孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東諸国とイスラエル  ガザ報復で「アブラハム合意」は短期的にはとん挫 長期的には?

2023-11-14 22:55:14 | 中東情勢

(会談するイランのライシ大統領(左)とサウジアラビアのムハンマド皇太子=11日、リヤド(WANA提供・ロイター=共同)【11月12日 共同】)

【アブラハム合意とハマスのイスラエル攻撃】
中東情勢についての議論では「アブラハム合意」という言葉をよく目にします。トランプ前大統領のもとで進んだイスラエルとUAE、そしてその後のイスラエルとアラブ諸国の関係正常化をさす言葉です、「反イラン連合」の形成を目指す流れでもあります。

****アブラハム和平協定合意*****
アラブ首長国連邦(UAE)とイスラエル国間における平和条約及び国交正常化(通称アラブ首長国連邦・イスラエル平和条約、アブラハム合意、アブラハム協定とも)は2020年8月13日にアラブ首長国連邦とイスラエルの間で締結された外交合意である。

この用語については、アラブ首長国連邦とイスラエルの間の合意に止まらず「UAEとバーレーンとを皮切りとして,その後スーダンやモロッコがこれに倣って陸続としてイスラエルとの関係正常化に踏み出した現象を総括してアブラハム合意と呼ぶ。」とすることもある。【ウィキペディア】
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この流れに乗って、イスラエルとの関係改善の話を進めていたのがアラブの盟主を自任するサウジアラビア。
もしサウジアラビアがイスラエルとの関係を正常化すれば「反イラン連合」は確固たるものになります。

イランが支援するハマスがイスラエルへの奇襲を行ったのは、こうした流れを阻止したいイランの思惑があったとも言われています。

イランがどこまで直接関与していたかは定かではありませんが、ハマスにとっても、イスラエルとアラブ諸国、なかでもサウジアラビアとの関係改善は、パレスチナがアラブ諸国から見捨てられることをも意味し、放置できない事態です。

【イスラエルのガザ報復でサウジアラビアとの協議はとん挫、中東諸国との関係冷却化】
イスラエル・ハマスの戦闘がクローズアップされたことで、イランやハマスの思惑どおりかどうかはともかく、少なくとも両者に好都合な形でイスラエルとサウジアラビアの協議はとん挫しています。

*****ハマス「包囲網」に焦り イスラエル・サウジ正常化は暗礁*****
イスラエルがイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃を強化する方針を示し、イスラエルが進めるサウジアラビアとの国交正常化協議は暗礁に乗り上げる公算が大きくなった。

両国が国交を結べば中東地域の勢力図は一変し、イランの孤立が決定的になるとみられていた。イランを後ろ盾とするハマスが協議の妨害をもくろんで、大規模な攻撃に着手したとの見方が出ている。

イスラエルとサウジの正常化協議は米国が仲介し、9月には3カ国の首脳が進展を強調した。早ければ来年前半にも正常化が実現するとの見方もあった。

米イスラエルにとって、サウジはアラブで最も国交正常化を実現したい国だ。世界屈指の産油国でイスラム教の2大聖地を擁し、世界の信徒に絶大な影響力を持つ。サウジはまた、パレスチナ問題が解決しない限りイスラエルとは国交を結ばない姿勢をとってきた。

イスラエルとスンニ派大国サウジが国交を結べば、米イスラエル主導の「イラン包囲網」が強化され、シーア派のイランは厳しい立場に立たされることが必至だった。

サウジは協議の過程でパレスチナ問題で一定の譲歩をするとの報道も出ており、ハマスにとっても看過できない事態だった。

イランは攻撃の直接的な関与は否定している。しかし、8日の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は8月、イランの最高指導者直属の「革命防衛隊」メンバーとハマスなどの幹部が複数回、会合を行ったとして、イランが攻撃計画の策定を支援したと報じた。(中略)

イスラエルの攻撃が激しさを増し、ガザに住むパレスチナ人の犠牲者が増えることが確実な情勢だ。そうした中で、サウジがイスラエルとの正常化に歩み寄れば、世界のイスラム教徒から批判を浴びることにもなる。今後の推移次第では、協議が白紙に戻る事態さえ否定できない。【10月10日 産経】
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サウジアラビア以外の中東諸国とイスラエルの関係も急速に冷却化しています。

