Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

RECOVERY trial②

2020年07月31日 | COVID-19
機会があったので、改めて考えてみた。今度はざっとじゃなくて、supplementも見た。
そしたら、気になる点が増えた。

以前思っていた、
・他のウイルス性肺炎では有効性が否定されている
・Open trialである
・割付が1:2と変則的である
ことに加え、
・途中で研究デザインがチョコチョコ変更されている
・長期予後はまだ報告されていない
が気になった。

そして一番気になったのは、サブグループ解析の結果がきれいではないこと。
酸素不要→酸素必要→人工呼吸必要の順で治療効果が明確になっていくので、なんか有効っぽい印象を受けたのだけど。
それ以外の結果はちょっと?な感じだ。
・年齢:70歳未満、70-80歳、80歳以上で分けているが、有効なのは70歳のみ。MV患者はほとんどが70歳未満なので、これだと若いから有効なのか重症だから有効なのか分からない。
・発症から投与までが7日以降でないと有効性がない。7日未満だとRRはちょうど1。
・Baseline riskと有効性に関係がない。

「ステロイドは全体として有効で、その有効性は重症度が高まるほど大きくなる。」
という印象は、本文中に示されたサブグループ解析で作られたもので、どうもそれは違うんじゃないか?

もしこのサブ解析の結果をもとに、酸素投与が必要になったらステロイドを投与しよう、ということをするなら、70歳以上の人には投与できなくなるし、発症7日経つまで待たないといけないのでは?

WHO含め、ステロイドは有効だと考えようというのが世界の現在の流れなので、現状ではICU患者に投与しないという選択肢は選びにくいけど。
もし「最終的にステロイドがCOVIDに有効かどうか」という賭けをどこかのブックメーカーがやったら、有効じゃない方に賭けちゃうな、きっと。
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普段の血圧が低い人がショックになったら、

2020年07月29日 | 循環
Gershengorn HB, Stelfox HT, Niven DJ, Wunsch H.
Association of Premorbid Blood Pressure with Vasopressor Infusion Duration in Patients with Shock.
Am J Respir Crit Care Med. 2020;202(1):91-99.


普段の血圧が低い人は、昇圧剤の投与期間が長い。

お、面白い。
そーなんだよねー。
いつまで経ってもノルアドがオフできないのでMAPのターゲットを下げちゃおう、みたいな。

問題は予後に与える影響。
血圧を低いまま放置すると体に悪いかもしれないし、不要な昇圧剤を使っていると体に悪いかもしれないし。
さて、どっち?
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経管栄養の持続投与と間欠投与

2020年07月28日 | 消化器・血液
McNelly AS, Bear DE, Connolly BA, et al.
Effect of Intermittent or Continuous Feed on Muscle Wasting in Critical Illness: A Phase 2 Clinical Trial.
Chest. 2020;158(1):183-194.


ICUにおける経管栄養の投与方法についてのRCTはほとんどない気がするので、それだけで興味深い。
間欠投与による周期性によってアミノ酸の利用が高まるのではないかという仮説も面白い。

持続インスリンが使いやすいのと、インアウトバランスが分かりやすい。
それくらいだろうか、持続のメリットで言い切れそうなのは。
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東京都の発症年齢の分布:30週

2020年07月27日 | COVID-19
今回は年齢の移動平均も追加してみた。



旅行は年齢に関係なく、みんな行きそうな気がする。
その結果は来週か。
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COVIDとH1N1によるARDSの比較

2020年07月26日 | COVID-19
Tang X, Du RH, Wang R, et al.
Comparison of Hospitalized Patients With ARDS Caused by COVID-19 and H1N1.
Chest. 2020;158(1):195-205.


だんだん増えてきたとはいえ、まだまだ少ないCOVIDの他疾患との比較。
H1N1に比べ、
・高齢で男性が多い
・痰が少なく疲労感と消化器症状が多い
・SOFAが低い
・P/F比が高い
・死亡率は同程度
・SOFAで補正すると死亡率は2倍

低酸素も臓器障害も少ないけど死亡率は高い。
医療体制の問題か、それとも本当に死にやすいのか。血栓が関与するのか。抗凝固は有効か。
まだまだわからないことは多い。今後に期待。
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ICU退室後の有害事象

2020年07月25日 | ICU・システム
Sauro KM, Soo A, de Grood C, et al.
Adverse Events After Transition From ICU to Hospital Ward: A Multicenter Cohort Study.
Crit Care Med. 2020;48(7):946-953.


カナダの10施設、451例。
サプルメントにある結果が面白かった。病棟退室した患者についてのICU医師の予測精度。
・有害事象の発生:感度0.70、特異度0.43
・ICU再入室:感度0.67、特異度0.58
・病院死亡:感度0.28、特異度0.90

低っ!

