孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  広がる反汚職運動とプーチン大統領の高支持率 米世論鎮静化に配意するプーチン大統領

2017-06-25 22:41:04 | ロシア

(デモの参加者を拘束する治安当局者=モスクワで6月12日、AP【6月12日 毎日】)

広がる反汚職運動と存在感を増す活動家ナワリヌイ それでもプーチンが支持される
高支持率を維持するロシア・プーチン大統領は、5月23日ブログ“ロシア プーチン大統領、“管理選挙”で高投票率・高得票率再選?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170523でも取り上げたように、次期大統領選挙では単に圧勝するだけでなく、欧米につけこまれないような形で勝利したい、つまり“不正を疑われず、高い投票率の選挙で圧勝することで、政権の「正統性」を示したい”という思いがあるようです。

そのためには、選挙戦を盛り上げてくれる対抗馬も必要になりますので、プーチン大統領サイドで、適当な“対立候補”を物色しているとも。

しかし、メドベージェフ首相を標的にした最近の反腐敗抗議行動で大きな影響力を発揮しているアレクセイ・ナワリヌイ氏では政権がコントロールできなくなる恐れもあるということで、選挙戦から排除する動きを見せています。

****野党指導者、大統領選出られず=中央選管が発表―ロシア****
ロシア中央選管は23日、反プーチン政権デモを主導し、来年3月の大統領選に立候補を表明している野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(41)について、2月に有罪判決を受けているため、出馬できないと発表した。

ナワリヌイ氏は横領罪で執行猶予付き禁錮5年の有罪判決を受けた。大統領選に関する法律によると、禁錮刑を受けた被告は一定期間、立候補ができない。そのため中央選管は「現時点でナワリヌイ氏には被選挙権がない」と説明した。
 
大統領選にはプーチン大統領が続投を目指して出馬するとみられている。プーチン政権は今月にモスクワなど各地で起きた反政権デモで、ナワリヌイ氏を含む1500人以上を拘束するなど同氏支持の動きを封じ込める姿勢を鮮明にしている。【6月24日 時事】 
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“2月に有罪判決を受けている”というのは、地元の国営木材加工企業から資金を横領したとして、横領罪で執行猶予付き5年の有罪判決を言い渡されている件です。

また今回発表に先立ち、モスクワの裁判所は13日、12日に行われた大規模反政府デモに関し、ナワリヌイ氏が「違法デモを呼びかけた」として、30日間の身柄拘束(行政罰)を言い渡してもいます。

アレクセイ・ナワリヌイ氏が主導する反腐敗抗議運動が大きな広がりを見せている背景には、4月27日ブログ“ロシア 「不正蓄財」疑惑の首相への批判収まらず 背景に格差・貧困などの若者の閉塞感”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170427でも触れたように、格差・貧困に苦しむ若者らの共感を得ていることがありますが、その世代はソ連崩壊の混乱も殆ど経験していないことから、“安定を実現したプーチン大統領”の威光もあまり通用しないようです。

政権批判の自由を求めるナワリヌイ氏ですが、その主張はいわゆるリベラル派ではなく、「ロシアのドナルド・トランプ」と言われることもあるように、孤立主義と反移民の立場にあります。

5月23日ブログでも触れたように、“ナワリヌイは12年まで、モスクワで毎年行われるナショナリストと極右の示威行動「ロシア行進」の常連だった。13年にはチェチェン人追放を求めるデモを支持し、北カフカスや中央アジア出身者への侮蔑発言もした。”【5月23日号 Newsweek日本語版】とも。

人々が好むような主張を展開するのに長けたポピュリスト的側面も強いようです。

また、反腐敗・汚職を掲げていますが、“反プーチン”の主張はしていません。(だからこそ、有罪判決など受けるにしても、“抹殺”されることなくこれまでやってこられたのでしょう)

反腐敗・汚職の抗議が広がるなかでも、プーチン大統領が高い支持率を維持し続けるのは、ロシア人の「公的」と「私的」の2つに分裂したアインデンティティーに基づくものだとの指摘も。

****大規模デモは反プーチンか****
広がる反汚職運動と存在感を増す活動家ナワリヌイ それでもプーチンが支持される「矛盾」を読み解けば

ロシア国内の約200都市で先週、汚職に抗議する大規模な反政府デモが行われた。治安当局は1500人以上の参加者を拘束。ウラジーミル・プーチン大統領の最大の政治的ライバルとされる、野党指導者で反汚職活動家のアレクセイ・ナワリヌイも拘束された1人だ。
 
デモの規模と広がり、そして若い参加者の多さは驚きを持って受け止められた。この国で、これほど大きな抗議行動が展開されたのは久しぶりだ。
 
今回のデモは何を意味するのか。プーチンに対抗するナワリヌイをリベラルな人物と見なしていいのか。国民がプーチン政権打倒に動かない真の理由は何か。ロシア政治を専門とする米在住のロシア人ジャーナリストで、プーチンに関する著書があるマーシャ・ゲッセンに、スレート誌記者アイザック・チョティナーが話を聞いた。

