ってるみたいな口ぶりじゃない。
ああ、こりゃ無責任な発言だった。でも、鮮度が落ちていく女ならよく知ってる。
・・・悪かったわね。
いや、そういう意味で言った・・・んだけどね。
どうせ私は、ビヨンセⅡ世よ。
体型は、ジェニファー・ハドソンⅡ世じゃないか。
はいはい、歌はうまいのに、小太りなのが災いして、リードボーカルから脇にまわされてしまうほうね。
日本でいえば、昔のキャンディーズの・・・。
待ちなさい。比べちゃ失礼よ。
どっちが?
とにかく、ショービズの世界は実際、あんなような蹴落としたり蹴落とされたりのドラマがうんざりするほど転がっているんだろうな。
洋の東西を問わずな。
ハリウッドの映画人はそういう汚点を露わにされちゃったようで、アカデミー賞からはずしちゃったのかしら。
いや、そこまで度量の小さい人たちとは思わないけど、ああいう話は昔からいくらでもあって新鮮じゃないと感じたのかもしれないな。
でも、昔風の映画が好きなんでしょ、あなたは。
昔風じゃなくて正統派の映画が好きなんだ。わかりやすい対立があってメリハリがあって緊張感が保たれている映画。それはミュージカルでも普通のドラマでも変わらない。
緊張感ていえば、黒人問題をさりげなくドラマに入れているのよね。
その加減もちょうどいい。基本はエンタテインメントだっていうのをわかってる。
最後にカーテンコールがあるなんてまさしく正統派のミュージカルよね。
作品はアカデミー賞に縁がなかったけど、助演男優賞、助演女優賞でノミネートされている。いい結果を期待したいな。
でも、どんな結果が出ても関係ないわよ。賞よりショーを楽しむ映画なんだから。
なるほど。


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