【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「めぐみ-引き裂かれた家族の30年」:西麻布バス停付近の会話

2006-11-28 | ★渋88系統(渋谷駅~新橋駅)

ここ、権八って、小泉前首相がプッシュ大統領と会食した店よね。
ああ。小泉前首相も拉致問題ではがんばっていたけど、ブッシュ大統領にもがんばってほしいよな。
ブッシュ大統領も「めぐみ」を観てあらためて解決の努力をしてくれないかしら。
でも、「めぐみ」って映画、日本人にはとてもよくわかるけど、事実関係をあまり知らないアメリカ人にはちょっと不親切な映画じゃないか。
どうして?
日本と北朝鮮をめぐる状況とか新潟県と北朝鮮の位置関係とか、大韓航空機事件とか、もう少し説明しないとわからないんじゃないか。
そうかしら。
俺たち日本人は知ってる事実だからあまり混乱しないけど、普通のアメリカ人はまったく予備知識ないわけだから。ナレーションも全然ないし。
でも、これってそういう類の映画じゃないと思うけど。
どういう意味だ?
事実関係をわかってほしい、という映画じゃなくて、引き裂かれた家族の物語なのよ。政治状況がどうのこうのとか、地理的位置関係がどうとかっていう映画じゃなくて、ある不幸なできごとに遭遇してしまった家族の物語なのよ。
それじゃあ、アメリカの観客には拉致の特異さは受け入れられないんじゃないか。
逆よ。細かいことはともかく、突然の不幸に襲われた家族の姿に焦点をあてて彼らをじっくり追ったからこそ、国とか民族を越えて共感が得られるんじゃないかしら。
これは、特異な人々に起きた事件じゃない。自分たちの身にもいつ起こるかわからない事件だと。
そうそう。
「流浪の民」は日本人だけの問題じゃないぞと。
それにしても、めぐみさんが歌う「流浪の民」には、息が止まったわ。
小学六年生があんな歌を歌うかっていう驚きと、ああいう歌を歌った聡明な子が拉致されてしまったという事実。本当に心が痛むな。
そう、その心の痛みを分かち合ってほしいのよ。
そのためにも、こういう映画ができたことは意義があると。
映画にはね、世界を動かす力があるの。そのもっとも端的な事例のひとつだと思うわ、この映画は。
こういう映画にこそアカデミー賞を取ってほしいよな。
うん、アカデミー賞を取れば、注目を浴びてほんとうに世界を動かす力になるかもしれない。
しかし、どうしてこういう映画が日本人の手でできなかったんだろう。
ちょっと離れたところから眺めたほうが全体像がよくわかるってことじゃない?
それに、欧米人にわかってもらうには、欧米人の目で見たほうが通じるかもしれないしな。
ああ、ブッシュ大統領に観てほしいなあ。


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「暗いところで待ち合わせ」:南青山七丁目バス停付近の会話

2006-11-25 | ★渋88系統(渋谷駅~新橋駅)

