孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「キー橋」崩落で改めて認識されるインフラ劣化という「アキレス腱」

2024-04-07 23:25:43 | アメリカ

(NTSB(国家運輸安全委員会)が撮影した、橋に衝突するコンテナ船「MV Dali」【ウィキペディア】)

【放置されてきた「危ない橋」】
先月26日にアメリカ東部メリーランド州の「フランシス・スコット・キー・ブリッジ」の支柱に貨物船が衝突して橋が崩落、橋の作業員6人が死亡する事故がありました。

****橋が崩落、大型貨物船衝突 不明者6人を捜索―米東部ボルティモア****
米東部メリーランド州で26日午前1時半(日本時間同日午後2時半)ごろ、ボルティモア港を横断する高速道路の橋に貨物船が衝突し、橋の一部が川に崩落した。同州の運輸当局者によると、少なくとも橋の作業員6人が行方不明になっている。救助された1人は病院に搬送された。(中略)

橋桁などの一部が崩落したのは、パタプスコ川の河口付近に架かる環状高速道路695号の「フランシス・スコット・キー橋」。長さ約2.7キロ(4車線)で1977年に開通した。1日約3万5000人が利用しているという。
 
船の管理会社によると、出港したシンガポール船籍の貨物船「ダリ」(全長約300メートル)が橋の支柱の1本に衝突した。乗員らにけがはない。スリランカに向かう予定だった。【3月27日 時事】
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橋の構造・強度についてはまったく知りませんが、素人的には「まあ、支柱に大型船がぶつかれば、崩落することもあるだろうね・・・」とも思えます。

しかし、アメリカのインフラの現状を考えると、単に「不幸な事故」と片づけられないものがあります。

****「危ない橋」がいっぱいの米国 「来るものが来た」とおびえる市民 崩落で6人死亡か****
米国では旅行メディアが、全米の橋の安全度を特集することが多い。「最も危険な橋」などと刺激的な見出しが付けられるが、こうした特集は「怖いもの見たさ」から多くの読者の関心を引くという。

というのも、全米には「危険な橋」が身近に多くあるからだ。米連邦高速道路局(FHA)によると、米国には約61万4000の橋があり、この約40%が平均的な耐用年数である50年を過ぎても十分な補修がないまま使用されているという。このうちFHAが「劣悪な状態」と考えているのは約4万2000もある。

開通から47年 検査では「まあまあ」の分類が悲劇に
米東海岸のメリーランド州ボルティモア港に架かるフランシス・スコット・キー・ブリッジの崩壊は大型タンカーが橋脚に衝突したことが原因だが、米国民にとっては、橋の改修工事が進まない中、「来るものが来てしまった」という気持ちにさせる事故だった。

フランシス・スコット・キー・ブリッジは1977年に架けられた。開通から47年で、老朽化の基準となる「50年」には達しておらず、2021年5月のFHAの検査では「良好」と「劣悪」の間の「まあまあ」状態と分類されていた。

それでも構造的に問題があったのではないかという疑問が米国民の間に沸き起っているのは、フランシス・スコット・キー・ブリッジが架けられた3年後にフロリダ州タンパで大規模な橋の崩落事故があったからだ。

1980年5月9日、悪天候で視界がゼロに近い中で航行していた貨物船が、タンパ湾に架かるサンシャイン・スカイウェイ・ブリッジに衝突した。橋は崩落し、長距離バスを含む車両7台が水深40メートルの湾内に転落し、35人が死亡した。今回のボルティモアでの崩落事故に酷似している。

タンパではその後、7年かけて新しい橋が架けられた。この事故をきっかけに、米国では船舶の衝突による衝撃を軽減するための橋脚保護基準が強化された。

26日に崩壊したフランシス・スコット・キー・ブリッジは、最新の規制が適用される前に建設されている。年間の車両交通量は約3500万台に上る。1980年代後半に改修工事が行われていたが、タンパでの崩落事故を受けた新基準を満たすための大規模改修は行われなかった。

すべて改修に18兆円以上が必要 分かっていても手付けられず
米国で「危ない橋」が放置されているのは、修復するのに莫大な資金が必要だからだ。米国土木学会の試算によると、全米の橋をすべて修復するためには1230億ドルが必要だという。1ドル=150円で換算すると18兆4500億円となる。「危険な橋」は承知していても、米政府といえども簡単に手を付けられる事業ではない。
 