-デモに大勢が参加したこと、これほど多くの都市で行われたことに驚いたか。

 驚いたし、衝撃的だった。地理的にここまで広がったのは今回が初めてだ。11~19年の(下院選の不正疑惑を契機とし、大統領選をめぐって高まった)反政府デモは最大99都市で行われた。今回のような規模になったのはものすごいことだ。
 
 ナワリヌイにとっては、政治生命と文字どおり生き残りを懸けた戦いだ。
 デモが行われた6月12日は、11~12年の反政府運動の弾圧開始から5周年に当たる。私を含めて当時のデモの主催者は国外へ逃げたか、投獄されたか、あるいはもう生きていない。ナワリヌイがただ1人の例外だ。彼はロシア国内で目立った動きをしている唯一の反政府活動家で、命の危険にさらされている。

-デモの広がりをどう捉えているか。反プーチンの動きは、首都モスクワの中間層を中心とするものではない?
 
 中間層中心、モスクワ中心だったことは一度もない。それはロシア政府のプロパガンダにすぎないのに、残念なことに欧米メディアはうのみにした。

-私みたいに。
 
 そう。先ほど言ったように、11~12年の反政府運動の際には99都市でデモが行われた。ロシア各地で、さまざまな階層の人々が参加した。ロシアの中開層は実際にはとても規模が小さく、デモという文脈で大きな意味を持つ存在ではない。
 
 今回のデモは、インターネットをメッセージの発信手段とするナワリヌイの能力を証明している。彼は動画やブログを駆使して、自前の「メディア」を確立してきた。政府系の報道機関を除けば、これほど効果的なロシア語メディアはほかにない。
 
 だがその半向、それほど期待が持てない点もある。ナワリヌイの主張が多くの人を引き付けるのは、実のところ反プーチンの主張でないことが一因だ。
 
 ナワリヌイは汚職に抗議するが、ウクライナヘの介入には反対しない。政治的弾圧にも反対せず、民主主義の擁護を主張せず、反汚職活動をするだけだ。そこにリスクがある。
 
 ロシア政府から汚職をなくせと訴えることは、デモの動員に役立つ。と同時に、正統性がない政府でもいい統治ができると言うようなものでもある。
 
 プーチンが正当な手段で選ばれた大統領でないことを、ナワリヌイは口にしない。「彼が私たちのカネを盗むのをやめさせろ」と言うだけだ。

 この2つは別物で、だからこそ反汚職デモの訴求力は高まる。しかしそのせいで政治性が薄まり、革命的な動きとは言い切れなくなる。(中略)
 
 彼は、単純かつ極端にポピュリスト的な考え方に引き寄せられる傾向がある。デモ動員に発揮する創造性や勇敢さ、自由がない国で自由を要求する姿勢はとても尊敬している。でもそうした点を除けば、決してリベラルとは呼べない人物だ。

-プーチンの支持率は今も非常に高いという。政府の汚職にうんざりしているロシア国民の間でも、プーチン人気が持続しているのは本当か。
 
 (中略)ロシアの偉大な社会学者である故ユーリー・レバダと、その弟子に当たるレフ・グドコフの研究によれば、「ソビエト的人間」はアイデンティティーを「公的」と「私的」の2つに分裂させる。私的なものが本物で、公的なものは偽りというわけではない。どちらも本物で、その人の一部になっている。
 
 公的なアイデンティティーにとって極めて重要なのは、「強い国家」を自己同一化の対象とすること。プーチンは他国への軍事的介入によって、そうした心情に訴え掛けてきた。支持率が85%前後で推移し、下がる気配がないのはそのためだ。
 
 一方で国民は、公的アイデンティティーと無関係に、自分は不当な扱いを受けている、政府はいつも自分たちをだますという私的な感情を抱く。そこに訴えているのがナワリヌイだ。

 この2つのアイデンティティーを1つにできた者はこれまでいない。それが可能かも分からない。(後略)【6月27日号 Newsweek日本語版】
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従来の対決姿勢は封印して、アメリカ世論の鎮静化に努めるプーチン大統領
アメリカ財務省は20日、ロシアによるクリミア半島の併合を支援したとして、ロシア当局者2人と36の個人・団体を制裁リストに追加したと発表しています。財務省は「クリミア半島に関連する米国の制裁は、ロシアが同半島の占領を終えない限り解除しない」とも。

「ロシアゲート」疑惑の渦中にあるトランプ政権としては、今この時期にロシアに対して甘い顔は見せられない・・・ということもあるでしょう。

当然にロシアは反発しており、ロシアのリャプコフ外務次官は21日、露北西部サンクトペテルブルクで23日に予定されていた米露次官級協議を中止すると発表しています。

ただ、アメリカで「ロシアゲート」疑惑が取りざたされ、選挙戦に干渉したロシア要人を対象とする対露制裁強化法案が可決されるなかでのプーチン大統領の言動は、アメリカ批判を強めるというよりは、アメリカ世論の鎮静化にのために従来の対決姿勢は封印しているようにも。

