孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民問題の「アウトソーシング」 オーストラリア、イギリス、イタリアの場合

2023-11-15 23:35:25 | 難民・移民

(【2022年11月15日 NHK】オーストラリアへの難民申請を求める人たちを移送・収容する南太平洋の島国ナウルの施設)

【オーストラリアの「パシフィック・ソリューション」】
多くの国が難民・不法移民の扱いには、人道的観点を重視して共生を目指すのか、受入れによって国内で惹起される様々な難題を重視して排除を原則とするのか苦慮していますが、排除の立場から、外国(多くは途上国)に資金提供して収容施設を建設し、そこに移送・収容するという、移民問題を「アウトソーシング」するような方策をとる国もあります。

オーストラリアが取っている「パシフィック・ソリューション」もその一つです。

****パシフィック・ソリューション****
2001年8月、オーストラリア政府は、400人以上の難民認定を求める人たち(多くはアフガニスタン人)を乗せた船が国内の港に入ることを拒否。乗船者の健康状態が悪化する中、オーストラリア政府は、ナウルとニュージーランドに移送することを決定した。船の名前にちなんで「タンパ号事件」として知られている。

これを機に、オーストラリアは、難民申請を求める人たちを上陸させず、他国で難民審査を行うため、2001年9月にナウルと、翌10月にパプアニューギニアと協定を結んだ。オーストラリアのこの措置は「パシフィック・ソリューション」と呼ばれるようになった。

こうした政策の導入について、当時のオーストラリア政府は、「オーストラリアは寛容で開かれた国であり、世界でも最も多くの難民を受け入れている国の1つである」とした上で、「私たちには誰が、そしてどのように来るのかを決める権利がある」と主張した。

「パシフィック・ソリューション」では、国際移民機関(IOM)がナウルとパプアニューギニアにおける施設の運営を担い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も初期の一部の難民審査に関わるが、その審査体制の透明性や施設の環境・人々の管理体制について、人道上の観点からUNHCRを含む国内外からの懸念や批判が絶えず、2008年に一度は解体された。

しかし、施設の閉鎖後、再び海からの不法入国者が急増したことで、2012年9月からナウル共和国への移送、2012年11月からパプアニューギニアへの移送を再開。

これに対して再び批判が高まり、パプアニューギニアの施設は2016年4月にパプアニューギニアの最高裁判所から「違憲状態にある」との判決が出される。2017年6月にはオーストラリア政府もこれを認めて収容された人に対して慰謝料を払うことを発表。施設は2021年末に完全に閉鎖された。

一方、ナウルとは、2021年9月「永続的な施設の維持を構築する」とする覚え書きを交わした。【2022年11月15日 NHK】
**********************

【収容された人々には「自殺願望」「あきらめ症候群」】
こうした施設に収容された人々は「先が見えない状況」に長期間置かれることで、精神的に追い詰められることが多いことが報告されています。

****生きることをあきらめる人たち 絶望が招く「あきらめ症候群」*****
寝たきりになり、食べ物を食べなくなり、トイレにも行かなくなる。 そして、昏睡状態になって、痩せ細っていく。 安全な地で、人として当たり前の暮らしをしたい。 そう願って祖国を離れた人たちに待ち受けていたのは、“絶望”だったのかもしれません。

子どもが自殺願望を口にする、小さな島
「診察した患者のうち、60%に自殺願望がみられ、30%が未遂を起こしました。9歳の子どもですら“自殺”を口にして、実際に未遂をしていた状況は、あまりにも恐ろしかったです」
当時の状況をこのように話すのは、ニュージーランドの精神科医、ベス・オコナーさんです。

オコナーさんは「国境なき医師団」のメンバーとして、2017年の秋から約1年にわたり、南太平洋の小さな島国ナウル共和国に滞在しました。(中略)

難民認定を求める人たちの行き先は…
ナウルにあったその施設は、難民認定を求める人たちを収容する「ナウル地域処理センター(Nauru Regional Processing Centre)」という施設です。 そこで暮らしていたのは、オーストラリアでの難民認定を求めて、イラン、アフガニスタン、スリランカなどからボートで海を渡って来た人たち。

なぜ、オーストラリアでの難民認定を求めた人たちが、ナウルにいるのか? その理由は、オーストラリア政府がナウルと2001年に交わした「パシフィック・ソリューション」という措置です。

オーストラリア政府は、難民認定を求める人たちが密航業者などを通じて、危険な行路で海を渡る行為を根絶することを目的に、ボートでやってきた人たちをナウルなどへ移送・収容し、そこで難民申請などの手続きを行うとしたのです。

オーストラリア政府は、移送や滞在に必要な経費を負担するだけでなく、ナウルに対して追加の開発援助も行うことを表明。 ナウルの当時の大統領も「友が我々に頼んだ。我々は友人を助けることを決めた」と述べて、運用が始まることになりました。

