孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国との“ウィンウィン”の関係に進むアメリカ・トランプ政権 南シナ海問題もスルー 日本の戦略は?

2017-03-23 21:37:09 | 南シナ海

(中国・北京の人民大会堂で握手する習近平国家主席(右)と米国のレックス・ティラーソン国務長官(2017年3月19日撮影)【3月19日 AFP】)

中国海洋戦略にとって残された重要課題:スカボロー礁
領有権を主張する周辺国や日本・アメリカの批判にもかかわらず南シナ海への進出・軍事拠点化を進める中国ですが、フィリピン沿岸の南沙諸島・スカボロー礁の状況が焦点となっています。

****最後に残された焦点、スカボロー*****
南シナ海での軍事的優勢を手にする海洋戦略を推し進める中国は、西沙諸島を手に入れ、南沙諸島での優勢的立場も手にしつつある。そして、スカボロー礁に対する軍事的コントロールの確保が、中国海洋戦略にとって残された重要課題となっている。
 
フィリピン沿岸から230キロメートルほど沖合に浮かぶスカボロー礁は、マニラから直線距離で350キロメートル程度しか離れていない。そして、アメリカ海軍がフィリピンに舞い戻ってきた場合に主要拠点となるスービック海軍基地からも270キロメートル程度しか離れていない戦略的要地である。
 
スカボロー礁には1990年代末からフィリピン守備隊が陣取っていたが、2012年に人民解放軍海洋戦力がフィリピン守備隊を圧迫・排除して以来、中国が実効支配を続けている。ただし、フィリピンと台湾もスカボロー礁の領有権を主張しており、いまだに決着していない。

スカボロー礁もいよいよ軍事拠点化
スカボロー礁より550〜700キロメートルほど南西には南沙諸島の島嶼環礁が点在しており、そのうちの7つの環礁に中国が人工島を建設し軍事拠点化している。
 
オバマ政権は、そうした中国による人工島建設作業を半ば見過ごした形になってしまっていたが、強力な軍事施設の誕生を目にするや、ようやく(遠慮がちにではあるが)中国に対して警告を発し始めた。
 
とりわけスカボロー礁に関しては、「中国がスカボロー礁に人工島や軍事施設を建設することは、アメリカにとってレッドラインを越えることを意味する」と強い警告を発した。
 
警告を発した2016年夏の段階では、中国によるスカボロー礁の埋め立て作業や人工島建設作業などはまだ実施されていなかった。その後もしばらくの間、スカボロー礁の本格的埋め立て作業は確認されていなかった。
 
だが、今年に入ってフィリピン政府が「中国がスカボロー礁を軍事拠点化しようとする兆候を確認した」と警鐘を鳴らし始めた。【3月23日 北村淳氏 JB Press】
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トランプ大統領に先んじて対中蜜月に向かうフィリピン・ドゥテルテ大統領
ただ、直接の当事国でもあるフィリピン・ドゥテルテ大統領は、中国との関係強化を進めており、スカボロー礁についても「われわれは中国を止めることはできない」などと、自国主張をあきらめたような発言もしています。

****南シナ海問題、「中国を止められない」ドゥテルテ比大統領****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は19日、中国はあまりに強大であり、フィリピンや中国が領有権を争う南シナ海のスカボロー礁で中国が進めている構造物建設を止めることはできないと述べた。
 
2012年から中国が実効支配するスカボロー礁に関しては、西沙諸島(英語名:パラセル諸島)の永興島(英語名:ウッディー島)に中国が設立した三沙市の市長が、環境モニタリング基地を建設すると語ったと伝えられている。
この報道についてミャンマー訪問を前に記者会見で尋ねられたドゥテルテ大統領は「われわれは中国を止めることはできない」と述べた。
 
さらに同大統領は「私にどうしろというのか。中国に宣戦布告をしろとでも。それはできない。(中国と交戦すれば)わが国は明日にも全ての軍隊と警察を失い、破壊された国となるだろう」と語り、中国に対しては「(問題の)海域を封鎖せず、わが国の沿岸警備隊に干渉しないよう」求めると語った。
 
またドゥテルテ大統領は、明白なフィリピン領だと国連が認めている、ルソン島東部沖のベンハム隆起近辺で中国の調査船が目撃され懸念が生じていることについてもこれを一蹴し、中国への不満は「とるに足らないことだ」と表現した。【3月19日 AFP】
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“正直”“本音”の大統領発言を周辺があとからフォロー・修正するというのはアメリカ・トランプ政権と同じですが、この発言に関しても、フィリピンのアベリヤ大統領報道官は「大統領はフィリピンがスカボロー礁周辺の領有権、探査権を放棄しないと繰り返し強調している。フィリピン国民の利益を守るため、しかるべき時に相応な行動をとる」、「ドゥテルテ大統領は主権を放棄することはない」と表明しています。【3月23日 Record Chinaより】

アメリカ・トランプ政権の本気度を試した?「環境観測所」問題
上記記事にもあるように、今月上旬、中国が「三沙市」と呼ぶ地域の市長を務める肖傑氏は、中国がスカボロー礁などの多くの島に環境測定所を設置するための準備作業を年内に開始すると発言したことが報じられています。

この報道に関し中国は3月22日、“外務省の華春瑩報道官は、定例記者会見で「中国は南シナ海の海洋環境保護を重視している。このことは確かだ」とする一方、「関係機関によれば、スカボロー礁に環境測定所を建設するとの報道は誤りだ」と言明。「同礁に関してわが国の立場は一貫しており明確だ。わが国はフィリピンとの関係を重視している」と述べた。”【3月22日 ロイター】と、報道を否定しています。

前出北村氏は、ティラーソン国務長官訪中直前になされた「環境観測所」発言について、中国の進出を阻止しようとするアメリカ・トランプ政権の本気度を試したのでは?とも指摘しています。

****米国の“本気度”を試した****
トランプ政権は、中国による南シナ海の支配権獲得行動に強い危機感を表明している。ティラーソン国務長官は、「中国が南シナ海をコントロールすることは何としてでも阻止しなければならない。そのためには中国艦船が人工島などに接近するのを阻止する場合もあり得る」といった趣旨の強固な決意を語った。
 
そのティラーソン国務長官が訪中する直前、三沙市市長がスカボロー礁を含む6カ所の島嶼環礁に「環境観測所」を建設することを公表した(中略)。

「環境観測所」建設の準備作業は2017年の三沙市政府にとって最優先事項であり、港湾施設をはじめとするインフラも併設するという。
 
これまで中国が誕生させてきた人工島の建設経緯から判断するならば、観測所に併設される港湾施設や航空施設などの各種インフラ設備は、いずれも軍事的使用を前提に建設され、観測所は同時に軍事基地となることは必至である。この種の施設を建設するには、スカボロー礁の埋め立て拡張作業は不可欠と考えられている。
 
中国に対して弱腰であったオバマ政権ですら、「スカボロー礁の軍事基地化を開始することは、すなわちレッドラインを踏み越えたものとみなす」と宣言していた。

そして、トランプ政権が誕生するや、外交の責任者であるティラーソン国務長官は「中国による南シナ海支配の企ては、中国艦船を封じ込める軍事作戦(ブロケード)を実施してでも阻止する」といった強硬な方針を公言した。
 
そのティラーソン国務長官が訪中する直前に、中国側はスカボロー礁に環境観測所を建設する計画を発表したのである。まさにトランプ政権の南シナ海問題に対する“本気度”を試した動きということができよう。【前出 3月23日 北村淳氏 JB Press】
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【“ウィンウィン”の関係が強調されたティラーソン米国務長官の訪中
で、そのティラーソン米国務長官の訪中ですが、南シナ海に関する厳しいやり取りがあったようには報じられておらず、二国間の関係強化のために協力していくとする米中双方の姿勢がアピールされています。(報道に出ない部分についてはわかりませんが。)下記記事を見ると、むしろ中国から南シナ海問題に介入しないようクギを刺されたようにも。

****中国の習近平氏、台湾や南シナ海で米国牽制 米国務長官と会談「互いの核心的利益を尊重****
中国の習近平国家主席は19日、ティラーソン米国務長官と北京の人民大会堂で会談した。中国外務省によると、ティラーソン氏は、トランプ米大統領が早期の米中首脳会談開催と、自身の中国訪問に期待していると伝えた。習氏はトランプ氏の訪中を歓迎すると応じた。(中略)
 
一方、中国側の発表によると、習氏は「中米両国の共通の利益は意見の相違よりはるかに大きい。協力こそが両国の唯一の正しい選択だ」と強調した。
 
習氏はまた、「中米関係は重要なチャンスに直面している」とし、「私とトランプ氏は両国が良好な協力パートナーになれると考えている」と指摘。

そのために「敏感な問題を適切に処理・コントロール」して、「互いの核心的利益と重大な関心を尊重しなければならない」と述べ、米国が台湾や南シナ海問題に介入しないようクギを刺した。【3月19日 産経】
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“レッドラインを踏み越えた”かどうか・・・という時期にしては、ずいぶん友好的な感も。

こうしたティラーソン米国務長官の対応については、アメリカ国内にも「中国に外交的勝利をもたらした」との批判もあるようですが、中国側は「これは誰が勝利したという話ではない」と余裕の対応。
ということは、中国側にとって非常に満足できる内容だった・・・ということでもあります。

****中国外交部「勝ち負けではない」、「米国との外交で勝利」報道受け****
ティラーソン氏は先週の訪中で、米中両国は衝突・対抗せず、相互尊重および協力してウィンウィンにしたいと2度も強調し注目を集めた。これを一部のメディアが「中国の外交的勝利であり、中国の核心利益を保証するものだ」などと報じ、米国の一部の学者と元政府高官から批判の声が上がっていた。

華報道官は「ティラーソン氏が訪中した際、中国と米国は衝突・対抗せず、相互尊重および協力してウィンウィンにするという精神にのっとり、新しいスタートライン上にある両国関係を発展させることで共通認識に達した。これは誰が勝利したという話ではなく、2つの重要な大国としての正しい付き合い方だ」と主張。

「中国は米国側とともに、意思疎通を強め、理解を深め、相互信頼を増し、対立点を適切に処理し、両国間、地域レベル、国際レベルでの協力を拡大し、両国関係が新しいスタートラインにおいてより大きな進展を遂げることを期待している」と述べた。【3月23日 Record China】
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アメリカは、より直接的脅威となる北朝鮮対応で中国の協力が必要
このあたりの背景について、前出北村氏は、アメリカにとって南シナ海問題より直接の脅威となる北朝鮮の核・ミサイル問題が表面化したことで、中国の協力を必要とするアメリカ側の事情を指摘しています。

****米国務長官はなぜ南シナ海に言及しなかったのか****
南シナ海問題は後回しに
中国を訪問したティラーソン国務長官がどの程度南シナ海問題(とりわけスカボロー礁に関する中国の動き)を牽制するのか、アメリカ海軍関係者は大いなる関心を持っていた。
 
ところが、ここに来て急遽、アメリカにとって中国との関係悪化を食いとどめなければならない事態が発生してきた。すなわち、北朝鮮のアメリカに対する脅威度が大きくレベルアップしたのだ。
 
軍事力の行使を含めて「あらゆるオプション」を考えているトランプ政権としては、中国の北朝鮮に対する影響力を最大限活用せざるを得ない。要するに「あらゆるオプション」には、いわゆる斬首作戦をはじめとする軍事攻撃に限らず、「中国を当てにする」というオプションも含まれているのだ。
 
そのためティラーソン長官としては、この時期に中国側とギクシャクするのは得策ではないと判断したためか、北京での会談では南シナ海問題に言及することはなかった。
 
いくら中国が南シナ海をコントロールしてしまったとしても、それによってアメリカに直接的な軍事的脅威や経済的損失が生ずるわけではない。

ところが北朝鮮の核弾道ミサイルはアメリカ(本土はともかく、日本やグアムのアメリカ軍基地)に直接危害を加えかねない。したがって、南シナ海問題を後回しにして北朝鮮問題を片付けるのが先決という論理が現れるのは当然であろう。

日本は腹をくくった戦略が必要
アメリカが強硬な態度に出られないのは、中国がすでに南シナ海での軍事的優勢を確保しつつあり、その状況を覆せないという事情もある。
 
いくらトランプ政権が「スカボロー礁はレッドライン」と警告し、ティラーソン長官のように「南シナ海でのこれ以上の中国海軍の動きは阻止する」と言ったところで、現実的には現在のレベルのアメリカ海洋戦力では虚勢に過ぎない。トランプ政権が着手する350隻海軍が誕生してもまだ戦力不足であると指摘する海軍戦略家も少なくない。

そのため、アメリカ海軍が南シナ海で中国の軍事的支配を封じ込めようとしても、それが実行できるのは5年あるいは10年先になることは必至である(そのときは南シナ海は完全に“中国の海”になっているかもしれない)。
 
いずれにせよ、老獪な中国、そして怪しげな中国─北朝鮮関係によってアメリカの外交軍事政策が翻弄されているのは間違いなく、アメリカが強硬な南シナ海牽制行動をとることは難しい。その結果、中国による南シナ海のコントロールはますます優勢になるであろう。
 
南シナ海の海上航路帯は“日本の生命線”である。そうである以上、日本は“中国の圧倒的優勢”を前提にした戦略を打ち立てなければならない。【前出 3月23日 北村淳氏 JB Press】
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はしごをはずされる中国仮想敵国論
北村氏の言う“中国の圧倒的優勢を前提にした戦略”が何を指すのかはよく知りませんが、南シナ海を含めアジアでの中国の存在感・影響力が強まることは間違いなく、アメリカ・トランプ政権は、通商問題などで中国とジャブの応酬をすることはあっても、基本的には中国と大きく対立することはなく、互いの利益のための“取引”でアジアにおける中国の支配を容認する方向に進むであろうと予想されます。

****米中が急接近、首脳会談で協調へ―安倍首相の中国仮想敵国論、空回り****
米国のトランプ政権の中国との急接近が目立っている。米中外交筋によると、中国の習近平国家主席は4月上旬に訪米し、トランプ米大統領とフロリダのトランプ氏の別荘で会談する。日本の外交関係者は日本の頭ごなしに、「ディール(取引)」によって物事が決められるのではないか、と疑心暗鬼にかられている。(中略)

首脳会談で習主席は、トランプ大統領が主導する「米国経済拡大」への協力策を伝える。具体的には(1)インフラ増強へ投資拡大、(2)米国における雇用創出への中国の寄与、(3)対米輸出の自主規制―などとなる。同筋によると、会談後に中国の製造産業の対米投資と鉄鋼業などの輸出自主規制が発表される見込みという。

トランプ大統領、習主席ともに、米中関係が正常に機能していることや、複雑化する米中間を取り巻く懸念を共に管理していくことが可能であることを世界に誇示することを狙っている。

中国には、共産党大会を今秋に控えて、より早い時期に、対米関係を安定させたい意向がある。一方、「米国ファースト」を掲げ経済再建を主導するトランプ政権としても、経済面で中国からの譲歩を引き出したい狙いがある。

米中外交筋によると、ミサイル実験や金正男氏暗殺で緊迫化している北朝鮮情勢も主要テーマとなり、新しい米中協力の道を探る。米中間の共通の目標に向けた新機軸が打ち出される可能性もある。(中略)

トランプ氏は当初台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」政策見直しを示唆していたが、これをあっさり撤回。かつて強く非難した対中貿易赤字、人民元や南シナ海の問題でも、最近は発言を控えている。

一方、安倍政権のパフォーマンス優先の外交安全保障政策手法は空回り気味だ。日朝関係は在任中に拉致問題を解決すると豪語したが、全く進展していない。北方領土交渉も進んでいないことが、昨年12月のプーチン大統領との日露首脳会談で露呈した。

中国に関しては、外交的な努力が希薄で、厳しい状態が続いている。ある閣僚経験者は「日本の本来の役割は、本来なら米中の間に入ってトランプ大統領の一国保護主義的な政策を抑えること。安倍首相がその役回りを担うチャンスだったが、米中首脳会談開催で出番はなくなった」と指摘。

それでも「世界の貿易戦争回避へ、TPP挫折の後、本来は東アジア地域包括的経済連携(RCEP=日中韓インド・東南アジアなど15カ国で構成)を主導すべきだ」と力説する。

◆価値観の違う国に行き、摩擦を解消すべき
安倍首相ほど外遊した首相はいない。第2次政権以降で外遊51回。訪問国・地域は東南アジアや欧米を中心に延べ70に上る。国内向け露出度が上がり、支持率アップには効果的だが、行った先々で巨額の援助金を約束しており、総額は数1兆円以上に達するとの見方もある。価値観の同じところを回ってカネをばら撒くだけでは効果は薄い。

外交とは価値観の違う国に行き、友好促進を働きかけ、摩擦を解消し説得することである。巨額の財政赤字にあえぎ、貧困家庭が急増する中、「国内に目をもっと向けるべきだ」との声も高まっている。

自民党幹事長を務めた古賀誠氏はTBS番組で、「日米同盟が外交の基軸であることは間違いないが、あくまでも手段であって、これがアジア太平洋の平和、世界の平和にどういう役割を果たすかが大事だ。全方位外交が望まれる」と戒めている。

丹羽宇一郎・元駐中国大使・日中友好協会会長は、中国を仮想敵国視して軍備増強を志向する安倍政権に対し、「日中は引っ越しのできない隣国で、歴史・文化も密接に絡んでおり、最大の貿易投資相手国であり、仮想敵国論は愚の骨頂だ」と強調、友好関係の強化を訴えている。今こそ大平正芳首相が唱えた軍事だけでない外交政策による「総合安全保障」展開が必要だろう。【3月23日 Record China】
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トランプ大統領は、中国政府へ民主的対応を求めた多数の若者を戦車で踏み殺すなどした天安門事件を「暴動」とする中国共産党の見解を支持しているように、人権・民主化といった価値観で中国と対立するようなハードルはありません。
となると、あとは“取引”で相互の利益を確定するだけです。

そうした「自国第一」のアメリカ・トランプ政権を後ろ盾にした中国仮想敵国論は、はしごをはずされるだけでしょう。日本単独で中国に軍事的に立ち向かうのはフィリピン・ドゥテルテ大統領の言うように「中国に宣戦布告をしろとでも言うのか?」という話にもなります。

であるなら日本は、中国との価値観の違いは前提としつつも、“引っ越しのできない隣国で、歴史・文化も密接に絡んでおり、最大の貿易投資相手国”である中国とどのように向き合っていくか、相手の懐に飛び込んで急所をつかむような“腹をくくった戦略”が必要とされます。
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カナダ  寛容姿勢をアピールするトルドー首相 アメリカからの不法入国者急増への対応は?