****プーチンが対米「低姿勢外交」にひた走るワケ****
米政権や世論に配慮する言動を頻発

米国の「ロシアゲート」疑惑追及が本格化する中、ウラジーミル・プーチン大統領がこのところ、米露関係やロシアゲートで積極的に発言し、米世論の鎮静化に努めている。疑惑が泥沼化すれば米露関係改善は遠のき、孤立が長期化するとの懸念がありそうだ。

米上院は新たに、選挙戦に干渉したロシア要人を対象とする対露制裁強化法案を98対2の圧倒的多数で可決し、議会の反露感情の強さを示した。

米露首脳は7月7、8両日ハンブルクで開かれるG20首脳会議の際に初会談を行う予定で、ロシアは首脳会談の成果に向けてダメージ・コントロールに乗り出した形だ。

プーチン大統領が米男性に語りかけたこと
毎年恒例のプーチン大統領の国民対話「大統領との直通回線」は、政権が万全の準備で臨む最も重要な対外発信装置だが、6月15日の対話は、200万件以上の質問の中から米アリゾナ州に住む米国人男性が登場した。

男性は、「私はあなたの大ファンで、ロシアのシンパだ。米国では国を挙げて反露ヒステリーが起きている。ロシアは敵ではないというメッセージを米国人に送ってほしい」と述べた。

大統領は「あなたの発言に感謝する。ロシア大統領として、われわれは米国を敵とみなしていないことを強調したい。それどころか、過去2回の大戦で米国は同盟国だった。帝政ロシアは米国の独立を支援した。反露ヒステリーは米国内の政治闘争の結果だ。世論調査では、ロシアに好意的な米国人は多いし、ロシアにも米国に好意的な人が多い。米露関係が軌道に乗るよう強く望んでいる」と答えた。(中略)

トランプ政権にすり寄る姿勢
「国民対話」でプーチン大統領は、7月の米露首脳会談の展望に関する専門家の質問にも、「米国とは協力できる分野が少なくない。何よりも大量破壊兵器の不拡散問題がある。米露は最大の核保有国であり、この分野で協力するのは当然のことだ。北朝鮮だけでなく、他の地域についてもだ。貧困問題や環境破壊対策、イラン核問題、ウクライナ問題もある。シリアや中東情勢では、両国の建設的作業なしに進展は考えられない」と述べ、「われわれは米国と建設的対話を行う用意がある」と強調した。

トランプ大統領が脱退表明した温暖化対策の国際化枠組み「パリ協定」についても、「米国抜きでこの分野で何か合意するのは意味がない」とし、トランプ政権に配慮した。

ロシアゲート疑惑でも、トランプ政権にすり寄る姿勢がみられた。(中略)

こうした対米融和姿勢の背景には、欧米の対露制裁強化への焦りが見て取れる。

「ロシアは制裁にいつまでも耐えていけるのか」との質問に、大統領は「ロシアは何度も各国の制裁に耐えてきた。西側はロシアをライバルとみなす時、制裁に打って出る。100年前のロシア革命の時もそうだった」としながら、「米上院が新たな制裁強化法案を策定したのには驚いた。何も起きていないのに、何が理由というのか。米国の内政問題が理由とすれば、ロシア封じ込め政策は常に適用される」と指摘した。

上院の新法案がロシアゲートを理由にしていることに衝撃を受けた模様だ。(中略)

「土下座外交」のような低姿勢発言も
プーチン大統領は6月2日、サンクトペテルブルクでの経済フォーラムで演説し、参加した米国の実業家らを前に、「現在の米露関係は冷戦後記録的な低レベルで推移している」「両国関係の冷却は経済関係に打撃を与えずにはいられない。米露貿易は過去3年で30%減少した」「米国のビジネスマンに言いたい。米露政治関係の正常化を支援してほしい。トランプ大統領を支援してもらいたい。米露関係の正常化は必ず両国の国益に合致すると確信する」などと訴えた。

強気の反米発言を繰り返してきたプーチン大統領だったが、この2~3週間は「土下座外交」のような低姿勢の発言が目立つ。

トランプ新政権誕生で米露正常化が進むと歓喜したのも束の間、想定外のロシアゲートが米議会や世論を硬化させ、対米外交が裏目に出たショックの大きさがうかがえる。

ただし、ロシアがウクライナやシリア問題で具体的な対米譲歩に乗り出す形跡はない。「米政界の反露ヒステリーは、来年の大統領選でのプーチン再選に向け求心力を高める効果がある」(6月6日付『モスクワ・タイムズ』紙)との見方もある。対米融和発言は、欧米の攪乱を狙ったレトリックにとどまりそうだ。【6月23日 名越 健郎氏 東洋経済online】
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敵対国ランキングではアメリカがトップ 昨年調査よりは減少 トランプ大統領への期待も
最後に、ロシア人が「敵」、「友」と考える国のランキング。