バイデン政権はインフラ投資の看板政策である「米国雇用計画」の中に、老朽化した橋の架け替えに補助金を拠出することを盛り込んでおり、「危険な橋」問題を緊急の課題として取り組む姿勢を示している。ボルティモアでの事故直後にバイデン大統領が、橋再建のための巨額費用を連邦政府が負担することを表明したのも、「危険な橋」の現状を意識してのことだ。(後略)【3月28日 テレ朝news】
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過去数十年間で貨物船の規模が大きくなっていることから、橋脚の保護を早急に強化する必要性が浮き彫りになったと専門家はみています。

フランシス・スコット・キー橋(通称キー橋)は、“一部が崩壊すると構造全体が崩壊する可能性の高い「フラクチャークリティカル」に分類されている。 連邦高速道路局によると、米国にはそうした橋が1万6800本以上あり、有名なニューヨークのブルックリン橋やサンフランシスコのゴールデンゲート橋も含まれる。”【3月29日 ロイター】とのこと。

キー橋建設の3年後にタンパの事故があたにもかかわらず、「キー橋に改良が施されなかったのはなぜか」との疑問も提示されていますが、まあ、“すべて改修に18兆円以上が必要”というおカネの問題でしょう。
“分かっていても手付けられず・・・”というのは、“よくあること”と言えば、そうも言えますが、後で後悔することにも。

なお、キー橋の再建費用は最終的に20億ドルほどになるそうです。

【インフラ投資法を成立させ、インフラ整備に向き合う姿勢を示すバイデン政権だが】
バイデン大統領も放置している訳ではなく、21年11月に5年間で総額1兆ドル(約114兆円)規模のインフラ投資法を成立させています。政治的駆け引きで半分ほどに値切られましたが。

****バイデン大統領、インフラ投資法に署名・成立 5年間で114兆円規模****
バイデン米大統領は15日、5年間で総額1兆ドル(約114兆円)規模のインフラ投資法に署名し、同法が成立した。政権が掲げる経済政策の柱の一つで、上院は8月、下院は11月5日にいずれも超党派の賛成多数で可決していた。2020年の大統領選から「米国の結束」を訴えてきたバイデン氏にとっては、公約を一つ達成したことになる。
 
バイデン氏はホワイトハウスで開いた署名式で「世界最高の安全なインフラにより、米国が世界のリーダーシップを発揮することは長年の課題だった。今日、我々はそれをついに成し遂げる。米国は再び動き出した」とアピールした。
 
同法は道路、橋、電力、鉄道、高速通信網などのインフラ整備に約5500億ドルを新規投資する内容。連邦政府のインフラ投資額は5年にわたり約25%増え、米国土木学会が試算するインフラ投資の不足額のほぼ半分をカバーする。

バイデン氏が3月発表した当初計画は8年間で総額2兆ドル規模だったが、規模や内容で野党・共和党に譲歩を重ね、超党派合意を実現した。バイデン氏は「国を前進させる唯一の方法は、妥協と合意だ。我々は国民のために民主主義を機能させた」と超党派で成立させた意義を強調した。(後略)【2021年11月16日 毎日】
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21年当時は1超ドルは114兆円だったのですね・・・今は150兆円、2,3年で随分な円安です。(なお、規模に関しては“1兆ドル”とする記事と“1兆2000億ドル”とする記事があり、よくわかりません。)

それはともかく、“道路や橋の改修に1100億ドル、バスなど公共交通機関の刷新に390億ドルを投じる。高速通信網や電力網の整備にいずれも650億ドルをあてる。75億ドルをかけて電気自動車(EV)の充電設備を全国に50万基設け、EVの普及を促す。”【2021年11月16日 日経】ということで、道路や橋の改修にあてられる資金は、一桁少なくなります。 

ちなみに道路のほうも、最近では下記のような事故も。
****米カリフォルニア州の高速道路で崖崩れ 一時約1600人が立ち往生****
アメリカ・ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ高速道路で崖崩れが発生し、道路の一部が崩落。一時約1600人が立ち往生する事態となりました。

カリフォルニア州の海岸線を南北に走る「ハイウェイ・ワン」は、ロサンゼルスやサンフランシスコなどをつなぐ西海岸の大動脈です。この道路の舗装部分が先月30日、大雨の影響で崖崩れとともに崩壊し、一時通行止めになりました。

