孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  緊張を高める軍学校へのテロと米軍のトルコドローン撃墜 南部都市では長期の反政府デモ

2023-10-06 23:44:45 | 中東情勢

(シリア南部の都市スワイダーで抗議活動に参加し、ドゥルーズ派の旗を振る数千人のシリア人たち。2023年9月15日。【9月17日 ARAB NEWS】)

【軍学校へのドローン攻撃 政府軍は「報復」 現状変更の思惑の指摘も】
12年以上内戦が続く中東シリアでは、ロシアとイランの支援を受けたアサド政権が軍事的優位を確立しています。
ただ、トルコの支援を受ける反体制派(シャーム解放機構(シリアにおけるアルカーイダ)が中心勢力)は北西部イドリブ県周辺を最後の拠点として抵抗を続けています。

また、北部のクルド人勢力とアメリカが共同してイスラム過激派「イスラム国」掃討作戦を行っていますが、そのクルド人勢力をテロ組織とするトルコはシリア北部に軍事進攻し、クルド人勢力から支配地域を奪っており、クルド人勢力と共同するアメリカと敵対するトルコは同じNATO加盟国ながら対立する関係にあります。

また、シリアに展開するイランの拠点を狙ってイスラエルの攻撃も続いています。

上記のような政府軍・反体制派・イスラム過激派・関係国(ロシア・イラン・アメリカ・トルコ・イスラエル)入り乱れての複雑な関係の構図は、基本的に今も変わっていません。
別の言い方をすれば、そうした複雑な関係を維持したまま、ある種のバランス状態にもあります。

そんなシリアのアサド政権が支配する中部ホムスで5日、軍学校の卒業式がドローン攻撃を受けました。

****卒業式の最中にドローン攻撃 シリア軍学校で100人超死亡****
シリアの軍学校で卒業式の最中にドローン攻撃があり、少なくとも116人が死亡し、120人が負傷しました。

シリア中部の都市、ホムスにある軍学校で5日、ドローン攻撃があり、イギリスの人権団体「シリア人権監視団」によりますと、少なくとも116人が死亡し、120人が負傷しました。

軍学校ではこの日、卒業式が行われていて、ドローン攻撃による爆発で卒業生以外に家族や軍関係者も犠牲になったということです。

ロイター通信はシリア治安当局者らの話として、国防相も卒業式に出席していましたが、攻撃の数分前に退席したと伝えました。

シリア政府は声明で、攻撃を「アメリカに支援されたテロリストグループの犯行」とし、敵対するクルド人武装勢力が関与したとの見方を示しています。【10月6日 テレ朝news】
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シリア政府はアメリカに支援されたクルド人武装勢力が関与したとの声明を出しているとのことですが、犯行声明もなく、その根拠は知りません。

クルド人勢力が敢えて今、政府軍に対し大規模な攻撃を仕掛ける背景もわかりません。

一方、政府軍は「報復」と称してイドリブ県やアレッポ県で砲撃やミサイル攻撃を行っているとか。【10月6日 中東調査会】

“消息筋の中には今般の攻撃を契機に(特にイドリブ方面で)シリア軍が現状を変更するほどの攻勢に出る可能性を指摘するものもある。現時点で攻撃の実行者は不明だが、イドリブ方面での現状変更という政治的な反響を呼ぶ行動へと発展するならば、諸当事者にとって攻撃の実行者が何者かという問題はさしたる関心事ではなくなるだろう。”【同上】

つまり、今回の攻撃の犯人が誰であるかにかかわらず、政府軍はこれを機に、現在の“ある種のバランス状態”維持をやめて、イドリブ周辺(更には北部クルド人支配地域?)への攻勢を開始するつもりかも・・・という指摘です。

ただ、アサド政権がそうした現状変更に打って出るとしたら、“トルコ、ロシア、イランなどの諸当事者との間に事前に連絡や調整がついているか、事後に相応の合意が得られる確証がある場合に限られるだろう。”【同上】という条件をクリアする必要があります。 そこらの話がどうなっているのか・・・わかりません。

【クルド人勢力と協調するアメリカと、敵対するトルコの関係が緊張】
シリアでは、もうひとつ緊張を高める動きがありました。
クルド人勢力との関係をめぐって緊張関係にあるアメリカ・トルコですが、アメリカがNATO加盟国トルコのドローンをF16戦闘機で撃墜したとのこと。

