【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「人のセックスを笑うな」:大塚三丁目バス停付近の会話

2008-02-16 | ★都02系統(大塚駅~錦糸町駅)

東邦音楽大学総合芸術研究所かあ。こういうところで学び、恋をする芸術家の卵たちもたくさんいるんだろうな。
「ハチミツとクローバー」みたいに?
いやいや、「人のセックスを笑うな」みたいにだ。
どちらも芸術系大学のキャンパスを舞台にして、誰もが誰かに片想いしているというストーリー。似たようなものだと思うけど。
いやいや、タイトルの違いがそのまま内容の違いになっている。
どういう意味?
「ハチミツとクローバー」という甘ったるいタイトルは、頭の中だけで恋愛に憧れている学生気分の恋をイメージさせるが、「人のセックスを笑うな」という即物的なタイトルは、恋愛の身も蓋もなさが出ていて、恋愛というのは憧れだけでなく生身の人間がするものだというあたりまえの事実をイメージさせる。
たしかに、この映画、タイトルに反して「ラスト、コーション」みたいな濃厚なベッド・シーンはいっさいないものの、一方でなにげなくじゃれあう生身の男女のようすを延々と見せている。
中心にあるのは、39歳の女性講師と19歳の男子学生のエピソード。観終わったあと、二人がじゃれあっている印象ばかりが残る。
たとえば、二人で空気ベッドをふくらませるだけのシーンをこれでもかというくらいしつこく映しているんだけど、おもしろくもなんともないシチュエーションのはずなのに、見飽きることがない。
恋に落ちる過程の生身の感情を、そのまますくいとっているからじゃないのか。
39歳の女と19歳の男というと、なにかドロドロした物語を連想するけど、女性講師役がいくつになっても童顔の永作博美だから、あまりいやらしくない。
というか、何を考えているのかわからない、つかみどころのない女性になってる。
「彼に触りたいんだもん」なんてしらっと言える。
この映画のテーマを象徴するセリフかもしれないな。恋愛は生身の人間がするものだという。
そうかと思うとひょいっとインドへ行ってしまったりするんだけど、いまどきならこんな女性いるかもしれないって思わせる。
それって、お前みたいな女だよな。
あら、私は行ってもせいぜい箱根温泉よ。お金ないし。
対する男子学生は、松山ケンイチ。
「甘いもの大好きです」なんて、さすがにLを演じただけのこと、あるわ。
こっちは、俺みたいな男だったな。
猫背なところだけね。
その松山ケンイチに片想いしているのが、「ハチクロ」ではぐみの役をやっていた蒼井優。
片想いされる役からこんどは片想いする役に回って、自分の思いが松山ケンイチに届かず、ベッドの上でトランポリンみたいに飛び跳ねるシーンがまた切ない、切ない。
ここもまた、感情が生身の動きに現れるという印象的なシーンだ。
そんな、男たち女たちの右往左往する空間が、北関東の寂しい田園地帯っていうのも、雰囲気が出ていていいわね。
北関東の冬のキンとした透明な空気感がこの手の映画にはよく似合う。
去年の「包帯クラブ」もたしか舞台は北関東。都会でもないし、自然あふれる地方の町でもないという中途半端さが、宙ぶらりんな心情にはぴったりなのかもね。
それでいて、出演者の選び方とか撮影とか音楽とか、結構おしゃれなんだよな。内容は北関東なんだけど、映画のセンスは代官山、みたいなミス・マッチさがまた魅力になっている。
「笑うな」って言われなくても、笑うというより感心する出来の映画よね。
温水洋一も出てたし。
ああ、彼のほうがあなたに似ていたわ。
コラッ、人の容姿を笑うな。


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