酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

リアルで切ない警察小説~横山秀夫が描く男の世界

2007-10-11 00:49:12 | 映画、ドラマ
 一昨日(9日)、ゲバラ没後40周年の追悼セレモニーが世界各地で開催された。ゲバラは<死した革命家>ではなく、今や<反グローバリズムの象徴>である。キューバ革命成就後に来日し、原爆資料館を訪ねたゲバラは、「これほど酷い仕打ちをしたアメリカに、どうして尻尾を振るんだ」と日本人に問いかけた。胸に刺さるエピソードである。

 さて、本題。今回はゲバラの対極? に位置する警察を扱ったドラマについて記すことにする。

 俺は決して刑事ドラマのファンではない。全作見ているのは「刑事コロンボ」、「非情のライセンス」、「相棒」ぐらいだが、TBS系のスカパー&BSで新アイテムを発見した。横山秀夫の小説のドラマ化で、いずれも2時間枠の再放送だった。

 同時並行で原作を読んだ。いずれも数十㌻の短編で、警察機構の実態や病巣、犯罪者の心理が鋭く描かれ、ラストまで緊張感が途切れない。ネガ(原作)を忠実に再現するだけでなく、プリズムを通して屈曲、拡大させたのがドラマ化作品といえるだろう。

 「陰の季節」シリーズの舞台は神奈川県警だ。7作中4作が短編集「陰の季節」(文春文庫)をベースにしている。上川隆也が演じるのは、ノンキャリアながら出世街道をひた走る二渡警視(警務課調査官)だ。原作では妻子がいるが、ドラマでは独身と設定が変更されている。刑事部と警務部の対立、保身に走る上層部、天下りをめぐる葛藤、内部の腐敗、メディアとの緊張関係……。人事を司る二渡は、非情に徹して難局を克服していく。

 同シリーズは<潔い保守の物語>といえるだろう。高田純次(狡猾な上司)、伊東四朗(警察OBの助言者)、清水宏次朗(同期で親友の刑事)など、脇役陣も光っている。先日WOWOWで放映された「震度0」はエンディングが秀逸だったが、上川は高圧的でエゴイスティックなキャリア(冬木警務部長)を熱演していた。

 「第三の時効」(講談社文庫)に収録された6編は、山梨県警捜査一課を舞台にドラマ化されている。作品ごとに渡辺謙(朽木一斑班長)、段田安則(楠見二班班長)、伊武雅刀(村瀬三班班長)の演技派3人が主役を務めていた。<彼らに共通するのは、「情念」「呪詛」「怨嗟」といった禍々しい単語群だろうか>(「囚人のジレンマ」)……。原作にこう記されているように、強烈な三つの個性がしのぎを削って事件を解決に導いていく。ドラマ化に当たって各自の人間像に陰影が味付けだされ、作品を覆う孤独の匂いを濃くしている。

 横山秀夫は今後もリアルで切ない警察小説を書き続け、その多くがドラマ化されるだろう。「松本清張の後継者」の称号に値する活躍を期待している。

 今月下旬、「相棒~シーズンⅥ」がスタートする。回を重ねても失速しないのは、チームワークの精華だろう。横山作品に触れた上で、一点だけ「相棒」にケチを付ける。<キャリア支配=警察組織の戒律>である以上、東大卒キャリアの杉下右京(水谷豊)が50歳過ぎで警部というのは100%ありえない。何を今さらだが、警視ぐらいにしておけば座りが良かったのに……。


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