【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「プロメテウス」

2012-08-21 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


「エイリアン」の2番煎じじゃん。リドリー・スコットに怒られるぞ。
っていうか、この映画もリドリー・スコットが監督なんだけど。
あ、そうなの。昔の映画をいまの技術でリメイクしたかったってことかな。
リメイクは言い過ぎよ。話の骨格は「エイリアン」だけど、シャープで壮大な映像はずっと進化しているもの。
それだけに、かつての「エイリアン」にあった、出るぞ、出るぞ的おどろおどろしさは後退して、すべてを白日のもとに晒し出してしまったような身もふたもない残酷さが感じられる。
「ハンニバル」で頭の中を見せてしまった監督だからね。おなかの中を見せるなんて、痛くもかゆくもないんでしょうね。
観てるほうは相当痛いけどな。
3Dだし。
昔の映画はあそこまであからさまな場面はなかったけど、今回は克明に見せる。
「エイリアンって何?」っていうのをまだやってなかったということで、最後はそういう方向へ話を持っていく。
「人類最大の謎」なんて宣伝してるけど、そういう知的ミステリーを理詰めで解読していくような映画じゃない。
残された謎は次回へ続くっていう展開ではあるけどね。
最後のヒロインのナレーションもなにやらエイリアンを思い出す。
それより本家エイリアンシリーズは、宇宙船が地球へ近づくところで終わっていたはず。あのあと、どうなったのか、私はそっちのほうが興味あるんだけど。
そっちは弟のトニー・スコットにでも作ってもらうか。
なに、言ってるの、トニー・スコットは自殺しちゃったわよ。
うそ!
詳しい経緯はわからないけどね。なにか、甘いロマンスにでも破れたのかしら。
ああ、「トゥルー・ロマンス」。

「おおかみこどもの雨と雪」

2012-08-19 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


細田守監督って、いつも映画らしい映画をつくるんで感心する。
映画らしい映画って、いつもアニメだけど。
アニメだけど、脚本やカメラワークや小道具・美術、演出が“映画”になっている。
一般的なアニメのような誇張や飛躍がないってこと?
いや、タイムスリップするとか電脳世界の戦いとか、設定はいつもアニメらしい。
今回はおおかみと人間の間に生まれた子どもたちの物語。これもまたいかにもアニメらしいシチュエーション。映画らしい映画ってどこを指してそう思うの?
スクリーンから立ち昇る匂いみたいなものかな。
意味わかんない。
たとえば姉が白いカーテン越しに自分の秘密を告白する場面、あのカーテンの揺れはもう映画以外の何者でもないわけ。
そう言われてもねえ。
サマーウォーズ」で言えば、お婆ちゃんが死んだあとの家族の姿を横移動で写す場面構成に映画の匂いを感じてしまうわけよ。
それより、幼いころはおおかみぽかった姉が人間になることを選び、幼いころは弱虫だった弟がおおかみになることを選ぶっていう逆転の選択がおもしろかったわ。
言ってしまえば、“混血児”の物語だからな。細田守・奥寺佐渡子のコンビも実に微妙な題材を選んだものだ。
おおかみと人間の混血って考えるとファンタジーになるけど、これが、二つの民族の間に生まれた混血だったりするとまるで様相が違ってくるわね。
この映画、何かの隠喩っていうわけでもないだろうから、それ以上の詮索をすると映画の意図を見誤る。誤解を生むようなことは言わないに限る。
細田守、また次回作が楽しみだわね。
そうそう、それくらいの感想が無難だ。