州運輸当局によりますと、周辺約2キロにわたって通行止めにしたことで約1600人が立ち往生しました。この影響で周囲の州立公園5つが閉鎖されています。

この周辺では今年2月にも大雨の影響で2回の土砂崩れがあったばかりです。【4月2日 テレ朝newa】
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【アメリカのアキレス腱ともなっているインフラ劣化】
アメリカのインフラ劣化は大事故のたびに問題視されており、このブログでも取り上げてきました。
2013年12月の列車事故とき、2013年12月13日ブログ「アメリカ 進むインフラ劣化  財政難の要因に“節税の進化”

世界に先駆けてインフラを整備し、繁栄を謳歌してきたアメリカですが、経年的に劣化するインフラ、後回しにされがちな改修・補修はアメリカの「アキレス腱」ともなっています。

****ボルティモアの橋の崩落が浮き彫りにする「米国のアキレス腱」****
ボルティモアのフランシス・スコット・キー橋が崩落した事故は、老朽化した橋を維持する資金と動機が不足しているという米国のインフラの難題を浮き彫りにしたと専門家は考えている。(中略)

ボルティモアの橋は「古くて信頼性の高いインフラであり、ほぼすべての状況下で、あと20〜30年は持ちこたえるはずでした」と米ノースウェスタン大学マコーミック工学院のジョセフ・L・ショーファー社会環境工学名誉教授は話す。「ただし、主要な橋脚を引き抜いたら、橋を救う方法はありません」

ショーファー氏によれば、ボルティモアの崩落に過失が関与していると考える根拠はないものの、過失がインフラ事故の引き金になることもあるという。その1例として、2022年1月にピッツバーグで起きたファーン・ホロー橋の崩落事故をショーファー氏は挙げた。

腐食した鋼鉄製の橋脚を修理すべきだという報告と勧告が無視された結果、長さ約135メートルの橋が崩落し、バス1台と車4台が下の公園に転落したと、米国家運輸安全委員会は結論づけている。

列車の脱線、高速道路や橋の崩落、ダムの決壊が全米で起きており、専門家は不穏な傾向だと考えている。では、インフラ災害が最も差し迫っているのはどこで、私たちに何ができるのだろうか。

橋の10分の1が損傷、多くが時間切れの状態
(中略)しかし全米には、あまり注目されていない重要な構造物がいくつもある。
「あちこちに教訓があります」と語るのは、米国土木学会(ASCE)の会長と米国家インフラ諮問委員会の副委員長を務めるマリア・リーマン氏だ。

「全米のすべての郡に、資金があれば明日にでも架けかえたい橋があります」
全米には61万7000の橋があり、大河に架かる橋だけでなく、高速道路の高架橋や小川に架かる橋もある。そして、実にその10分の1近くが大きく損傷している。(中略)

ASCEの2021年の報告によれば、米国民は毎日、構造的欠陥がある橋を1億7800万回も利用している。
しかし米国では、GDPの1.5〜2.5%しかインフラに投じられておらず、その割合はEUの半分以下だとリーマン氏は指摘する。

この長期的な資金不足によって、多くの解決策が時間切れになっている。米国の橋の多くは30〜50年持つように建設されたが、半数近くはすでに、建設から半世紀が経過している。堤防も平均50年、ダムも57年が経過している。

どうなる? 米国のインフラの未来
新技術の導入は遅々としているものの、米国が抱えるインフラ問題の一部を解決できるとムケルジー氏は楽観視している。ドローンを活用すれば、人が到達できない場所を細部まで見ることができ、人的ミスの可能性を減らすことができる。ミシシッピ川の橋で亀裂が発見される2年前、無関係のドローンが撮影した動画にこの亀裂が映っていた。

米メリーランド大学カレッジパーク校の社会環境工学教授ビラル・アイユーブ氏は北米の貨物鉄道会社と連携し、コンピューターモデリングで線路の脆弱(ぜいじゃく)性を探している。何千もの駅を詳細に調べ、「損傷が発生した場合、最も大きな影響が予想される地点を正確に特定」できるとアイユーブ氏は説明する。
 
