孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  人質救出・首相退陣を求める抗議デモ 兵役免除のユダヤ教超正統派への批判

2024-04-01 23:07:24 | パレスチナ

(30日 イスラエルの国会前でネタニヤフ政権に反対するデモが行われました。数万人が集まり、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が始まって以降、最大規模となりました。【4月1日 日テレNEWS】)

【民間人被害拡大を憂うバイデイ政権 水面下ではイスラエルへの大型爆弾売却を進める】
イスラエル・ネタニヤフ首相が(アメリカ・バイデン政権と険悪な関係になってまで)ハマス掃討の強硬策に固執していること、また、同氏には政治的にはそれしか生き残る道がないことは、これまでもしばしば触れてきました。

本題に入る前に“アメリカ・バイデン政権と険悪な関係になってまで”ということで、若干の補足。

国連安保理での停戦決議にアメリカが棄権したこと、これに反発するネタニヤフ政権がアメリカへの代表団派遣をキャンセルしたことは3月27日ブログ“パレスチナ・ガザ情勢をめぐり深まるイスラエルとアメリカの溝”で取り上げましたが、その後イスラエルは代表団派遣、アメリカとの協議再開に一転同意しています。

(君子たるもの豹変するのは当然ですので)それはともかく、よく理解できないのが下記ニュース。バイデン政権はイスラエルの攻撃で民間人犠牲者が増大していることを容認できないと言っていたはずですが・・・。

****米、イスラエルに大型爆弾など2300発供与承認 米紙報道****
バイデン米政権は、パレスチナ自治区ガザでイスラム原理主義組織ハマスと交戦するイスラエルに対し、市街地破壊に威力を発揮するMK84爆弾など2300発を新たに供与することを承認した。米紙ワシントン・ポスト(電子版)が29日、伝えた。

イスラエルのネタニヤフ政権は現在、ハマス根絶のためとして100万人以上の避難民が集中するガザ南部ラファへの本格侵攻を準備している。バイデン政権は、民間人に甚大な被害が出る恐れがあるなどとしてラファ攻撃に反対の立場を示しているが、今回の供与承認で矛盾するメッセージを発信した形だ。

新たに供与されるのは、空中から投下する大型の無誘導爆弾MK84(2千ポンド)1800発と、より小型のMK82(500ポンド)500発。いずれも人口密集地で使用した場合、周囲に大きな被害を与える。イスラエルのガザ攻撃では、投下された兵器の約半数が正確性の低い無誘導弾であることが民間人被害の増大を招いていると指摘されている。

また同紙によると、バイデン政権は先週、F35A戦闘機25機をイスラエルへ供与することも決めた。

ガザの人道危機が深刻化する中、与党・民主党では、イスラエルへの軍事支援のあり方を見直すべきだとの論調が強まっている。これに対し、同国の利益を擁護するユダヤ系団体などは、支援に何らかの条件をつけるべきではないとしてロビー活動を活発化させているとされる。

米首都ワシントンでは25〜26日、訪米したイスラエルのガラント国防相が、米側のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)やブリンケン国務長官、オースティン国防長官らと会談。ガザ情勢や両国の軍事協力について協議していた。【3月30日 産経】
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“数年以上前に議会から同意を得ていた案件だとして議会に通知せず水面下で手続きを進めていたという。”【3月30日 共同】 バイデン大統領の真意がよくわかりません。

【政治的生き残りのためには戦闘継続しかないネタニヤフ首相 人質救出を求める国内最大の抗議デモも】
話をイスラエル・ネタニヤフ首相に戻すと、もし戦争が終息すると、ネタニヤフ首相がハマスの襲撃を防止できず、多くの人質を死なせたことだけでなく、ハマス襲撃以前から国論を二分していた司法改革問題に対する責任追及も再開しますし、同氏の収賄事件公判も本格化します。

収賄事件の方は、すでに昨年末に再開しています。

****イスラエルがガザで戦争を続ける中、ネタニヤフ首相の汚職裁判が再開****
12月4日、ガザ地区におけるハマスとの戦争が続く中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の汚職事件の裁判が再開された。