****ロシアの盟友ランキング、中国の順位は?****
ロシアのレバダ・センターは5日、本国の「敵」と「友」をテーマとした世論調査を実施した。それによると、ロシアは世界で孤立していると考える人は減少した。2014年11月の調査では、回答者の47%が「孤立している」と答え、その比率は翌年に54%に増加したが、今年5月に46%に減少した。

主な敵対国のランキングでは、上位3国は米国(69%)、ウクライナ(50%)、ドイツ(24%)。そのほかにラトビア(24%)やリトアニア(24%)、ポーランド(21%)、エストニア(16%)、英国(15%)、グルジア(9%)、フランス(8%)が上位にランクイン。

ロシア人の米国に対する好感度の変動は大きく、2010年に米国を「邪悪帝国」と答えた人はわずか26%だったが、2015年の調査では73%が米国を敵視している結果となった。

今年はトランプ氏の大統領就任により、回答者の21%が露米関係は改善されていると考えている。ドイツについては、2006年から2014年までロシア人に敵視されたことはない。

盟友のランキングでは、ベラルーシ(46%)で11年連続でトップを維持した。次は中国(39%)、カザフスタン(34%)、シリア(15%)、インド(14%)、アルメニア(12%)、キューバ(11%)となっている。中国は2012年の16%から39%に順位を上げた。

ウクライナとドイツは、数年前は盟友ランキングに挙がっていたが、現在は敵対国になっている。【6月14日 Record china】
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ロシアのトランプ大統領への期待はまだ大きいようです。

友好関係を強める中国とロシアは、必ずしも利害が一致しないとの指摘もありますが、それでもかなり高い好感度を示しています。

日本は、敵対国でもありませんが、盟友でもない・・・・という位置づけのようです。要するに影が薄いということか。
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オーストラリア  経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれないジレンマ

2017-06-24 22:37:22 | 中国

【2016年11月2日 NHK】

中国へのジレンマから「中国恐怖症」】
中国の国際的存在感が増すにつれ、中国との関係に苦慮する国も多くあります。
日本もその一つですが、オーストラリアも“経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれない”というジレンマを抱えています。

中国メディアは、そのようなオーストラリアの状況を“中国恐怖症”にかかっているとも皮肉っています。

****この国は「中国恐怖症」を患っている****
2017年6月20日、参考消息網は記事「中国製携帯すら恐ろしい?!この西側国家はなぜ“中国恐怖症”にかかったのか」を掲載した。

先日来、オーストラリアでは「中国」にまつわるさまざまな政治問題が取り沙汰されている。議会では「中国海軍のインド洋における活動が活発化しており、海軍は西海岸及び北部海岸でのプレゼンスを強化する必要がある」との提案が審議されたが、オーストラリア外務省は中国に配慮し、「活発化する外国海軍の活動に対応するため」と中国という言葉を出さない方向に修正するよう求めて話題となった。

また、20日には中国企業がオーストラリアのデータセンターの親会社を買収したことが報じられたが、オーストラリア国防省はその後、同社との取引中止を発表した。買収された企業はデータの安全は保持されるとの声明を出したが、まったく意味を持たなかったようだ。

それだけではない。オーストラリア議会発表の資料によると、今年3月までに少なくとも40台の中国製携帯電話が政府によって購入され、オーストラリア外務省及び国防省の官僚に支給されたことが明らかとなった。野党議員は「奇妙な決定だ」と強く批判している。

なぜオーストラリアにはこれほどまでに中国恐怖症が広がっているのだろう。中国現代交際関係研究院南太平洋研究室の郭春梅(グゥオ・チュンメイ)主任は、オーストラリアが戸惑いの時期にあるためだと分析する。経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれないという状況にあるためだという。【6月24日 Record china】
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“経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれない”というジレンマは、世論調査の結果にも示されています。

****豪世論調査、半数が中国の軍事的脅威に懸念、米国への信頼度は低下****
2017年6月21日、オーストラリアのシンクタンク、ローウィ国際政策研究所の世論調査結果によると、オーストラリア人のほぼ半数が「今後20年間に中国はオーストラリアにとって軍事的脅威になる」と考えていることが分かった。

中国のライバルである米国への信頼度は2011年当時のほぼ半分にまで低下している。調査は3月1日から21日までオーストラリアの成人1200人を対象に行われた。米ボイス・オブ・アメリカが伝えた。

オーストラリア人の間で、潜在的な軍事的脅威としての中国に懸念が高まっている。だがそうした懸念の一方で、多くのオーストラリア人(79%)が中国を重要な経済的パートナーと考えている。