2017-03-22 22:53:52 | 難民・移民

(カナダ・ケベック州エエマングフォール付近で、米国から国境を越えて密入国してきたスーダン出身の女性2人に話しかける王立カナダ騎馬警察の警察官(2017年2月26日撮影)【3月3日 AFP】 現段階では警察官は“取り締まり”というより“保護”のスタンスのようです。)

トランプ米大統領と対照的なカナダ・トルドー首相の寛容姿勢
美しい大自然と豊かな経済力・・・そんなイメージのカナダですが、国際政治の面では隣の超大国アメリカの影に隠れる形であまり表に出ることはないように見えます。G7のメンバーなのも、アメリカが支持票を期待して押し込んだのでは・・・とも囁かれていますが・・・。(まあ、アメリカに逆らえない“支持票”ということでは、日本も似たような立場ですが)

もちろん、カナダ国民のアメリカに対する感情は複雑なものもあるでしょう。

そんなカナダが1月、トランプ大統領の難民受け入れ停止に真っ向から立ち向かう形で、その存在感を世界に発信しました。

****少女にひざまずき「ようこそ」 カナダ、難民歓迎を発信****
カナダのトルドー首相は28日、ツイッターで「迫害、恐怖、戦争を逃れようとしている人たちへ。信仰にかかわらず、カナダの人はあなたたちを歓迎する。多様性は私たちの力だ」と発信した。米トランプ政権が難民の受け入れを停止したことに直接触れていないが、対照的な姿勢を打ち出す形となった。

トルドー氏はさらに、「カナダへようこそ」との説明をつけて、自身がひざまずいて少女と話している様子の写真も発信した。ロイター通信によると、2015年にシリアから到着した難民を出迎えた時の写真という。
 
トルドー政権は同年に就任してから、難民受け入れの拡大を目指している。同年11月以降、シリアからだけで4万人近い難民がカナダに到着しているという。【1月29日 朝日】
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トルドー首相のリベラルな政治姿勢もあってのことですが、個人的にはその難民対応を高く評価すると同時に、今後については不安も感じた次第です。

かつてドイツでも難民歓迎のプカードで難民らを迎えましたが、その後の大量流入・テロ事件などで市民の難民に対する視線は厳しいものに変化しています。

同時期には、ケベックのモスクで銃乱射事件もあり、カナダ社会も決して“難民歓迎”だけではないことを示しています。

****モスクで乱射、5人死亡か=2人逮捕―カナダ****
カナダ東部ケベックシティーのモスク(イスラム礼拝所)で29日、銃乱射事件があり、モスク関係者はロイター通信に対し、5人が死亡したと語った。公共放送CBC(電子版)は警察の話として、死者は複数で、容疑者2人が逮捕されたと報じた。
 
CBCによると、このモスクではイスラム教の断食月(ラマダン)中の昨年6月、豚の頭部が玄関前に置かれる事件があったという。【1月30日 時事】 
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“ケベック州では近年、イスラム教徒の移民が増えていることに伴う摩擦も起きている。カナダ国籍を取得する宣誓のセレモニーの際、イスラム教徒の女性が目だけを出す「ニカブ」と呼ばれるベールを着用できるかどうかが議論となり、15年にあった総選挙では争点にもなった。”【1月30日 朝日】とも。

ただ、この時期の世論調査によれば、(下記記事タイトルは“・・・とは限らない”とはなっていますが)移民政策に関してはおおむねトルドー首相を支持していたようです。

****カナダ人はトランプよりトルドーを支持・・・・とは限らない****
・・・・45歳と若くて好感度も高い"イケメン首相"は、2015年の就任以来、高い支持率を保っている。

2月8日に調査会社メインストリート・リサーチが発表したMainstreet/Postmediaの世論調査でも、調査対象のカナダ人の84%がトランプを支持しないと答えた一方、トルドーは支持率52%(不支持率は44%)。トランプとの差は圧倒的だ。

とはいえ、カナダ人が皆トランプ嫌いで、かつ自国のリーダーを全面的に支持していると思ったら大間違いだ。

初めてトランプとトルドーを比較してカナダ人に尋ねたこの調査では、個別の政策ごとの支持率を出している。それによれば、医療政策ではトランプ21%対トルドー51%、移民政策ではトランプ17%対トルドー56%、外交政策ではトランプ21%対トルドー41%と、トルドーが自国民のハートをがっちり掴んでいる。

しかし経済政策に関する設問では、トランプの政策を支持するという回答が53%で、トルドーの政策支持は43%に留まった。安全保障政策でも、トランプが51%、トルドーが39%と、支持率は逆転している。(後略)【2月15日 Newsweek】
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急増するアメリカからの不法入国者
トランプ大統領の大統領令は執行停止になったものの、不安を感じる人々は深い雪の中を国境線を超えてアメリカからカナダに向かっています。

****カナダは今後も米からの亡命希望者受け入れる=トルドー首相****
カナダのトルドー首相は21日、同国は今後も米国から違法に国境を越えて入国した亡命希望者を受け入れると述べる一方、カナダ人の安全を守るための治安対策を確実に実施すると述べた。

トランプ米大統領による不法移民取り締まり強化への懸念から、ここ数週間に辺境で警備の手薄な国境を越えてカナダに入った人の数が増加。一方、カナダの警官が笑顔で移民にあいさつする画像が拡散している。

野党保守党は、治安上の懸念と、対応人員の不足を理由に、米国からの亡命希望者流入を食い止めるよう政府に求めている。

トルドー首相は議会で「カナダが開放的な国であり続ける理由の1つは、カナダ人が自国の移民制度を信頼していることだ。引き続き、厳格な制度と、助けを必要としている人々の受け入れのバランスを取っていく」と述べた。【2月22日 ロイター】
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アメリカから逃れる人々だけでなく、カナダのアフメド・フッセン移民・難民・市民権相は2月21日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から迫害を受けているイラクの少数派ヤジディー教徒の難民1200人をカナダに再定住させることも明らかにしています。【2月22日 AFPより】


こうしたカナダの寛容な姿勢を反映して、カナダへの難民が増加していることが報じられています。
もっとも、以前はカナダへの難民申請は近年よりかなり多かったようで、2001年は昨年の倍近い数字になっています。

****米からカナダへの密入国者が激増 南米やアフリカからも****
王立カナダ騎馬警察(RCMP)によると、ここ数か月で米国からカナダへの密入国者の数が激増している。不法入国者のほとんどがケベック州、マニトバ州、ブリティッシュコロンビア州で国境を越えている。

密入国者の出身国はコロンビア、ハイチ、コンゴ民主共和国、ジブチなどさまざまで、乳幼児を連れた女性や家族連れの姿も見られた。【2月26日 AFP】
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****カナダ、米から入国の難民申請者が急増 2か月で4000人****
カナダ国境サービス庁(CBSA)は2日、米国にいったん入国した後に国境を越えてカナダで難民申請をする移民が、今年に入り急増していることを明らかにした。今年1月1日から2月21日までの申請者は約4000人と、前年同期の2500人から大幅に増えている。
 
申請者にはひそかに国境を越えてきた人や、国境の検問所経由で入国した人が含まれる。アフリカ東部や、シリアなどの紛争国の出身者が大半を占めるという。(中略)

当局によると、カナダへの昨年の難民申請者は2万4000人で2001年の4万4000人から減っている。申請者の4~6割が難民に認定されているという。【3月3日 AFP】
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****カナダ、1─2月の難民申請が急増 トランプ氏の大統領就任が影響****
カナダ政府が20日公表したデータによると、同国で1─2月に難民認定を申請した外国人は5520人に上り、昨年から大幅に増加した。米大統領選で難民・移民の取り締まり強化を公約に掲げたトランプ氏が勝利したことが影響した。

年末まで同様のペースで難民申請が増え続けた場合、年間の申請者数は3万3000人以上と、昨年比で約40%増加し、少なくとも11年以降で最多となる。

1─2月の難民申請者のうち、2割に当たる1134人は不法入国者で、そのうち677人はケベックの国境で警察に拘束された。

カナダ政府は同国に殺到する難民に対して静観する姿勢を示しているため、野党から批判を受けている。【3月21日 ロイター】
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不法移民については、大量流入への対応を迫る首相への圧力も
こうした難民流入が続くと、“やはり”と言うか、不満や不安の声も大きくなります。

****カナダ人の約半数が不法移民送還を希望、首相に不満も=調査****
ロイターとイプソスが20日に発表した世論調査で、カナダ人の48%が米国からの不法入国者の送還を望んでいるほか、46%がトルドー首相の対応に不満を持っていることが分かった。

調査は8─9日、18歳以上の成人1001人を対象に、英語とフランス語でインターネットを通じて実施。

その結果、不法にカナダに居住する人々の送還強化を求める人と、最近米国から国境を越えてきている人の米国送還を望む人の割合が、それぞれ48%だった。一方、これらの入国者を受け入れて亡命申請の機会を与えるべきとの回答は、36%だった。

さらに、41%が不法入国者によってカナダの安全度が「低くなる」と考えていた。安全度に変化はないと予想している回答者は46%だった。

カナダでは過去数十年にわたり、高水準の合法移民の受け入れが超党派で広く支持されてきた。だが不法移民については、大量流入への対応を迫る首相への圧力が生じている。

トルドー首相の対応については、不満との回答が46%、37%が評価すると回答、17%が分からないと答えた。

次回選挙は2019年で、首相にとって差し迫った脅威はないとみられている。

首相府は調査に関するコメントを控えた。

シンクタンク、マクドナルド・ローリエ・インスティテュートのブライアン・リー・クローリー所長は、気温上昇とともに不法移民の数は増える可能性があると指摘。「不法移民が制御不能と人々が感じるようになれば、政府にとって極めて深刻な政治問題になると思う」と述べた。【3月21日 ロイター】
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アメリカでのトランプ政権の施策もこれから本格化することが予想されます。また、春になれば国境越えは冬の時期よりはるかに容易になります。

“不法にカナダに居住する人々の送還強化を求める人と、最近米国から国境を越えてきている人の米国送還を望む人の割合が、それぞれ48%だった”・・・すでに社会の空気は変化し始めているようにも見えます。

今後、流入する人々が急増すると、トルドー首相への圧力も大きなものとなることが予想されます。

ただ、“連邦政府ジョン・マッカラム移民・難民・市民権相は(2016年3月)8日、オンタリオ州ブランプトンで記者会見を行い、ことしの移民受け入れ数を大幅に増加することを発表した。同移民相は2016年に28万から30万5千人の永住者を受け入れるとし、前年の保守党政権の計画2015年末までに26万から28万5千人受け入れから大幅増となる。”【2016年3月16日 バンクーバー新報】ということからすると、野党・保守党も難民受け入れ自体を否定している訳でもなく、その数や違法性などが焦点になると思われます。

「厳格な制度と、助けを必要としている人々の受け入れのバランスを取っていく」というトルドー首相の議会発言をどのように具現化していくか・・・政治的にはこれからが正念場です。

トルドー首相は、2月23日、トランプ米大統領と会談し、両国の間の国境の管理をめぐる協力などについて協議していますが、内容の詳細は明らかにされていません。

個人的には、寛容な姿勢を大きく転換させることなく、事態を収められたら・・・と願うのですが。

カナダのシリア難民受け入れプログラム
なお、トルドー首相は2015年10月の選挙戦で、シリア難民2万5千人の受け入れを公約として表明していましたが、“政府の受け入れ事業では家族連れや性的少数者をはじめとする社会的弱者を優先し、単身の男性は当面対象外とする。ただし単身者も来年以降に改めて申請したり、民間のプログラムに応募したりすることは可能とされる”【2015年11月25日 CNN】と、必要性に加えて、テロの危険性へも配慮した優先順位を設けることにしています。

(単身男性を除外することの妥当性については異論もあるでしょう。現地に残された単身男性は過激派の絶好の標的ともなり、また、戦闘への協力を強要されます。受け入れ側の不安感は低減するかもしれませんが)

トルドー首相は「カナダへやって来る難民の家族が恐怖でなく、歓迎の空気で迎えられるようにしたい」と強調しています。

シリア難民受け入れプログラムに関しては、2016年2月までに2万5千人を達成し、2016年中にさらに政府支援1万人を受け入れるとも発表しており、冒頭記事にもあるように“同年(2015年)11月以降、シリアからだけで4万人近い難民がカナダに到着している”とのことです。
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ミャンマー  ロヒンギャ排斥を扇動する怪僧を“1年間の説法禁止”に 事態改善への一歩か?

2017-03-21 22:38:38 | ミャンマー

(ウィラトゥ師(バツ印が付けられた写真の僧侶)に抗議するムスリム(インドネシア・ジャカルタ:2015年5月27日)【3月19日 Yahoo!ニュース】)

戸籍や人権を認められていない100万人のロヒンギャ
これまでもしばしば取り上げてきたミャンマー西部ラカイン州のイスラム教徒少数民族ロヒンギャの問題。

ミャンマー政府は、ロヒンギャを嫌悪する圧倒的な世論もあって、ロヒンギャを自国の少数民族とは認めておらず、隣国バングラデシュからの不法入国者として扱っています。

不法入国者ですからミャンマー国民でないというのはもちろん、正規の「外国人」としても扱われておらず、無国籍状態に置かれ、その権利は認められていません。

****人口にカウントされない****
イスラム教を信仰するロヒンギャは戸籍も特殊。前政権時代に発行された暫定身分証(ホワイトカード)は、2015年5月に無効とされ、代わりに身分証明書(NVC)の発行が定められた。

だが2016年1月時点で、返還された暫定身分証39万7497枚に対し、発行されたNVCは6202枚にとどまるという。NVCを発行すれば自ら「外国人」として認めることになるからだ。

2014年、ミャンマーで31年ぶりに実施された国勢調査は、ロヒンギャをカウントできず、推定値を算出した。
このとき、多くのイスラム教徒がロヒンギャと自称していたが、ミャンマー政府が独自に決めた「ベンガル人」という呼称を使わないロヒンギャは、人口のカウント対象にされなかった。

アナン元国連事務総長を委員長とする政府の諮問委員会は16日、ロヒンギャ問題に関する中間報告書を提出。キャンプで生活する避難民およそ12万人を元の村へ帰すか安全な場所に移転させる戦略が必要だと報告した。

委員会のメンバー、ガッサン・サラメによれば、ラカイン州のロヒンギャのうち市民権を持つのはわずか2000人。いまだ100万人のロヒンギャが戸籍や人権を認められていない。【3月21日 Newsweek】
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国軍・警察による厳しい弾圧 国連も“民族浄化”を警告
また、ロヒンギャに対しては昨年10月以来、武装勢力掃討作戦として国軍・警察による厳しい弾圧が行われており、多くが殺害・暴行・放火などの犠牲となっています。

それに関連して、多くが拘束されていますが、そのなかには子供も含まれています。

****ミャンマー、ロヒンギャ423人を拘束 うち13人は子供=警察文書****
ミャンマー西部ラカイン州で10月9日以降、武装勢力に協力したとしてイスラム教徒少数民族ロヒンギャ423人が拘束され、うち13人は10歳程度の子どもであることがわかった。ロイターが3月7日付の警察文書を入手した。

ラカイン州では、10月に武装集団が国境検問所3カ所を襲撃する事件が発生して以来、治安機関が掃討作戦を展開している。

警察によると、子どもたちは成人の容疑者とは違う場所で拘束されている。武装勢力に協力していたと告白した子どももいるという。

政府の報道官は、掃討作戦で子供たちが身柄を拘束されたことは認めたが、当局は法律を順守していると主張。現在拘束されていると報告を受けている子どもは5人だけだと述べた。

文書によると、拘束された423人はすべては男性の名前。平均年齢は34歳で、最年少は10歳、最年長は75歳。1人にはバツ印が付けられ「死亡」と書かれていた。【3月17日 ロイター】
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“人権団体はこの作戦でロヒンギャ族住居は放火され、男性は虐殺、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているとの報告を公表。バングラデシュに避難したロヒンギャ族は2万人以上に達している。”【2月6日 大塚智彦氏 Japan In-depth】(バングラデシュへの越境者は約6万5千人とする報告もあります)というような熾烈な弾圧状況からすると、“423人が拘束”というのはむしろ非常に少ないようにも思われます。

拘束するのも面倒で、暴力で国外へ追い立てている・・・ということでしょうか。

国連・人権団体などは、ミャンマー政府・国軍がロヒンギャを国外に追放する“民族浄化”を進めていると批判しています。

****ロヒンギャ全住民追放の恐れ=国連報告者が警告―ミャンマー****
ミャンマーの人権問題を担当するリー国連特別報告者は13日、人権理事会で演説し、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する当局の迫害疑惑を踏まえ、「政府はロヒンギャの住民をすべて国から追い出そうとしているのかもしれない」と警告を発した。
 
特別報告者はロヒンギャが多く住む西部ラカイン州における人権侵害を徹底究明する必要があると述べ、独立した調査委員会を速やかに設立するよう要請。「被害者だけでなく、全国民に真実を知る権利がある」と訴えた。【3月14日 時事】 
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アナン氏を長とする諮問委員会「独立かつ公平な調査に基づき、深刻な人権侵害を犯した者の責任を問うべきだ」】
アウン・サン・スー・チー国家顧問はアナン元国連事務総長を委員長とする諮問委員会を設置して調査を行っていますが、諮問委員会はロヒンギャを擁護するものだとして国民から強い反対の声も上がっています。

****ロヒンギャ迫害「公平な調査を」=諮問委が中間報告―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題で、ミャンマー政府が設置した諮問委員会(委員長・アナン元国連事務総長)は16日、中間報告を発表した。

治安部隊によるロヒンギャへの人権侵害疑惑に関してミャンマー政府に対し、「独立かつ公平な調査に基づき、深刻な人権侵害を犯した者の責任を問うべきだ」と訴えている。
 
アナン氏は声明で「われわれは、こうした犯罪を行った者は責任を負わなければならないと確信している」と強調した。
 
中間報告はまた、ミャンマー当局に対し、国軍など治安部隊が昨年10月以来ラカイン州北部で実施している軍事作戦の影響で制限されてきた人道支援活動や、メディアの立ち入りを認めるよう勧告。無国籍状態にあるロヒンギャの国籍問題の早期解決に向けた明確な戦略の策定も求めている。
 
諮問委は昨年9月にアウン・サン・スー・チー国家顧問が設置したもので、最終報告書を年内に取りまとめる予定。【3月16日 時事】 
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沈黙するスー・チー氏 ようやく事態改善の一歩か?】
民主化運動の旗手としてノーベル平和賞も受賞した“ファイティング・ピーコック(戦う孔雀)”と称されたスー・チー氏ですが、ロヒンギャを嫌悪する世論、権限が及ばない国軍との関係などもあって、上記諮問委員会設置以外は目立った取り組みはなく、ロヒンギャに関する発言もほとんどありません。

スー・チー氏の消極的対応には、周辺イスラム諸国や人権団体からも批判や失望の声も上がっています。

そうした状況にあって、ようやく事態改善に向けた動きともとれる対応が報じられています。

何度も繰り返しているように、国民世論は圧倒的に“異質な”ロヒンギャを嫌悪していますが、一部の過激な仏教僧がこうした反ロヒンギャ・反イスラム世論を扇動してきました。

今回、その中心人物でもあり、“ミャンマーのビンラディン”とも称される仏教僧について、“1年間の説法禁止”の措置がとられたとのことです。

****ロヒンギャ排斥の僧侶に説法禁止令、過激派抑止に本腰か****
<「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」と呼ばれる過激派僧侶の説法が禁止されたことで、民族浄化に歯止めはかかるのか>

ミャンマーの仏教僧侶管理組織「マハナ」が、ロヒンギャ排斥を叫ぶ僧侶、アシン・ウィラトゥ師の説法を禁止した。

亡命ミャンマー人向け情報誌イラワジ電子版が伝えたところによると、1年間の期間限定だが、これまで反ロヒンギャ運動を看過してきた政府が、過激派と言えども国教の指導的立場である僧侶に処分を下したことは驚きと共に受け止められている。

宗教・文化省は、ウィラトゥ師の説法について「宗教的、人種的、政治的な紛争を扇動していることが判明した」とコメントしている。

ウィラトゥ師は2013年にタイムズ誌の表紙を飾った人物。強硬派仏教徒組織「マバタ」を率いて、他宗教を攻撃する姿勢から「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」として知られ、西部ラカイン州に住むイスラム教徒少数民族ロヒンギャの排斥を主張してきた。