イスラエル当局者によると、パレスチナの武装勢力ハマスがイスラエル南部を攻撃し、1,200人が犠牲となり、240人が誘拐された10月7日以来、裁判は中断していた。

イスラエルの右翼政党リクードを率いるネタニヤフ氏は収賄と不正行為、背任の罪で告発されているが、氏自身はこれを否定している。(後略)【2023年12月5日 ARAB NEWS】
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従ってネタニヤフ首相は“生き残り”のためには、ハマスを根絶やしにできたという「成果」を示す必要に迫られていますが、イスラエル世論がそうした強硬姿勢に同意している訳でもありません。(仮に今回ハマス組織を壊滅させたとしても怨念は増強・引き継がれ、やがて同じような事態になるとは思いますが)

****「ハマス壊滅」より人質救出を イスラエル世論調査、半数が回答****
イスラエル国民の半数以上は、「ハマスの壊滅」より人質の救出を求めている-―。イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘を巡り、イスラエルのシンクタンクが実施した世論調査でこのような結果が出た。

ただ、ネタニヤフ政権を支持する右派は、「ハマスの壊滅」を優先させる人が多く、ハマスの休戦案を拒否した政権の姿勢に影響を与えているとみられる。

調査は、シンクタンク「イスラエル民主主義研究所」が1月28~30日に実施した。戦闘の目標について、「人質の救出」と「ハマスの壊滅」のどちらを優先するかという質問に対し、「人質の救出」と答えた人は全体の51%で、「ハマスの壊滅」と答えた人は36%だった。

ただ、人口の7割以上を構成するユダヤ人では「人質の救出」が47%、「ハマスの壊滅」が42%だった。一方、人口の約2割を占めるアラブ系イスラエル人は「人質の救出」が69%と多かった。【2月9日 毎日】
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特に、人質家族は同氏の人質救出より戦闘を優先させる姿勢に強い不満を持っています。

****人質救出求め各地でデモ、首相辞任要求も イスラエル****
イスラエル各地で30日、イスラム組織ハマスに連れ去られた人質の救出を求める抗議デモが行われた。ハマスとの武力衝突をめぐる政府の対応を批判する声も聞かれた。

最大都市テルアビブでは、デモ参加者が火を放ち、大型トラックを使って環状道路を封鎖。警察が放水銃を使って対応する事態となった。

エルサレムでは、デモ隊が首相府周辺に集まり、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の辞任を求めシュプレヒコールを上げた。イスラエルメディアによると同日、この他にも小規模な抗議デモが各地で行われた。

昨年10月7日の襲撃で、19歳の娘リリさんが人質に取られたというテルアビブでのデモ参加者は、「無関心と命のために闘う時がきた」「デモに参加して、『今すぐに連れ戻せ!』と声を上げて」と呼び掛けた。
「リリたち人質への思い、彼らが直面しているであろう恐怖から目を背けたことはない。176日が経過した。言い訳はもうできない」

国防省前で行われた反政府デモでは、人質が置かれた状況の責任はネタニヤフ首相にあるとし、参加者らが同首相の写真と共に「あなたがボス、あなたの責任」と書かれたプラカードを掲げた。

昨年11月に開放された元人質の一人は首相に対し、開放への動きを加速させるよう直訴。エジプトの首都カイロとカタールの首都ドーハで予定されている、人質解放協議の担当者に「手ぶらで戻るな」と命じるよう要求した。 【3月31日 AFP】AFPBB News
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上記3月31日の抗議デモは、昨年10月にハマスとの戦闘を始めて以降、最大規模となりました。

【兵役免除・優遇措置のユダヤ教超正統派への批判】
長引く戦闘のなかで抗議の矛先が向かっているのは政府ともう一つ、兵役が免除されているユダヤ教超正統派。
ユダヤ教徒と聞いて私などが思い浮かべる外観イメージの人々です。

****超正統派ユダヤ教教徒****
外見的な特徴としては、男性は頭髪のもみあげを伸ばして黒い帽子・衣服を着用し、女性は鬘やスカーフで地毛を隠すことが多い。

ユダヤ教の教義を学ぶことを最優先と考え、近代的な教育に否定的で、就労していない者が多い。

イスラエル政府から補助金(一家族平均で月3000~4000シェケル)を受け、税や社会保障負担も減免されているが、貧困層が多い。超正統派への公費支出に不満を抱く世俗派ユダヤ教徒もいる。【ウィキペディア】
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****ユダヤ教超正統派教徒の徴兵免除に抗議デモ、平等訴え イスラエル****
 パレスチナ自治区ガザ地区で軍事作戦を続けるイスラエルの主要都市テルアビブの街頭で【3月)16日までに、ユダヤ教超正統派の教徒が徴兵制の対象から除外されていることに抗議する数千人規模が参加するデモ活動があった。