米国との関係については、60%がトランプ大統領を好ましくないと考えているが、オーストラリアの安全保障にとって米国との同盟が重要だと考えている人は大多数を占めている。

同研究所のアレックス・オリバー氏は、「オーストラリア人は米国との同盟を中国を含むこの地域の潜在的脅威に対応するための『保険』とみなしている」と指摘している。【6月21日 Record china】
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アメリカ・トランプ大統領は気に入らないが、経済的な中国依存に対する不安感もあって、安全保障面でアメリカとの関係も重視せざるを得ない・・・といいたところです。

【「豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかりになっている」】
日本は2012年12月に始まったアベノミクス景気が、バブル期を超えて戦後3番目の長さになったそうですが、“一体どこが好景気なのだろうか?”とも思える実感に乏しい面もあります。

一方、オーストラリアは“26年間、103四半期連続でリセッション(景気後退)を経験していない”という超長期の成長路線を継続していますが、これをけん引している大きな要因は中国の経済成長や天然資源への需要の高まりです。

****豪経済、26年間景気後退なし 世界最長記録に並ぶ****
オーストラリア統計局が7日に発表した2017年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3%増となった。26年間、103四半期連続でリセッション(景気後退)を経験していないことになり、オランダの持つ世界最長記録に並んだ。
 
一方で前年同期比では、1~3月期の成長率は1.7%増と、前期の2.4%増から鈍化。ただ3月末にオーストラリア北東部に上陸したカテゴリー4 の猛烈なサイクロン「デビー(Debbie)」による経済的な被害、貿易収支の数字が弱かったこと、さらには賃金の伸びが低調だったこともあり、多くのアナリストらは成長ペースの減速を予想していた。
 
オーストラリアの長期にわたる経済成長について、多くのエコノミストは同国が1980年代から90年代にかけて行った、変動相場制への移行、労働市場の柔軟化、金融部門や資本市場の規制緩和、関税の引き下げなどの経済改革が後押ししたと述べている。
 
また中国の経済成長や天然資源への需要の高まりも、資源が豊富なオーストラリアの経済に恩恵をもたらした。同国では鉱山部門への前例のない投資ブームが起こり、商品価格も記録的な水準となった。(後略)【6月7日 AFP】
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オーストラリアの輸出の3分の1が中国向けで、これは他のG20諸国のいずれよりも高い割合となっています。
また、中国のオーストラリアへの投資も増加しています。

日本同様、オーストラリアでも中国人観光客の急増、大量消費が需要を支える要因になっているようです。

****中国人観光客の爆買いに期待するなら、この一群を軽視してはならない****
2017年6月14日、環球網によると、オーストラリアの統計当局が13日発表したデータで、4月末までに同国を訪れた中国人観光客の数が120万人に達したことが分かった。

外国人観光客全体の数は前年同期比9.5%増の850万人で、中国人の伸び率は全体を上回る10.2%だった。国・地域別で最多だったのはニュージーランドからの観光客だが、年末には中国がニュージーランドを追い抜くとみられている。

中国人観光客の消費額は3月末時点で97億ドル(約1兆630億円)に上っており、現地の観光シンクタンクの責任者を務めるDon Morris氏は「中国人観光客の中で消費の主力となっているのは女性たち」と指摘、行政や関連業界がこの点を重視すべきとの考えを示す。

デロイト・アクセス・エコノミクス(DAE)の分析によると、短期滞在でオーストラリアを訪れる中国人観光客に占める女性の割合は2005年の40%から16年3月には57%に上昇。

Morris氏は「旅行目的地を選ぶ時に女性の意見が大きなポイントとなってくる。女性たちが好むのはハイセンスなホテルでの滞在や地元の人たちとのコミュニケーション。SNSへの投稿に備えたwifiサービスの提供も必要」と指摘している。【6月16日 Record china】
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現在、オーストラリアには中国系住民が100万人暮らしており、さらに14万の留学生がいるということで、そうした面でも中国の存在が大きくなっています。

****豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかり、豪メディアが警鐘****
2016年10月31日、中国紙・参考消息(電子版)によると、豪紙ヘラルドサンは28日、「豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかりになっている」との記事を掲載した。

政府も企業も何とかして中国の歓心を買い、チャイナマネーを呼び込むことに力を注いでおり、何らかの決定を下す際には常に中国を念頭に置いている。

どの経済フォーラムでも「中国はどうだ」「中国はそうではない」と議論され、企業は「中国に何をどう売るか」、観光業は「中国人客をどう呼び込むか」、大学まで中国人学生に頼り、不動産開発業も中国のバイヤーに期待をかけている。

中国から豪州への投資や企業買収は増加の一途をたどっている。2015年には150億豪ドル(約1兆2000億円)もの資金が投じられ、米国に次ぐ規模となっており、豪州国内の農業やエネルギー、医療、商業不動産、通信など、さまざまな分野に及んでいる。