専門家によれば、朗報が1つある。2021年、米連邦議会で超党派インフラ法が可決され、米国の社会を支えるシステムの不調に5年間で1兆2000億ドル(約180兆円)が投じられることになったのだ。これは米国史上最大の連邦政府の投資だ。

「過去8人の大統領は皆、インフラに1兆ドル単位の大金を投じるべきだと言いましたが、一度も実現しませんでした」とリーマン氏は話す。

しかし、定期的に資金を投入しなければ、出血を止めるくらいのことしかできないだろう。国民の生活の大部分を可能にしているシステムがまだ使えるうちに、政府が整備を始めるときが来たとリーマン氏は考えている。

「雨漏りがあれば、屋根に登って穴を見つけ、屋根板を交換し、タールを塗ります」とリーマン氏は話す。「何もせずに放置すれば、少しの修理では済みません。屋根を丸ごと取り換えることになるんです」【3月28日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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おそらく5年間で1兆ドルでも1兆2000億ドルでも一時しのぎにすぎないでしょう。公的資金投入に関して基本的な発想を変えて、インフラ補修・改修に定期的に資金を投入していく必要があるのでしょうが・・・。

【東部で地震 更に大きな地震なら築100年のビルが林立するNYは・・・】
こうした状況で、本来であれば非常に憂慮すべき出来事が起きています。

****米東部でM4.8の地震 「過去140年で最大」NYは一時騒然****
米地質調査所(USGS)によると、東部ニュージャージー州で5日午前10時20分(日本時間5日午後11時20分)ごろ、マグニチュード(M)4・8の地震があった。

ニューヨーク市を含む東部から北東部にかけて揺れが観測され、CNNなど主要放送局は現地からの中継で速報を流した。地震の発生自体が珍しく、米メディアによると、周辺地域で観測された地震としては過去140年で最大規模という。(後略)【4月6日 毎日】
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地震の少ない地域ということで大きな話題にはなりましたが、幸い大きな被害は出ていない様子です。
しかし、万一、もう少し規模が大きい地震だったら・・・と考えると、深刻な問題が潜んでいます。

****ニューヨーク過去140年で最大規模の地震…災害大国・日本から見たぜい弱なインフラへの懸念*****
5日午前、アメリカ・ニューヨーク市に隣接するニュージャージー州を震源とするマグニチュード4.8の地震が起きた。過去140年で最大規模の地震で、地震が珍しいニューヨークの地元局では大きなニュースとなった。

大きな被害は幸い出ていないが、災害大国・日本と比べてニューヨークのぜい弱な災害インフラとは。

(中略)
■140年ぶりの最大規模の地震・・・大きな被害はないが警鐘も
アメリカ東海岸では地震はめったに起こらない。1950年以降、マグニチュード4.5以上の地震が発生したのはおよそ20回だけだという。現地メディアによると、ニューヨークで観測された大きな地震は、1884年に観測されたマグニチュード5.2。金曜に観測されたマグニチュード4.8と比べると4倍の規模だ。

幸い今回の地震では、マンハッタンの建物に大きな被害は報告されなかったが、ニューヨーク・タイムズは1884年と同じ規模のマグニチュード5.2の地震(今回の地震のおよそ4倍の規模)が起きると100棟が倒壊し、建物や交通機関、公共施設への損害は日本円でおよそ7000億円にのぼり、2000人が路頭に迷うと警鐘を鳴らす。

■築100年のビルが林立・・・日本と比べるとぜい弱なニューヨークの災害インフラ
ニューヨークで生活していると、インフラは災害大国・日本に比べてだいぶぜい弱だと感じる。都市の廃水機能が弱いため、どしゃ降りの雨が少しの時間降っただけで道路は水浸しになり、100年以上前から走っている地下鉄の駅構内は、雨漏りどころか水が吹き出して至る所にバケツが出される。

またグランド・セントラル駅周辺には、1920年代に建築された築100年の高層ビルが林立しているし、最近は下層階にいくほどスリムな造りで、見るからに揺れには弱そうなデザインのビルもある。

橋やトンネルのインフラも老朽化していて、大災害が起きた場合マンハッタンからの避難経路がズタズタになることが懸念される。

ニューヨークで滅多に起きない地震を体感し、被害が少ないながらも大騒ぎになったこの街を見て、地震大国の日本に生まれ育った者として災害への日頃の備えがいかに重要かを改めて実感した。【4月7日 日テレNEWS】
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