イスラエル国旗を掲げたデモ隊は、「平等の実現なくして結束はない!」などと唱和して気勢を上げた。

イスラエルの社会で超正統派は長年、特別待遇を享受してきた。「イエシバ」と呼ばれるユダヤ教学院は政府から潤沢な補助金を得ている。若年層の教徒は建国期から、実質的に徴兵が免除されてきたという。

イスラエルの最高裁判所は1998年、長らく定着していたこの免除措置を問題視した。政府に対し兵役義務を課さないことは平等の原則に抵触するものだと諭してもいた。

その後の数十年にわたって歴代の政権や国会は問題の解決を試みたが、最高裁はこれらの努力についても違法と再三断じてきた。

ただ、除外措置の維持につながったこれまでの小手先の施策は近く時間切れの節目を迎えそうだ。2018年から続いてきた体面を取り繕うような法的措置が今月末に失効する予定となっている。

イスラエルの野党陣営を率いるラピド前首相は超正統派が徴兵制から除かれていることを長年批判。SNS上で、兵役の適齢期となった超正統派の若者約6万6000人が対象外となり、その一方で一般的な国民らが全面的な負担を引き受けることはあってはならないなどと主張している。

ただ、ネタニヤフ首相率いる連立政権の有力者たちは広範な政治的な支持がなければ首相による超正統派の免除措置の解消を支援しないとの立場を示した。地元のシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」(IDI)の責任者は、場合によっては連立政権を崩壊させかねない重みを持つ極めて大きな問題とも説明した。

一方で超正統派の教徒は、宗教的な学習はユダヤ教の存続に根本的に必要と反論。イスラエルに住む教徒の多くにとってこの学習は、軍にとっての国防の努力と同様に重要なものだと強調している。【3月16日 CNN】
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兵役も免除され、就業していない者も多いということで、軍事・経済におけるその他の者の負担が増すことで、経済的に負担が大きいという批判もあります。

****イスラエル経済、ユダヤ教超正統派の兵役免除続ければ大打撃=中銀****
イスラエル中央銀行は31日公表した2023年の年次報告書で、ユダヤ教超正統派の兵役免除が廃止されなければ、将来にわたって同国に大きな経済的打撃を与えることになると警告した。

ユダヤ教超正統派の兵役免除は長年イスラエル社会に分断をもたしている問題で、ネタニヤフ首相が率いる連立政権は2月に免除廃止に向けた方策を打ち出すと表明。

ただ連立政権内の超正統派系政党からの強い反発を招き、徴兵制度改正法案の策定期限だった31日を控えてネタニヤフ氏が最高裁に30日間の猶予を申し立てるなど、紛糾が続いている。

こうした中で中銀は、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって以来、軍の人員確保ニーズが高まるとともに、それによってイスラエル経済の負担も増大していると指摘。「超正統派を含める形で徴兵対象を広げれば、増大する国防需要を満たしつつ、各国民と経済への悪影響を和らげられる」と指摘した。

中銀によると、経済活動全体に占める超正統派セクターの比率は現在の7%から向こう40年で25%まで上昇すると予想される半面、超正統派の男性のうち働いているのは55%に過ぎない。この傾向が持続すれば、2065年までにイスラエルは国内総生産(GDP)の6%を失い、税負担は跳ね上がるという。【4月1日 ロイター】
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ユダヤ教超正統派に関する問題は今に始まった話ではなく、以前から政治的な重要問題となっています。
下記は2019年当時の記事。

****「超正統派」優遇 高まる不満 イスラエル、異例の再選挙へ****
今年四月の総選挙で勝利したイスラエルのネタニヤフ首相が組閣のための連立交渉に失敗し、異例の再選挙に持ち込まれた。

要因の一つは、ユダヤ教超正統派の兵役免除を巡る右派陣営の意見対立だ。
原則、国民皆兵制のイスラエルだが、超正統派の人口が増え、兵役を免れているなどの実質的な優遇措置が「負担の公平性」の観点から国民の不満を招いている。ユダヤ教国家と民主国家。二つの側面を持つイスラエルが抱える根源的な問題でもある。
 
 ■ユダヤ教の伝統
もみあげを長く伸ばし、黒い帽子とコートを着た男性たち。エルサレムでよく見かける彼らは「ハレディム(神を畏れる人)」とも呼ばれる超正統派だ。
ユダヤ教徒の中でも、戒律を厳格に守り、教義の研究に日常をささげる。信仰の妨げになるため、多くが就労や納税をせず、インターネットを使うのも少数派だ。生活は補助金で賄われる。
 
