Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

COVID-19による呼吸不全に対するAPRV

2022年04月30日 | COVID-19
Ibarra-Estrada MÁ, García-Salas Y, Mireles-Cabodevila E, et al.
Use of Airway Pressure Release Ventilation in Patients With Acute Respiratory Failure Due to COVID-19: Results of a Single-Center Randomized Controlled Trial.
Crit Care Med. 2022 Apr 1;50(4):586-594. PMID: 34593706.


メキシコの1施設RCT、N=90。
APRV群の方が酸素化が良く、コンプライアンスが良く、気道内圧が高く、TVが大きく、PCO2が高かった。そして、有意ではないが、ventilator-free daysも死亡率も、APRV群の方が悪かった、と。

これを見て、「今時APRVなんてやってるの?」とか思った方へ。
ちょっと考えてみましょう。

H1N1インフルエンザが流行した時、オーストラリアからECMOがたくさん必要になったという報告があった。そのことについて、メーリングリストか何かで、「ちゃんと呼吸器を使っていないからじゃないの、APRVとか?」という発言があった。
ある時、別の病院の呼吸器内科医から、自分が担当している比較的若い重症肺炎の患者さんについての電話相談を受けたことがあった。一般病棟で、APRVと筋弛緩(!)で管理している、という内容だった。

どちらも、たかだが十数年前の話。その頃はAPRVが流行していて、学術集会に外国からAPRVで有名な人が招かれたり、セミナーとかもたくさん開かれていた。

そう、そういうことです。
流行の中にいると、それが本当に正しいことなのか、判断するのがとても難しくなる。
バブルと同じ。僕は学生だったけど、これからも土地ってずっと高くなり続けるんだろーなーと普通に思っていた。

今、集中治療で流行していることって何でしょう?
早期〇〇とか、E◯C◯とか、◯保護とか、ベッドサイド◯◯ーとか、◯◯アクトとか、いろいろあるよね。
もしその流行の中に自分もいるなと思うのなら、少し離れて見てみては?
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英国ICUにおける生命維持療法中止の決定と患者の死亡率の関連

2022年04月29日 | 終末期医療
Maharaj R, Harrison DA, Rowan K.
The Association Between the Decision to Withdraw Life-Sustaining Therapy and Patient Mortality in U.K. ICUs.
Crit Care Med. 2022 Apr 1;50(4):576-585. PMID: 34402458.


イギリスのICUデータベースである ICNARCを使った研究、247施設、約80万例。
ちょっと難しい統計を使っているが、結論は、治療制限をするかしないか微妙な患者さんに治療制限を設定すると、180日死亡率は25.6%高くなる、と。

理由は簡単で、治療制限は生存の見込みがほぼないと医療者が思った患者さんに対して設定されるけど、その予測精度は100%ではないので、治療継続したら生存したかもしれない患者さんが死亡するから。この研究だけでなく過去にも複数の研究で示されているし、この現象は事実でしょう。

でも、もう少し話は複雑なのではないかと思う。
あるICUにおける治療制限の設定頻度が低いと、死ななくてもいい患者さんが生存する代わりに、
・ICU在室日数が延びる
・コストが高くなる
・医療者のストレスが増える
というデメリットがある。

・在室日数が延びると、患者の受け入れができなくなるので病棟の重症患者が増え、ICUに来れなかった患者さんの予後が悪くなり、その患者さんの対応のために他の患者さんの診療の質が低下し、全体の予後が悪化する可能性がある。
・日本ではコストが増えても診療には影響をほとんど与えないけど、例えばオーストラリアのように1つのICUで年間に使える金額が決まっているようなところでは他の患者に悪影響を与える可能性がある。
・医療者のストレスはバーンアウトにつながり、医療の質の低下に関連する。

つまり、治療制限の対象となる患者さんの死亡率が低下する代わりに、その病院全体の医療の質は低下するかもしれない。それがどの程度かは分からないけど、少なくとも、今回の研究の”25%の死亡率低下”という効果は減弱することは、多分、間違いない。

予後予測の精度が今よりも驚くほど高くならない限り、重症患者の治療を継続するべきか治療制限を設定するべきかという、ジレンマというかコンフリクトは続くのでしょう。
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ウクライナの病院と集中治療室の勇気

2022年04月28日 | その他
Loskutov OA, Pylypenko MM.
The courage of Ukrainian hospitals and Intensive Care Units in the first months of the Russia-Ukraine war.
Intensive Care Med. 2022 Apr 13.Epub ahead of print. PMID: 35416507.


災害やパンデミックも大変だけど、戦争はその上を行く。
2ページちょっとの文章で、淡々と書いてあるのだけど、グッと来る。

患者さんが廊下にいるのって、ベッドが溢れたからだけじゃないって、知らんかったよ。

最後の文章のDeepL和訳+修正。
多くの医療従事者がその思いを報告している:「重傷の患者を引き渡す兵士の目には、戦う兄弟が救出され、生きることを信じる姿が映ります。そして、そのような信念があるからこそ、ICUの医療者は昼夜を問わず、この国の素晴らしい人的資源を守るために全力を尽くしているのです。」
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慈恵ICU勉強会のウェブサイトでスライドが見られなくなった。

2022年04月23日 | 勝手に紹介
慈恵ICU勉強会
問い合わせをいただいて、気がついた。確かに、表紙しか見られなくなっている。
先月かららしい。
スタッフ会議で決まったらしい。
著作権の問題があるから、というのが理由らしい。
それ自体は正しい。
僕も、このブログで文献紹介はしても、文献のPDFをコピペして貼らないようにしている。理由は同じ。