これによって、ナウルに収容されたのは、最も多いときの2014年8月には、1233人に上りました。ナウルの人口1万人余りの10%近くに上る人数でした。

プライバシーのない暮らし
(中略)大人から子どもまでいた収容された人たち。診察した208人のうち75%が、施設に来る前に母国や旅の間で、何らかの精神的な苦痛を受けていたといいます。ナウルに到着したあとで、身体的な暴力を受けていた人もいたということです。

また、診察した人たちの約6割に中度から重度のうつ症状が見られ、心理的な安全を感じることができる環境が必要だったといいます。

しかし、収容された人たちは名前ではなく”番号”で呼ばれ、施設内では狭い場所に密集し、プライバシーのない状態だったということです。 長い人では4年以上も、そうした状況で暮らしている人もいたそうです。

収容された人たちは難民申請が認められれば、オーストラリアなどで暮らすことになっていましたが、いつ認められて施設を出られるのか、基準も明らかになっていなかったともいいます。

自殺を考え、生きることをあきらめる人たち
オコナーさんたちがヒアリングする中で特に驚いたのが、収容された人たちの多くに自殺願望がみられたことでした。

6割の人たちに自殺願望がみられ、3割が実際に未遂を起こしていたのだといいます。自殺未遂を起こした人の中には9歳の子どももいたということです。

オコナーさんたちは、自分の人生を自分で決めることが許されず、毎日が単調に過ぎていく中で、将来に絶望した人たちが、そうした願望を抱いてしまったと考えました。

さらに精神状態が悪化した子どもや大人の中には、ある症状が現れていたとオコナーさんは話しました。 それは「あきらめ症候群(生存放棄症候群)」と呼ばれるものでした。 

オコナーさんたちが現地で活動中「あきらめ症候群」の症状が出たのは、10人の子どもと2人の大人だったといいます。

ある子どもは、時間がたつにつれて引きこもるようになり、その後寝たきりになって食事もとらなくなったそうです。話しかけても言葉を返さず、寝ている場所で失禁するようにもなったといいます。

昏睡状態になり、鼻からチューブを入れて胃に直接栄養を送る必要がありましたが、高度な医療を行う設備がなかったことから、法廷に訴えることで、なんとかオーストラリアの病院に移送することができたということです。(中略)

詳しい原因は分かっていませんが、心の傷を抱えた人が、何年にもわたり先の見えない状況に置かれることで、生きることをあきらめたような状態になると考えられています。(後略)【同上】
******************

【イギリス ルワンダ移送を計画 最高裁は違法判断】
オーストラリアのパシフィック・ソリューションと似たような制度を導入しようとしているのがイギリスです。

****英政府、不法移民の対策に苦慮 ルワンダ移送計画は難航****
英政府が増加する不法移民・難民への対応に苦慮している。小型ボートで英国に入る密入国者は2018年から150倍以上に増え、受け入れ施設の費用などで財政を圧迫。

スナク政権はアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を推し進めたい考えだが、英控訴院は移送は違法との判決を下した。国連や人権団体、司法が計画に待ったをかけており、円滑な実現は困難とみられている。

英政府によると、英仏海峡を小型ボートで渡ってきた密入国者は22年に4万5700人を超え、前年の約2万8000人を大きく上回った。18年(299人)以来最も多い。

政情が不安定なイラクやシリアなどからの不法移民が増えたほか、バルカン半島のアルバニアからも仕事を求めて若者が殺到。犯罪組織が金銭を受け取り小型ボートを手配しているとの情報もある。

英国は受け入れ施設の費用などで年間約30億ポンド(約5440億円)を負担しているとされ、財政を圧迫。スナク首相は「不法移民の流入を阻止することは優先事項だ」と断言する。

スナク政権はルワンダに1億2千万ポンド(約218億円)を投資する代わりに、英国に密入国した亡命希望者を受け入れてもらう計画の実現を目指す。英国での居住を容認しない方針を明示することで密航を抑止する狙いがある。政権は今月、不法移民らの英国への難民申請を認めないとする法を成立させた。

ルワンダへの移送計画をめぐっては、ジョンソン政権が不法移民の増加は「医療や福祉の負担となる」とし昨年4月に掲げた。ジョンソン元首相は当時、1990年代の大虐殺を乗り越えて高度成長を遂げ、リビアなどから難民を受け入れたルワンダを「世界で最も安全な国の一つ」と強調した。

英政府は難民の生命や自由が脅かされない国を「安全な第三国」と定義している。移送された移民らはルワンダで亡命申請手続きを行い、申請が受理されれば、最長で5年間の教育や支援が受けられる。

しかし、国連や人権団体は計画を受け継いだスナク政権に厳しい目を向ける。グランディ国連難民高等弁務官は難民条約上の責任を他国に押しつけることは「国際的な責任分担に反する」と批判した。