イスラエルでは十八歳以上の男性は三年間の兵役に就く義務を負うが、超正統派が通う宗教学校生は免除される。第二次大戦でホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を経て建国された一九四八年、ユダヤ教の伝統的精神を守る目的で導入された。聖書を学ぶ時間を奪われる兵役に反対し、「聖書を究めることで、神がユダヤを守っている」と信じる。
 
当初は免除対象者が四百人にすぎない少数派だったが、超正統派は出生率が高く、一人の女性が出産する子どもは世俗派の二・四人に対して六・九人。九一年には人口の5・2%だったのが、二〇一七年には12%を占めるまでに。六五年には三分の一に達するとの推計もあり、国家財政の負担も増している。

 ■生活様式
こうした超正統派に対し、世俗派には不満が募る。政治評論家ハビブ・ゴール氏は「私にも信仰心はある。だが、子どもが(パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織)ハマスとの戦闘の最前線にいる時、超正統派は家で聖書を読んでいると想像すれば、誰もが不公平を感じる」と漏らす。
 
一方、イスラエル中部に住む経営コンサルタントのヨセフ・クリチェリさん(50)は「古代ユダヤの考え方、生活様式は急に変えられない。兵役を強制するのは良くない」と理解を示す。信仰心が薄い世俗派が過度に増えれば、「ユダヤ人の国というアイデンティティーが失われる」と考える。
 
実際には、超正統派の中にも兵役に就く人たちが一定数いる。ただ、食べ物の戒律や男女別の徹底などの教えが軍の規律と合わず、「軍は頭痛の種になるから必要としていない」(ゴール氏)という面もある。

 ■政治的思惑
超正統派は人口増に伴って政治的な影響力も伸長。一四年に兵役を課す法律がいったんは可決されたが、超正統派の二政党がネタニヤフ連立政権に加わって骨抜きにされた。

一七年には最高裁が兵役免除を違憲と判断、一年以内に是正するよう言い渡したが、先送りされてきた。政治コラムニスト、アキバ・エルダール氏は「今や政界のキングメーカーになった」とみる。
 
四月の総選挙(定数一二〇)でも、二政党は計十六議席を獲得。連立交渉でリーベルマン前国防相の極右政党「わが家イスラエル」(五議席)が主張した免除廃止の法制化に反対した。

リーベルマン氏は「宗教の教えで運営される政権には参加しない」と表明。計六十五議席の右派陣営で組閣を目指したネタニヤフ氏だったが、極右政党の不参加で、過半数を得られなかった。(中略)

イスラエルの選挙は歴史的に、パレスチナ問題を争点に右派と左派が争う構図だったが、最近は国民の右傾化が著しくなっている。超正統派を巡る論争は、九月に予定される再選挙で主要な争点になるかもしれない。【2019年6月24日 東京】
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【本来はシオニストではないユダヤ教超正統派 現実には右傾化】
イスラエルと言うと、「シオニズム」という言葉が思い浮かびます。
「シオニズム」とは19世紀後半に起こった政治運動で、ユダヤ人差別・迫害の究極的克服をユダヤ人国民国家の建設によって達成しようとする運動です。その結果として現在のイスラエルが存在しています。

興味深いのは、このユダヤ教超正統派の人々は本来シオニストではないということ。彼らからすればユダヤ人の離散状態は神の意志によるものであり、人間が自らの意思で「イスラエルの地」に再結集するのは許されない・・・という立場のようです。

ただ、ホロコースト後、超正統派の多くも緊急避難場所としてイスラエルの存在を受入れています。

そういう宗教的立場からすればイスラエルという国家は単なる緊急避難場所であり、何としても死守すべきものでは決してないということにもなり、パレスチナ人との対立抗争には無関心という話にもなります。

しかし、現実問題としては宗教全体の右傾化が進み、宗教性が強いほど右派志向が強いという現実も生じています。

超正統派の人々は、パレスチナ国家との平和共存はできない、入植地はイスラエルの安全保障に有益、アラブ人はイスラエルから追放・移住させられるべきといった「右派志向」がその他のユダヤ教徒よりもむしろ高くなっています。【立山良司氏 「拡大するシオニズムの宗教的側面」より】

何事につけ、ものごとは単純ではなさそう。
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