豪州という籠は中国の卵でいっぱいになっており、それらはふ化を待っている。そして、誰もそのリスクに注意を向けようともしていない。【2016年11月1日 Record china】
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オーストラリアが最近移民政策を厳しくしている・・・という話は、5月7日ブログ“オーストラリア・ニュージーランド 「自国第一」の流れでビザ・永住権取得の厳格化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170507でも取り上げましたが、それとの関係はよくわかりませんが、昨年、中国人観光客受け入れ拡大に向けて、中国人を対象にしたビザ制度緩和を行っています。

****豪州が中国人対象に10年マルチビザ発行へ****
在オーストラリア中国使館はこのほど、オーストラリアのピーター・コスグローブ総督が、「1994年移民規制法」の改正法案に署名し、中国人を対象に有効期間10年の数次査証(マルチビザ)の発行が可能になったことを明らかにした。

オーストラリアが外国人を対象に有効期限が10年のマルチビザを発行するのはこれが初めて。現段階では、中国人だけが対象となるとしている。中国放送網が伝えた。(後略)【2016年11月24日 Record china】
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中国の国際秩序無視、内政干渉の疑いに対する強い警戒も
“(中国依存について)誰もそのリスクに注意を向けようともしていない”と、中国依存を警戒する前出記事にはありますが、実際のところは、オーストラリア政治・社会において中国に対する強い警戒感があるのは冒頭記事のとおりです。

安全保障面ではむしろ、強い調子の中国批判が目立ちます。

****中豪の舌戦ヒートアップ、豪外相や前駐米大使も中国を攻撃****
2017年6月5日、米華字メディアの多維新聞によると、アジア太平洋地域の安全保障について各国の国防相などが意見を交わす「アジア安全保障会議」でのターンブル豪首相の発言に端を発した中国との舌戦がさらにヒートアップしている。

オーストラリアのビショップ外相はこのほど、「中国は国際秩序を『直接無視』している」と述べ、週末のアジア安全保障会議で中国の拡大主義に警告を発したターンブル首相を支持した。

ターンブル首相は2日の基調講演で「中国がこの地域を支配するために、この半球にモンロー・ドクトリンを課し、他の国、特に米国の役割と貢献を疎かにしようとしていることに懸念が広がっている」「大国は、より小さな国に自分の意志を押しつけるべきではない」などと述べた。

これに対し、中国代表団の何雷(ホー・レイ)団長は3日の記者会見で「中国と中国政府は国際ルールと地域ルールを支持し、守る国だ」と反発した。

中国国営の環球時報も3日の社説で「ターンブル氏の発言は中国への説教に満ちている。彼はそうした発言がいかに滑稽なものであるかを理解していないようだ。最大の貿易相手国である中国にあれこれと口出しをしている。中国の度量が大きいことを祝うべきだ」などと論じた。(後略)【6月5日 Record china】
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南シナ海だけではなく、オーストラリア国内政治に及ぼす中国の影響にも懸念が強まっています。

****中国の「愛国」ビジネスマン、豪州で巨額の政治献金****
2017年6月9日、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(中国語電子版)は、「中国の『愛国』ビジネスマンがオーストラリアで多額の政治献金を行い、南シナ海問題などが中国に有利に動くよう画策している」と伝えた。

豪メディアは「中国人ビジネスマン2人がオーストラリアの政治家に多額の政治献金を行っている」と伝えた。南シナ海問題などを中国に有利な状況に導くためとみられる。ジェームズ・クラッパー前米国家情報長官はこのほど、訪問先の豪キャンベラで「オーストラリアは中国による政治的な影響に警戒すべきだ」と警告している。(後略)【6月12日 Record china】
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また、オーストラリアメディアでは、“オーストラリアの学生への脅迫や嫌がらせを中国政府が支持し、オーストラリアで諜報活動のネットワークを有しており、オーストラリアの国家の安全を脅かしている”といった報道もなされ、中国外交部の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官がこれに反論するようなやりとりもありました。【6月6日 Record chinaより】

こうしたオーストラリア側の懸念もあって、ターンブル首相は、中国による内政干渉の対抗すべく、スパイ法の見直しをおこなうことを表明しています。

****豪、中国対策にスパイ法見直し 政治献金による内政干渉に危機感****
オーストラリアのターンブル首相が、中国による内政干渉の対抗へ、スパイ法の見直しを表明した。

中国共産党とつながるとされる在豪の中国人実業家が、巨額献金で政治介入している実態が、豪メディアの調査報道で判明。経済面で関係を深め“親中派”ともされるターンブル氏だが、「主権」をめぐり中国への警戒を強めている。
 
「中国は自国だけでなく、豪州の主権も常に尊重すべきだ」。ターンブル氏は6日こう述べ、スパイ法など豪州内での外国政府の活動に関する関連法見直しを司法長官に指示したと明らかにした。年内にも報告書がまとまる見通しだ。(中略)