国民民主連盟(NLD)政権は、イスラム教徒に対する人権状況に対する国際的な評価を回復する上でも、マバタへの対応を迫られていたが、これまでは黙認していた。

地元メディアによれば、過去に反ロヒンギャの活動を咎められ、マバタの僧侶が警察に尋問されたり捕らえられたことはなかったという。

事実上政権を率いる、アウン・サン・スーチー国家顧問兼外相は人権派というイメージだが、テイン・セイン前政権が進めたロヒンギャへの圧政を容認しているという批判もある。

ただ、昨年12月から激化したロヒンギャの弾圧に、他のイスラム国家をはじめとする国際社会からの非難が強まり、政府はさすがにこの状況を無視できなくなったようだ。

マバタは昨年7月に、ヤンゴン管区政府から解散を促されていた。地元紙ミャンマー・タイムズによれば、ウィラトゥ師は、「承認された合法組織」だと主張し、徹底抗戦の意思を示したが、これに対しマハナは、「一度たりとも合法組織と認めたことはない」という声明を発表。マハナのメンバーにマバタの活動に参加することを禁じる通知を出すとしていた。

マバタの活動は目立たなくなっていたが、今年1月、イスラム教徒の式典を妨害し、メンバー12人が逮捕されている。【3月21日 Newsweek】
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今回措置については“ウィラトゥ師に説法の禁止を命じたサンガ・マハ・ナヤカは、そのメンバーが宗教省によって任命される、政府の監督下にある組織です。つまり、今回の決定は、ロヒンギャ問題をめぐって国際的な批判にさらされてきたミャンマーの政府と宗教界の主流派が、非主流派のヘイトスピーチを規制するものです。これによって、ウィラトゥ師の説法は、いわば「異端」と位置付けられたといえます。”【3月19日 六辻彰二氏 Yahoo!ニュース】とも。

“軍事政権時代、軍による少数民族の抑圧はあったものの、政府は民間レベルでの民族・宗派間の争いを厳しく取り締まっていました。実際、ウィラトゥ師は2001年から反イスラーム的な抗議活動を先導し始めましたが、2003年には軍事政権によって25年の懲役刑に処された経緯があります。
しかし、軍事政権が体制転換を決定した2010年、多くの政治犯が釈放されました。そして、そのなかにはウィラトゥ師も含まれていたのです。”【同上】ということで、ウィラトゥ師らの過激な活動は“民主化”が産み落とした鬼っ子とも言えます。

強硬派仏教徒組織「マバタ」の活動自体が目立たなくなっている現状もあって実現した措置でしょうか。
世論や国軍との関係で、現実政治家としては身動きがとれないスー・チー国家顧問ですが、内心ではロヒンギャが置かれている現状をよしとはしていないと思います。

遅きに失した一歩であり、危機的状況全体から見れば小さな一歩ではありますが、これを機にスー・チー政権がロヒンギャの権利保護の方向で動き出すことを期待します。

【「異端」認定で過激化の危険も
ウィラトゥ師とウサマ・ビンラディン、あるいはトランプ現象や欧州極右勢力との類似・相違については、以下のようにも。

*****ビン・ラディンか、トランプか****
・・・・「味方」以外を全て「敵」とみなし、異教徒への暴力を唱道し、「人権保護」を求めるグローバルな勢力に敵意を隠さない点で、ウィラトゥ師にはビン・ラディンとの共通性を見出せます。さらに、ネット空間を通じて過激な思想を流布する点でも、かつてのビン・ラディンと同様といえます。(中略)

「自分たちの土地」から異教徒を排除しようとする主張は、イスラーム過激派にも共通します。

ただし、ウィラトゥ師の場合、国境をまたいだムスリムとしての一体性を強調したビン・ラディンと異なり、仏教徒の結束より国家の存続を優先させています。つまり、ビン・ラディンが国家を超える宗教によって「世界の浄化」を発信していたとするなら、ウィラトゥ師は宗教と国家を結びつけて「国家の純化」を求めているといえます。

その意味で、ウィラトゥ師には移民排斥を叫ぶヨーロッパ極右や、ムスリムの入国制限を主張するトランプ大統領とも類似性を見出せます。

実際、ウィラトゥ師は「トランプ氏は自分に似ている」と認めたうえで、「世界は我々を非難しているが、我々はただ我々の国を守ろうとしているだけだ」とも述べています。いわば、ウィラトゥ師は、宗教過激派であると同時に、ポピュリストでもあるといえるでしょう。【3月19日 六辻彰二氏 Yahoo!ニュース】
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なお、六辻彰二氏は以下のような活動の過激化やテロ誘発の危険性も指摘しています。

*****説法禁止のゆくえ*****
・・・・ビン・ラディンや極右勢力のパターンは、社会の「正統派」から「異端」と位置付けられたことが、それまで以上に過激な言動に向かう契機になったことを示しています。

つまり、ミャンマー政府や仏教主流派が抑制に舵を切ったことで、ウィラトゥ師や969運動が、これまでよりロヒンギャやエスタブリッシュメントへの敵意を強めたとしても、不思議ではありません。

その場合、ミャンマーは対テロ戦争の大きな戦線になる可能性すらあります。先述のように、ロヒンギャ問題はイスラーム世界でも関心を集めており、ミャンマーはイスラーム過激派の標的になりつつあります。

例えば、TTP(パキスタン・タリバン運動)は、ロヒンギャ問題をめぐり、ミャンマーへの報復を宣言しています。この観点からみても、説法の禁止を契機にウィラトゥ師の活動が逆に活発化すれば、ミャンマーはこれまで以上の混乱に直面することになるとみられるのです。【同上】
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イラク・モスル奪還は“間もなく完了” IS崩壊は“第2章”の始まりか?

2017-03-20 21:51:04 | 中東情勢

(モスル西部で、ロケット弾を発射するイラク政府軍(2017年3月14日撮影)【3月15日 AFP】 70万人とも50万人とも言われる住民が残る地域へ撃ち込まれる訳ですから、住民犠牲も少なからぬものが想像されます)

モスル西部に残るIS戦闘員は400~500人程度
イスラム国(IS)が支配するイラク・モスルにおいては、イラク軍による奪還作戦が進められています。
モスルを包囲し1月に東部を奪還したイラク軍は、2月19日から西部の奪還作戦も開始しています。

モスル西部には国連の推定で約75万人の民間人が残り、ISも激しい抵抗を続けているため、作戦は難航する可能性があるとされ、実際、ISの激しい抵抗にあい、戦闘による多大な住民犠牲も出ていますが、戦局は急速に最終局面に向けて動いているようです。

イラク治安部隊の司令官は今月12日、モスル西部地区について、「おおむね3分の1以上がわれわれの部隊の支配下に入った」と述べていますが、昨日の下記記事によれば“ISが支配するのは西部の30%ほど”とされています。

****モスル奪還へ最終局面 体揺らす砲撃、街に残る自爆遺体****
黒煙が上がった直後、爆音がとどろき体が震えた。過激派組織「イスラム国」(IS)の最大拠点イラク北部モスルに入ると、イラク軍などによる奪還作戦が「最終局面」(同軍幹部)に向かっていることがわかる。世界を揺るがせた過激派組織は包囲され、瀬戸際に追い詰められていた。

イラク第2の都市モスルの奪還作戦は昨年10月に始まり、今年1月、東部が解放された。朝日新聞記者は12、13両日、イラク軍に同行して市内に入った。(中略)

西部への幹線道路は、3月中旬までにすべてイラク軍側に制圧された。IS戦闘員は包囲され、外部からの補給路はほぼ断たれた形だ。

■残る戦闘員「住民を盾に潜伏」
ISの前身組織は2014年6月、モスルを占拠。「カリフ制国家」の樹立を宣言し、ISと改称した。イラクとシリアで勢力を広げ、最盛期の14年には両国土のほぼ3分の1、数百万人を影響下に置いたとされる。
 
シリア北東部ラッカがISの「首都」とされるが、最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が「カリフ」として演説したのはモスルのモスク(礼拝所)だったことから、モスルが最重要拠点だったとされる。

バグダディ容疑者をめぐっては、モスル西部に潜んでいるとの見方やシリアに逃亡したとの説もある。
 
イラク陸軍のリヤド・ジャラル・タウフィ現地司令官は、「モスル全体の奪還がIS壊滅への重要なステップになる」と強調した。

西部に残るIS戦闘員は400~500人程度。ただ自爆攻撃や狙撃などを繰り返し、徹底抗戦の構えを崩していない。爆弾を積んだ無人飛行機ドローンも使っているという。
 
司令官は「住民を盾に民家に潜んでおり、一軒一軒の探索を強いられている」という。ISが支配するのは西部の30%ほど。大がかりな作戦で一気に奪還することも可能だが、住民の犠牲を最小限に食い止めるため、慎重にならざるを得ないという。
 
モスル奪還を含めたイラクでのIS掃討作戦は、米軍などの支援を受け、10万人規模で進んでいる。別の軍関係者は、「ISには組織的に抵抗する能力はなく、モスル奪還は間もなく完了する」と強調した。

掃討作戦はシリア側でも進行中だ。

■避難民20万人、着の身着のまま市外へ逃れる
モスル西部には、なお70万人近くの住民がいるとされる。イラク政府は上空からリーフレットをまいて、戦闘に巻き込まれないため市内にとどまるよう呼びかけている。だが、危険を冒して市外に逃れようとする住民は絶えない。
 
モスル近郊など20カ所あまりに避難所が設けられ、全体で20万人ほどが身を寄せているという。モスルの南約5キロに位置するハマームアリには連日1千人ほどがたどり着く。着の身着のままの人がほとんどだ。
 
農業を営んでいたというマフムールさん(85)の家族9人は徒歩で逃げてきた。「この年になって家も家財道具もすべて失った」。12日にIS戦闘員が隠れ家として使おうと自宅に押し入ってきたため、隣家などに身を寄せていると、空爆で自宅はほぼ全壊したという。
 
3月に入って雨が降ったり、急に冷え込んだりする日が続き、避難民キャンプでは体調を崩す人も多い。戦闘の恐怖がトラウマとなっている子どもも少なくないという。キャンプの担当者は「人も物も足りない。避難民を守るには支援の拡充が必要だ」と訴えた。【3月19日 朝日】
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避けられない住民犠牲
“大がかりな作戦で一気に奪還することも可能だが、住民の犠牲を最小限に食い止めるため、慎重にならざるを得ない”とは言うものの、現実問題としては、戦闘となると住民被害は避けられません。

****モースル開放作戦(民間人の被害****
これまでもお伝えしているように、西モースル解放作戦は旧市街の攻略に入り、ISもいまだ激しく抵抗し、方々で激しい市外戦が続いているようですが、特にグランドモスクに通じる地域の周辺では激しい戦闘が続いている模様です。

ISは住民を人間の盾として使っていると非難されていますが、同時にISも政府側も、狭い地域で破壊力の大きい、臼砲や大砲、ロケットを使っているために、民間人の被害が増大しているとのことで、イラク人権網は、政府軍に対して非誘導弾の使用をやめるように呼び掛けている由。

また、有志連合軍の空爆も、家屋の破壊や住民の死傷を招いていると批判されています。

なお、旧市街では道路が狭く、作戦に支障があるために、政府軍は家々の外壁を破壊して、新しい通路を開削する等の作戦も行っているよし。

このような状況で、イラク人権網および多くの国際的人権団体が、狭い旧市街での戦闘は住民の被害を増大させているとして、政府軍とISの双方に対して、最大の注意を払うように呼び掛けている由。

イラク人権網は、西モースルにはいまだ50万の住民が残っており(確かに戦闘開始前は住民75万と伝えられていたので、まだ50万人が残っている可能性があるかもしれない)、彼らは死の危険に直面しているとのアッピールを行ったよし。

同組織によると過去2日間で、40名の住民が死亡したよし。彼らはal sarjikhana,al farouq,alshahawan,al midan,al risala地区の住民の由。

また民間人の死者を調査している団体によると、2014年以来の有志連合による民間人の死は2590名に上る由。【3月20日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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地下トンネルでの脱出も
いずれにしても、10万人規模の攻撃軍に対し、“西部に残るIS戦闘員は400~500人程度”という状況では組織的な反撃は不可能で、モスル奪還は間もなく完了すると推測されます。

奪還作戦は補給路・逃走経路を絶って行われています。

****イラク軍、モスルと市外つなぐ最後の道路制圧 IS戦闘員の退路断つ****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の主要拠点であるイラク北部モスルの奪還作戦を進めているイラク政府軍は、市外につながる最後の道路を制圧し、ISの戦闘員を市内に閉じ込めた。米主導の対IS有志連合の特使が12日明らかにした。

有志連合の調整役を担う米国のブレット・マクガーク特使はイラクの首都バグダッドで記者会見を開き、「モスル北西のバドゥシュのイラク陸軍第9部隊が昨夜、モスルと市外を結ぶ最後の道路を制圧した」と述べた。
 
現在、モスル西部ではイラク軍や政府側の民兵が、市内では2つの特殊部隊と連邦警察がそれぞれISの掃討作戦を進めている。
 
マクガーク特使は「モスル市内に残っているIS戦闘員は退路が断たれた以上、全員そこで死ぬことになる。モスルで彼らを打倒するだけでなく、市外に逃げられないようにする」と語った。【3月13日 AFP】
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“市外に逃げられないようにする”とのことですが、“西部に残るIS戦闘員は400~500人程度”というのは少なすぎるような感も。

道路以外の逃走経路としては、地下トンネルもあるようです。

****イラクのモスルに地下トンネル網 イスラム国掃討の障害に****
過激派組織「イスラム国」(IS)はイラク国内最大拠点、北部モスル市内や周辺で奇襲や退避用の地下トンネル網を張り巡らしていた。イラク軍などが昨年10月以降進めるモスル奪還作戦の障害となっており、一部戦闘員らの逃走を許す恐れもありそうだ。
 
モスルの東約20キロにあるキリスト教徒の町カラコシュ付近の教会に、大きな穴が掘られていた。「ISが掘ったトンネルで、2方向に長さ10キロ以上あった」。警備の地元民兵が指摘した。
 
軍関係者らによると、ISは米軍中心の有志国連合の空爆を避けたり、戦闘中に移動したりするためにトンネル網を形成したとみられる。【3月20日 西日本】
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トンネルからアッシリア時代の遺物

(モスルのトンネル内で見つかったアッシリア時代の遺物【3月20日 西日本】)

このISによる地下トンネルからは、思わぬ“副産物”も。“思わぬ”と書きましたが、メソポタミア文明以来のこの地域の歴史を考えれば、当然の話とも言えます。

****ISが掘ったトンネルからアッシリア時代の遺物を発見 イラクのモスル東部で****
イラクの考古学者らは、イラク北部の都市モスルでイスラム過激派組織ISが掘ったトンネルの中から、約2700年前にこの地を統治していた古代アッシリア王の宮殿の跡とみられる遺物を発見した。トンネルはISが破壊した聖廟の下に掘られたものだ。
 
IS戦闘員は2014年にモスルを制圧した後、預言者ヨナの墓とされる聖廟を爆破。その後、その地下にトンネルを掘り進め、それが今回の発見へとつながった。
 
トンネルの奥深くからは、古代の碑文や翼の生えた雄牛やライオンの彫刻が見つかった。これらの遺物は、紀元前7世紀に新アッシリア王国時代のアッシリアを統治したエサルハドン王の宮殿の一部とみられるという。
 
IS戦闘員らは埋蔵品を略奪する目的でこれらのトンネルを掘ったとみられる。イラク政府軍は今年1月にモスル東部をISから奪還。西半分の奪還に向けて今も戦闘は続いている。【3月14日 IT media NEWS】
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逃走用ではなく、埋蔵品の略奪・資金獲得用のトンネルのようです。いささかインディ・ジョーンズの世界です。

戦闘経験を積んだ戦闘員が出身国に帰国
話を現実世界に戻すと、時間の問題ともなっているIS崩壊に伴って、イラクやシリア国内においては、“IS後”の主導権をめぐる争いがすでに激化しているという話は、これまでも取り上げてきました。

一方で国外的には、モスル、そして今後のシリア・ラッカ奪還に伴ってIS戦闘員が世界各地に分散する危険性もあります。

IS戦闘員は外国からの参加者が多いとされていますが、戦闘経験を積んだテロリストが出身国に戻る・・・という話にもなります。イラク・シリアにおけるIS崩壊ですべてが終わるわけでなく、あくまで“第1章”の終わりであり、“第2章”が始まる可能性があります。

IS戦闘員の出身国は世界各国にまたがっていますが、国際戦略コンサルティング会社、ソウファン・グループの2015年12月のレポートによれば、チュニジア6000名、サウジアラビア2500名、ロシア2400名、トルコ2100名、ヨルダン2000名とのことで、フランスからも1800人、イギリスからは760人が、外国人戦闘員として加わっているともされています。【2016年3月21日 Global Voices】

また、別調査では中国から300人とも。【http://top10.sakura.ne.jp/ICSR-ISIS.html】おそらくウイグル人でしょう。

チュニジアは「アラブの春」が成功した唯一の国とされていますが、問題のある者が国外に出ていくことで実現した成果とも言え、そうした者が戻ってくることで唯一の「アラブの春」の成果も動揺する可能性があります。

ウイグル人戦闘員が中国に対し、「川のように血を流し、虐げられた人たちの復讐をする」とのメッセージを発していることは、3月2日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 当局は大規模軍事パレード IS参加戦闘員は「川のように血を流す」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170302でも取り上げました。

ロシア・チェチェン:渡航先消失で国内で若者が過激化
事情はチェチェンなど北カフカス地域を抱えるロシアでも同じ・・・というか、中国などより格段に深刻です。
単純に、IS戦闘員が戻ってくるということだけではなく(そのことは一定に防止することも可能ですが)、過激な若者を惹きつけてきた海外渡航先が消失することで、国内で過激化する若者が増えるという問題が指摘されています。

****プーチンはシリアのISISを掃討するか──国内に過激派を抱えるジレンマ****
<チェチェン共和国でテロ攻撃が増加している。ISISに参加するためシリアやイラクに出て行った戦闘員が、ISISの劣勢を受けてロシアに帰国しているからだ。>

ロシアが独立運動を警戒するチェチェン共和国で、過激派による銃撃事件や、暴力による死傷者の数が、15年から16年の間に急増した。今年に入り、チェチェン内務省とロシア大統領直属の国家親衛隊は大規模な対テロ作戦を実施し、テロ攻撃を企てた疑いのある地下組織を摘発した。

こうした動きは、チェチェンの若者が一層過激化する傾向を反映している。過激派の台頭は、領土を持った疑似国家としてのテロ組織ISIS(自称イスラム国)の弱体化がもたらした副産物だ。

シリアやイラクの支配地域での国家樹立を狙うISISは、近年までチェチェンから大量の戦闘員を動員した。ロシア政府はシリア介入の大義にISISの壊滅を掲げたが、ISISの掃討作戦が上手くいけばいくほど、かえってISISの戦闘員が逆流し、チェチェンの不安定な情勢に拍車をかける恐れがある。

果たしてロシアはそんなリスクを冒しても、ISISを本気で壊滅させるつもりだろうか。(中略)

最大の戦闘員供給国
チェチェンから国外に渡航した戦闘員の数は、16年に大きく減少した。チェチェン内務省の情報では、同年にシリアのテロ組織に加わった戦闘員が19人まで落ち込んだ。年間で数百人が渡航したとされる13〜15年に比べると、大幅な減少だ。