****中東諸国、ガザ攻撃に反発強める イスラエルと冷却化急速****
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘を巡り、中東ではパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルへの非難が強まっている。

アラブ諸国は近年、イスラエルとの和解を進めてきたが、攻撃の激化でパレスチナへの同胞意識が顕在化した。一方のイスラエルも最優先事項は「ハマス壊滅」に切り替わっており、関係は急速に冷え込んでいる。

イスラエルのガザ攻撃に大きな懸念を抱いているのが隣国エジプトだ。シーシー大統領は「自衛権の範囲を逸脱している」と非難し、10月には事態収束を目指す国際会議も開いた。

イスラエルでは、ガザの民間人をエジプト領シナイ半島に「強制移住」させる計画も選択肢に浮上しているとされる。シーシー氏は「ガザから抵抗や戦闘の思想が持ち込まれ、反イスラエル軍事作戦の拠点になってしまう」と拒否している。

戦闘開始前、イスラエルとの国交正常化交渉の進展が伝えられたアラブの大国サウジアラビアも、交渉を棚上げする方針とみられる。サウジのファイサル外相は10月中旬、ハマスの後ろ盾とされ、米イスラエルが敵視するイランのアブドラヒアン外相と会談した。

中東では欧米諸国の「二重基準」に対する批判も強い。イスラエルとガザで死亡した住民について、欧米の対応には温度差があるとの理屈だ。(後略)【11月6日 産経】
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【イラン大統領のサウジア訪問】
イランは、イスラエルに先んじて中国の仲介でサウジアラビアとの関係を正常化しましたが、これは両者が和解したというより、互いが現状・今後を考えて、とりあえず当面の関係を安定化させたほうが得策と判断した結果です。

上記のように、イスラエルとサウジアアラビアなどの関係が冷却化するなかで、イラン大統領がサウジアラビアを訪問し、協力関係を確認しています。

****イラン・サウジ首脳が会談 国交正常化後初、協力一致****
イランのライシ大統領は11日、サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子と同国の首都リヤドで会談した。3月に中国の仲介で国交正常化した後、両首脳が直接会談するのは初めて。

イラン大統領府によると、2国間関係と地域の協力を発展させるとともに、両国の関心事や地域情勢について詳細に議論することで一致した。パレスチナ自治区ガザ情勢も協議した。

両首脳は10月11日、国交正常化後に初めて電話会談した。今回の直接会談で協力を確認し、関係改善を印象付けた。

ライシ師はアラブ連盟とイスラム協力機構(OIC)による合同の臨時首脳会議に出席するためサウジを訪問した。【11月12日 共同】
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形式としては、サウジアラビアの首都リヤドで開かれたアラブ連盟とイスラム協力機構の合同首脳会議に2人が出席したことから会談が成立したというものです。

なお、イランのライシ大統領はエジプトのシシ大統領とも会談しています。
イランは1979年、イスラエルとエジプトが平和条約を結んだことを理由にエジプトとの国交を断絶していますが、近年は関係修復の動きが進んでいるとも言われています。

【それでも長期的には「アラブとイスラエルの接近」は進む】
上記のような動きを見ると、イスラエルとサウジアラビアなど中東諸国の関係は冷却化し、イランはサウジアラビアとの協調関係をアピールするということで、アブラハム合意以来の「反イラン連合」はとん挫したようにも見えますが、そうした動きは短期的なもので、長期的には中東諸国のイスラエル接近、「反イラン連合」の動きは変わらないとの指摘も。

****それでも「アブラハム合意」に基づく「アラブとイスラエルの接近」が終わることはない****
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が11月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエル・パレスチナ情勢について解説した。

飯田)秋田さんは11月3〜5日に、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれた「World Policy Conference」に参加したそうですね。(中略)

イスラエルが多くの死傷者を出したことへの反発
秋田)2つ発見がありました。1つは、いま中東の上空に、方向性がまったく逆の2つの気流が渦巻いています。1つは当然、憎悪や怒りの感情で、パレスチナ問題をめぐるものです。特にイスラエルが死傷者を大勢出してしまっていることについては、かなり反発が聞かれました。

アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない 〜スローダウンしても反転することはない
秋田)ただ、もう一方で「地政学のベクトル」も相変わらず消えてはいないのだなと思いました。長期的には、こちらの方が重要だと思います。いまは感情の部分でぶつかり合っていますが、共通の脅威であるイランに対応するため、「アラブ諸国とイスラエルが接近する」という動きです。

2020年秋から「アブラハム合意」のもとに、それまでずっと宿敵だったアラブ、特にサウジアラビア、バーレーン、モロッコ、UAE。このうちサウジアラビアはまだですが、参加国の湾岸アラブ諸国が、イスラエルと電撃的な国交樹立を決めました。

これは事実上、イランに対抗するためにアメリカが主導した「反イラン連合」なのですが、地政学の計算から結びつくのです。サウジアラビアも、つい最近まではイスラエルとの国交正常化が言われていました。

アブラハム合意は長期を見据えた国家戦略の決定
秋田)それが「もう壊れてしまったのかどうか」が今回、私の最大の関心でした。いろいろと個別に話を聞くと、UAEやエジプト、サウジアラビアの人もいましたが、「アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない」と言っていました。(中略)

アブラハム合意に関与している国のある高官は、「これは長期を見据えた国家の戦略決定だ」と言っていました。ですので、いま起きている情勢によって多少スローダウンはするけれど、「反転することはない」と言っていたのが印象的です。(中略)

ハマスはそれを壊そうとしたのですが、傷は付いても完全に消滅はしないというような話でしたね。(中略)

彼らは表立っては言いません。私が今回会議へ行ったいちばんの目的は、「アブラハム合意」という地政学接近が終わるのかどうか、本音を聞こうと思って行ったのです。会議でそのようなことを公式に言う人はいませんが、会場で個別に話を聞くと、だいたいみんな「いまは静かにしているけれど、途切れることはないだろう」と話していました。

将来的には「イラン連合」と「アラブ・イスラエル連合」の二極構造に
飯田)報道によると、イランのライシ大統領がサウジアラビアに行き、トップと会っていたようです。「もはや対イスラエルで、アラブとペルシャも手を組むのか」という話になっているように感じますが、そうではないのですか?

秋田)非常に複雑なのですが、基本的に、イランは「イスラム革命を輸出しようとしている」と言われているイスラム国家ですよね。アラブは王政なので、イスラム革命のような状況が起きて、イランのようになってしまうことを恐れているのです。

飯田)イランはイスラム革命によってパーレビ王政を追放したわけですものね。
秋田)彼らは他国にもイラン革命が起きて、自分たちのようになることを望んでいるのです。だからハマスやレバノンのヒズボラなど、イスラム教シーア派を支援している。相容れないわけです。(中略)

では現在、なぜイランとサウジアラビアなどが接近しているのかと言うと、融和のためではなく、米ソ冷戦時代のデタントのようなものです。(中略)

イランも、国内では女性のスカーフ着用の問題でデモが起きて大変ですし、経済制裁も長い。サウジアラビアは今後、再びトランプ大統領に代わるかも知れないアメリカの状況をみると、アメリカがどこまで守ってくれるのかわからない。

緊張緩和しているだけで、やはり全部引き剥がせば、「アブラハム合意」のパラダイムと言うか、アラブとイスラエルが接近して「反イラン同盟」を築いていく。イランはそれに対抗するため、シリアやレバノン、また半ばシーア派が多いイラクなどと組んでいく。(中略)

いまのパレスチナ問題の激情と言っていい対立は長く続くと思いますが、10〜20年先を見ると地政学は、旧ペルシャ帝国の連合である「イラン連合」と、イスラエルの軍事力とハイテクを使って対峙していく「アラブ・イスラエル連合」という二極構造になる。それが安定の鍵を握ると思います。【11月14日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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イランとサウジアラビアのようなアラブ諸国が基本的立場で相容れないというのは指摘のとおりだと思います。

ただ、「10〜20年先を見ると」というのは、目まぐるしく状況が変化する現代にあっては期間が長すぎ。何が起こるかわからないそんな将来のことは誰もわかりません。

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