酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ファウンダー」~エンドマークの後に生じたドラスチックな波

2017-09-11 22:17:48 | 映画、ドラマ
 昨日の朝刊は1面で「桐生9秒98」の大見出しを打っていた。桐生祥秀の快挙は序章に過ぎず、サニブラウンやケンブリッジ飛鳥が後に続くだろう。スポーツ界では若い世代の躍進が目立つが、〝モンスター〟井上尚弥(WBOスーパーフライ級王者)もカリフォルニアで挑戦者ニエベスを6回終了TKOで下し、スターダムの階段を上り始めた。

 だが、井上の鮮烈な全米デビューは、続くWBC同級タイトルマッチの衝撃で褪せることになる。パウンド・フォー・パウンドと謳われたローマン・ゴンザレス(ニカラグア)が、現王者シーサケット・ソールビンサイ(タイ)とのリマッチに挑み、4回1分18秒、マットで大の字になる。井上とシーサケットとの統一戦が新時代の扉を開くだろう。
 
 「プラージュ」(誉田哲也原作、全5回/WOWOW)を見た。偶然が重なって前科者(覚醒剤取締法違反)になった貴生(星野源)は、職も住まいも失ってシェアハウス「プラージュ」に潜り込む。そこには、友樹(スガシガオ)、美羽(仲里依紗)、彰(眞島秀和)、紫織(中村ゆり)、通彦(渋川清彦)のいわくありげの面々が暮らしていた。偏見の壁に跳ね返され、傷ついた6羽の雛を、オーナーの潤子(石田ゆり子)が母鳥のように慈しんでいた。

 潤子を軸に、淡いが芯のある糸が紡がれ、余韻が去らぬラストに繋がっていく。友樹と彰が関わる事件がミステリーの味付けを添えていたが、テーマは<罪を犯した者に社会は再生へのきっかけを与えるのか>だ。共生と絆の意味を問い掛け、見る者の心を和ませる秀逸なドラマである。

 角川シネマ新宿で「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(17年、ジョン・リー・ハンコック監督)を観賞した。俺が見た回はキャパの小さいシネマ2だったのでほぼ満席。口コミで人気が広がった作品は、マクドナルド創業者の真実に迫っている。

 レイ・クロック(マイケル・キートン)はマルチミキサーを売って国中を回るセールスマンだ。自己啓発のレコードをかけて唱和するなど、50代になっても夢を失わない。挫折続きのレイがなぜ頑張れたのか。本作には描かれていなかったが、身近に成功者がいた。第1次大戦時、同じ衛生隊に所属し、大成功を収めていたウォルト・ディズニーの背中を、レイは追いかけていたのだろう。

 大量にミキサーを注文したマクドナルド兄弟をカリフォルニアに訪ね、衝撃を受けた。〝真のファウンダー〟が経営するハンバーガーショップはモータリゼーションの発達を背景に、<清潔・管理・分業>の最新形を提示していた。レイはその場で協力を申し出る。

 後に兄弟が「鶏小屋に狼を入れてしまった」と述懐したように、両者は対照的だった。兄弟はハンバーガーを安く早く提供することを目指したが、何より重視したのは品質と材料、そして手作り感だった。効率と事業拡大を志向するレイは、策謀を巡らして母屋を乗っ取る。まさに〝フード界の斎藤道三〟だが、真の物語はエンドマークの後に始まる。
 
 歴史的名著「ファストフードが世界を食いつくす」(01年、エリック・シュローサー著/草思社刊)、同書にインスパイアされたドキュメンタリーやノンフィクションにも詳述されているが、マクドナルドに代表されるファストフードは、社会の仕組みを根底から覆った。レーガン政権下で反トラスト法が棚上げされ、農業で寡占化が進行する。追い詰められた家族経営の農場は、食肉メジャー傘下に入らざるを得なくなる。ファストフードと提携する養鶏業者の年収は、1万2000㌦前後に抑えられた。

 共和党が最低賃金を維持したことで貧困が拡大する。移民の最初の働き場所は大抵ファストフードだ。共和党への莫大な献金は、公的機関による補助金としてファストフード業界に還流する。全米の公立校でファストフードが店舗を構えることは、今では当たり前になっている。

 本作に描かれたレイ・クロックは〝残酷な子供〟だが、マクドナルド兄弟から奪い、欲望に純化して築いたシステムは、アメリカ、いや全世界を席巻した。マクドナルドは自由の女神に代わって、今やアメリカの象徴になった……。なんて書いているうち、無性にマクドナルドを食いたくなる。期間限定の満月チーズ月見にしようかな。

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