戦闘員の勧誘が下火になった要因について、当局は予防措置や摘発が成功した証だと主張する。だが実際は、シリアとイラクでISISの支配地域や勢力が縮小したからだ。(中略)

ロシア政府は過去に「チェチェンのテロは敗北した」など疑わしい見解を示したが、テロが収まったように見えたのは、チェチェンからの戦闘員流出を抜きにしては語れない。

シリア内戦が始まって以降、カフカス地方の地下組織の活動は半減した。治安当局や専門家、人権活動家、地域の住民もその事実を認める。つまり、チェチェンの武装勢力が国外のテロ活動に従事してくれれば、ロシア国内の治安問題が解消するわけだ。

ISISが支配領域や戦力を失い続ければ、ロシアが戦闘員の流出という外的な力で国内の治安問題を解消するのが困難になる。(中略)

今後ロシアには2通りのシナリオが考えられる。

1つは、シリアで経験を積んだ戦闘員が帰国してチェチェンの武装勢力と結託し、ロシアの治安上の脅威が増大するシナリオだ。ただしロシアはすでに予防措置となる法律を制定したから、可能性は低そうだ。

プーチンは2015年4月にISISはロシアの直接的な脅威ではないと述べたものの、ロシア政府はロシアからISISに参加した戦闘員が大挙して帰国する事態を懸念していた。

そのため早くも2013年10月には刑法を改正し、国外のテロ活動への参加を厳罰化。戦闘員の帰国を事前に阻止した。さらに抜け穴を塞ぐため、2016年にテロ厳罰化法とテロ対策強化法を合わせた「ヤロバヤ法」と呼ばれる法律を制定し、裏から帰国するルートも塞いだ。

シリアでISの戦い続くほうが好都合
2つ目のシナリオは、チェチェンで過激化する若者が増え続けることで、国内の過激派が更に勢いづくことだ。実際にチェチェンでは、2016年に過激派による銃撃や被害者が急増する一方で、シリアの過激派組織に加わる戦闘員が激減したのは、それが現実に起きているのを示す兆候だ。

チェチェンとロシアの当局が今年1月に対テロ作戦を実施したのも、過激派の更なる台頭を阻止すべく先手を打つためだった。

(中略)(ISが)支配地域をなくせば、ISISはチェチェンの若者を魅了し戦闘員を確保する能力を失う。ロシア国内の戦闘員の卵は、ISISに参加を目指して渡航する希望をなくし、意欲も萎むだろう。

その結果ロシア国内で過激化する若者が増えてチェチェンの過激派が増大するなら、ロシアにとってまさに悪夢のシナリオだ。むしろシリアや周辺地域でISISの戦闘が続くいたほうが、ロシアは自国の領土から過激化した若者を排除でき、最悪のシナリオを回避できる。

果たしてそんな国内事情を抱えるロシアが、シリアやイラクなど国境を越えて本気でISISと戦うつもりかどうか、予断を許さない。【3月8日 Newsweek】
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国内に過激派予備軍を多数抱える国にとっては、ISが存続し続けてくれること、あるいは、別の拠点で再建してくれることのほうが、IS崩壊よりも好都合・・・というのが“本音”なおかも。
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ウクライナ クリミア併合から3年 双方の苦しい現状 トランプ“取引”不発でロシアも強硬姿勢

2017-03-19 22:10:13 | 欧州情勢

(クリミアのシンフェロポリで16日、ロシア併合を決めた住民投票から3年を記念して行われたパレード 【3月18日 産経】)

新たな停戦化で迎えた“クリミア併合3年”】
月日が経つのは早いもので、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合してから3年になるそうです。

****ロシアのクリミア編入から3年、記念行事の盛り上がりは控えめ****
ロシアがウクライナ南部クリミア半島を編入してから18日で3年を迎えたが、記念行事の盛り上がりは控えめだった。ウクライナ政府は、黒海に突き出した戦略拠点のクリミアをロシアが併合したのは「犯罪」だと非難している。
 
ロシア国営テレビは全国各地で行われた記念コンサートやパレードの様子を放送したものの、昨年までに比べると観客や参加者は少なめで、内容も大幅に質素だった。
 
昨年はこの日にクリミアを訪問したウラジーミル・プーチン大統領だが、今年は首都モスクワで行われるコンサートや花火の打ち上げを含め公式記念行事には一切出席しない予定だ。
 
ウクライナでは2014年、首都キエフでの大規模デモを受けて、ロシアが支援していた指導者が失脚。その後ロシアはクウクライナからクリミアを編入した。
 
一方、ウクライナ東部では親ロシア派が独立を宣言。3年近く続いている政府軍との戦闘で約1万人が死亡した。
 
ウクライナは18日、情勢不安が続く前線地域における戦闘で、過去24時間に兵士4人が死亡したと発表した。【3月19日 AFP】
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選挙期間中にロシアとの協調を前面に出し、クリミア併合も容認する姿勢を示していたアメリカ・トランプ大統領の就任に対するウクライナ政府・東部の親ロシア派双方の思惑もあってか、ウクライナ東部の戦闘は昨年末から2月初めにかけて激化し、紛争再燃の危険も指摘されるような状況となりました。

“ウクライナ東部で1月末以降、同国政府軍と親ロシア派武装勢力の本格的な衝突が起き、多数の死者が出ている。ウクライナ東部紛争をめぐっては、2015年2月に和平合意(ミンスク2)が締結され、大規模な戦闘は終息していた。米国のトランプ新大統領がウクライナ関与よりも対露関係の改善を優先する姿勢をみせる中、約1万人の死者を出した紛争が再燃しかねない情勢となっている。”【2月1日 産経】

その後は、事態を憂慮するアメリカ・ドイツ等の働きかけもあって、2月18日のミュンヘン会談で2月20日から新たな停戦に入っています。

****<米ウクライナ電話協議>「戦略関係強化を模索*****
トランプ米大統領は4日、ウクライナのポロシェンコ大統領と就任後初めて電話協議した。ウクライナ大統領府によると、両氏は「戦略パートナー関係の強化を模索する」意向を表明。また、ウクライナ東部の戦闘激化問題についても協議し、「即時停戦が必要」との認識で一致した。(攻略)【2月6日 毎日】
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****即時停戦要求で一致=ウクライナ情勢で独ロ首脳****
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は7日、ドイツのメルケル首相と電話会談し、戦闘が激化するウクライナ東部情勢について、政府軍と親ロシア派に即時停戦を求めることで一致した。
 
両首脳は戦闘激化に「深刻な懸念」を表明。一方でプーチン大統領は「ウクライナ側に停戦合意の履行を妨害しようとする明確な意図がある」とも主張し、戦闘激化の原因はウクライナ側にあるという認識を示した。【2月7日 時事】 
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東部でも、クリミアでも“見えない未来”】
しかし、現地では砲声がやまず、不安定な情勢が続いているとも。

“ロシアの支えが頼りの親露派支配には展望が見えず、不満を持つ住民は増えている模様だ。タクシー運転手のアレクサンドルさん(66)は「戦闘は止まらないし、物価が上がって生活は苦しい。全てが紛争前に戻ってほしい」と窮状を訴えた。”【2月22日 毎日】

もっとも、本当に“不満を持つ住民は増えている模様だ”と言えるのか、情報も少ない新ロシア派支配地域の住民の実情はよくわかりません。

そうした状況にあっての冒頭に示した“クリミア併合から3年”ですが、ロシア側の記念行事が控え目だったのは、ひと頃の興奮も一段落したというだけの話でしょう。

プーチン大統領の極めて高い支持率が、クリミア併合で示された“強い指導力”が国民に評価されている状況は大きくは変化していないものと思われます。

ロシアは橋の建設など“一体化”を進めていますが、クリミアの経済事情は、今後について楽観を許さないものもあるようです。少数派のタタール系住民の反発も依然として続いています。

****クリミア併合3年】親露派は「平和」を強調するが・・・ロシアとの一体化に見えぬ未来 観光地は閑古鳥****
ロシアのプーチン大統領がウクライナ南部クリミア半島の併合を宣言してから、18日で3年となった。併合は国際社会の厳しい非難と孤立化を招いたが、露政府は巨額を投じてクリミアとロシアを結ぶ橋の建設を進めるなど、「一体化」への手綱を緩めていない。ウクライナ当局の許可を得て現地に入った。
   ■    ■
(中略)
クリミアで多数派を占めるのはロシア系住民で、中心都市シンフェロポリに向かう幹線道路脇には、プーチン氏の写真と住民へのメッセージが書かれた大型看板がいくつも並んでいた。
 
3年前の3月16日、クリミアではロシア編入の是非を問う住民投票が実施された。16日にはこれを記念する式典が開催された。
 
参加者の元教師、エレーナさん(69)は「プーチン氏は私たちのことを考えてくれる唯一の大統領。平和に暮らせて本当に幸せ」と笑顔で語った。
 
式典ではクリミアの“平和”が強調された。
紛争が続くウクライナ東部2州の親ロシア派武装勢力のトップらも登壇し、女性議員が「今もポロシェンコ(ウクライナ大統領)は東部で子供たちを殺している」と主張した。紛争が続く東部に比して、クリミアは恵まれていると印象付ける意図が感じられた。(中略)
   ■    ■
ロシアは巨額を投じてクリミアとの一体化を進めている。2019年末までに車道、鉄道でロシアとクリミアを結ぶため、総投資額約3000億ルーブル(約6000億円)ともいわれる橋の建設を強行。

昨年、クリミアへの投資は約1500億ルーブルあったとされるが、その大半はロシア政府の拠出だったとみられている。年金や警察官の給与などもロシアの水準に合わせて引き上げられ、これも住民の支持を集める一因となっている。
 
一方で、クリミア経済は先行きがまったく見えない状況に陥りつつある。
   ■    ■
クリミアでは、モスクワでよく見かける銀行や携帯電話会社、小売店などはまったくない。
欧米の制裁を背景に、外国企業だけでなく露国内の企業もクリミア投資を控えているためだといわれる。外国との流通網が遮断された結果、スーパーに並ぶ商品はモスクワ以上に高いものが少なくない。
 
併合で深刻な影響を受けているのが、クリミアの主力産業である観光だ。
旧ソ連時代、指折りの観光地だった半島南部ヤルタ。海岸沿いで軽食を売っていたセルゲイさん(24)は、閑散とした光景を見つめながら「夏に観光客が来るかどうかだな」と、うつろな表情で語った。
 
併合を受け、クリミアへの海外からの観光客は「皆無になった」(地元住民)。港を訪れていた若者は「夏場、港は海外からのクルーズ船であふれたものだが、もう一隻も来なくなったよ」と明かした。
   ■    ■
ロシアによる併合に反対した、イスラム教徒が主体のタタール系住民(クリミア・タタール人)の抑圧も依然として指摘される。
 
ウクライナのメディアによると、クリミアでは今年に入ってからもタタール系の社会活動家や弁護士などの拘束が相次いでいる。シンフェロポリ市内では、「過激主義団体」だと当局に認定された住民組織の建物が、閉鎖されたまま放置されていた。
 
市内に住むタタール系の男性(30)は、「(ソ連時代の抑圧で)多くのタタール人が命を落とした。なぜ今さらロシアを支持できるのか」と述べ、「ウクライナの時代の方がよかった。いつかロシアには出ていってほしい」と訴えた。【3月18日 産経】
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民族主義台頭に苦慮するウクライナ
一方のウクライナ側では、クリミアに続いて東部も・・・という“国難”にあって、当然のように“民族主義”が強まっています。

“ここにきて民族主義への傾斜はいっそう強まっている。ウクライナ議会には2月、全ての行政機関や教育施設でのウクライナ語使用を義務づける法案が提出され、ロシア語使用者の多いドンバス地方の反発を増幅した。
議会には、ソ連時代の農業集団化に伴う大飢饉(1932〜33年)や、ウクライナ独立闘争の歴史を否定してはならない−との法案も出されている。”

しかし、ウクライナ経済は親ロシア派が実効支配する東部と密接につながっており、そうしたつながりを否定する民族主義は、ただでさえ苦しいウクライナ経済を更に困難な状況に追い込むことにもなります。

ウクライナ本体と親ロシア派支配地域を結ぶ鉄道を民族主義的な一部野党議員らが封鎖したという話は、1月31日ブログ“ウクライナ東部情勢 完全には止まない戦闘 財政逼迫のウクライナ事情 親ロシア・トランプ政権誕生で?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170131でも取り上げました。

そうした行動への報復も実行されています。

****鉄道封鎖への報復、ウクライナ東部の企業接収へ 親ロ派****
ウクライナ東部を占拠する親ロシア派勢力は1日、支配地域内で活動するウクライナ企業を強制管理に移すと発表した。事実上の接収で、支配地域と外部を結ぶ鉄道を一部野党議員らが封鎖したことへの報復という。
封鎖はすでに1カ月を超え、ウクライナ全土の経済に影響。ポロシェンコ政権は対応に苦慮している。
 
親ロシア派の発表後、ウクライナの大手電話会社「ウクルテレコム」は、東部ドネツク州の同派支配地域で全サービスが止まったことを明らかにした。現地の事務所が武装勢力におさえられ、域内の設備を制御できなくなったという。
 
2014年春からの紛争で、親ロシア派支配地域では行政などあらゆる公共部門を武装勢力が管理する一方、鉱工業を中心にウクライナの財閥系企業も活動を続け、全土の発電所や金属精製工場に石炭、原料を送り出していた。現地では住民の数少ない雇用の場だ。
 
しかし、トランプ米大統領が就任した直後の1月26日から、北側の政府支配地域で野党議員と政府軍の元兵士の活動家らが線路を封鎖。貨物列車の運行が止まり、出荷先を失った炭鉱、工場が活動不能に陥った。【3月2日 朝日】
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首都キエフでは、民族主義団体のメンバーがロシアの大手銀行の現地法人の本店を襲撃するといった事件も起きており、新たな火種ともなっています。

****ウクライナでロシアの銀行襲撃 対立の新たな火だねに****
ウクライナで、民族主義団体のメンバーが対立するロシアの大手銀行の現地法人の本店を襲撃してブロックを積み上げて閉鎖し、これに対してロシア外務省がウクライナ政府に強く抗議するなど、両国の対立の新たな火だねになっています。

ウクライナの首都キエフで13日、民族主義団体のメンバーが対立するロシアの大手銀行「ズベルバンク」の現地法人の本店を襲撃して正面にブロックを積み上げて封鎖し、ほかの支店でもATMなどを破壊しました。

ウクライナの民族主義団体は、ロシアの「ズベルバンク」が東部で戦闘を続ける親ロシア派に対して、取り引きの際に親ロシア派が独自に発行する証明書を有効と認めるなど便宜を図っていると反発していて、ウクライナの現地法人の営業許可を取り消すよう求めています。

これに対して、ロシア外務省は14日、コメントを発表し、「いつもの敵探しだ」と非難したうえで、地元の警察が銀行への襲撃を取り締まらなかったとして、ウクライナ政府に抗議しました。

ウクライナでは、ことし1月末から2月にかけて、政府軍とロシアが支援する親ロシア派の間で再び戦闘が激しくなって30人以上が死亡するなど緊張が続いていて、銀行への襲撃が両国の対立の新たな火だねになっています。【3月14日 NHK】
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対ロシア強硬姿勢を余儀なくされているアメリカ・トランプ大統領
ウクライナ東部の情勢に大きな影響力を持つアメリカ・トランプ大統領は、アメリカ国内におけるロシア協調路線への厳しい批判もあってか、あるいは国際関係の現実を認識したせいか、選挙期間中のロシアとの協調、クリミア併合容認路線をひっこめたような言動を示しています。今のところは・・・ですが。

****トランプ大統領、「ロシアはクリミア半島をウクライナに返還すべきだ****
アメリカのトランプ大統領が、ロシアに対し、クリミア半島をウクライナに返還するよう求めました。

プレスTVによりますと、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、14日火曜、「トランプ大統領は、ロシアがクリミア半島をウクライナに返還し、この国の危機の緩和を促すことを期待している」と語りました。
スパイサー報道官は同時に、「トランプ大統領は、ロシアとの協調を望んでいる」と主張しました。

また、オバマ前大統領がロシアのクリミア半島支配に目を瞑(つぶ)っていたことを非難しました。

アメリカの対ロシア政策は、ここ数日、大統領の選挙戦でのスローガンとは異なるものとなっています。
トランプ大統領は選挙戦の中で、ロシアとの関係の改善を強調していましたが、最近、イギリスのメイ首相とワシントンで行った共同記者会見では、「対ロシア制裁の解除は時期尚早だ」と語りました。

スパイサー報道官も、先週水曜、「クリミア問題を巡る対ロシア政策は続けられる」と語りました。(後略)【2月15日 Pars Today】
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当然ながら、ロシアは「われわれは自国領土を返還しない。クリミアはロシアの領土だ」(ロシア外務省のザハロワ報道官)と拒否しています。

あれほど対ロシア協調をアピールしていたトランプ大統領が“オバマ前大統領がロシアのクリミア半島支配に目を瞑(つぶ)っていたことを非難”というのも笑えますが、トランプ大統領は“取引”で、ウクライナ情勢・対ロシア制裁解除を実現したいというのが本心のようです。

ロシアとの協議で辞任に追い込まれたフリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のもとで、ロシアがウクライナ東部から部隊を撤収させることを前提に、米国による対ロシア制裁の解除につなげる、クリミアについては「ウクライナの有権者が、ロシアに50年ないし100年の期間で貸与するかどうかを国民投票で決める」といった案が検討されていたようです。【2月21日 AFPより】

ロシア・プーチン大統領も強硬策
トランプ大統領が対ロシア強硬姿勢を余儀なくされる状況で、当面トランプ大統領に期待できないプーチン大統領も強硬策を示しています。

プーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア派が独自に発行する住民の身分証などについて、ロシアでも有効と認める大統領令に署名、また、親ロシア派住民のロシアへの査証(ビザ)なし往来も許可するといことで、ウクライナとの対立がさらに深まる恐れがあります。

****プーチン大統領、ウクライナ東部との自由往来認める 親露派地域との一体化加速、トランプ政権に強硬策****
ロシアのプーチン大統領は18日、ウクライナ東部の親露派武装勢力が支配下の住民に発行する身分証明書などを「有効」とし、ロシアとの自由な往来を認める大統領令に署名した。

人やモノの移動を通じ、親露派地域とロシアの一体化がさらに進むことになる。トランプ米政権が厳しい対露姿勢も見せ始めた中、プーチン政権は強硬策をとることで、ウクライナ東部紛争の和平プロセスを優位に進める思惑だと考えられる。
 
大統領令は、ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の主要地域で親露派が発行する身分証や学位、婚姻・出生証明書、自動車の登録番号などについて、ロシア国内での通用を認める内容。東部紛争の和平が実現するまでの臨時措置であり、人道上の国際法規に則ったものだとしている。
 
ウクライナ外務省は18日、「ロシアの統制下にある違法な政権を事実上承認するものだ」とし、2015年2月の和平合意(ミンスク2)に違反していると非難する声明を出した。
 
ミンスク2は、ウクライナが地方分権のための改憲を行うことや、同国による国境管理の回復を規定。しかし、ウクライナとロシアが互いを批判して履行は進まず、1月末以降は大規模な戦闘が再発している。
 
米国のペンス副大統領が18日、ロシアにも和平合意履行の責任があると言明するなど、トランプ米政権の対露姿勢は硬化の兆しを見せている。

プーチン政権の狙いは、親露派地域に「特別の地位」を認めさせる形での紛争決着だが、「独立承認」や「併合」もちらつかせてウクライナ政府や米欧に譲歩を迫る構えだ。【2月19日 産経】
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ウクライナ東部も、クリミアも、ウクライナも“苦しい状況”が続いており、アメリカとロシアも強気の姿勢を崩せない・・・ということで、いまだ出口は見つかっていません。