****米軍、シリアでトルコ軍無人機を撃墜 NATO加盟国同士****
米国防総省は5日、シリアに駐留する米軍部隊に接近したトルコ軍の無人機を脅威とみなし撃墜したと発表した。米国とトルコはともに北大西洋条約機構加盟国で、両国間の緊張が高まる恐れがある。

トルコは首都アンカラで起きた反政府武装組織「クルド労働者党」による自爆テロを受け、シリア国内のクルド人勢力を攻撃していた。

米国防総省のパット・ライダー報道官によると同日未明、米軍の拠点が約1キロにあるシリア北東部ハサケ近郊の「運用制限区域」内外で空爆を実施していた複数の無人機を確認。

数時間後に再び、トルコ軍の無人機1機がROZに現れ、米軍拠点から0.5キロ以内にまで接近したため、潜在的脅威とみなしF16戦闘機で撃墜したと述べた。ある米軍高官は、トルコ側には繰り返し警告したと述べている。

ライダー氏によると、ロイド・オースティン米国防長官とトルコのヤサル・ギュレル国防相はこの事態を受けて、「シリア北部における緊張緩和、および確立されている両軍の対話チャンネルを通じた衝突回避プロトコルと意思疎通を厳守することの重要性」を再確認した。

米軍はイスラム過激派組織「イスラム国」との戦いの一環として、シリアに約900人規模の部隊を派遣。2019年にシリアからのIS追放に至る戦闘を主導したクルド人主導の民兵組織「シリア民主軍」と連携している。
だがトルコは、SDFの主力となっているクルド人部隊を、トルコの反政府組織であり西側諸国からもテロ集団とされるPKKの一派とみなしている。 【10月6日 AFP】
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トルコの今回のクルド人勢力拠点攻撃の直接の引き金になったのが、トルコ・アンカラでの自爆テロ。

****トルコ・アンカラ 内務省前で爆弾テロ、警察官2人ケガ 内相「テロリスト2人が爆弾による攻撃を実行」****
トルコの首都・アンカラの内務省前で1日朝、爆弾テロが発生しました。これまでに警察官2人がケガをしています。

地元メディアによりますと、1日午前9時半ごろ、首都アンカラにある内務省の入り口ゲート前で爆発がありました。

トルコのイェルリカヤ内相はSNS上で、「テロリスト2人が車で内務省にやってきて、爆弾による攻撃を実行した」と明らかにし、これまでに警察官2人が軽いケガをしたと述べました。さらに「テロリストの1人は自爆し、もう1人は殺害された」としています。

トルコでは去年11月にもイスタンブールで6人が死亡、81人がケガをする爆発事件が起きていて、トルコ政府はクルド人武装勢力が関与したとみています。【10月1日 日テレNEWS】
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少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)に近いニュースサイトは同日、PKKの系列組織が実行したと伝えています。

これを受けてトルコ軍は大規模な報復攻撃に出ています。

****トルコ、PKK拠点20か所を空爆 首都の自爆攻撃受け****
トルコの首都アンカラで1日朝、自爆攻撃があったのを受け、国防省は同日、イラク北部クルディスタン地域で「クルド労働者党を無力化」する「空爆作戦」を実施し、「テロリストの拠点20か所」を破壊したと明らかにした。(中略)

レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は(アンカラでの)爆発から数時間後に議会で演説。「市民の平和と安全を脅かす悪党は目的を達成できなかった。今後も達成することは絶対にない」と強調した。 【10月2日 AFP】
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“トルコ政府は1日に首都アンカラの内務省付近で起きた爆発事件で「犯人はシリアから越境してきた」と主張し、1日からシリアやイラクでクルド人武装勢力への空爆を断続的に実施していた。”【10月6日 毎日】とのことで、米軍F16によるトルコドローン撃墜が起きたトルコのクルド人勢力拠点攻撃も、こうしたクルド人勢力への攻撃の一環でした。

駐留米軍が設定している「飛行制限区域」に侵入して、米軍の拠点から約500メートルまで接近するというトルコのドローン攻撃でしたが、「たとえ米軍と協力関係にあっても、トルコはクルド人勢力を容赦しない」というトルコ側の強い意思表示でしょう。

一方、トルコドローンを撃墜したアメリカも「アメリカへの手出しは絶対に許さない」という意思表示ですが、今後、アメリカにとって友軍でもあるクルド人勢力への攻撃を強めることも予想されるトルコに対し、米軍がどのように対応するのか・・・・これまでも“見捨てる”対応でしたので、今後も米軍への直接の攻撃がない限りは同様に“見捨てる”のでは・・・。

