Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

腎保護と肺保護

2024年04月03日 | EBM関連
先日、自治のTEAMSで、若者が「2010年の文献なので古い」という発言をしているのを読んで、目がテンになった。この件は「2010年を古いと思う時点で、医学的根拠とは何か、についての理解に問題があることを示唆します」と喝を入れて終わったのだけど、”古い”けど重要な研究で分かりやすい例は何だろう、と考えていて、この研究を思い出した。

20世紀末、腎臓が悪い人に少量のドーパミンを投与することは普通に行われていた。普通って、それはそれは普通で、もう誰でもやっているレベルで、”腎保護”という言葉をみんなが使っていた。でもこのRCTで世界がひっくり返った。300程度のサンプル数だけど、一つのRCTでここまで診療にインパクトを与えた研究は数えるほどしかないのではないか、というくらいの出来事だった。

今は誰も”腎保護”なんて言わない(は言い過ぎか、でも保護する方法はないけどね)。その代わり、”肺保護”という言葉がすごく普通に使われている。ではその根拠は何かというと、low tidal volume以外は比較的Nの小さい生理学的研究と観察研究が主で、証明されてもいなければ確立されたものでもない。でも、カンファでの若者の発言を聴いていると、「これが患者の命を左右するんだ!」と信じているように思えてしまい、いつもドキドキしている。今から20年くらいしたら、「いやー、昔は食道にバルーン入れたり胸に帯巻いたり人工呼吸器で図を描いたりしてたんだよー、無効だと分かって一気に廃れたんだけどねー」なんて言っているかもしれないのに。

根拠が乏しいからやるなとは言わない。手元にある情報を使って、できる限り患者さんのためにできることをしようとしているのだから構わない。でも、今やっていることが廃れる確率は決して低くないことは理解していないと、利益と有害性の天秤が正しくかけられないし、後でガックリしちゃうよ。

そうそう、ガックリと言えば。
いつだったか正確には覚えていないけど、Dopamine trialが発表されて7、8年くらい経った頃だろうか、麻酔科医の生涯教育セミナー的なところで年上の麻酔科医の方々にAKIの話をしたことがあった。その時の質問で一番盛り上がったのがドーパミン。Lancet知らんのかい!と思ったが、「もう昔の薬」というのは彼らには大きな驚きだったらしい。

歴史は繰り返す。
お気をつけください。
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