ただ、プーチン大統領としては、クリミアに加えて東部まで抱え込むのは財政的にも負担が大きすぎ、国際関係におけるロシアの立場も極端に悪化させます。現在のように衝突の危険がくすぶる“凍った紛争”を継続することでウクライナ政府に一定に圧力・影響力を行使できれば、ウクライナをロシアの影響下につなぎとめるという目的を達成しているとも言えます。あとは、トランプ政権が安定すれば制裁解除をなんとか・・・といったところでしょうか。
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飢餓と戦乱のソマリア・イエメン 逃げ惑う人々を襲う更なる悲劇 門戸を閉ざす国際社会

2017-03-18 21:39:37 | 難民・移民

(ソマリア難民の乗った船が襲撃されたイエメン・ホデイダ【3月17日 AFP】 アデン湾を挟んでイエメンの南側対岸がソマリア)

予測はできても防げない“人災” 広範囲の危機で国際支援にも限界
東アフリカ・ソマリアが深刻な干ばつにより飢餓の危機に直面していることは、これまでも取り上げてきました。

2月25日ブログ“今後半年間でナイジェリア、南スーダン、ソマリア、イエメンの4カ国で、2000万人以上が飢餓に直面する恐れ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170225
1月30日ブログ“干ばつの危機も迫るソマリア 難民受け入れを停止したアメリカ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170130

“数十年に及ぶ紛争と干ばつに疲弊したソマリアにはセーフティネットなどあるはずもなく、今月中に雨が降らなければ、大量の餓死者が出るだろうと懸念されている。”という状況にあります。

****ソマリア、干ばつで大量餓死の危機高まる*****
2010年、ソマリアを干ばつが襲い、それに続いて飢饉が起こった。ようやく雨が戻った時には、25万人以上が死亡していた。そして今、再びソマリアで起こっている干ばつを、政府は国家的災害と宣言した。
 
3月5日の政府発表によると、ある地域ではこの干ばつのために48時間で110人が死亡した。気象専門家は、この数字が単なる始まりにすぎず、2011年の悪夢が再び繰り返されるのではないかと恐れている。
 
現在、ソマリアでは300万人近い人々に緊急支援の必要があると、国連では推測している。社会的なセーフティネットが整っていないと、干ばつの後に飢饉が起こる。

数十年に及ぶ紛争と干ばつに疲弊したソマリアにはセーフティネットなどあるはずもなく、今月中に雨が降らなければ、大量の餓死者が出るだろうと懸念されている。
 
ソマリアには、年に2回雨期が訪れる。春の雨期は「グ」と呼ばれ、秋のそれは「デヤー」と呼ばれる。2016年の春は降水量がいつもよりも少なく、秋には全く降らなかった。そのため、今年3月から始まる「グ」に国中が期待をかけている。
 
今年2月、気候科学者と人道団体が共同で運営する「飢饉早期警告システムズ・ネットワーク」は、このまま雨が降らなければ飢饉が起こるだろうと警告を発した。

「この地域の食糧供給は慢性的に不安定で、気候がわずかに変化するだけでも大きな影響が出てしまいます」と、米メイン大学の気候変動研究所のブラッドフィールド・ライオン助教授は言う。
 
干ばつは2015年から続いており、昨年秋から専門家は悪化の兆候をとらえていたが、それでも危機に至るのを回避することはできなかった。

インフラの整っていないソマリアでは、農業は灌漑システムではなく降雨に頼るしかない。また、人道団体は武装勢力アル・シャバブに阻まれて必要な地域へ支援を届けることができない。

「干ばつは予測できなかったわけではありません」と、ライオン氏は言う。「しかし、効果的に対応できるネットワークが確立されていないのです」。また、必要な人々へ警戒情報が行き渡らないことも問題だという。「ソマリアの農業従事者は、最先端の研究所が発表した気象情報を調べることはしません」

増加する干ばつ
アフリカでは、1990年代から干ばつの発生頻度が増加している。ライオン氏の研究によると、その原因の一部は、東太平洋で海水温が下がり、西太平洋では上がっているためであるという。これがエルニーニョとラニーニャの周期に影響を与え、気候変動も加わって気温は上昇し、陸地が乾燥した。
 
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の気候災害グループで研究ディレクターを務めるクリス・ファンク氏は、ソマリアで干ばつの発生頻度が増えていることに関して、過去20年間の研究生活のなかでも「前代未聞」のことだと話している。

昨年秋、ファンク氏はソマリアの雨期は厳しいものになるだろうと警告していたが、その予報は的中してしまった。土地は干上がり、多くの住民が食糧を求めて首都を目指した。

干ばつが飢饉につながる背景
国連は、全世帯数の20%が食糧不足に対処できず、急性栄養不良が30%を超え、1日で1万人あたり2人以上が餓死すると、飢饉の発生を宣言する。
 
2011年、ソマリアはこの条件をすべて満たしてしまった。過去60年間で最悪と言われた干ばつは、同時期にケニアとエチオピアをも襲った。しかし、この2カ国は食糧援助と備蓄食糧のおかげで危機をかろうじて回避することができた。しかし、ソマリアの場合は長年にわたる紛争でインフラと支援体制が疲弊し、頼りの食糧備蓄も皆無だった。

「干ばつが起こったからといって、それが直接飢饉につながるわけではありません。飢饉は、人々が食糧を購入できないために起こるのです」と、ファンク氏は説明する。
 
現在起こっている干ばつは、気温とともに食料価格も上昇させている。少しばかり備蓄はあるが、ソマリア人の主食であるソルガム(モロコシ)とトウモロコシの価格は数カ月で50〜88%上昇し、2011年と同じレベルに達しようとしている。
 
ファンク氏は、早期追跡システムと支援体制が改善されたことで、これを埋め合わせできると期待している。飢饉警告システムズ・ネットワークは2011年当時、現在のような人工衛星による観測システムや現地での情報収集法を持たなかった。人道支援へのアクセスも、武装したアル・シャバブによって阻まれていた。

現在、首都の治安は良くなり、今年2月に数十年ぶりの民主的な選挙で選ばれた新大統領が、テロや暴動を鎮圧させると期待されている。だが、事態は差し迫っている。2011年の干ばつによる死者数は、4月から5月にかけて急増していた。
 
人道団体の焦点は、干ばつ対策から飢饉防止計画へと移行している。しかし、南スーダン、シリア、イエメンで同時進行している大規模な人道危機のなかで、ソマリアまで支援金が回らないのではないかという懸念もある。

国連は2017年度にソマリアに対し8億6400万ドルの支援を呼びかけているが、現在までのところまだその6%しか満たされていない。

「こうした危機に向き合うのは困難なことです。けれども、向き合うことをせず悲劇が起こるままにしておけば、さらに大変なことになるでしょう」と、ファンク氏は語る。【3月17日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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干ばつはある程度予測できる技術水準にありますが、その情報が生かされない現状は“人災”とも言えます。
アル・シャバブが国際支援を阻んでいた2011年に比べれば、政治環境は改善していますが、“支援疲れ”している国際社会の無関心、対応の限界によって、飢餓が放置される危険性もあります。

戦乱のイエメンを逃れるソマリア難民を襲う悲劇
ながく無政府状態が続き“破たん国家”の代名詞でもあったソマリアにあっては(そうした状況がどこまで回復しているのかは定かでありませんが)、国家的なセーフティネットはほとんど期待できませんので、戦乱と飢餓の危機に直面した人々が可能な対策は“逃げる”ことしかありません。

しかし、そうしたソマリア難民はアメリカ・トランプ政権の拒絶にも見られるように、安心できる行き場はありません。

これまでの戦乱を逃れてアデン湾をはさむ対岸のイエメンに脱出したソマリア難民も多数いますが、イエメンも長引く紛争によって飢餓の危機が進行しています。

国連が「国連創設以来で最大の人道危機」という状況下で、イエメンは“3人に2人にあたる約1900万人が何らかの支援を必要としている。食料支援を待つ人は700万人に上り、1月時点より300万人も増えている”【3月11日 朝日】と言われています。

紛争の危険性で言えば、サウジアラビアが支援するハディ暫定大統領側と反政府勢力フーシ派の戦闘が一向に収まらないイエメンよりは、アル・シャバブの勢力が弱体化したソマリアのほうがまだまし・・・ということでしょうか、イエメンからソマリアに戻る難民もいるようです。

人々は一縷の望みにすがって、脱出を試みていますが、そこでも人々を待つのは悲惨な現実です。

****イエメン沖 ソマリア難民らの船が攻撃受け42人死亡****
内戦が続く中東イエメンの沖合で、17日、ソマリアの難民らを乗せた船が、軍用と見られるヘリコプターなどからの攻撃を受け、これまでに少なくとも42人が死亡しました。

IOM=国際移住機関によりますと、内戦が続くイエメン西部の港町ホデイダの沖合で、17日午前3時ごろ、ソマリアの難民ら160人以上を乗せた船が攻撃を受け、これまでに少なくとも42人が死亡しました。

難民らは、難民キャンプがあるイエメンの治安が悪化したため、船でソマリアに戻る途中だったということで、生存者は当時の状況について、海軍の艦船のような大型の船と、そこから飛び立ったヘリコプターから攻撃を受けたと証言しています。

イエメンでは政権側と反体制派による激しい内戦が続き、政権側を支援する隣国サウジアラビアを中心とした連合軍が介入して、反体制派への空爆も行われています。

とりわけ、船が攻撃を受けた場所に近いホデイダをめぐっては、国連機関などが、ここ数か月の戦闘で港が大きな被害を受け、貨物船の入港や漁業が中断し、食糧不足が深刻化しているとして警鐘を鳴らしていました。

国連は「イエメンの状況は悪化していて、難民たちは海を渡って逃げ出している。イエメン内戦の当事者に対し、市民の命を守るため全力を尽くすよう求める」とコメントしています。【3月18日 NHK】
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“(国際移住機関)IOMによると、船はスーダンに向かっていた”【3月17日 AFP】という報道もあります。

誰が攻撃したのか?ということについては。今のところ定かではありません。

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フーシ派の勢力下にある国営サバ通信は、同派と敵対するサウジアラビア主導の連合軍が空からソマリア難民に攻撃を加えたと非難したが、それ以上の詳細は明らかにしていない。
 
一方、連合軍の報道官はAFPに対し、同軍はホデイダでの戦闘に参加していなかったとして、事件への関与を否定した。政府側を支援する連合軍は、フーシ派からイエメンの紅海沿岸地域を奪還するため攻勢をかけている。
 
国連(の各機関や赤十字国際委員会(ICRC)は事件を非難。ICRCはさらに、速やかな調査の開始を要求している。【3月17日 AFP】
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ただ、“海軍の艦船のような大型の船と、そこから飛び立ったヘリコプターから攻撃”という話を聞くと、サウジアラビアなど連合軍のようにも思えますが・・・もちろんわかりません。

今回はいすれかの“軍”による攻撃の犠牲ですが、そうしたものがなくても、ソマリアとイエメンを渡る航海が極めて危険なものであることは以前から言われているところです。

密航業者が海上でお金を要求して、難民らを海に叩き落す・・・といった話を以前はよく聞きました。今が当時より改善した・・・ということはまずないでしょう。

祖国も避難先も戦乱と飢餓に直面し、余裕のある国々は“自国第一”“テロの危険”で“厄介者”に門戸を閉ざし、逃げ惑う人々は軍や密航業者の餌食となる・・・まったく心が寒くなる話でが、世界の現実です。
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ハンガリー  国境フェンス強化で難民・移民排除に進むオルバン首相 「民族の同質性」重視

2017-03-17 23:13:06 | 難民・移民

(2017年3月2日、ハンガリーのガラ村近くで、第二のフェンスで最近囲まれたばかりのセルビアとの国境地帯を巡回するハンガリーの警察官 【3月14日 The Huffington Post】)

【「非リベラル国家」を目指すハンガリー
EU加盟国でもある東欧・ハンガリーのオルバン政権が、西欧的な欧州のイメージとはかなり異質な国であることは、昨年7月12日ブログ“ハンガリー 「3分の2」で改憲・新憲法 国家・民族重視の「非リベラル国家」を目指すオルバン政権”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160712でも取り上げました。

昨年ブログのポイントだけ列挙すると
・民族的基盤に則った「非リベラル国家」の建設を目指していること。「非リベラル国家」とは、自由の基本原則は保持しながらも自由の度合いは制限されている国と定義しているとみられ、オルバン首相はその成功の具体例としてロシア、中国、トルコの名を挙げています。

・難民流入はキリスト教文化への脅威と反対の立場で、フェンスを国境に築くなど、難民流入を阻止し、ドイツ・メルケル首相の難民受入政策を批判していること。

・「3分の2」を超える「数の力」を背景に、10回以上の改憲を繰り返し、「非リベラル国家」建設を進めていること。それによって新たに憲法に盛り込まれた規定からは、下記のような個人の権利より民族や共同体を重くみる思想が浮かび上がります。
 ▼個人の自由は、他者との共同においてのみ、展開することができると信ずる
  ▼我々の共生の最も重要な枠組みが家族及び民族
 ▼何人も……その能力及び可能性に応じた労働の遂行により、共同体の成長に貢献する義務を負う

・憲法改正の内容に反対する憲法裁判所に対しは、その権限を弱め、人事権を掌握し、憲法裁判所を政権のコントロール下に置くように制度変更していること。

・民族、宗教、マイノリティーの尊厳を傷つける・・・などと政権側が判断した場合、メディアに罰金を科すというような法律を制定し、メディアの政権批判を許さない方向に進んでいること

このようにEUの理念とは相いれないようなハンガリーですが、EUに加盟することで農業補助金や貿易の面でEUから多大な便宜を得ている国でもあります。

ハンガリーの異質性については、最近欧州全体で拡大する極右・ポピュリズム勢力とも共通するものがあり、必ずしも“異質”“少数派”とは言えない存在になりつつあることが重要な問題です。

3月15日に行われたオランダの総選挙では周知のように、ウィルダース党首率いる極右・自由党の第1党は阻止されましたが、自由党は犠牲を大幅に増やす“大躍進”には違いなく、また、与党の勝利(議席は大きく減らしていますが)はルッテ首相が新聞に「普通に振る舞え、さもなければ出ていけ」と移民に警告する選挙用広告を出すなど、与党自身が(極右のお株を奪うような)右傾化して移民に反感を持つ国民の支持をつなぎとめたことによるものです。

そのあたりの話はまた別機会に回すとして、今日は、前回ブログ以降のハンガリーの動きについてです。

EUの難民割り当てに反対する国民投票、憲法改正の試み
前回ブログでも少し触れたように、オルバン政権はEUの求める難民割り当てに反対する国民投票を昨年10月に行いました。結果は、投票率が約43%と、投票成立要件の50%を下回ったことで投票は無効となりました。

****<ハンガリー国民投票>難民「拒絶」98% 低投票率で無効****
欧州連合(EU)による難民割り当ての是非を巡るハンガリーの国民投票が(2016年10月)2日投開票され、割り当て反対が9割以上を占め、賛成を大きく上回った。

投票率は約43%で投票成立要件の50%を下回った。投票は無効となったが、国民に割り当て反対を呼びかけていたオルバン首相は「勝利」を宣言。EUに難民政策の変更を求める方針だ。
 
選管発表によると、開票率99.9%で割り当て反対は98.3%、賛成は約1.7%だった。(中略)

昨年、欧州には難民100万人以上が流入。EUは昨年9月、「玄関口」であるギリシャ、イタリアに集まった難民計16万人を2年間で各国に割り当てることを決めた。ハンガリーは1294人の受け入れ分担が決まっている。だがハンガリーやスロバキアなど東欧諸国は拒絶している。
 
オルバン氏は国民の支持を背景に、昨夏から国境にフェンスを設置するなどして難民流入を阻止。その後も難民割り当てを巡って欧州司法裁判所に提訴するなどEUと激しく対立してきた。
 
今回の国民投票は、政府主導で実施。政府側は紛争から逃れた難民を含めて「不法移民」と断じ、「移民が増えれば増えるほど、テロの危険が高まる」など国民の反難民・移民感情をあおってきた。

だが多額の税金を投入した選挙キャンペーンには反発も広がり、野党が投票ボイコットを呼びかけたため、投票率が伸び悩んだとみられる。【2016年10月3日 毎日】
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国民投票は無効となりましたが、「われわれが誰と暮らすかは国民だけが決める」とするオルバン首相は、「ハンガリーに異民族が移住することはできない」との原則を憲法に明記する憲法改正案を国会に提出。

この改正案は採択に必要な3分の2に届かず否決されましたが、“極右野党「ヨッビク」が政権の対応は不十分だと批判し、首相に一層強硬な難民・移民流入阻止策を要求。2018年予定の議会選を意識した駆け引きが活発化している”【2016年11月8日 時事】とも。

****<ハンガリー>憲法改正案、国会で否決****
ハンガリー政府は(2016年11月)8日、先月2日の欧州連合(EU)による難民割り当ての是非を巡る国民投票で「反対」が98%に達したことを受け、割り当てを拒否する憲法改正案を国会に提出したが、反対多数で否決された。
 
関係者によると、憲法改正案は「ハンガリーに異民族が移住することはできない」と明記した上で、EU加盟国以外の外国人について「国会が定める手続きに従い、ハンガリー当局が個別に審査」して、移住の可否を判断するという内容。
 
改正には3分の2の賛成が必要だったが、ほとんどの野党が棄権した。ただ与党の支持率は依然として高く、今回の結果が政権に与える影響は限定的とみられる。
 
国民投票は投票率が低く、不成立となったが、オルバン首相は「(反対票を投じた)330万人の民意は無視できない」として、憲法改正案を提出した。
 
EUは昨年9月、難民が集中している「玄関口」のイタリア、ギリシャから加盟国に難民16万人を割り当てることを決定。ハンガリーを含めた東欧諸国は受け入れに消極的で、割り当ては進んでいない。【2016年11月8日 毎日】
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対ロシア経済制裁に反対してロシアとの協調を進める
オルバン首相は外交面でも、アメリカ・トランプ大統領の姿勢を歓迎し、ロシア・プーチン大統領とも密接な関係を示すなど、EUの方向とは異なる独自性を明らかにしています。

****トランプ氏の米国第一歓迎=他国の先例に―ハンガリー首相****
AFP通信によると、ハンガリーのオルバン首相は23日、ブダペストでの会合で演説し、トランプ米大統領が掲げる「米国第一主義」は他国が追随できる先例だとして歓迎した。
 
首相は、米国が自国を優先することで「われわれも自分たちを第一に考えることが認められるだろう」と指摘。「これは大きな自由だ」と強調した。【1月24日 時事】 
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****EU・ロシアの関係改善訴え=首脳会談でハンガリー首相****
ロシアのプーチン大統領とハンガリーのオルバン首相は2日、ブダペストで会談した。

インタファクス通信によると、オルバン首相は会談後の記者会見で「ロシアと欧州連合(EU)の新しい関係を期待している」と述べ、ロシアとEUの関係改善の必要性を訴えた。
 
オルバン首相は「欧州の西側では反ロシア的な政策がはやっているようだが、こういう状況下でこそ、われわれは経済的連携を保つ必要があった」と強調。両首脳はロシア産ガスの2021年以降の供給継続に向け、協議を開始することで一致した。【2月3日 時事】
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ウクライナ東部情勢をめぐりEUは対ロシア経済制裁を実施していますが、オルバン首相は上記のように経済制裁に批判的で、ロシアとのエネルギー分野での協力強化を進めています。