退室判断は難しい、再入室は予後が悪い、という研究はずっと昔からあるが。
こうしたら良くなる、という研究はほとんど読んだことがない。
僕が集中治療を始めたほぼ四半世紀前と比べて、ほとんど進歩していないことの一つ。
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脳出血患者に内服の降圧剤を早期に始めると、

2020年07月24日 | 神経
ICU滞在日数が短くなりコストが削減される。

Zhu Z, Bower M, Stern-Nezer S, et al.
Early Initiation of Oral Antihypertensives Reduces Intensive Care Unit Stay and Hospital Cost for Patients with Hypertensive Intracerebral Hemorrhage.
Neurocrit Care. 2020;32(3):707-714.


1施設の後ろ向き研究、症例数は90と小さいけれど。
そうだよな、とは思う。

どうも、一部の人たちは静注の方が良いと思っているようで、例えばカンファレンスで内服に変えてもいいかという話をしても、「いや、〇〇なのでしばらく静注で」と答える人が一定数いる。
まあ、根拠ないわな。気持ちだけ。
降圧剤に限らず、害がなくて安いんだから、どんどんやったらいいのに。
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重症患者に対するリハビリの効果

2020年07月23日 | 神経
Effects of Rehabilitation Interventions on Clinical Outcomes in Critically Ill Patients: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials
Waldauf P, Jiroutkov, K, Krajčová A, et al.
Critical Care Medicine: July 2020 - Volume 48 - Issue 7 - p 1055-1065


43のRCTのメタ解析。
・MV期間とICU期間を短縮するのはプロトコル化されたリハビリのみ
・ICU滞在期間が長い患者、重症度の低い患者でより有効
・早期開始に効果はない
・死亡率には影響しない

妥当な結論だと思う。
リハビリが重要なことは議論を待たない。病気で体が弱った人が元気に家に帰るのには当然必要だ。
ただ、これも機械の話と同じで、あるレベルを超えて期待しちゃう医療者の心には注意。
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STARRT-AKI trial

2020年07月22日 | 腎臓
二日連続してNEJMだけど、昔の僕の専門だったりするし、コメントくらいはしようかと。

Timing of Initiation of Renal-Replacement Therapy in Acute Kidney Injury
The STARRT-AKI Investigators for the Canadian Critical Care Trials Group, the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group, the United Kingdom Critical Care Research Group, the Canadian Nephrology Trials Network, and the Irish Critical Care Trials Group
N Engl J Med 2020; 383:240-251


時代の流れというか、歴史を感じる。
1990年代から、RRTが単なる腎機能の代わりだけでなく、人の命を救うのではないかという考えが世界中で流行した。
具体的な話題は3つあって、

・間欠と持続では、体に優しい持続の方がいい
・ドーズ(透析量、置換量)を増やすと、毒がよりたくさん除去されるので予後が改善する
・RRTを早期に施行した方が、患者さんの具合が悪くなる前に対応できるので予後が改善する

どの効果も、たくさんの観察研究といくつかの小さいRCTによって示されていた。
しかしどれもNEJMレベルのRCTによって否定された。
このSTARRT-AKIは、言ってみたらこの30年の流行の締めくくり。

RRTは患者さんが良くなるまでサポートする機械であって、予後を改善する道具ではない。
それは他の機械も同じ。人工呼吸器も、IABPも、ECMOも、すべてサポートする機械。
でもどうしても、人はそれ以上を期待してしまう。
目の前に死にそうな患者さんがいるんだから、気持ちは分かる。
その気持ちをグッとこらえて、冷静でいること。
それが正しい集中治療、だと思う。
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RECOVERY trial

2020年07月21日 | COVID-19
結果がマスコミに発表されたのが6月16日、それからちょうど1ヶ月でNEJMに掲載。

Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 — Preliminary Report
The RECOVERY Collaborative Group
July 17, 2020 DOI: 10.1056/NEJMoa2021436


どうしても直感的に感染症にステロイドを使うというのは受け入れられない。
ステロイドが使用される感染症はいくつかあるけれど、その多くはcontroversialな結果か、根拠が弱い。
でも、この文献をざっと読んだ限りでは、open-labelであること以外は問題点が指摘できなかった。

Clinical trials.govでCOVID19とsteroidで検索すると、介入研究だけでも29見つかった(そのうちのどれだけが結果発表されるところまで行くかはか分からないけれど)。
最終的にどんな結論になるのか、楽しみにすることにする。
さて、直感ははずれるのだろうか。
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