映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ちょっと今から仕事やめてくる

2017年06月16日 | 邦画(17年)
 『ちょっと今から仕事やめてくる』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)予告編を見て面白そうだなと思い映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、南の島の夜の景色(注2)。
 満天の星のもと、ヤシの木の生えている海岸。
 後ろ向きの女の子が、「私が死んだら、あの星になるの?」と訊くと、ソバのこれまた後ろ向きの父親らしい男が、「先ず生きなきゃな」と答えます。すると、女の子は「生きるってどういうこと?」と尋ねます。これに対して男は「希望を持つこと」と答えます(注3)。
 そして、タイトルが流れます。

 次いで、青山隆工藤阿須加)の部屋。
 蟻がたかっているブドウの入った箱などが酷く乱雑に置かれています。
 隆は、起き出して靴下を履き、TVで歌われている歌(注4)について「バカじゃないの」「でも、俺のことかも」と呟きます。

 隆が勤める会社の営業部の場面。
 部長の山上吉田鋼太郎)が、「お早うございます」と言うと、部下が「それでは朝の体操!」と叫び、皆が席の前に立ち上がって体操をします。その後、壁に貼ってある「社訓」(注5)を皆で唱和します。
 隆のモノローグ、「就活をしまくった俺は、この会社の内定をもらった時は喜んだ」。

 部長が「最多契約者17件、五十嵐!」と言い、報奨金を渡して皆に拍手を促すと、五十嵐黒木華)は「有難うございます」と言って頭を下げます。



 隆のモノローグ、「営業部長にとっては成績が全て」。

 部長が隆に「青山、大東広告からクレームだ。ロゴの字体が違うと言っている」と言うので、隆が「斎藤さんが、…」と言いかけると、部長は「今はお前の担当だ。ちゃんとチェックしろ」と怒ります。
 隆のモノローグ、「会社に貢献したいという気持ちはある。しかし怒鳴られると、…」。

 帰りがけに部長は、五十嵐に「今朝の報奨金はデートに使うのか?」と言ったり、隆に「さっきのミスの分は給料から引いておく」、「データをまとめて明日の朝一で報告してくれ」と言います。
 隆のモノローグ、「3ヵ月連続で残業は150時間を超えた。しかし、残業代は出ず、すべて基本給の内」。

 一人で会社に残って作業していると、母親(森口瑤子)から電話がかかってきます。
 母親が「食べたいものがあれば送るから」「今度いつ帰ってくるの?」と言うのに対し、隆は「わかった」「忙しいから切るよ」などと返事をします。

 山梨の実家では、母親が「1年半も帰ってこない」と嘆くと、父親(池田成志)は「忙しいんだよ」と応じます。


 こんなところが本作の始めの方ですが、さあ物語はどのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、ブラック企業に就職して生きていく気力が失せてしまった青年のもとに謎の男が現れて、という物語。青年が謎の男のことを調べると3年前に自殺していた人物ということが判明するのですが、付き合っていくうちに次第に青年は前向きに行きていこうとするようになります。こう書くと、いかにも今時ありがちな作品と思えるでしょう。正直のところ、小生も最初はそう思っていました。でも、しばらくすると、現代の若者の暮らしぶりの一端を捉えてもいる感じもしてきて、そう捨てたものではないなと思えてきます。全体として、出演者の一生懸命さがこちらに伝わってくる作品ではないでしょうか。

(2)映画に人生訓話めいたものを期待しないクマネズミにとっては、監督の姿勢(注6)とか、特にラストのバヌアツのエピソードには関心がもてませんが、それでも本作はそれほど捨てたものではないのかな、とも思いました。

 第1に、本作から、ブラック企業の実態の一端を垣間見られる感じがします。
 労働基準法もなんのその、とにかく契約を取ってこいという部長の方針の凄さは、その怒鳴り声によってよくわかります(注7)。
 そして、あのように毎日怒鳴られっ放しで、なおかつ夜遅くまで残業させられたら、隆でなくとも、「人は生きるために働くとしたら、俺は生きているといえるのか?」などと思いたくもなってくるでしょう。
 ただ、この会社のブラックさを徹底して描き出すためには、例えば、隆がこの会社を辞める際には、もっと激しく部長に迫るようにしたら、より説得力が出てきたのではないでしょうか(注8)?



 それと、五十嵐についてですが(注9)、黒木華クラスの女優を使うのであれば、「枕営業」によって成績を挙げている様子を描いてみたらどうだったでしょう(注10)?