“ハンガリー以外にも、制裁に懐疑的なスロバキアが「大国間の関係改善は世界の安定につながる」(フィツォ首相)とし、ブルガリアで1月に就任した親露的なラデフ大統領も米露接近に期待を表明。冷戦時代に旧ソ連の影響下にあったEU加盟国でも、ロシアへの警戒が強いポーランドやバルト3国と対照をなす。”【2月2日 産経】ということで、ロシアに対する温度差がEU内部には存在します。

このため、アメリカ・トランプ政権が対ロシアで一部でも制裁解除の方向に進むと、EUの結束は困難に直面することにもなります。

難民申請希望者全員を拘束して、コンテナ・キャンプに収容
難民に対する厳しい姿勢は相変わらずです。

****ハンガリー、全難民抑留へ・・・コンテナ施設に収容****
ハンガリーのオルバン政権は(2月)9日、難民申請の審査が終わるまで、国境沿いの簡易収容施設にすべての難民を事実上、拘留する難民規制の強化策を発表した。
 
移動の自由を制限し、新たな難民の流入を防ぐ狙いがある。人権団体からは人道上、問題があるとの批判が出ている。
 
AFP通信などによると、収容施設はコンテナを連結させた構造で数百人規模の受け入れが可能。国境付近などの難民キャンプに滞在している586人も施設に移送する。外出や市街地などへの移動を認めず、事実上の拘留となる。
 
難民流入の状況がさらに悪化した場合、南部のセルビア国境に設けた柵を、もう一列拡充する方針も明らかにした。【2月10日 読売】
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ハンガリー議会は3月7日、入国した難民申請希望者全員を拘束して、上記コンテナ・キャンプに収容することを認める法案を可決しました。

****ハンガリー議会、亡命希望者全員の拘束を承認****
ハンガリー議会は7日、すべての亡命希望者を自動的に拘束し、同国南部の国境にあるコンテナ・キャンプに収容することを認める法案を賛成多数で可決した。
 
強硬な反移民政策を進めるオルバン・ビクトル首相は同法案について、最近欧州で起きている移民によるテロ攻撃に対処したものだと述べている。
 
対象はハンガリーに流入するすべての亡命希望者で、すでにハンガリー国内にいる亡命希望者も対象。亡命申請が処理されている間、ハンガリー国内を移動したり、出国したりすることができなくなる。
 
ハンガリーはこうした措置を以前にも取っていたが、欧州連合(EU)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、欧州人権裁判所などの圧力を受け、2013年に一時中断していた。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは先月発表した声明で、このハンガリーの新たな措置について「亡命を申請したということを理由として誰かを拘束することを禁じているEUの指針を無視するものだ」と批判している。【3月7日 AFP】
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オルバン政権がこれまでの難民対策をさらに強化しようとしているのに対し、欧州人権裁判所は、ハンガリーがこれまで行ってきた難民拘束・収容は欧州人権条約に違反しているとの判断を示しています。

****ハンガリー国境、難民拘束に賠償命令 欧州人権裁判所****
欧州人権裁判所(フランス・ストラスブール)は14日、2015年の難民危機でハンガリーが難民認定を望む人を国境付近で拘束したのは欧州人権条約違反だったとして、同国政府にバングラデシュ人原告2人にそれぞれ1万ユーロ(122万円)を支払うよう命じた。
 
ハンガリーは同年9月に南部のセルビアとの国境をフェンスで遮断。それ以来、難民申請を望む人々を最長28日間、国境沿いの金網に囲まれた幅十数メートルの通称「トランジット・ゾーン」(TZ)で拘束してきた。

今月7日には、この拘束を難民申請に対する審査結果が出るまで継続できる法案を議会が可決し、強硬姿勢をさらに強めている。
 
原告2人はTZ設置直後の15年9月に23日間拘束された上、隣国セルビアに戻された。判決はこの2人の訴えに対するものだが、同じTZで今も多くの人が同様に拘束されており、国際機関、人権団体などが同国政府への批判を強めるのは必至だ。
 
ハンガリーはこれまでおおむね家族連れの難民申請者に対する長期拘束は避けていたが、7日可決された法案は子供の長期拘束も認めている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「国際法とEU法に違反だ。すでに大きな苦しみを背負った人々に恐ろしい打撃を与える」(セシル・プイー報道官)としている。ユニセフ(国連児童基金)はアーデル大統領に法案への署名を思いとどまるよう求めている。【3月16日 朝日】
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ハンガリーでは大統領は象徴的役割を担い、政治の実権はほとんどありません。
アーデル大統領は今月13日に再選されたばかりですが、オルバン首相率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」出身です。

【“フェンス”強化で流入阻止 「民族が混ざりすぎるといろいろな問題が生まれる」】
アメリカ・トランプ大統領は“壁”建設にこだわっていますが、オルバン首相もセルビアとの国境沿いに建設したフェンスの強化を進めています。

****セルビア国境沿いの第2フェンス、5月末に完成へ=ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン首相は17日、国営ラジオで、5月末までにセルビアとの国境沿いに2つ目のフェンスが完成するとの見通しを明らかにし、これによりトルコからの新たな移民の流入を防ぐことができると述べた。

オルバン首相は、欧州連合(EU)がトルコを批判する一方で移民の流入阻止をトルコだけに頼るのは間違っていると指摘。

「民主化が十分ではないとトルコを批判し、トルコとの対立を招いている時に、私たちの安全をトルコの手に委ねるのは、賢明な政策ではない」と語った。【3月17日 ロイター】
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欧州各国に暮らすトルコ国民に対する政治的働きかけについて、欧州の安全を守ってやっているとして強気に出るトルコ・エルドアン大統領と国内の反移民感情を刺激したくないオランダ・ルッテ首相などとの対立は報道のとおりです。

「民主化が十分ではないとトルコの手に安全を委ねるのは、賢明な政策ではない」というのはわかりますが、フェンスや壁で流入を阻止すればいいのかという話はまた別です。

大量・無秩序な難民流入が社会的に受け入れがたいのはドイツの事例でもわかりますが、さりとて、壁を築いて排除するというのでは自らの価値観を貶めることになります。

「自国第一」を公言するオルバン首相やトランプ大統領を支持する人々は、そもそも難民らとの共生や困窮する人々を支援することに価値を認めていませんので、どうにも話のしようがありませんが。

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オルバン首相は2月2、ハンガリー商工会議所に集まった観衆に向かって扇動的な演説をし、経済的な成功のカギとなるのは「民族の同質性」だと語った。
オルバン首相は演説で、「民族が混ざりすぎるといろいろな問題が生まれる」と発言している。【3月14日 The Huffington Post】
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日本にも賛同する人々は多いように思われます。私にはナチスの亡霊のように思えますが。

国民にありがちなネガティブな感情に乗っかる(あるいは煽る)のではなく、現実と理念の間でどのような方策が可能か、どのような対策が必要かを探り、国民に同意を求めるのが政治の役割だと考えます。
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ベトナム  中国にも配慮した“バランス”外交 ネット上での政権批判には厳しい対応

2017-03-16 22:00:42 | 東南アジア

(インターネットに政府を批判する内容のコンテンツを繰り返し投稿し、国家の利益を侵害したとして、反国家宣伝容疑で逮捕された女性 【1月25日 VIET JO】)

南シナ海での主張を続けるベトナム
南シナ海における中国の進出については、ASEAN内で批判の急先鋒だったフィリピンがドゥテルテ大統領の親中国路線に転じたことで、今後は中国ペースで進むことが予想されます。

****南シナ海行動規範、中国とASEANが最初の原案作成=王外相****
中国の王毅外相は8日、南シナ海の領有権を主張し争う東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との間で、同海域での行動規範をまとめた最初の原案が完成したと明らかにした。

中国とASEAN10カ国は2010年以来、同海域における紛争を回避することを目的としたルール作成を協議してきた。

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせて記者会見した王外相は、先月になって協議が大きく進展したと明かした。

南シナ海問題を巡っては、米国が航行の自由を主張してパトロールを実施しているが、王氏はこうした動きを念頭に「この安定した状況に損傷を与えたり干渉することは断固として認めない」と述べた。【3月8日 ロイター】
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フィリピン以外では、中国と厳しく対峙してきたのがベトナム。
現在でも、中国とは問題を抱えています。

****ベトナム、中国に南シナ海での客船運航停止を要求****
ベトナムは13日、中国に対し、南シナ海での客船運航を停止するよう要求した。

中国は南シナ海の90%を領有すると主張。2013年にベトナムおよび台湾と領有権を争っている西沙諸島に中国の会社が客船を派遣し、今月には300人超の乗客を乗せた中国客船が到着した。

ベトナム外務省の広報担当者はロイターに「ベトナムはこれに強く反対する。中国が西沙諸島におけるベトナムの主権と国際法を尊重し、このような行動を直ちに停止するとともに、二度と繰り返さないよう要求する」と述べた。【3月13日 ロイター】
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ベトナムは、自国領と主張する地域での防衛強化も図っています。(規模は違っても、中国と同じような行動と言えば、そうも言えます)

****ベトナム、南シナ海の岩礁でしゅんせつ作業開始****
南シナ海にある南沙(英語名スプラトリー)諸島のラッド礁で、ベトナムがしゅんせつ作業を開始したことが、衛星画像で明らかになった。ベトナムが実効支配するラッド礁は、中国と台湾も領有権を主張している。

高潮の時は水没するが、灯台とベトナム軍兵士向けの施設がある。

米プラネット・ラブスが提供した、11月30日撮影の衛星画像では、新たに掘られた水路に複数の船が確認できる。

英防衛省で海軍の情報アナリストを過去に務めたトレバー・ホリングズビー氏は「ベトナムは防衛強化を加速している」との見方を示した。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の南シナ海専門家、グレッグ・ポリング氏は、ラッド礁での作業がどの程度行われるかは明らかでないと述べた。作業の目的が埋め立てなどではなく、補給船や漁船のアクセス改善である可能性もある。

ポリング氏は、理論的には、ラッド礁が近くにあるスプラトリー島の防衛能力を高める役割を果たす可能性があると指摘。スプラトリー島では滑走路などが建設されている。同氏は「ベトナムは中国に対抗できないことは承知しているが、監視機能の改善を図りたい」との考えを示した。

ベトナム外務省はコメントの要請に応じていない。【2016年12月9日 ロイター】
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中国との関係にも配慮した”バランス”重視の外交
同じ社会主義国でありながらも、現実に中国との領土問題を抱え、また、歴史的にも幾度も中国と衝突してきたベトナムの中国への不信感・警戒感が強いのは間違いありませんが、巨大な隣国への対応は慎重でもあります。

これまで国内の中国批判についても、一定に“ガス抜き”的に抗議行動を認めつつも、過熱しないようにある範囲で抑える・・・といったバランス重視の対応をとってきました。

外交面も、中国やアメリカとのバランスに配慮したものとなっています。

****<ベトナム>日米と中国の間でバランスに腐心**** 
ベトナムは、ケリー米国務長官と安倍晋三首相の訪問を連続して受け入れる一方、その直前には最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長が訪中(12〜15日)し、中国の習近平国家主席と会談した。

南シナ海で中国と領有権を争うベトナムだが、フィリピンのドゥテルテ大統領が対中国で融和姿勢に転じる中、日米などと中国との間でどうバランスを取るかに腐心しているようだ。
 
ラヂオプレスによると、ハノイ放送は13日、ケリー氏とベトナムのソン外務次官が会談し、航行の自由の維持に向け、外交と法的手段で紛争を解決することの必要性を互いに訴えた、と報じた。
 
また、北京で12日に開かれた中越首脳会談では、習氏が南シナ海問題について「対立点を管理し、海上での協力、共同開発を推進しなければならない」と問題の棚上げなどを訴えたのに対し、チョン氏は「国際法を基礎とする平和的な解決の堅持を訴えている」と、ベトナムの原則的立場に言及したという。

中国国営新華社通信が伝えた両国の「共同コミュニケ」では「双方は南シナ海の平和と安定を守るため、海洋問題での相違点を管理し、状況を複雑にし緊張を高める行動を避けることで合意」し、この問題で両国は2国間の緊張を高めないことで一致した。(後略)【1月16日 毎日】
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昨年10月には、アメリカ・日本に続き、中国海軍の艦艇のカムラン湾寄港も認め、中国批判一辺倒ではない“バランス”を示しています。

****中国海軍艦艇 ベトナム カムラン湾に初寄港****
中国海軍の艦艇3隻がベトナム海軍の最重要拠点であるカムラン湾に初めて寄港しました。カムラン湾には海上自衛隊やアメリカ海軍の艦艇も相次いで寄港していて、ベトナム政府が隣国の中国にも配慮し、バランスをとったものと見られます。(中略)

カムラン湾は、ベトナム戦争中にはアメリカ軍が駐留し、その後、ロシア軍が2002年まで使用していた戦略的要衝で、ベトナムと中国が領有権を争う南シナ海の島々にも比較的近いことから、現在はベトナム海軍の最重要拠点となっています。

ベトナム政府はことし3月に国際港として対外開放し、4月には海上自衛隊の護衛艦が初めて寄港したほか、今月上旬にはアメリカ海軍の艦艇もベトナム戦争終結後初めて入港しました。

日米の艦艇の受け入れは南シナ海をめぐる問題で中国に対するけん制とも受け止められていますが、これに次ぐ初の中国艦艇の受け入れは、ベトナム政府が経済的には強く依存する隣国の中国にも配慮し、バランスをとったものと見られます。【2016年10月22日 NHK】
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ついでに言えば、ロシアとの関係にも配慮することで、中国を牽制したりもしています。

****ベトナムにロシア製潜水艦の引き渡し完了 6隻目、南シナ海にらみ就役へ****
ベトナムがロシアから調達する6隻のキロ級潜水艦のうち、最後の1隻が20日、南シナ海に面するベトナム中部の軍事要衝カムラン湾に到着した。同国国営メディアが伝えた。来週早々にベトナム海軍に引き渡され就役する。

同海軍は、南シナ海の領有権をめぐり対立する中国への抑止力向上につなげる構えだ。
 
ベトナムは2009年、ロシアから潜水艦6隻を総額20億ドル(約2300億円)で購入する契約を結び、13年秋から順次引き渡しを受けてきた。ロシアはベトナムの潜水艦乗組員への訓練なども行っている。(後略)【1月20日 産経】
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ネット上には、中国に慎重な現政権への不満も
こうした“バランス”重視の姿勢は、昨年2月の指導部交代の反映でもあるでしょう。

それまで中国に対して批判的姿勢を強く打ち出していた「改革派」ズン首相は、一時は共産党書記長への昇格が予想されていましたが、実際にはズン首相は退任し、中国に対しては比較的穏健なグエン・フー・チョン書記長が留任することになりました。

このあたりの人事については、2016年2月8日ブログ“ベトナム ズン首相退任の党人事には、「改革」「中国」のほか、「南北」の影響も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160208でも取り上げたところです。

ズン首相退任、チョン書記長留任は必ずしも対中国姿勢の問題だけでなく、「改革」が進むことへの抵抗とか、南北問題とかも絡んだ話であることは前回ブログでも指摘したところですが、グエン・フー・チョン書記長が中国との関係に強く配慮していることは、1月の訪中・習近平国家主席との会談にも示されています。

そうした中国に対する慎重な姿勢がベトナム国内でどのように受け止められているか、面白い記事がありました。

****反中ベトナム人が怒り狂うネット上の噂とは****
3月頭にベトナムを訪問してきた。今回は、その際に出会った2人のベトナム人との会話を紹介しよう。

民間会社の社員(ハノイ在住、40代女性)
「私はベトナム共産党員ですが、最近の共産党は嫌いです」
「共産党員なのに。共産党が嫌いなの?」

「父はベトナム戦争の兵士でした。戦闘で大けがをして後遺症が残りましたが、勇敢な兵士だったので、戦後、軍関連の機関に就職してよい待遇を受けることができました。私はその娘として大学に行くことができたし、共産党にも入党できました。この国の人口は9000万人ですが、共産党員は400万人。役所で出世するには共産党員であることが必須です。共産党員はエリート。ただ、私は民間企業で働いているので、恩恵はそれほど受けていません」
「ふーん。ではなぜ最近になって共産党が嫌いになったのですか?」

「汚職のこともありますが、第1には現在の幹部が中国にべったりだからです。そのことに対して、みんなが怒っています。中国は南シナ海の島を占領して、その周辺で漁民が漁をすることを妨害しています。だから、水産物が少なくなり値段が上がりました。これは、私たち台所を預かる女性が身近に感じている中国の脅威です。それに対して、現政府は中国になにも文句を言っていません」
「脅威は水産物だけ?」

「政府はインターネットでの情報発信をコントロールしようとしています。ただ、ベトナム政府の能力は中国ほど高くないので、全ての情報を遮断できません。だから、若者たちが発信する情報がネット上に溢れています。ネット情報によると、この前、中国を訪問した時、ベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は2020年にベトナムが中国の1つの省になると約束したそうです」
「本当ですか?」

「ベトナムは常に中国と戦ってきました。徴姉妹(ハイ・バー・チュン:注 約2000年前に後漢に対して反乱を起こした姉妹)の話は、ベトナム女性の誇りです。1000年前に独立を勝ち取ったのですが、中国はそれからも何度もベトナムに攻め込んできました。それを撃退するために私たちの祖先が多数戦死しています。その中国に対して、中国の省の1つになるなどという約束をするなんて、まったくチョン書記長はどうかしています。いくら中国が怖いからと言って、そこまですり寄る必要はないじゃありませんか。だから、私は怒っているのです。
日本は中国に対して毅然とした態度を取り続けていますね。立派ですよ。つい先日、天皇陛下にもお越しいただいたことだし、ベトナムは日本ともっと仲良くなりたい。なにかの時には助けてくださいね」

外資系企業の管理職(ホーチミン在住、50代男性)
「ベトナムが中国の省の1つになるという話は本当ですか?」
「ああ、ネット上にはそんな話がたくさん書き込んであるようだな」
「ただの噂ですか?」
「まあ噂だろう。だが、火のないところに煙は立たない。チョンは中国ベッタリだから、それに近いことを言っているのだろう」

「多くの国民が中国を嫌っているのに、なぜチョン書記長は中国ベッタリなのですか?」
「そこがポイントだよ。チョンは米国と仲が良かったグエン・タン・ズン前首相を政権から追い出したかったのさ。ズンはやり手で、この国の経済を発展させた。その手腕は見事だったよ。まあ、汚職も派手にやったから嫌う人も多いけど、1人当たりのGDPが2000ドルを超える水準にまでになったのは、彼のおかげと言っていい」

「経済成長をリードしてきた彼がなぜ失脚したのですか?」
「やり過ぎだよ。ズンは政府の力を強めて共産党の力を弱めた。“政高党低“てやつさ。そこに共産党が脅威を感じた。それにズンは米国と仲よくし過ぎた。この前、オバマ米大統領がベトナムを訪問した時に、庶民がよく行く食堂で”ブンチャ“と言うベトナム料理を食べた。その店ではオバマが注文した料理を”オバマ・セット“なんて言って、売りだしている。大人気だそうだ」

「米国との関係を改善することは経済に対してプラスになるでしょう」
「ああ、だけど共産党にはマイナスだね。米国の影響力が強まれば、共産党の立場は弱くなる。そこに中国がつけ込んだのさ」

