酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

シャーベッツ20周年記念ライブでロックの極北を体感する

2018-11-17 20:50:06 | 音楽
 ノーベル文学賞発表の時期になると、〝今年こそ村上春樹〟と大騒ぎになるが、日本人作家の本命は多和田葉子かもしれない。別稿(16年11月)で<フィールドワークから生まれたリアルなデストピア>と評した「献灯使」(14年)が全米図書賞(翻訳部門)に輝いた。ドイツ語で執筆した多くの作品は既に欧州で高い評価を受けている。英訳された本作での受賞で、機は熟したか。

 当ブログでも紹介したが、ケン・ローチ、アキ・カウリスマキ両監督ら多くの映画人がイスラエル政府後援の映画祭(今年5月、ロンドン)をボイコットするよう呼び掛けた。事の成否は確認出来ていないが、パレスチナへのジェノサイドに抗議するイスラエルボイコット(BDS)が広がっている。

 世界の流れに逆行するイベントが今月6日、オペラシティで開催された。「イスラエル建国70周年記念コンサート」に知人の杉原浩司さん(武器輸出反対ネットワーク代表)は十数人の仲間とオペラシティで抗議活動を行う。武器とセキュリティーを巡って防衛装備庁と連携するイスラエルは、トランプ大統領の庇護の下、国連でも歯止めが利かないテロ国家になっている。

 EXILEのメンバーがイスラエルの人気歌手と「イマジン」をデュエットしたという。平和、平等、反戦の思いが込められた同曲は湾岸戦争の折、英国で放送禁止になったプロテストソングで、ガザでこそ歌われるべきだ。当夜の行為はジョンの貴い魂を冒瀆するものといえる。

 ロッキング・オン誌HPで、日本のガールズバンド「CHAI」の存在を知る。ボン・イヴェールのジャスティンが、NYで初ライブを行ったCHAIのインタビューに、<CHAIみたいな人たちが世界をよりよい場所にしてくれる>とリツイートした。世間が決めた<美>に縛られた女性の解放を目指すCHAIに、女性の権利を訴えてきたジャスティンが感応したのだろう。

 「20th Anniversary Tour 2018~8色目の虹」と題されたシャーベッツのツアーファイナル(14日、TSUTAYA O-EAST)に足を運んだ。シャーベッツ、いや、浅井健一(ベンジー)のライブを見るのは赤坂BLITZ(2011年7月)以来、7年ぶりで、当時もシャーベッツだった。

 シャーベッツのライブに予習は不要だ。皮膚に染みついた音の欠片が進行とともに溶け出し、表面に滲みてくる。アンコール2回で2時間10分、心も体も冷たく焦がされた。10周年ライブ(08年、東京ドームシティホール)は照明や映像をフルに用いた壮大なメランコリアだったが、今回は演出は控えめで、前半から「カミソリソング」などエッジが利いた曲が多かった。

 オープニングの「トカゲの赤ちゃん」、「グレープジュース」、「タクシードライバー」「フクロウ」、「水」、「ジョーンジェットの犬」、「わらのバッグ」とお馴染みの曲が続く。画家でもあるベンジーは水彩画、童話の挿絵を描くように、脳裏に映る光景に詩とメロディーを重ねて曲作りしているのだろう。絵本化される「ベイビーレボリューション」(奈良美智)もセットリストに含まれていた。

 3~4年おきの新作発表はツアー&フェスのスケジュールに織り込まれ、代理店、メディア、SNSが後押しする……。ベンジーは内外のバンドが従っている<システム>と異次元の存在だ。ブランキー・ジェット・シティ(BJC)でデビュー以降、シャーベッツ、YUDEなど複数のユニットでフロントマン(ボーカル&ギター)、作詞・作曲を担当し、27年で30枚前後のアルバムを発表したギネス級の〝ロック体力〟を奇跡的に保ち、53歳の今もザ・インターチェンジキルズでツアーを展開中だ。

 キュアーの大ファンである俺が、異質と思えるベンジーになぜ魅せられたのか。BJC初期は暴力的、不良といったイメージだったベンジーと、言霊ならぬ〝音魂〟に導かれて出合ったのだ。

 ベンジーは好きなギタリストを問われ、「スージー&バンシーズのギタリスト」と答えていた。バンシーズ来日時のギタリストはロバート・スミス(キュアー)である。“Last Dance”はBJCのファイナルライブを収録した作品のタイトルだが、キュアーの“Disintegration”に同名の曲がある。シャーベッツの「ナチュラル」のジャケットは、“Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me ”の裏ジャケと酷似していた。

 キュアーへの傾倒が何より窺えるのはベンジーの歌詞だ。絵を描くようにイメージの連なりを紡ぐ手法を確立したのはロバート・スミスである。ベンジーはオーロラのような蒼い焰を放射しながら独楽のように回り続け、ファンを<ロックの極北>に導く。今回のセットリストから漏れた名曲の数々を聴くためにも、シャーベッツのライブに足を運びたい。
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