酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「闇の列車、光の旅」~希望と絶望に紡がれたロードムービー

2010-06-24 01:13:01 | 映画、ドラマ
 W杯で欧州勢の苦戦が続いている。フランスは1勝もできずに大会を去り、イングランドは辛うじて決勝トーナメントに進んだ。俺は〝アフリカの呪い〟を感じている。アフリカ人の血の上に繁栄を築いた欧州各国を、大地が苦しめているのだ。呪いは掛けた側にも返ってくるから、アフリカ勢も総じて不調だ。決勝Tは南米勢の独壇場になるかもしれない。

 日比谷で先日、「闇の列車、光の旅」(09年)を見た。少年と少女の希望と絶望が紡ぐ鮮烈なロードムービーに、余韻は去らない。監督のキャリー・ジョージ・フクナガは日系アメリカ人で、製作総指揮にガエル・ガルシア・ベルナルが名を連ねている。

 物語の基点はホンジュラスとメキシコだ。ホンジュラスで暮らすサイラの前に、アメリカから強制送還された父が現れた。父と叔父はサイラを伴い、アメリカ入国というギャンブルに打って出る。アメリカ国境に近づく列車の屋上に、夢を共有する人々が乗り込んだ。彼らにとって、脅威は自然だけではない。

 メキシコのある駅から、3人のギャング団が恐喝者として乗車する。その中のひとりであるカスペルは、衝動的にサイラを助け、結果として組織を裏切った。メキシコ系移民が多いアメリカに逃げおおせても、その命が風前の灯であることは変わらない。

 本作の背景である中米の貧困と暴力は、ガエル・ガルシア・ベルナルが主役の一人を務めた「アモーレス・ペロス」に重なる部分がある。カスペルとスマイリーの関係は「息もできない」のサンフンとヨンジュンに似て、宿命的な悲劇の軸になっていた。

 サイラはカスベルに淡い恋心を抱き、死を意識したカスペルは、自らに命を託したサイラのために生きることを決意する。恋を超えた逃避行は、予定調和というべき結末を迎えた。ラストでサイラを包んだ眩い光は、闇への道標といえぬこともない。それこそが、〝アメリカの夢〟の現実なのだから……。

 日本人は〝上から目線〟で本作を見るだろう。〝豊かな国〟に住む我々に命を懸けて国を出るなんて想像できない……が共通するスタンスだ。アジア各国で悪名高い軍隊、企業、ヤクザの振る舞いを無視し、<移民=入国する不逞の輩>というイメージを刷り込む石原都知事のような御仁もいる。

 ほんの半世紀前まで日本は移民国だった。ボリビア移民をめぐる経緯は「外務省が消した日本人」(毎日新聞社)に記されている。国策で奨励された移民には悲惨な運命が待ち受けていた。最たる例は脱兎の如く逃げ出した関東軍に置き去りにされた満州居留民で、棄民を〝残留孤児〟と言い換えたのは政府の詐術である。

 日本では貧困と格差が深刻な課題になり、将来的な見通しも暗い。志ある若者は、この国を捨てつつあるのではないか。新しい形の<移民=棄国>は、既にトレンドかもしれない。



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