どうだい、地下道で待ち合わせするっていうのは?
いやよ、暗いところで待ち合わせなんて、何されるか、わからないもん。
やっぱり、そうだよなあ。暗いところに男と二人なんて恐いよなあ。
何、一人で納得してるの?
いや、映画の「暗いところで待ち合わせ」。見知らぬ男が目の不自由な女の子の家に侵入してくる話なんだけど、その割りに女の子に恐怖心が感じられないから不思議だなあと思って。
韓国映画の「うつせみ」だって見知らぬ男が女の部屋に侵入してくる話だけど、女に恐怖心はあまり感じられなかったわよ。
あれは、もういい年をした女だったし・・・。
あ、なによ、その言い方。いい年をした女だって、かっこいい男になら気を許すし、あなたみたいなむさい男には気を許さないのよ。
だけど、「暗いところで待ち合わせ」は、目が不自由なんだぜ。侵入してきた男がかっこいいかむさいかなんてわからないんだ。
つまり、男と女が一つ屋根の下にいるのに、男女関係を匂わすような危険な空気が感じられないところがないのが不満だってことね。
そうそう。別に男が女を襲えっていってるわけじゃなくて、男と女が一緒にいるんだっていう意味でのサスペンスが全然ないんだ。「うつせみ」なんてそういう意味のサスペンスだけであれだけの傑作をつくってしまたんだぜ。
まあ、「うつせみ」は天才キム・ギドクだから比べるのはかわいそうって気がするけど、もうひとつのサスペンスもいまひとつ盛り上がらないのよね。
男は殺人者かもしれない、って問題な。
あの程度の理由で殺人を犯すなんて・・・とも思うし、前段でもっと殺人を犯すだけの強力な動機をつけなきゃね。あるいはもっと凶暴そうなところを見せなきゃ、実は・・・ていう意外性もなくなっちゃうわよね。
なんかドキドキ感が足りないんだよなあ。女の子がある人に襲われる場面があるんだけど、あそこも目が不自由だということを生かして反撃に出るのかと思ったらそういう工夫もないし。
オードリー・ヘプバーンの「暗くなるまで待って」みたいな展開ね。目が不自由なことを逆に利用して悪者をやっつけるっていう。
いったい、何が言いたい映画だったんだろうな。
この二人、実は社会からスポイルされた孤独感を抱えている同士で、痛みを共有するうちにだんだん心が近づいていくって話だと思うんだけど、孤独感を象徴する描写が全然ないから、その気持ちも伝わってこないのよね。
女友だちにああしつこくつきまとわれちゃ、孤独を感じる暇もないよな。
あの女友だちも、あれだけつきまとっていながら、肝心なときは電話を切っちゃうんだから、最低よね。
でも、主役の女の子を務めたモーニング娘の田中れいなは、やっぱりかわいかったな。
モーニング娘?それは同姓同名の他人でしょ。こっちは「がんばっていきましょい」の田中麗奈よ。
あ、そう。おじさんにはよくわからん。井川遥がおばさんに見えてちょっと損してたな。
で、どうするの?やっぱり暗いところで待ち合わせするの?
ああ、そのほうがお前の厚化粧が目立たなくていい。
よく言うわ。


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「麦の穂をゆらす風」:南青山六丁目バス停付近の会話

2006-11-23 | ★渋88系統(渋谷駅~新橋駅)

「麦の穂をゆらす風」ってさあ・・・。
いきなり、なに?なんで、ウィスキー会社の前で「麦の穂をゆらす風」の話題が出るの?
だから、「麦の穂をゆらす風」っていうから、俺の大好きなウィスキーができるまでの映画かなにかだと思って観たら、全然違うんだよな。
アイルランド紛争を描いた戦争映画よ。「麦の穂をゆらす風」っていうのは、アイルランドで昔から歌いつながれる伝統歌。
戦争映画って言っても、「男たちの大和」や「父親たちの星条旗」みたいに戦艦や戦闘機が出てくるような映画じゃないけどな。
1920年頃の話だから、人と人が対面して銃で撃ち合うような戦争なのよね。
しかも内戦だから、知り合い同士が銃を向け合うような状況が出てくる。
ある意味、今の戦争より残酷よね。
いやいや、アイルランド紛争って、まだ解決していない。今も続いている戦争なんだ。
そうなの?
ホテル・ルワンダ」を観てアフリカのことを初めて知って、「麦の穂をゆらす風」を観てアイルランドのことを初めて知って。映画を観てるとほんとに世界の広さを実感するよな。
でも、そこに暮らす人々は、あたりまえだけど、私たちと変わらない血が流れているのよね。
そう、戦争という状況に置かれた人々の息遣いというか、心情というか、そういうものが切々と伝わってきて、胸がつまる。
最初は戦争に背を向けてた主人公が結局戦争の中心人物になっていって、兄弟とも対決しなくちゃいけなくなっていく、って話、どこかで観たような気もするわね。
「ゴッドファーザー」だろ。あれは、マフィア同士の抗争だったけど、抗争の外にいた若者が抗争に参加せざるを得なくなり、しかも兄弟と争わなくなっていく、って構図はたしかに「麦の穂をゆらす風」に似ているな。
大義名分があろうとなかろうと、人と人が殺しあうなんて、マフィアの抗争と変わらないってことかしら。
「麦の穂をゆらす風」の主人公は、国を良くするためにはどうすればいいか、ほんとに真剣に議論しているのに、結局は武器に頼らざるを得なくなるんだから、こっちのほうが深刻かもしれないけどな。
ほんと。戦争映画でこんなにちゃんと議論してる映画って少ないんじゃないの?
議論の内容も大事だけれど、あの場面を見ていると、人の体温が感じられるんだよ。
戦争ってひとことで言うと、人の体温を奪うことだって、よくわかるわね。
国と国の争いなんだけど、小さな村のできごとにしぼって丁寧に描いたことがいい映画になった勝因だな。
「勝因」だなんて言わないでよ。勝ち負けにこだわるから悲劇はなくならないんだから。
ああ、ほんとうだ。勝ち負けなんかない世界で、みんなが楽しく酒を酌み交わせる日がくることを心から祈るよ。
シラフだとまともなこと、言うのね、あなたも。