 第2に、本作は、危うく駅のホームから転げ落ちて入ってきた電車に惹かれるところだった隆を、間一髪で助けたヤマモト福士蒼汰)とは一体誰なのか、を解き明かしていくミステリ仕立てになっています。
 何しろ、肝心なときには、ちょうどいいタイミングで出現し、適切なアドバイスをするのですから。それに、隆は、偶然にも霊園行きのバスの中にヤマモトを見出したりもするのです。



 加えて、吉田鋼太郎や黒木華といった脇役陣もさることながら、ヤマモトを演じる福士蒼汰と隆役の工藤阿須加がかなり力のこもった演技をしているので(注11)、ついつい熱心に見てしまうことになります。

 ただ、そうであるにしても、隆にとって、バヌアツに行くことが問題の解決になったのかどうかは、疑問が残るような気がします(注12)。

(3)渡まち子氏は、「ユニークかつ直接的なタイトルが何より印象的だが、重い題材を軽妙な語り口で描くスタイルが面白い。謎めいたヤマモトをさわやかに演じる福士蒼汰、ヤマモトに振り回されながら懸命に生きる生真面目な隆を演じる工藤阿須加の主役二人は好演」として60点を付けています。
 前田有一氏は、「それこそ本編が始まる前から誰もがおやっ?と思う、そんな要素を持った映画である。そういう仕掛けはやりようによってはとても効果があるのだが、この映画はそのあたりがうまくない。ミステリ好きの一鑑賞者としては、少々残念である」として55点をつけています。
 暉峻創三氏は、「ヤマモトの超然たる存在感(時に風を伴って出現する演出も素晴らしい)がそれだけで存分に人々を救済する力に満ちているだけに、日本社会と対置された理想郷として提示されるバヌアツの場面は、やや蛇足だった感も否めない」と述べています。



(注1)監督は、『ソロモンの偽証 前編・事件』などの成島出
 脚本は、成島出と『草原の椅子』の多和田久美
 原作は、北川恵海著『ちょっと今から仕事やめてくる』(メディアワークス文庫)。

 なお、出演者の内、最近では、福士蒼汰は『無限の住人』、黒木華は『海賊とよばれた男』、森口瑤子は『太陽』、小池栄子は『ブルーハーツが聴こえる』、吉田鋼太郎は『帝一の國』で、それぞれ見ました。

(注2)場所はおそらくバヌアツであり、言葉もビスラマ語だと思われます。

(注3)このシーンは、ラストの方でもう一度繰り返され、そこから父親のように見える男はヤマモトだとわかります。

(注4)歌詞は、「月曜日の朝は、死にたくなる。火曜日の朝は、何も考えたくない。水曜日の朝は、一番しんどい。木曜日の朝は、少し楽になる。金曜日の朝は、少し嬉しい。土曜日の朝は、一番幸せ。日曜日の朝は、少し幸せ。でも、明日を思うと一転、憂鬱」。

(注5)例えば、「遅刻は10分で千円の罰金」とか「有給なんていらない。体がなまるから」。

(注6)劇場用パンフレット掲載の監督インタビューで、成島監督は「「ソロモンの偽証」はどんなに辛くても“死ぬな”という話ですよね。こっちは“希望はあるよ。見失っているだけだよ”という話で、そこがいいなと思いました」と述べています。
 例えば、本作の冒頭の場面と同じような場面が最後の方にも映し出されますが、そこでヤマモトに、「生きていれば辛いことがある。けれど、どこかに希望がある」、「なければ探せばいい、なければ作り出せばいい。それもなければ、一からやり直せばいい」などと言わせてもいます。
 でも、こうしたセリフはなくもがなであって、映画全体から感じ取りたい人には感じ取らせればいいのではないでしょうか?
 それに、隆はバヌアツに行って、本当に希望を見出すことが出来るのでしょうか?