「ふーん」
「2015年11月に習近平がベトナムを訪問した。まあ、中国はなにか用事があるときには、ベトナム首脳を呼びつけるから、自分からわざわざベトナムに来るなんてなにかあると思っていたが、案の定、その直後の2016年1月の第12回ベトナム共産党大会でズンは失脚したね。習近平は世界中で評判が悪いから、ベトナムまでが米国になびくことを許せなかったようだ。それにベトナム共産党保守派が飛びついたわけだ」

「そんなことがあったのですか」
「ああ、習近平はベトナム共産党の幹部に大量のお金を賄賂として渡したと聞いているよ。ズンを完全に追い追い落とすように頼んだのさ」

「チョン書記長は中国の力を借りて、党内抗争に勝利したのですね」
「まあ、そうなるね。ズンの政策は強引で汚職体質だったけど、庶民の生活は確実によくなっていた。ズンの方向は間違ってはいなかった。だか、共産党の連中はそんなことをしていると共産党がなくなってしまうと思ったのだよ」

「なるほど、国より共産党の方が大事だと思ったのですね」
「そうさ。みんなそのことに気が付いたから怒っている。いくら共産党を守りたいからといって、中国に国を売る奴があるものか。若者はチョンを殺せと叫んでいるが、俺は分別のある人間だから殺そうとまでは思わない。ただ、機会があればチョンを殴ってやりたいと思っているよ」【3月16日 川島 博之氏 JB Press】
********************

もちろん、“グエン・フー・チョン書記長は2020年にベトナムが中国の1つの省になると約束した”なんてフェイクでしょう。
“習近平はベトナム共産党の幹部に大量のお金を賄賂として渡した”というのもフェイクでしょう。(中国資本の対ベトナム投資を増やすとかいった話はあるでしょうが。その場合、結果的に誰かの懐に大金が入る・・・ということはあるのかも)

また、上記はあくまでも川島氏がたまたま話を聞いた二人の人物ということにすぎません。決して、ベトナム世論全体を代表している訳ではありません。

ただ、こういう話がネット上で飛び交うということは、現政権の中国への微温的な姿勢に対する不満が一定に存在していることを示すものでしょう。

当局はネットでの政権批判に厳しい対応
一方の共産党側は、ネットでの“無責任な発言・不正確な噂”を厳しく取り締まる姿勢を強めています。

****共産党批判、ブロガーを逮捕・・・・ベトナム警察****
ベトナム国営メディアによると、同国警察当局は18日、「インターネット上に共産党を中傷する虚偽の文章を掲載した」などとして、北中部タインホア省のブロガー、グエン・ザイン・ズン容疑者(29)を逮捕したと発表した。
 
ズン容疑者は、動画投稿サイト・ユーチューブやフェイスブックなどへの投稿を通じて共産党や国家指導者らを繰り返し批判していた。
 
ベトナムでは、ネット上で政権を批判したブロガーが相次いで摘発され、国際人権団体が懸念を表明している。今月中旬には国家銀行(中央銀行)が新紙幣を発行するとの虚偽の情報をネットを使って広めたとして、男2人が逮捕された。【2016年12月19日 読売】
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観光で訪れるベトナムからはあまり想像できませんが、ベトナムは世界的に見ても言論・報道が厳しく規制されている国です。

世界中の言論・報道の自由を主張するジャーナリストによる非営利組織「国境なき記者団」(本部:フランス・パリ)が昨年4月に発表した「2016年度 報道の自由度ランキング」によると、ベトナムは前年と同じく180か国・地域中175位でした。(日本は2015年の61位から72位に後退)

ちなみに、中国がベトナムの一つ下の176位、北朝鮮がワースト2の179位、ワースト1は東アフリカのエリトリアでした。

175位と176位の関係ですから、指導部の考え次第でいかようにもなる・・・ということでしょうか。
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7年目を迎えるシリア内戦 ラッカ攻略を前に強まる各勢力の綱引き アサド政権存続に反発する反体制派

2017-03-15 23:13:39 | 中東情勢

(シリア第3の都市ホムスで、内戦によって破壊された建物の間を歩く市民(2016年9月19日撮影)【3月13日 AFP】)

内戦による死者は32万人 2016年は「シリアの子供にとって最悪の年」】
シリア内戦は今日で6年が経過し、7年目に入るそうです。2011年3月15日、シリア各地の多くの都市で一斉にデモが行われアサド政権への抗議運動が拡大したのが内戦の発端となりました。

“2011年1月31日に発表されたインタビューにおいて、アル=アサドは改革の時が来たことを宣言するとともに、エジプト騒乱、チュニジア革命、イエメン騒乱の抗議運動は中東に「新しい時代」が到来したことを意味し、アラブの支配者たちは人々の間に高まる政治的、経済的要求を受け入れるためにさらなる行動が求められるとした”【ウィキペディア】ということで、「アラブの春」を受けて、世俗的とも評されるアサド大統領は一定に改革の必要性は認識していたようですが、抗議運動に対する治安当局の強権的対応が抗議運動を次第に内戦へと変質させることにもなりました。

6年前にもどれたら、政権側・反体制派双方とも、もっと違う対応もできるだろうに・・・とは思いますが、現実には暴力の応酬となっています。
内戦によるこれまでの死者は32万人以上に上っています。

****シリア内戦、6年間で死者32万人以上 NGO発表****
6年前に始まったシリア内戦による死者はこれまでに32万人以上に上っていると、在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」が13日、発表した。
 
同監視団によると、2011年3月、バッシャール・アサド大統領に対する抗議行動に端を発したシリア内戦による死者数は、これまでに32万1358人に達している。
 
このうち約9000人は、アサド政権と同盟関係にあるロシアと反体制派を支援するトルコの両国の仲介で昨年12月、シリア全土に停戦が発効されて以降の死者だ。ただし同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表は、停戦発効以後の3か月では、それ以前よりも死者は減っていると述べている。
 
また、死者全体のうち9万6000人以上が民間人で、うち子どもが1万7400人超、女性が1万1000人近くとなっている。

さらに、戦闘の当事者の死者数は、政府軍の兵士が6万900人超、政権側に合流した外国人戦闘員が8000人超、シリア人民兵らが4万5000人。

一方で、シリア反体制派の戦闘員が5万5000人近くとなっており、加えてイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」や「シリア征服戦線(Jabhat Fateh al-Sham)」(旧アルヌスラ戦線、Al-Nusra Front)の戦闘員らに同程度の死者数が出ているという。【3月13日 AFP】
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1万7400人超が犠牲となっている子供については、ユニセフは2016年が「シリアの子供にとって最悪の年」になったとする報告書を公表しています。

****シリア内戦、膨らむ子の犠牲 16年、2割増の652人****
ユニセフ(国連児童基金、本部・ニューヨーク)は13日、内戦が終わらない中東シリアで、2016年に戦闘の巻き添えなどで殺害された子どもは前年比2割増の652人で、過去最悪だったとする報告書を発表した。

このうち225人は学校内か学校周辺で殺害されたという。ユニセフが確認できた人数だけに基づくため、実際の死者はもっと多い可能性が高い。
 
「どん底に達した」と題した報告書によると、前年の倍の850人以上の子どもが徴兵・徴用され、前線での戦闘、死刑執行、自爆攻撃の実行、刑務所の看守に従事させられたという。
 
シリアでは600万人の子どもが人道支援に依存するが、支援が届きにくい地域に暮らす子どもは280万人にのぼる。このうち28万人は、政権側や反体制派武装勢力による包囲地域に住んでおり、ほとんど支援できないという。
 
また、230万人以上の子どもがトルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトの周辺国に逃れ、難民生活を送っている。
 
ユニセフの中東・北アフリカ地域事務所代表のヘルト・カッペラエレ氏は「シリアに暮らす何百万人の子どもたちは、日常的に攻撃にさらされている。健康も幸せも将来も無残に奪われ、生涯にわたる傷を負っている」と指摘。内戦終結へ政治解決の早期実現を訴えた。【3月14日 朝日】
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入り乱れる各勢力 IS後を睨んで強まる“綱引き”】
シリアの混乱は、その過程で「イスラム国(IS)」を生み出し、世界を震撼させています。
しかし、そのISも包囲網が狭まり、首都とするラッカ攻略も時間の問題となっています。

****米支援のシリア民兵組織、IS拠点ラッカを2─3週間で包囲へ****
米国が支援するシリアの民兵組織「シリア民主軍」(SDF)の報道官は9日、過激派組織「イスラム国」(IS)が本拠地とするシリア北部ラッカに近づいているとし、2─3週間以内にラッカを包囲する見通しと明らかにした。

一方、米軍主導の有志連合司令部のドリアン報道官は、既に500人の米兵がシリアに派遣されているとした上で、海兵隊と陸軍の特殊部隊からなる400人の増派部隊が到着したと語った。増派は一時的な措置で、前線での役割を担うことはない見通しだという。【3月10日 ロイター】
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ラッカ攻略は、クルド人勢力主体の「シリア民主軍」(SDF)と、SDFを支援する米軍主導でこれまで展開されてきました。

シリアにはクルド人勢力と米軍のペアのほか、アレッポを制して軍事的優位に立ったアサド政権とそれを支援するロシアのペア、軍事的には追い込まれた反体制派と、これを支援する形で、本音としてはクルド人勢力の拡張を阻止しようとするトルコのペア、レバノンのヒズボラとこれを支援するイランのシーア派ペア、一時は反体制派と共闘関係にもありましたが、最近は攻撃的姿勢に転じているとされる旧ヌスラ戦線のアルカイダ勢力・・・等々が入り乱れています。

これらが、ときに共闘し、ときに衝突する・・・ということで複雑な展開となっていますが、これら勢力の関心は、IS崩壊後にいかにして勢力・影響力を拡大するかという点に移っています。
(2月12日ブログ“シリア  激しさを増す「IS後」を睨んだ各勢力による勢力圏確保競争”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170212

多くの勢力が入り乱れての混戦状態で、2月12ブログではロシア軍機による爆撃でトルコ兵士が死亡する事件があったことを取り上げましたが、その後もアメリカの支援を受けるクルド人勢力部隊がロシア軍・政府軍機の“誤爆”を受ける事件もおきています。

そうした“混乱”のほか、トルコがアメリカに対して、クルド人勢力YPGを切り捨てるように要求するも、アメリカは今のところこれに応じていないとか、トルコとクルド人勢力が支配権を争うマンビジュに政府軍・ロシアが割って入る等々の駆け引き・綱引きも行われています。

そのあたりを整理したのが下記記事です。
記事中の“ロジャヴァ”という聞きなれない単語はシリアの北部から北東部にかけて広がる事実上のクルド人自治区で、本記事においてはほぼクルド人勢力を指す言葉と理解していいかと思います。なお、クルド人武装勢力YPGはPYDの軍事部門です。

****7年目を迎えるシリア内戦:ますます混迷を深める諸外国の干渉****
「シリア内戦」が3月15日で7年目を迎えるなか、イスラーム国の首都と目されるラッカ市解放に向けた動きが本格化しつつある。

だが、シリアでのイスラーム国との戦いは、もはやイスラーム国をめぐる戦いではない。矛盾した言い回しだが、紛争当事者にとって目下の関心事は、イスラーム国の脅威の排除でなく、誰がラッカ市の解放者になるか、あるいは誰をラッカ市の解放者とするかにある。

ラッカ市解放の最有力候補は、ロジャヴァ(西クルディスタン移行期民政局)の武装部隊YPG(人民防衛部隊)が主導するシリア民主軍だ。2016年11月にラッカ市の孤立化を目標とする「ユーフラテスの怒り」作戦を開始した彼らは、2017年1月にラッカ市の西約50キロに位置するアサド湖東岸に到達、2月に入るとダイル・ザウル県北部に進攻し、同県とラッカ市を結ぶ幹線道路を掌握するなど、順調に戦果をあげている。

シリア民主軍の優勢は、有志連合、とりわけ米国の支援によるところが大きい。米国はシリア民主軍への空爆支援や技術支援を通じて、ロジャヴァがマンビジュ市を中心とするユーフラテス川西岸地域に勢力を伸張するのを後押しした。また、アラブ人部族からなる「シリア・エリート部隊」を養成してシリア民主軍と連携させるだけでなく、3月には海兵隊員400人をシリア領内某所に派遣し、ラッカ市攻略に備えている。

しかし、ラッカ市は、ロジャヴァを主導するPYD(民主統一党)の地盤地域ではなく、シリア民主軍と米軍が同市からイスラーム国を掃討したとしても、そこで安定的支配を確立するのには困難が予想される。解放後を見据えた場合、ロジャヴァと米国は、それ以外の紛争当事者との協力が不可避だが、その前途は多難だ。

シリア民主軍への米国支援を阻害するトルコ
最大の理由はトルコの存在だ。トルコにとって、PYD、ロジャヴァ、YGP、シリア民主軍は、クルディスタン労働者党(PKK)と同根のテロ組織で、イスラーム国以上に国家安全保障を脅かす存在と認識されている。

2015年8月末、トルコが、ハワール・キッリス作戦司令室(「穏健な反体制派」とイスラーム過激派の連合体)とともに、「ユーフラテスの盾」作戦と銘打ってシリア領内に地上部隊を侵攻させ、ジャラーブルス市、アアザール市、マーリア市、バーブ市を包摂するアレッポ県北部のいわゆる「安全地帯」を掌握しようとしたのもそのためだ。

「安全地帯」というと、最近ではドナルド・トランプ米政権がシリア難民を収容するために設置を画策している地域の呼称として報じられることが多い。

もちろん、トルコがめざす「安全地帯」も、究極的には同国領内のシリア難民(の一部)を押し戻す場所として想定されている。だが、それには国境地帯からテロ組織を掃討することが必要で、その最大の標的が、イスラーム国ではなく、むしろPYD、ロジャヴァ、YGP、シリア民主軍なのだ。

こうした目的のもと、イスラーム国に対するトルコの「テロとの戦い」は、一方でシリア民主軍への米国の支援を阻害し、他方でロシアと米国に「安全地帯」の実質占領を既成事実として認めさせるためのカードとしての意味合いが強い。

継続不可能となっていたトルコの「テロとの戦い」
バラク・オバマ米政権がレイムダック化した2016年末、トルコはアレッポ市攻防戦の決着や、シリア政府と反体制派の停戦などでロシアに協力し、その見返りとして「安全地帯」の実質占領への了承をロシアから取り付けることに成功した。

2017年1月には、トルコ・ロシア両軍がバーブ市に対する合同空爆作戦を実施、また米国も同地での空爆を強化し、トルコ軍とハワール・キッリス作戦司令室は2月、「安全地帯」の南端に位置するバーブ市からイスラーム国を放逐し、同市を制圧した。

その一方で、トルコは、ユーフラテス川西岸地域からのシリア民主軍の退去とラッカ市解放作戦からの排除を米国に迫り、この二つが受け入れられることを条件に、有志連合に協力するとの意思を示した。

しかし、トルコの「テロとの戦い」は、イスラーム国に対するものであれ、ロジャヴァに対するものであれ、継続不可能となっていた。

トルコ軍の動きが封じられ増長するシリア政府
それは、米国がトルコの要請に応えなかったからではなく、シリア政府とロシアが「兵力引き離し」戦術に打って出た結果だった。

トルコ軍がバーブ市攻略に苦戦するなか、シリア軍は、ヒズブッラーの精鋭部隊やロシア軍砲兵大隊とともに、同市の南部から南東部に至る回廊地帯に進軍し、2月末にはマンビジュ市南西部郊外のロジャヴァ支配地域に到達した。これにより、トルコ軍の展開地域とイスラーム国の支配地域は物理的に切り離され、ラッカ市に向けたトルコ軍の南進の道は閉ざされた。

続いて、シリアに駐留するロシア軍が、シリア民主軍と協議し、マンビジュ市西部郊外のロジャヴァ支配地域をシリア軍に引き渡すことで合意した。

これを受け、シリア軍所属の「シリア国境警備隊」がトルコ軍とシリア民主軍を引き離すかたちで同地一帯に進駐した。

シリア国境警備隊をめぐっては、YPG戦闘員がシリア軍の軍服を身につけただけの「偽装部隊」だとの指摘もある。
だが、シリア国境警備隊の進駐だけでなく、米軍部隊もマンビジュ市一帯に展開、またシリア民主軍傘下のマンビジュ軍事評議会が市内にロシア国旗を掲揚することで、トルコ軍はマンビジュ市への東進も阻止されてしまった。

トルコ軍の動きが封じられたことで増長したのはシリア政府だった。シリア軍はバーブ市南東部で支配地域を拡大し、アサド湖西岸に到達、ラッカ市に続く幹線道路に沿って進軍した。バッシャール・アサド大統領は3月11日、中国の民間衛星テレビ局「鳳凰衛視」(フェニックス・テレビ)のインタビューに応じ、そのなかで「ラッカ市は我々にとっての最優先事項だ」と明言し、シリア民主軍や米国が必要としている戦略的協力者としての存在を誇示した。

決定打を欠くロシア、米国、トルコ
しかし、ラッカ市解放作戦はどの紛争当事者によっても開始されていない。なぜなら、地上部隊を進駐させ、シリア内戦という泥沼に深入りしてしまったロシア、米国、そしてトルコの三カ国のいすれもが、ラッカ市攻略の主導権を握るための決定打を欠いており、そのことがシリア政府、ロジャヴァ、そして反体制派の「棲み分け」をめぐる三カ国の合意形成を遅らせているからだ。

ロシアは、シリア政府をイスラーム国に対する「テロとの戦い」の最終勝利者に位置づけようとしている。だが、疲弊した当のシリア政府は、米国の後援を受けるロジャヴァとの連携なくして、イスラーム国と対峙することも、シャーム解放委員会やシャーム自由人イスラーム運動と共闘を続ける反体制派との戦いを効果的に進めることもできない。

米国は、7年におよぶシリア内戦のなかでようやく獲得したロジャヴァという「橋頭堡」とNATO加盟国にして同盟国であるトルコとの衝突を回避することに腐心している。

トルコは、泡沫組織の寄り合い所帯であるハワール・キッリス作戦司令室の無力ゆえに、シリア国内での「テロとの戦い」に深入りし続けることで、レバノンの国土の半分に匹敵する広大な「安全地帯」(反体制派にとっての「解放区」)の維持という新たな負担を肩代わりさせられることに警戒している。

7年目を迎えたシリア内戦は、シリア政府、反体制派、ロジャヴァといったシリア国内の紛争当事者が衰弱し、自力で混乱を終息させる力を失っているだけでなく、それを操ろうとしてきた諸外国の政策も手詰まりを見せており、そのことがイスラーム国に延命の余地を与え続けている。【3月15日 青山弘之(東京外国語大学教授) Newsweek】
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和平協議でも存在感を強めるアサド政権 反発する反体制派
“シリア政府、反体制派、ロジャヴァといったシリア国内の紛争当事者が衰弱し、自力で混乱を終息させる力を失っているだけでなく、それを操ろうとしてきた諸外国の政策も手詰まりを見せている”状況にあって、和平協議のほうも不透明感が漂っています。

****シリア内戦6年 停戦発効後も戦闘 終結見通せず****
(中略)
反政府勢力が協議欠席 先行きに不透明感
ロシアが主導して、14日から15日にかけて中央アジアのカザフスタンで開かれているシリアの和平協議に、これまで参加していたシリアの反政府勢力の代表が理由を明らかにせずに欠席しました。

ロシアの代表は、反政府勢力の欠席について「残念だが、多くの文書を検討して十分に効果的な協議を行っている」と述べて、内戦の終結に向けたシリアの新しい憲法づくりなどでロシアが中心的な役割を果たすことに意欲を示しました。

