【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「歩いても 歩いても」:月島駅前バス停付近の会話

2008-06-28 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

月島にもこんな高いタワーがあるのか。
歩いて登ったら大変でしょうね。
歩いても歩いてもてっぺんにつかない。映画の「歩いても歩いても」みたいに。
って、映画の「歩いても歩いても」ってそういう話じゃないでしょ。
そうだっけ?
死んだ長男の命日に老夫婦の家に長女と次男の家族が集まるっていう話じゃない。
老夫婦を演じているのが原田芳雄に樹木希林。
長女がYOU。次男を阿部寛、その妻を夏川結衣。いい顔ぶれがそろってる。
ごくありふれた家族の一日を追っただけの映画なんだけど、それだけに細部まで実に丁寧に描写している。
お風呂場に手すりがついたことで父親の老いを感じたり、自分のパジャマが用意されていないことで次男の妻は疎外感を感じたり、それぞれがささやかなエピソードなんだけど、それだけに、ああ、同じようなこと、うちにもあるなあと、誰もがつい映画に自分の家族の姿を重ねて観てしまう。
誰もが平凡な家庭人なんだけど、善意ばかりでなく、心の中にそれぞれ葛藤や残酷な部分を抱えていて、ときどき噴出する。その描写がまた、とても自然で誰も責める気になれない。
家族って、こういうものだっていうのを再認識させられる映画だった。
ドキュメンタリーから出発した是枝裕和監督も、「幻の光」とかとても美しいんだけどちょっと技巧に走り過ぎかなと思ったり、「誰も知らない」も完璧な出来なんだけどちょっと余裕がないかなと思ったり、何かこう観客をふと突き放すようなところがあったんだけど、とうとう、こういう観客の懐に入ってくる映画を撮るようになったかと思うと感慨深いものがあるな。
長女や次男の子供たちが手をふれる花のピンクのきれいなこと!なんて豊かな映画なのかと思っちゃう。
家の中に迷い込んできたチョウチョを死んだ長男だといって追いかける母親の哀れ!それまでフィックスで撮っていたカメラがそのときだけ揺れる。
あらゆる場面がみどころと言いたい衝動にかられるわね。
そのすべてが計算の上で自然に見せているっていうところに感心する。
樹木希林が「東京タワー」に続いて味のある母親を好演。
「ブルーライト・ヨコハマ」!林家三平!
阿部寛が珍しく、肩の力を抜いて、父親との距離を縮められない次男を演じてる。
「いつもちょっと間に合わないんだ」!
奥ゆかしい夏川結衣の嫁の気遣いと複雑な気持ち。
YOUが演じる、空気を微妙に読む騒がしい長女。
この映画については、歩いても歩いても喋り尽きないわ。
よし、このタワーを歩いて登りながら続きを話すか。
そんな、途中でバテるに決まってるでしょ。
でも、人生はそういうわけには行かない。
歩いても歩いても、人生は続くんだもんね。



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ふたりが乗ったのは、都バス<門33系統>
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