軍学校卒業式への攻撃の「報復」を行う政府軍、クルド人勢力への攻撃を強めるトルコ・・・“ある種のバランス”を崩す現状変更にまで至るのか・・・注目されます。

【南部スワイダーで異例の長期化する反政府デモ】
一方、シリア南部スワイダーでは、8月下旬から市民の反政府デモが続いており、異例の長期化となっています。

“デモは8月下旬、アサド氏が公務員の賃上げや燃料費の補助金打ち切りを決定した後に始まった。物価高や通貨暴落による生活苦への不満が背景にある。スワイダのデモに呼応し、首都ダマスカスや北部アレッポなどでも小規模ながら抗議活動が行われた。”【9月2日 共同】

****シリア南部の都市スワイダーの市民たちが全てを賭けて抗議活動を行う理由****
シリアの都市スワイダーにおける抗議活動は既に1ヶ月以上継続しており、市民は主として中心部のアル・カラマ広場に参集し、首都ダマスカスの中央政府に経済と政治の改革を実施するよう要求している。

15日金曜日には、3,500人から4,000人が南部都市スワイダーに結集した。この最大規模の反体制的抗議活動は、シリア国民が戦争の経済的影響への懸念を深める中、1ヶ月以上継続し、さらに激しさを増している。

2011年の蜂起の舞台となったスワイダーとその近郊のデラアにおける抗議活動は、バッシャール・アル・アサド大統領の政権が8月に燃料補助金を削減し、ガソリン価格を250%近く引き上げたことに端を発している。

超インフレは、シリア国民が日々の生活で対峙することを余儀なくされている数多くの試練の1つに過ぎない。とはいえ、政府支配地域のシリア国民の推定90%が貧困ライン未満で生活し、同国民の半数が食料不安に直面していることを考慮すると、この超インフレは凡庸な問題ではない。

悲惨な経済状況や劣悪な生活水準に加えて、シリア国民は一向に改善しない基本的権利の欠如に不満を募らせている。

「最近の経済的決定が抗議活動の発火点になったことは間違いありませんが、問題は単なる生活関連の要求に留まりません」と、スワイダーを拠点とする市民社会団体「ジュゾール」のアイハム・アッザム代表はアラブニュースに語った。

抗議活動の参加者らは、経済上の問題に留まらない、「政治的権利や社会的権利、公民権、及び、公共の自由、拘留者の解放」を含むより幅広い要求を掲げていると、アッザム代表は付け加えた。

15日金曜日、スワイダー24というメディアは、数千人の男女が反体制的なスローガンを唱え、ドゥルーズ派の旗を振る動画を公開した。抗議活動はシリア南部のいくつかの都市だけで留まっているものの、現況は全国に拡大している政治的心情を反映したものだと観測筋は指摘している。

「大規模デモは依然として少数ですが、シリアの一般大衆の姿勢には明確な変化があり、現体制や指導者層にたいして公然かつ大胆な批判の声を上げようとする意思が感じられます」と、シリア系カナダ人のアナリストであるカミーユ・オトラックジ氏はアラブニュースに語った。

(中略)シリア政府は、公共部門の給与を倍増し、最低月額給与を約22米ドルに相当する185,940シリア・ポンドにまで引き上げた。しかし、この措置は、政府支配地域で生活する人々が経験している困窮状況に対して効果が無く、彼らの生活水準に改善の兆しは現れなかった。

「シリア政府は、燃料補助金を撤廃し、貧困世帯や困窮世帯への支援からの撤退を継続し、経済的負担を市民社会や国外に居住するシリア人、人道支援団体に転嫁していこうとしています」と、ドイツを拠点とするシリア政策研究センターの経済を専門とする研究者であるモハメド・アル・アサディ氏はアラブニュースに語った。

シリア総人口の約70%が援助を必要としていると国連の統計データが指摘する一方で、現地の慈善団体は増大する需要への対応に苦闘している。

国連シリア担当特使のゲイル・ペデルセン氏は、最近、ダマスカスを訪問し、シリアの状況が「紛争のピーク時よりも経済的には悪化しています」との警告を発した。

シリアの首都ダマスカスで、ファイサル・ミクダード外相との会談後に、ペデルセン特使は、「人道的ニーズが高まる一方で、シリアへの資金援助が減少していることは受け入れられません」と付け加えた。