しかし、国連が仲介するシリアの和平協議の進展を後押しするとして、ロシアがトルコやイランとともに始めた協議にも反政府勢力が欠席したことで、ロシアを中心に停戦を徹底させるとした取り組みの先行きも不透明感が増しています。【3月15日 NHK】
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関係国の間では、アレッポ制圧で軍事的優位に立ったアサド政権の存続を一定に認める共通認識が強まりつつあるとされています。

当然、反体制派はこれを認めていません。

****和平協議参加「アサド退陣不可欠」 シリア反体制派語る****
シリアの反体制派の有力武装組織「アフラル・シャーム」のアフメド・カラアリ報道官(32)は8日、トルコ南部アンタキヤで朝日新聞と単独会見し、同組織がシリア内戦の和平協議に加わるには、「アサド(大統領)退陣が不可欠。この条件が満たされない限り和平協議参加はあり得ない」と断言した。

シリア内戦をめぐっては、アサド政権を支援するロシアと、反体制派を支援するトルコの仲介で、昨年末に政権と主要反体制派の停戦が発効。ロシア、トルコ、イランが仲介する和平協議と、国連が主導する和平協議が並行して断続的に続いているが、アフラル・シャームはそのどちらにも参加しておらず、動向が注視されている。
 
政権側は、北部の最重要都市アレッポを昨年12月に制圧、軍事的優位を盤石にしており、アサド氏退陣を求める反体制派の要求に応じる可能性はない。

一方、アフラル・シャームはアサド大統領退陣を条件とする以上、和平協議参加の見通しは立たない。アフラル・シャームの協議不参加が続けば、和平協議の進展は困難な状況だ。
 
カラアリ氏は和平実現へ「移行期間」を設定し、その期間だけアサド大統領を認め、期間中に全てのシリア人による選挙で新大統領を選ぶ妥協案についても、「アサドは市民を殺害してきた犯罪者だ。1日でも長く権力の座にいさせれば、より多くの市民が殺される。認めることはできない」と語り、応じない姿勢を明白にした。
 
アフラル・シャームは2015年春、ヌスラ戦線(当時、現・シャーム解放委員会)などの過激派組織と共闘し、北西部の要衝イドリブ県を制圧してアサド政権に大きな打撃を与えた。だが同年9月、政権軍を支援するため軍事介入したロシア軍から激しい空爆を受けるようになり、劣勢に追い込まれている。反体制派内でも、旧ヌスラ戦線を排除しようとする勢力と、旧ヌスラ戦線との間で「内紛」が続いている。
 
カラアリ氏は「状況は厳しいが、反体制派にはアサド政権打倒という共通目的がある。旧ヌスラとも、政権打倒で一致し、今後も共闘できる」と語った。【3月10日 朝日】
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こうした反体制派の主張は、政府軍の軍事的優位が強まり、さらにアルカイダ系過激派からも攻撃をうけるという現実にあって、次第に厳しいものになると思われます。
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代理母の代理出産 インドでも禁止へ 貧しい女性の生活を向上させる機会を奪う側面も

2017-03-14 23:28:39 | 人権 児童

(インド西部アーメダバードから80キロのアナンド近くにある代理出産医院で、ベッドに横たわる代理母の女性たち(2016年9月1日撮影)。【2016年10月3日 AFP】)

インド:代理出産は貧しい女性たちが経済的に生活を向上させる、またとない一生涯の機会
代理母による代理(母)出産の話。
特に、貧困女性にとってまとまった金額を得られる機会として、代理出産を行うことが“ビジネス”ともなっており、世界各地の子供が欲しいが何らかの事情で持てない夫婦の需要が集中していたインドで、いよいよ代理出産が禁止されることになったという話です。

日本などでは、子供を代理出産で得たいとする需要サイドの観点から語られることが多い問題ですが、供給サイドのインドの場合は、貧困女性の収入機会という側面も大きな問題となります。

倫理的問題や女性保護の問題、トラブルが起きたときの問題など、多くの問題がある代理出産ですので、さすがにインドでも規制の動きがここ数年出ていました。

****インドの代理出産ビジネス、禁止を恐れる貧困女性たち**** 
インド西部グジャラート州にある妊娠した女性たち数十人が寝泊まりする施設で、夫を亡くしたシャルミラ・マックワンさん(31)は、よその夫婦のために双子を代理出産するべきか決心しかねていた。マックワンさんにとって代理出産は貧困から抜け出せる唯一の方法なのだ。
 
他人の子を妊娠している9か月間、マックワンさんは自分自身の子どもたちを児童施設に預けている。出産するまで産院に併設されたこの施設で暮らすよう契約書に明記されているからだ。無事に双子を出産すれば入手できる40万ルピー(約60万円)が家計の大きな助けになることは分かっていた。
 
しかし「子宮レンタル」とも呼ばれ、女性が搾取されているなどとして賛否が分かれる代理出産ビジネスを、インド政府は今、禁止する方向に動いている。マックワンさんは「代理出産は残すべき」と考えている。「これがなければ、一生かかってもこれほどの大金はためられなかった」とマックワンさんは話す。彼女は貯めたお金で9歳と12歳の息子を学校へ行かせ、小さな家も建てるつもりだ。
 
それでも妊娠4か月目に入ったマックワンさんは、双子を生むのは初めてで「すごく怖い」と話す。「でも、他に私に何ができますか?神様が私を守ってくださると祈るだけです」と言いながら、マックワンさんは宿泊施設の広々としたドミトリールームで深々と椅子に腰かけた。この部屋には約60人の女性が寝泊りするベッドが並んでいる。
 
インドにはマックワンさんのように、他人のために子どもを出産し、まとまった金を稼ぐ女性たちが貧困層を中心に2000人ほどいる。
 
2002年に代理出産がインドで認められて以来、安価で安心な代理出産サービスを求めて外国から多くのカップルがインドに押し寄せ、インドは巨額産業となった代理出産市場の世界トップに躍り出た。
 
しかしインド政府は2012年、代理出産ビジネスにまつわる法律を厳格化。同性愛者のカップルと独身者に対する代理出産サービスが禁じられた。さらに昨年11月には、代理出産クリニックに外国からの顧客は受けいれないようにとの指導が当局から出された。

■法案で代理母禁止の動きも
インド全土に約2000件ある代理出産クリニック。先端技術と熟練した医師がそろい、代理母の供給も常に安定していながら料金は2~3万ドル(200万~300万円)で欧米諸国と比較すると破格の安さだ。
 
しかし、インドのスシュマ・スワラジ外相は代理出産サービスが悪用されていると指摘し、女性保護を目指した法案を提出。「子どものいないカップルの多くが、貧しい女性の子宮を悪用している。代理出産で女児や障害がある子どもが生まれると子どもを放棄する例もあり、大きな懸念材料だ」と話した。
 
新法案はまだ議会承認を必要とする段階だが、子どもを切望するカップルたちからは抗議の声があがっている。同時に、女性の体を「貸し出す」ことへの倫理性をめぐり、インド全土に激論を巻き起こしている。
 
インド最大の代理出産の中心地となったグジャラート州アナンド市にある私立病院で不妊治療を専門とするナヤナ・パテル医師はAFPの取材に、代理出産を規制する代わりに全面禁止にするのは危険だと語った。「何であれ完全に禁止すると地下に潜ってしまい、むしろ状況は悪化する」
 
さらにパテル医師は、代理出産の禁止は貧しい女性たちが経済的に生活を向上させる、またとない一生涯の機会を否定することになると批判する。

「女性たちは道徳に反することをしているわけではない。彼女たちがしているのは家庭を壊すのではなく築くことだ。そうした尊い仕事をしている女性たちに対して、私たちは『あなたたちは子宮を売っている』と非難している」

■貧しい女性たちの「人助け」
代理母たちの宿泊施設で、マックワンさんは十分に休養をとっている。安全に出産できるよう食事や健康状態も管理されている。故郷から離れているので、地元の人たちから代理母になったと非難されることもない。

児童養護施設に預けている息子たちのことは心配だが、インド人夫婦のために双子を出産する決断は正しかったと思っている。「飲んだくれだった夫は、2人目の息子が生まれる前に自殺した。夫の親戚に追い出されて頼る人は誰もいなかった」と話すマックワンさん。普段は雑用をしてわずかな金銭を稼いでいるという。
 
新法案は、代理出産という選択肢が認められるのは夫、妻ともにインド人の夫婦のみ。その場合も代理母になれるのは、その夫婦の親族で、かつ無報酬という条件がつく。
 
マックワンさんと同じ施設に滞在するジャグルティ・ボイさん(26)ら代理母女性たちは「豪華なオフィスでいすに座った大臣たちが、たやすく私たち貧しい人間のことを決めている」と批判する。

それでもボイさんは言う。「私たちがしていることは私たちの家族、そして自らの子どもを欲しがっている姉妹たちの助けになっているのだと、私たちは心で理解しているんです」【2016年10月3日 AFP】
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そのインドでも禁止へ
そして、上記の代理出産規制法案が近く現実のものとなるようです。

****インドで代理出産禁止へ・・・・代理母たちから反発も*****
インドで盛んに行われてきた代理出産が近く法律で原則禁止となる。
 
新生児の引き取り拒否など、近年トラブルが相次いでいることを受け、政府が方針を決めた。だが、代理出産の報酬で貧困から抜け出したい代理母たちから反発の声も上がっている。
 
「多くの貧しい女性が夢を持てるよう禁止にしないでほしい」。インド西部アナンドの産科医院「アカンシャ病院」で、2回目の代理出産に備え、検診に訪れていたギタベン・パーマルさん(33)が訴えた。

2014年に米国人夫婦の依頼で男児を出産し、夫の年収6年分を上回る48万ルピー(約81万円)の報酬を得た。2人の子を私立学校に入れ、貯金もできた。今度は家を新築するつもりだ。【3月14日 読売】
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他のサービス提供との間に明確な境界が存在するのか?】
インドの代理出産ビジネスについては、2013年11月17日ブログ「インド 代理母ビジネスがブーム “臓器売買と同じ”“赤ちゃん製造工場”との批判も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131117でも取り上げました。

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依頼者は念願の子供を得て、代理母は金銭的に“人生を歩むチャンス”を得るということで、問題ないじゃないかと言われれば、そのようにも思えます。

一方で、「臓器売買と変わらない」と言われれば、そのようにも思えます。
特に、裕福な国の人間が、経済的に困窮している女性を使って・・・というところには、ひっかかるものがあります。

ただ、自らの体しかもたない貧しい者が金銭を得る手段・サービス提供としての代理母出産、売春行為、更には通常の肉体労働などの間に明確な境界が存在するのか・・・よくわかりません。

経済的困窮が、本人が望まないそうした行為を強いている・・・と言えば、世の中の多くの労働が多かれ少なかれそうしたものです。【2013年11月17日ブログより再録】
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代理出産をめぐる環境も当時と大きくは変わっていませんし、「よくわかりません」という個人的感想も変わっていません。

特に、前回ブログに付け加えることもありませんが、代理出産の是非を考えるうえでの参考として、いくつかの取り上げておきます。

明確な法的規制はないが、事実上禁止されている日本
まず、日本の現状。

****日本における現状****
代理母出産については、生殖補助医療の進展を受けて日本産科婦人科学会が1983年10月に決定した会告により、自主規制が行われているため、日本国内では原則として実施されていない。しかし、代理母出産をそのものを規制する法制度は現在まで未整備となっている。

この制度の不備を突く形で、諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が、日本国内初の代理母出産を実施し、2001年5月にこれを公表した。また、タレントの向井亜紀が日本国内の自主規制を避ける形で海外での代理母出産を依頼することを公表し、2004年これを実行した。

このような状況を受け、厚生労働省の審議会及び日本産科婦人科学会はそれぞれ対応策の検討を開始し、2003年には、共に代理母出産を認めないという結論とした。その理由として、主に妊娠・出産に対するリスクの問題を軽視していることを挙げる。

しかし、厚生労働省は上記報告書の法制化を公表したにもかかわらずこれを実現できず、また、日本産科婦人科学会の会告は同会の単なる見解に過ぎず強制力を持たないため、代理母出産の実施を違法化により禁止することはできなかった。(後略)【ウィキペディア】
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要するに“自主規制”状態で、明確な法律的規制はないようです。

今の民法は代理出産などを想定しておらず、卵子を提供した女性と産んだ女性のどちらが母親になるのか明文化されていません。

このため、親子関係が混乱する恐れがあるということで、自民党の法務・厚生労働合同部会は昨年3月16日、卵子提供や代理出産で生まれた子の親子関係について「産んだ女性を母」などと定める民法改正案を了承しましたが、代理出産自体を禁止すべきかどうかの議論は先送りされました。

その後の話は聞きませんので、法的規制は宙ぶらりん状態が続いているのではないでしょうか。

海外に向かう需要
いずれにしても日本国内での代理出産は事実上できないので、どうしても子供が欲しいという場合は海外で代理出産を行うことになります。

****代理母出産に関する法は国によって違う*****
代理出産を禁止している国には、日本をはじめ、フランス、ドイツ、イタリア、スイスなどがあります。

一方、全面的や部分的に代理出産を許容している国には、イギリス、アメリカ(一部)、オランダ、ベルギー、カナダ、ハンガリー、フィンランド、オーストラリア(一部)、イスラエル、デンマーク、ギリシャ、ルクセンブルク、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インド、ニュージーランド、ベトナム等があります。

こうしてみると先進諸国の中では、部分的にせよ代理出産を許容している国が多いことがわかります。

代理母出産は、その国々の法律によって違い、認められている内容も違います。海外で代理母出産を行う場合はその国での代理母出産について調べる必要があります。【1月17日 アメーバニュース】
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実際、googleで“代理出産”を検索すると、海外での代理出産を仲介するようなサイトが多数みられます。
出産場所もアジア各国やウクライナなど。卵子提供者の写真を掲載したサイトも。

費用的にはやはりアジアは圧倒的に安いようです。

****タイなどの東南アジアでの代理出産にかかる費用****
アメリカに限らず、最近ではタイなどの東南アジアでの代理出産も行われています。代理出産に2,000万円以上かかるアメリカと比べて、タイなどの東南アジアで代理出産を行う場合は、約200万円~600万円になります。アメリカで代理出産を行うよりはるかに安いため、東南アジアでの代理出産を希望する夫婦も増えてきました。【ウィキペディア】
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しかし、需要が多かったタイでも代理出産は禁止されました。

****2015年、タイでは外国人の代理出産が禁止に****
代理出産が多く行われてきたタイですが、2015年2月に、タイ国籍の法的婚姻関係にある夫婦以外の代理出産を禁止する法律が施行されました。それによって、タイで外国人の代理出産ができなくなりました。このために、タイ以外の他の東南アジア諸国での代理出産が増えつつあります。【同所】
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禁止措置が生む“闇の世界”】
代理母出産への批判は様々な観点から存在します。
【ウィキペディア】でも、宗教的・文化的見地に基づく批判、遺伝的見地に基づく問題点 契約上の問題点 契約違反時の問題点 法的親子関係に関する問題点 家族関係に関する問題点 性に関する問題点 妊娠・出産に対するリスクに関する問題点 着床前診断に関する問題点 人種差別に関する問題点 子の出自を知る権利に関する問題点 死後懐胎子に関する問題点 マイクロキメリズムに関する問題点等々が列挙されています。

ただ、考え方の問題ではないか、程度問題ではないか・・・と思われるようなものも。

強い需要があるにも関わらず禁止してしまうと、“地下に潜り”かえって危険な状態を招くという側面もあります。
不妊に悩む中国の富裕層夫婦が、仲介業者に多額の対価を支払い、日本国内で在日中国人女性などに代理出産させている“闇ビジネス”が存在しているとも。

****変わる家族の形/2(その1) 代理出産、闇ビジネス****
東京・歌舞伎町 中国人74組利用
不妊に悩む中国の富裕層夫婦74組が、仲介業者にそれぞれ費用1500万円を支払い、日本国内で代理出産させていたことが分かった。

日本国内での代理出産については、長野県内の民間クリニックが日本人母子、姉妹間で実施した例があるが、業者を介したビジネスが判明するのは初めて。

不妊治療施設が不足する中国と関連法規のない日本を結ぶ「闇の代理出産ビジネス」の存在が浮かんだ。

組関係者が「母」紹介
日本最大の歓楽街として知られる東京都新宿区歌舞伎町。古い洋館を模した雑居ビル3階にあるスナックだった一室に入ると、顕微鏡やモニター画面など使い込まれた不妊治療機器が並んでいた。この一室は中国人カップルの受精卵を別の女性に移植する現場だ。
 
中国の伝統的な祝日「春節(旧正月)」の連休中だった2月11日の深夜、北京から来日した依頼主の中国人女性(45)が通訳と訪れた。

夫は食品関連の国有企業副社長。すでに息子がいるが、どうしても娘がほしくなり、夫の親類である中国共産党最高指導層のつてで「闇の代理出産ビジネス」にたどり着いた。高級ブランド服を上品に着こなした依頼主が、ソファに座る若い代理母に駆け寄って抱きしめた。
 
「(代理出産という)わがままを頼んでしまってごめんなさいね」。涙ぐんでいるようだ。「どうしてもかわいい女の子がほしくて。でも生まれてくるのが男の子でもいいのよ」。若い代理母も中国語で「いいんです。もう気持ちの準備はできていますし、きっと女の子を産みますから」と笑ってみせた。
 
代理母は都内のクラブで働く在日中国人ホステス(24)。きゃしゃな体を支えるボロボロの黒いスニーカー。借金がかさみ、指定暴力団の関係者に「新たな返済策」として代理出産をもちかけられたという。
 
依頼主と代理母の対面は2分ほど。依頼主が足早に立ち去った後、残された若い代理母には受精卵の移植手術が待ち受けている。少し離れて見守っていた男性医師がカルテを見ながら「では着替えてください」と指示した。都内にある不妊治療クリニックの日本人院長だ。院長は仲介業者の依頼で協力している。
 
ピンクのガウンをまとった代理母が手術台に上がると、院長が超音波モニターを横目で見ながら細いカテーテルを手際よく操る。画面に映し出されていた受精卵がカテーテルに吸い込まれていく。
 
受精卵は1月に、この部屋で依頼主夫婦の精子と卵子から作製し、培養してあった。代理母の子宮に移植し、着床すれば出産につながる。開始からわずか3分後、院長は「オッケー、終わりました」と告げた。受精卵が代理母の子宮内に入ったようだ。
 
その後、代理母は院長から「1週間後に検査するので、またここに来てください。(胎児を包む)胎のうを確認したら、近所の(産婦人科)病院に通って構いません」と説明を受け、ぼんやりとした表情でうなずいた。
    
「この代理出産ビジネスは4年前に始め、すでに74件成功している」。日中間を行き来する仲介業者の中国人男性が語る。
 
中国では今年1月から一人っ子政策が撤廃され、2人目まで出産が認められた。この影響もあって2月7〜13日の春節連休だけで代理出産を希望する18組の夫婦が来日し、この部屋で精子、卵子を採取したという。
 
法律が整った米国ではなく日本を選ぶのは、子どもを将来の日本移住の足がかりにするためという。男性は「代理母の大半は在日中国人だが、日本人も3人いた。一部の子どもはそのまま日本の託児施設で育っている」と明かし、代理出産の結果を記録した青いファイルを取り出した。【2016年3月19日 毎日】
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あまり知られていない“闇の世界”はいろいろあるようです。
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