(注7)勿論、弊害もいろいろ出てくるのであって、例えば、自分をよく見せようとして、他の社員が自分より大きな契約を取ってくるのを妨害すべく、PCに保存されている書類を密かに書き換えてミスを犯させる事件が、この会社に発生します。

(注8)隆は、部長から「これだから、最近の若いやつは使えないんだ」、「社会というものがわかってない」、「テメエの人生は負け犬で終わる」、「結局逃げるだけ、甘いんだよ」、「次の仕事が簡単に見つかると思ったら大間違いだぞ」などと思いっ切り怒鳴られますが、部長に対し「就活の時、この会社に簡単に決めてしまいました」、「懲戒解雇でもかまいません。3ヵ月前までは、このビルの屋上から飛び降りることを考えていましたから」、「自分に嘘をつかないで生きていきたい」、「青い空をいつも笑って見ていたい」と言い返すだけに過ぎません。

(注9)原作本では男性であるのを、本作ではわざわざ女性に変更したとのこと。

(注10)尤も、本作全体が持っている“爽やかさ”を著しく削いでしまうかもしれませんが!
 それに、これまでに出来上がっている黒木華のイメージにも合わないのかもしれません。

(注11)劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、「今回は福士蒼汰、工藤阿須加が他の仕事で忙しく、集中してリハーサル期間が取れなかったので、クランクインの5か月前から、二人のスケジュールが合う日をリハーサルに充てて、飛び飛びにリハーサルを行った」とのこと。

(注12)隆を呼び寄せた方は、自分が希望してバヌアツに行って、現地の子供たちに進んで算数の授業をしているのでしょう。でも、隆の方は、呼ばれたからとにかくバヌアツに行っただけのことですし、そこで何をしたいのかという“希望”があるわけではないでしょう。
 これでは、都会の生活は非人間的であり、田舎の生活が人間的だとする、あまりにも単純な物の見方の一つの現われのように思えてしまいます。
 隆は、山梨でぶどう園を営む両親の下を離れてわざわざ東京に出ていったのでしょう。バヌアツに行くのも、山梨の実家に戻るのも大した違いはないように思われます。東京でモット頑張る手もあるのではないでしょうか?



★★★☆☆☆



象のロケット:ちょっと今から仕事やめてくる

『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント (6)   トラックバック (11)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
«  | トップ | 怪物はささやく »
最近の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (ここなつ)
2017-06-16 12:27:08
こんにちは。弊ブログにTBとコメントをありがとうございました。
私も最後のバヌアツのエピソードはあまり要らなかったな…と思っておりました。元々教職やボランティア活動に志が高かったならまだしも、青山隆が「本当にやりたかったこと」かどうか判らないですし…。
まあ、「新卒の時にはただ焦って何も考えずに就職先を決めてしまったから、今後はよく考えよう」と思って「考える旅先」としてバヌアツを選んだ(山本純もいるし、とかいう理由で)のかもしれませんね。
Unknown (クマネズミ)
2017-06-16 18:27:54
「ここなつ」さん、TB&コメントを有難うございます。
おっしゃるように、青山隆は、「「新卒の時にはただ焦って何も考えずに就職先を決めてしまったから、今後はよく考えよう」と思って「考える旅先」としてバヌアツを選んだ(山本純→山本優もいるし、とかいう理由で)のかもしれません」。
ただ、原作の青山隆は、そんなに悠長ではなくて、心理カウンセラーになっていて、山本が臨床心理士になっている病院にやってくるというストーリーになっているようです。
Unknown (atts1964)
2017-06-18 06:19:08
ラストにちょっと物足りなさを感じますが、主役の二人の熱演、それぞれ今迄でいちばん良かったと思います。それに吉田剛太郎、なりきった感じが最高で最後まで妥協しないところがなかなかでした。
始め予告編を見たときは、ホラー?心霊?と思いましたが、しっかりとドラマでしたね。
いつもTBありがとうございました。
Unknown (クマネズミ)
2017-06-18 06:26:12
「atts1964」さん、コメントを有難うございます。
おっしゃるように、本作に出演した俳優は皆熱演していましたが、中でも「吉田剛太郎、なりきった感じが最高」でした!
Unknown ()
2017-06-19 16:46:32
お邪魔します。

バヌアツでのストーリーは正直突飛だと思いましたが、青山もヤマモトも、どんな場所でも働けるというもので、日本で働く事と、海外で働く事との幸せの尺度の違いを表すものだと思いました。豊かさも、これだけ国際化が進んで、様々なカルチャーが日本に入って来ても、ブラック企業のような労働に対して後進的な組織が残っているのですから、今の労働意識が理想とするものは、日本人に対する保護主義的な企業なのではないでしょうか。