でも、失うものも大きそうだ。
・勉強会に参加していない多くの人にも情報提供ができる。
・集中治療の疑問についてググると、結構な頻度でこの勉強会のスライドがヒットするので、慈恵の宣伝になる。
・発表者のモチベーションにつながる。
・その結果、より質の良いものになり、好循環につながる。

極東のウェブサイトで文献の図表がコピペされても雑誌の売上にはほぼ影響しないだろうし、雑誌社から文句を言われる可能性はほぼゼロだろうから、果たして、メリットとデメリットの天秤が成立しているのか、疑問だ。

慈恵に集中治療部ができたのが2006年の4月。
僕が勤務し始めたのが同じ年の11月。
毎週火曜日の朝に勉強会が始まったのが12月。最初は、僕が他のスタッフに講義をするという形で始まった。
数ヶ月後から徐々に他の人にもやってもらうようになり、
ナースや薬剤師や臨床工学技師も参加するようになり、発表もしてもらうようになり、
オンラインで分院と繋いでさらに参加者が増え、
ウェブサイトにアップして、参加者以外の人にも見てもらえるようになった。

セミリタイアしてもうすぐ2年、慈恵を辞めてちょうど1年。
ま、いろいろ変わるわな。
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集中治療系雑誌で撤回された文献のシステマティックレビュー

2022年04月22日 | EBM関連
ちょっと変わってる。

Audisio K, Soletti GJ, Cancelli G, et al.
Systematic review of retracted articles in critical care medicine.
Br J Anaesth. 2022 Apr;128(4):e292-e294. PMID: 35181059.


麻酔科系雑誌は文献の撤回が多くて有名。有名な人が数人いるからね(名前を知りたい人は読んでください。日本人もいるよ)。で、集中治療はどうかな?という疑問を持って、調べてみたのがこの”研究”。

なんと、The Retraction Watch Databaseというウェブサイトがあって、撤回された文献を調べることができるのだそうだ。で、1990〜2020年で42の文献が撤回されていて、そのうち59%は麻酔科の有名人によるものだった、と。

集中治療医には正直者が多いらしい。よかった、よかった。
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日本の病院のICUベッド数(R2年度)

2022年04月21日 | ICU・システム
以前書いた記事
気がついたら、厚労省のデータが更新されR2年度のデータが出ていたので、再計算。

なお、「ICU」というものを、
・特定集中治療室管理料 1 - 4
・救命救急入院料 2 or 4
・小児特定集中治療室管理料
のどれかを算定している病床と定義した。
()の中はH30年の数字。

・ICUは601(←625)の病院に760(←794)病棟、7015(←7204)病床あった。
・ICUのある病院の全病床数のうちのICUベッド数の割合の平均:2.36%(←2,35)。
・人口10万当たりのICUベッド数:5.71床(←5.70)

次に、ICUのベッド数が多い病院トップ10。


病床数が200以上ある病院のうち、bed_ratioが高い病院トップ10。


循環器や小児など専門病院が含まれるので、対象を500床以上の病院に限定(総合病院であろうと仮定)。


以上。
H30年からR2年で、ICUベッド数は人口減少と同じ程度に減少。
いくつかの大学病院でICUが増設され、順位に変動あり。
2年で一極集中が少し進んだということか。
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Reviewer of the year 2021

2022年04月14日 | 勝手に紹介
いえーい、2ばーん。
Journal of Intensive Care
単なる自慢でした。
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自然言語処理とCAM-ICUを比較した研究は、CAM-ICUの未来を予言していると思います。

2022年04月06日 | AI・機械学習
Young M, Holmes N, Kishore K, et al.
Natural language processing diagnosed behavioral disturbance vs confusion assessment method for the intensive care unit: prevalence, patient characteristics, overlap, and association with treatment and outcome.
Intensive Care Med. 2022 Mar 23. Epub ahead of print. PMID: 35322288.


ICUスタッフが電子カルテに記載した文章を機械学習による自然言語処理(NLP)で解析し、行動異常と思われる表現を抽出。その結果と、8時間毎に評価されたCAM-ICUを比較、N=2313。その結果、
・NLPでは54%、CAMでは25%の患者が陽性。
・CAM陽性例のうち93%がNLPでも陽性。
・NLPが陽性かどうかは抗精神病薬の使用と関連していた。
・NLP陽性患者はICUおよび病院滞在日数が長く、病院死亡率が高かった。

NLPとは言っても、医療従事者によって選択された行動異常を示唆する単語や表現を探しているだけなので、つまりはカルテにそういう記載があった患者さんはこんな結果だった、ということ。CAM-ICUとは関係なしに、薬剤は投与されるし、ICUに長くいるし、死亡率も高い。

だよね。
「〇〇の言動あるがCAM-ICUは陰性」という記載は珍しくない。それを見るたびに、「CAM-ICUって何?」と思っていた。
譫妄は介入によって予後は改善しないので、CAMが陽性だからといってやることが変わるわけじゃない。
研究するには便利だけど、それ以上の意味って、あるのだろうか?
しかも、NLPが簡単にできるようになったら、その意味すらなくなる。

譫妄が流行した時にCAM-ICUも流行したけど、きっとだんだん廃れていくだろうと思う。
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集中治療室におけるドーパミンの使用とその影響:JIPADを利用したコホート研究

2022年04月03日 | JIPAD
Open Access
Published: 02 April 2022
Dopamine use and its consequences in the intensive care unit: a cohort study utilizing the Japanese Intensive care PAtient Database
Reina Suzuki, Shigehiko Uchino, Yusuke Sasabuchi, Alan Kawarai Lefor & Masamitsu Sanui
Critical Care volume 26, Article number: 90 (2022)


自治に来て、最初の文献。
そしてJIPADデータを利用した研究としてはimpact factorが一番高い。

単純に、嬉しいです。
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