中国外務省の華春瑩報道官は6日、一連の報道を「悪意の憶測」と批判した。【6月7日 産経】
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中国からの留学生受け入れについても、見直しの動きも。

****豪州の大学に中国人学生の募集減らす動き、中国への過剰な依存を懸念****
2016年10月6日、中国紙・参考消息(電子版)によると、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドは5日、豪州の主要大学が中国人留学生の割合を徐々に減らそうとしていると伝えた。

オーストラリア国立大学は主要8大学の中で最も中国人学生の割合が多く、2016年に募集した留学生に占める割合は約60%。ある学生新聞が入手した資料では、大学執行部は中国の学生市場に過度に依存することは運営上リスクを抱えることになるとして、2015年から徐々に学生の多様化を図り、中国人学生の募集数を減らしているという。(後略)【2016年10月8日 Record china】
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中国の存在感が増すにつれ、人種的軋轢も出てきているようです。

****オーストラリアの中国系若者、9割が人種差別を経験****
2016年12月6日、オーストラリアのティーンエイジャーの3人に1人が、人種による差別や不公平な扱いを受けたことがあるとする調査結果がこのほど公表された。特にマンダリン(中国語の標準語)を話す若者が人種差別を経験した割合は90%と最も高かった。中国新聞網が伝えた。

ミッション・オーストラリアが15歳から19歳までの計2万2000人から回答を得た調査によると、4000人は家庭では英語以外の言語を話しており、中国語、ベトナム語、アラビア語の順で多いことが分かった。

人種差別を経験した割合は、マンダリン話者の若者が90%と最も多く、広東語話者とフィリピン語話者は80%だった。アボリジニとトレス海峡諸島の若者は、非先住民族の若者に比べて2倍の人種差別を経験している。(後略)【2016年12月8日 Record china】
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冒頭記事では中国製携帯電話の政府購入に対する野党からの批判が取り上げられていますが、昨年10月には、オーストラリア国防省が中国企業と軍服製作の契約を結んだことも、「発注した軍服に追跡可能な素材が使われる恐れがある」と批判と対象となっています。【2016年10月22日 Record chinaより】

同化せず外国(本国)に忠誠を誓う人間の集団
それがどこの国であれ、特定の国のマネー・コミュニティーが突出することへの懸念は起こりやすいものですが、中国の場合は中国政府の意向に同調する形で中国マネーと中国人コミュニティーが動くという特殊性があり、受入国側の不安を大きくしています。

****豪州に存在する中国系移民100万人と14万の留学生****
豪州国立大学名誉教授のポール・ディブが、9月6日付のオーストラリアン紙で、中国マネーと中国人コミュニティーの存在について警告する一文を書いています。要旨は次の通りです。

中国人コミュニティによる深刻な影響
豪州に対する中国の投資と豪州における大きな中国人コミュニティの存在が中国の影響力に関して深刻な問題を提起している。
 
豪州における中国の投資の累積額は英国、米国、日本に遠く及ばない。しかし、中国の投資の焦点と速度が安全保障上の懸念を惹起する。(中略)

多くの中国系住民の間で親中の態度がますます明らかになっており、また中国語のメディアはほぼ全て親中のグループに支配されている。(中略)

この関連で問題となるのが、中国人コミュニティの中国政府寄りの見解である。彼らの態度がこれ程までに圧倒的に人民共和国寄りであったことはないと聞く。

キャンベラの中国大使館が後ろで糸を引き、中国に残している家族に対する報復で脅かしていることに疑いはない。(中略)
中国ビジネスによる政党への献金が指摘されている。人民共和国と共産党にノスタルジアを抱く多くの中国系住民と学生がいることは事実である。そうであれば、我々は同化せず外国に忠誠を誓う人間の集団という危険なケースを抱えていることになる。(後略)【2016年10月12日 WEDGE】
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コンゴの住民虐殺 中央アフリカの民兵組織衝突 イエメンではコレラが蔓延・・・世界の現状

2017-06-23 22:17:58 | アフリカ

(コレラが猛威をふるうイエメン 首都サヌアの病院を受診する家族 【5月16日 CNN】

日本から遠く離れており日本との関係も薄く、また、国際政治に与える影響も比較的小さいことから、普段あまりメディアに大きく取り上げられることもないアフリカ中部のコンゴ、中央アフリカ、および中東イエメンの惨状について。

コンゴ・中央カサイ州:治安部隊と地元の民兵組織が約3400人の民間人を虐殺
アフリカ中央に位置する資源大国コンゴでは、カビラ大統領が任期切れを過ぎても“居座り”を続けていますが、そうした政治混乱に加えて、中部・東部では多くの武装勢力が跋扈する状況が続いています。

そのひとつが、4月24日ブログ“コンゴ 中央カサイ州で暴力が横行 住民100万人以上が避難 政府高官・大統領の責任”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170424でも取り上げた中央カサイ州での政府軍と反政府勢力の衝突です。