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「プラダを着た悪魔」:南青山五丁目バス停付近の会話

2006-11-19 | ★渋88系統(渋谷駅~新橋駅)

表参道にあるプラダのお店って、さすが外観も個性的ね。
この中に悪魔が住んでいるんだな。
いや、「プラダを着た悪魔」って、そういう意味じゃなくてファッション誌のやり手編集長の話なんだけど。
わかってる、わかってる。メリル・ストリープという悪魔編集長にアン・ハサウェイという助手がいじめられる話なんだよな。
ファッション業界の話だけあって、華やかなファッションがふんだんに楽しめていい目の保養になったわ。
ああ、ファッションはたしかに華やかだった。アン・ハサウェイが最初はダサい服を着ているだけで非難されていたのに、着せ替え人形のようにいろんな衣装を身にまとうことで周囲からも認められていくっていう話だからな。つまり、人は見た目が九割、中身より見た目が大事だ、っていうブランド賞賛映画だ。
いや、彼女の入った世界がたまたまファッション業界だからそうだったんであって、バスガイド業界だったらバスガイドのユニフォームに身を包んだだろうし、自動車整備士業界だったら整備士の服装してただろうし、つまりわざとダサい服着て「自分は自分、チャラチャラした娘とは違うのよ」なんて甘いこと言ってないで、業界の最低のルールには従えって話なのよ。
自分を着飾るのはファション業界の最低のルールってことか。
あなた、自分の頭がボサボサの理容師を信用できる?汚いサンダル履きの靴屋を信用できる?そういう話なのよ。
つまり、ビジネスウーマンとしての心構えの問題だと。
そうそう。ビジネスで成功したいなら、自分の気に入らないこともしなきゃいけないし、上司の理不尽な要求にもこたえなきゃいけないし、先輩を蹴落とすこともしなくちゃいけないのは、当たり前なのよ。
おいおい、なんだか、お前がメリル・ストリープに見えてきたぞ。そこまでして成り上がりたくない人は、最後にアン・ハサウェイが選んだみたいな選択をするってわけだ。
でも、最後に彼女の取った選択だって、大きな視点でいえばビジネスの世界に残るってことだからね。また同じことを繰り返すだけよ。
あ、アン・ハサウェイを批判してる?
別に批判はしてないけど、社会で生きるってことはきれいごとじゃすまないってことは肝に銘じてほしいわね。
いろんなことを経験して、じゅうぶん肝に銘じたと思うよ、彼女だって。
あら、あなたは、なんかやけにアン・ハサウェイの肩を持つわね。
だって、かわいいんだもん。
これだから男はいやね。結局、見た目が九割だと思っているのは男のほうじゃない。だいたい、メリル・ストリープなんて女だから悪魔なんて言われるかもしれないけど、あれが男だったらどう?ちょっと辛らつかもしれないけど、デキるやつだからしょうがない、程度じゃないの?
なんか、いやに真面目な目つきになってるな。
単なるコメディかと思ったら、私みたいなキャリア・ウーマンには結構身につまされる映画だったってことよ。
誰がキャリア・ウーマン?
言い直すわ。キャリア・ウーマンになりたい女には結構身につまされる映画だったってことよ。
そういう意味では、案外隅に置けない映画だったかもな。
男にとっても結構身につまされる映画だったんじゃないの?
どうして?
アン・ハサウェイみたいなかわいい娘と仲良くなるには、発売前のハリー・ポッターを手に入れなきゃいけないんだから。
しかも、パリまで追いかけなきゃいけない。残念だけど俺にはムリだな。
私で我慢する?
お前もプラダじゃなくて、ユニクロで我慢する?