山上は、ブラック企業の上司を演じきっていましたね。何故彼があんなパワハラをするようになったかとか、青山への優しさが一片もない事は、決して妥協しない頑固な職人のような印象を受けました。日本を決して、嫌な国として描かないところと、楽園のようなバヌアツとの対比の弱さからして、ラストはちょっと違和感が残りましたよ。
Unknown (クマネズミ)
2017-06-23 06:21:38
「隆」さん、コメントをわざわざありがとうございます。
おっしゃるように、クマネズミも、「バヌアツでのストーリーは正直突飛」だと思いました。
ただ、「隆」さんが、「日本で働く事と、海外で働く事との幸せの尺度の違いを表す」と述べておられる点については、青山隆の職場環境が両者でまるで違うので、比較が難しいように思われます。バヌアツで青山隆が働くことになる学校という職場には、営業部といった明確な組織も部長の山上といった上司も見当たりません!仮に青山隆が、学校ではなくバヌアツの企業で働くことになったら、一体どうなったでしょう?“楽園のような”バヌアツの企業は、「後進的な組織」なのでしょうか、それとも“先進的な組織”なのでしょうか?
また、「今の労働意識が理想とするものは、日本人に対する保護主義的な企業なのではないか」と述べておられますが、「労働意識」とは誰の「意識」なのでしょう?労働者が持つ意識だとしたら、それがブラック企業における労働形態を「理想」とするとは思えませんが?あるいは、企業側の「意識」でしょうか?でも、企業に「意識」があるのでしょうか?
それに、「日本人に対する保護主義的な企業」とおっしゃる場合、この企業は、いったい何を何に対して「保護」するのでしょうか?

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

11 トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。
ちょっと今から仕事やめてくる (映画好きパパの鑑賞日記)
 仕事をしている人やこれから就職する人だけでなく、家庭や人間関係に悩んでいる人にもぜひみてもらいたい作品です。見終わった後、きっと暖かい感動が残るでしょう。  作品情......
『ちょっと今から仕事やめてくる』 2017年5月21日 イイノホール (気ままな映画生活 -適当なコメントですが、よければどうぞ!-)
『ちょっと今から仕事やめてくる』 を試写会で鑑賞しました。 ちょいやめ...なんて軽い感じであるが、内容はかなり重たい。 【ストーリー】  激務により心も体も疲れ果ててしま......
ちょっと今から仕事やめてくる (映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評)
ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫) [文庫]仕事のノルマが厳しく、上司の度重なるパワハラで追い詰められた入社1年目の青山隆は、心も身体も疲れ果て、極度の疲......
社会人の掟。『ちょっと今から仕事やめてくる』 (水曜日のシネマ日記)
ノルマが厳しい企業に勤め心身共に疲弊した青年が幼なじみを名乗る人物と出会い人生を見つめ直す物語です。
「ちょっと今から仕事やめてくる」 (ここなつ映画レビュー)
いわゆる「ブラック会社」に新卒で入り、営業マンとして契約が取れずに毎日罵声を浴び、有休無し、サービス残業当たり前、パワハラの嵐の中で主人公青山隆(工藤阿須加)が、もう......
ちょっと今から仕事やめてくる (佐藤秀の徒然幻視録)
天国に二番目に近い島 公式サイト。北川恵海原作、成島出監督。福士蒼汰、工藤阿須加、黒木華、森口瑤子、池田成志、小池栄子、吉田鋼太郎。ブラック企業をやめて向かった先は南......
ちょっと今から仕事やめてくる★★★・5 (パピとママ映画のblog)
「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」の成島出監督が、北川恵海の同名ベストセラーを映画化。ブラック企業で心身共に疲弊した新米サラリーマンが、謎めいた男との出会いを通して立ち......
ちょっと今から仕事やめてくる (映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ~)
評価:★★★★【4点】(11) 福士蒼汰のぎこちない関西弁とラストの過剰な説明はあるが
17-181「ちょっと今から仕事やめてくる」(日本) (CINECHANが観た映画について)
生きてさえいえれば何とかなる  ブラック企業で働く青山隆は上司のパワハラに苦しめられ、極度の疲労から危うく駅のホームで電車にはねられそうになる。  そのとき彼を救ったの......
『ちょっと今から仕事やめてくる』('17初鑑賞54・劇場) (みはいる・BのB)
☆☆☆-- (10段階評価で 6) 5月27日(土) 109シネマズHAT神戸 シアター9にて 13:20の回を鑑賞。
映画『ちょっと今から仕事やめてくる』★山本の存在には涙出そう。ありがとう! (yutake☆イヴの《映画★一期一会》)
作品についてhttp://cinema.pia.co.jp/title/171039/ ↑あらすじ・配役はこちらを参照ください。 ・青山:工藤阿須加 ・山本:福士蒼汰 駅のホームから、転落しそうな青山を 山本が、......