「シリアにおいて、この危機の政治的影響に対応しなければ、深刻な経済的危機と人道的苦難も継続することになるでしょう」

一家の稼ぎ手である50歳のフダ・アル・アフマド氏は、数か月前に職を失った。ダマスカスを拠点とする慈善団体のアル・マバラットが彼女の近隣地区への基本的な食料の配布を中止して以来、アル・アフマド氏の家族は1年間にわたって苦しみ抜いているのだという。

「コーヒーはダマスカスの各家庭で日々の必需品でした。現在では、コーヒーは贅沢品です」と、アル・アフマド氏はアラブニュースに語った。購入する前に躊躇ったことなど昔はありませんでしたが、現在では1ヶ月に1オンス買う余裕すらありません。小さなカップ3杯分のコーヒーを淹れるだけで、現在は、5,000シリア・ポンドかかってしまうのです」

一方、アル・アフマド氏の住むダマスカス郊外県のセット・ゼイナブからダマスカスまでの日々の通勤には、少なくとも4,000シリア・ポンドが必要である。

「娘と私は1週間近く体調不良ですが鎮痛薬を買う余裕さえありません」と、アフマド氏は語った。「私たち家族は、どんな種類の果物も、肉もデザートも1年近く買えないでいます。米と麦を食べないで2ヶ月過ごさない限り、とても買えないのです」

経済活動の促進や脱税の防止、汚職の撲滅、軍事費の削減といった政策には、政治的な意思や意思決定プロセスにおける市民社会の関与、代議制が必要であるためシリアでは実行不可能であると、アナリストらは考えている。

「現行の社会経済的、政治的構造では、こうした前提条件を満たすことは不可能です」と、シリア政策研究センターのアル・アサディ氏は述べた。

それどころか、現行の政策は、「貧困ギャップを深化させ、何万もの貧しい世帯を、全体の貧困ラインをずっと下回る極端な貧困にまで押し下げてしまうことでしょう。燃料補助金の撤廃は、財政赤字削減のための最も容易で手っ取り早い手段ではあります」

生活水準の急速な低下にも関わらず、複数の非政府組織とダマスカス当局は、首都の公共スペースの改装のためにに協力した。

中央銀行近傍の「サバ・バーラート(七つの泉)広場」の改装後の写真がソーシャルメディアで拡散され、国内でこれほど数多くの人々が電力不足や食料と燃料の欠乏に苦しんでいる時に都市の美化に散財をするのは不快なことだと評論家らが批判的なコメントを述べた。(中略)

現地ソーシャルメディアのコメンテーターの数多くは、この資金は貧困層への食料支援やシリア国内の他の都市同様頻繁に停電の発生するダマスカスの街路照明のための太陽エネルギー利用設備に充てられるべきだったと語っている。

「シリアのGDP(国民総生産)と年間予算はアラブの春以前の水準から大きく減少しました」と、シリア系カナダ人のアナリストであるオトラックジ氏は語った。「シリア政府は現在極めて限定された財源で運営されており、長期的に維持可能とは言い得ない状況にあります」

「この不安定な財政状態故に、シリア政権は、協力的なアラブ諸国から、またはイランへの依存を深めて、支援を得ようとする構えです」(中略)

市民社会団体「ジュゾール」のアッザム代表は、何らかの政治的な進展無しにシリア政権が瀕死のシリア経済を再生させることは出来ないと確信している。

「シリアは廃墟となってしまいました。経済的にも、社会的にも、文化的にも、そして、知的にも荒廃してしまっているのです」と、アッザム代表は語った。「この現状は、シリアが全国民のためのものとなり、国際社会の不可欠な一部となる重要な段階を示す新たな社会的合意の形成が切実に必要であることを意味しています」

「現況を勘案すると、経済状況の改善のためのどのような試みも失敗してしまう可能性が非常に高いです。たとえ成果を挙げたとしても、一時的なものに留まり、維持できるような成功とはならないでしょう」【9月17日 ARAB NEWS】
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南部スワイダーの住民の多くはドゥルーズ派を信仰しているそうです。
ドゥルーズ派は、レバノンを中心に、シリア・イスラエル・ヨルダンなどに存在するイスラム教系の宗教共同体で、シリアでは人口の3%ほどとか。

“(9月)1日に広場を埋め尽くした参加者は「シリアは自由だ。アサドは出て行け」などと訴えた。”【9月3日 時事】

抗議はシリアにおける市民生活の窮状を示すもので、10月に入っても続いているようですが、ダマスカスやアレッポに拡大しない限りは、内戦を生き抜いたアサド政権を揺るがすには至らないと思われます。
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