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「ウィンターソング」:青山学院前バス停付近の会話

2006-11-12 | ★渋88系統(渋谷駅~新橋駅)

この青山劇場は、本田美奈子さんが2000年10月にデビュー15周年記念リサイタル「歌革命」を開いたところなのよね。
その本田美奈子と金城武が共演したのが、ピーター・チャン監督の「ウィンターソング」ってわけだ。
ちょっ、ちょっと待って。「ウィンターソング」に本田美奈子なんて出演してないわよ。
じゃあ、あの金城武の相手役の女優は誰だ?
ジョウ・シュンていう中国の女優よ。
そうか。本田美奈子にしてはなんか感じが違うなとは思ってたんだ。流暢に中国語喋るし。
そう言われれば、まあ、どちらも小柄でキュートで、似ていないこともないけど。アングルによってはそっくりに見えるシーンもたしかにあったし。
だいたい、本田美奈子ってステージばかりが有名だけど、スクリーンに出てもきっといい女優になったと思うんだよな。なのに、あんなことになっちゃって、ほんとに残念だよ。日本で彼女を起用してこういう恋愛映画をつくろうってやつは、いなかったのかね。
ミュージカルシーンもたっぷりあるしね。
貧しい頃につきあってたカップルが別れて十年後に有名な俳優同士になってミュージカル映画の撮影で再会するというメロドラマなんだけど、ピーター・チャン監督って、こういう映画をつくらせるとほんとにうまいな。
情感の出し方が半端じゃないのよね。歌をつかって情感を盛り上げていくっていうのは、ずるいといえばずるいやりかたなんだけど。
以前の「ラヴソング」なんてテレサ・テンの歌が全篇に流れるんだけど、そのタイミングがあまりにうまくて、ほんとに感心しちゃったよな。
今回も、百恵ちゃんの「ロックンロールウィドウ」が中国語で出てきてびっくりしたわ。
恋愛映画っていっても日本映画みたいな泣かせの映画じゃないのがまた素晴らしい。
ほろ苦い、おとなの恋よね。
というより、「ラヴソング」のときにも感じたんだけど、時間は流れていくもの、人間は変わっていくものっていう世界感というか、諦念というか、そういうものがこの監督の映画の底には流れているから、なんだかやるせないんだよな。
金城武も日本のドラマなんかよりずっと好演してるわね。
本田美奈子と勘違いして申し訳なかったけど、相手役のジョウ・シュンもいい役者だよ。これからひいきにしよう。
いっそ、この二人で青山劇場でミュージカル化したらどうかしら。
それはいい。でも、主題歌は俺に決めさせてくれないかな。
何にするの?
もちろん、本田美奈子の「アメージング・グレース」だ。


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