強権的とされるカガメ大統領の下、ルワンダで難民が虐待されたとの報告もあり、メイ元英首相が移送による不法移民の人権状況の悪化を懸念するなど与党・保守党内でも計画に否定的な発言が目立つ。

英控訴院は6月29日、ルワンダを「安全な第三国」とみなせないとし、移送は違法との判決を下した。スナク政権は上訴の意向を表明したが、司法での争いは数年間続く可能性がある。

一方、スナク政権は非正規なルートで渡航した亡命希望者ら約500人を英南西部の港に係留させたバージ船に入居させる計画も準備。1日600万ポンド(約11億円)の宿泊費を削減できるが、この計画に対しても人権団体が亡命希望者らを船に閉じ込めるのは「残酷だ」と非難しており、「円滑に入居が進むかは不透明」(元議員)という。【7月30日 産経】
********************

イギリスで密入国者が増加した背景にはEU離脱もあります。
イギリスはEUから離脱したことで、フランスとの関係が悪化、。これまでフランス側で留め置いてもらっていた難民たちが、一気に海峡を渡ってきた・・・ということもあります。

EUからの移民急増を防ぐことを目的の一つに掲げたEU離脱の結果、逆に不法移民が急増することにもなっています。

上記記事にもあるように、グランディ国連難民高等弁務官は昨年6月、責任を「輸出」することは難民条約の考えに反すると指摘。イギリス政府の政策を「完全に間違っている」と非難する声明を発表しています。

イギリスのルワンダ移送計画に対する司法判断は、一審は「合法」としましたが、二審は拷問や非人道的な扱いを禁じる欧州人権条約(ECHR)に違反すると判断。イギリス政府は最高裁に上訴するとともに、ECHRからの脱退も辞さない強硬な姿勢を見せてきました。

そして、さきほど報じられている情報によれば、最高裁は15日、違法と判断しました。

****不法移民のルワンダ移送は「違法」 英最高裁が判断****
英最高裁は15日、難民申請をするために英国にたどり着いた不法移民を東アフリカのルワンダに移送する英政府の計画を違法とする判断を全員一致で下した。

厳格な移民政策をとってきた保守党のスナク政権に大きな打撃となるのは確実で、来年にも実施される総選挙で移民流入の阻止を公約に掲げる同党の選挙戦略にも影響を与えそうだ。

(中略)最高裁はこの日、「ルワンダで移民らが迫害を受ける恐れがある」と指摘して2審の判断を支持した。
最高裁は一方で「(計画では)迫害のリスクが取り除かれる必要がある」としており、英政府が今後、改訂版の移送計画を出す余地も残された。

スナク英首相は判断を受け「不法移民の阻止に向けてあらゆる手段を講じる」との声明を発表した。【11月15日 産経】
********************

【イタリア・メローニ政権 対岸のアルバニア移送で合意】
一方、移民・難民の最終目的がイギリスなら、その玄関口となっているのがイタリア。
そのイタリア・メローニ政権もイギリスと同様の政策を計画しています。移送先はアドリア海対岸と地理的にも近いアルバニア。

****伊、アルバニアに移民収容施設 「保護受ける権利侵害」と批判****
「不法移民排斥」を掲げるイタリアのメローニ政権が今月、同国の船が海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表した。送還に向けた対策強化が狙いで、移民らは難民申請の審査中、施設に留め置かれる。支援団体からはEU域外への移送について「保護を受ける権利の侵害」と批判の声が上がる。
 
「EU加盟国と非加盟国の協力のモデルになる」。メローニ首相は6日、アルバニアのラマ首相とローマで記者会見し、両国政府が合意した協定の重要性を強調した。来春までに二つの施設を開設予定で一度に最大3千人を収容可能。年間では最大3万6千人の手続きを処理できると見込む。【11月10日 共同】
*******************

*******************
イタリアは南伊都市のバーリ近郊であるアルバニアのシェンジン港と内陸20キロのジャデル地区を使用し、イタリアから送還された移民を管理するコンピテンスセンター2つを建設する予定だ。2024年春より稼働開始を目標としている。

センターが建設される地域はアルバニアが無償で供与するが、センターの建設はイタリアの責任の下、建設費用も全額イタリアの自腹。

アルバニアのセンターに必要な医療サービスを保証するための医療体制を確立するのもイタリア当局の責任となる。
センター内の秩序と安全は、境界線と移動はアルバニアによって制御および管理されるが、管轄はイタリア当局になるので、イタリア法および欧州の関連法に従うという。【11月9日 Newsweek】
************************

メローニ政権は極右とも評される右寄り政権ですが、国内左派系野党は「本当の意味での国外追放だ」「イタリアのグアンタナモ収容所ってことだな」などと猛反対しています。

欧州委員会は書類を検討中であるとのこと。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 中東諸国とイスラエル  ガ... | トップ | 進む温暖化 遅れるCO2削減 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

難民・移民」カテゴリの最新記事