「桐島、部活やめるってよ」

2012-08-17 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


部活を中心に高校生たちの生態を描いた群像映画。監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八。
高校生の話っていうとすぐいじめの問題とか出てくるのかと思うけど、そういうあからさまな設定じゃないのがよかった。
高校生たちのモヤモヤ感が映画になってる。
その心の空洞を不在の桐島で象徴させる。原作の功だろうけど、うまい構造。
いま売り出し中の若手俳優たちがそれぞれに見せ場をつくりながら少しずつ時空をずらして展開していく、ささやかだけれど彼らにとっては世界より大事な物語。
バスケ部、バドミントン部、吹奏楽部、映画部、そして帰宅部。
けれど、いちばん心に響いたのは、脇役にすぎないはずの野球部のキャプテン。
「三年生になるのにどうして引退しないんだ」と聞かれたときの浮世離れしたひとこと。あれにはグッとくるわよね。
本筋とは何の関係もないのに、というか本筋と関係のない唐突さがよかったのか、あの場面には気持ちが揺さぶられた。
何か青春の本質にぶち当たってしまったような、バカだなあ、でもわかるぜその気持ち、的な感覚ね。
“青春”なんて口にすると限りなく嘘くさいことばになってしまうんだけど、「檸檬のころ」とか「ひゃくはち」とか「夜のピクニック」とか青春映画だからこその脆くもこっ恥ずかしい映画の系譜というのは連綿とあって、この映画もその系譜にきっちりとはまった気がする。
映画の出来がいい悪いを超えて、どうしても甘酸っぱい思いが残ってしまう映画群ね。
無知で惨めで鈍く輝いていた日々を思い出してしまう映画。
いい年をしてね。
いい年だからかもしれないな。

「グスコーブドリの伝記」

2012-08-05 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


原作宮澤賢治、キャラクターますむらひろし、監督杉井ギサブローと聞けば誰だって「銀河鉄道の夜」の夢よ再びと思う。
その期待は脆くも崩れたわね。
物語がよくわからない。
いえ、わかることはわかる。凶作で食べるものもなくなったことが原因で、父が家を出、母が家を出、妹が突然何者かにさらわれる。その描写はあるんだけど、前後がほとんど描かれないから、唐突な感じがして彼らの思いが伝わってこない。
そこで主人公は旅に出るんだけど、何をめざして、何が彼を動かしているのかどうもよくわからない。
最後も唐突。
「雨二モ負ケズ風ニモ負ケズ・・・」って言えばわかってもらえると思ってない?
ちょっと考えが甘いかな。
そもそも、宮沢賢治の話って流れが結構唐突なんだけど、「銀河鉄道の夜」はムリを感じさせなかった。
気持ちの流れを大事にしていたからね。
この映画はどうも気持ちの流れに雑なところがある。
どう描写するかに目がいって、肝腎の物語を疎かにしちゃった。どうしたんでしょうね。
こういう映画を観ると、「銀河鉄道の夜」の成功はキャラクターの特異性だけじゃなかったっていうことがいまさらながらよくわかる。
同じスタッフなのにね

「崖っぷちの男」

2012-08-01 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


あなたみたいなタイトルの映画ね。
そう、どうせ俺は人生崖っぷちさ・・・っていい加減にしなさい。
無実の罪を訴えるために高層ホテルの外縁に立つ男の話。
もちろんそこにはウラがあるんだけどな。
展開がスピーディで停滞するところがない。
ワケあり女の交渉人を呼んで気持ちが通い合いそうになる場面もあるんだけど、そんなところに連綿としないでストーリーは前に進んでいく。
弟とかその恋人とか父親とかファミリーの話でもあるんだけど、そこもまた、日本映画あたりによくありがちな人情話に持ち込んで映画を弛緩させるようなところはない。
彼を取り巻くやじうまのひとりの行動が最後は決め手になるあたり、定石だけどうまくはまっている。
犯罪者がやじうまたちのヒーローになってしまう話ってシドニー・ルメットの「狼たちの午後」みたいな話でもある。
欲を言えば、「狼たちの午後」みたいに時間の経過があって、昼の事件が夕暮れから夜になってみんなの疲労度も増すような展開があればもう少し映画にふくらみが出たかもしれない。
たしかにナイトシーンがあれば映像も演出ももっと豊かになったかもしれないけど、ウラで起きてる事件にそんなに時間をかけるわけにはいかない事情もある。
それはそうだ。
監督はアスガー・レス。聞いたことない名前だけど。
これがデビュー作らしいぜ。
監督としては、全然崖っぷちじゃないわね。
そう、俺と違って・・・っていい加減にしなさい。