“政府軍と反政府勢力の衝突”と言うよりは、正確には“両勢力による住民虐殺”と言うべきでしょう。
現地カトリック教会は、3383人が殺害されたと報告しています。

****コンゴ治安部隊と民兵組織、民間人3000人以上虐殺か ****
(2017年6月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
コンゴ民主共和国のカトリック教会が、同国中部のカサイ地方で治安部隊と地元の民兵組織が約3400人の民間人を虐殺し、20の村を破壊したと告発した。

昨年8月に勃発し、世界最悪の難民危機の一つを引き起こした紛争の実態に関する同教会の報告書は20日、国連のゼイド人権高等弁務官により部分的に事実関係が裏付けられた。

戦闘を繰り広げる治安部隊と民兵組織の双方による残虐行為の一部に関して、ゼイド氏はジュネーブで開かれた国連人権理事会で詳細を報告した。
 
広大な国土に豊富な資源を持つコンゴで最も尊敬される組織の一つであるカトリック教会は、首都キンシャサで公表した報告書の中で、3383人が殺され、20の村が「完全に破壊された」ほか、3698棟の家屋が壊され、34の礼拝所が損壊または閉鎖されたとしている。これまで国連は死者数を400人としていた。

■カトリック教会が情報源
そのうち10の村は治安部隊、4つの村は民兵組織、残り6つは「未確認の主体」によって破壊されたという。

また、こうした数字は「信頼できる教会の情報源」に基づくが、昨年10月13日以降のものだけであり、「完全ではない」と付記されている。報告書について、コンゴ政府や軍関係者のコメントは得られなかった。
 
コンゴは政治危機にも陥っている。昨年12月に憲法上の任期が切れたカビラ大統領が居座ったことが発端だ。
 
戦闘は昨年8月、自身の名を付けた民兵組織を率いるカムウィナ・ンサプ氏が政府軍兵士に殺害されたことから始まった。国連スタッフは、カサイ地方の42カ所で多数の遺体が埋められていたのを発見している。国連の推計では、戦闘の影響で約130万人が避難民となり、毎日数百人が隣国アンゴラに流出している。
 
ゼイド氏は、政府当局がカムウィナ・ンサプと戦うために民兵組織「バナ・ムラ」を創設して武装させたが、この組織は「ルバ族とルルア族の民間人に恐ろしい攻撃」を行ったと述べた。
 
同氏は、民間人の保護も加害者の責任追及もしていないとコンゴ政府を非難し、第三者による暴力の実態調査を要求。「コンゴ民主共和国が、治安部隊や武装集団、民兵組織の要員が人を殺しても罰せられない無差別砲撃地帯になることは許されない」と述べた。【6月21日 日経】By John Aglionby
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中央カサイ州の混乱は、カビラ大統領に対する武力闘争を続ける部族勢力のカムウィナ・ンサプ首長(別名ジャンピエール・ムパンディ)が政府軍に殺害されたことを機に始まりました。
以後、政府軍側及び反政府軍側双方のみさかいのない住民虐殺が続いています。

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ンサプ(別名Jean-Pierre Pandi)は昨年6月に、自らを公式に国家元首として認知させる運動を開始。これに呼応する蜂起が相次ぎ、政府はこの地域から撤退を余儀なくされた。

2カ月後、ンサプが治安部隊に殺害されると、その支持者が警察や対立する組織と衝突。BBCニュースによれば、両組織とも民間人を残虐したと相手を非難している。

国際機関は、今月初めに国連人権理事会のチームが発見した集団墓地から推測し、コンゴ治安部隊によって民間人が約99人殺害されたと報告した。

また、ンサプの民兵組織が、近隣に位置する南東部ロマミ州で子どもを含む、少なくとも30人を処刑したことを非難した。

さらに今月21日、国連の専門家組織のメンバーのアメリカ人とスウェーデン人が現地人通訳とともに拉致され、27日に全員が遺体で見つかった。スウェーデン人のメンバーは首が切断されていたという。【3月30日 Newsweek】
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中央アフリカ:「ミッション成功」後も続く衝突 “「ささいな」不一致”で約100人が死亡
そのコンゴの北に隣接する中央アフリカでは、介入していた旧宗主国フランスは「ミッション成功」として撤退しましたが、2013年以来のカトリック系民兵とイスラム系民兵の衝突がおさまりません。

2016年11月12日ブログ“中央アフリカ 「アフリカの憲兵」フランス軍の撤退完了 “見捨てられた”との懸念も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161112

****中央アフリカ*****
中央アフリカでは、イスラム過激派が中心の複数の反政府組織が「セレカ」と呼ばれる連合を結成し、2012年12月に国内の広域を掌握。13年3月には当時のフランソワ・ボジゼ大統領政権を打倒した。

その報復として、反政府組織と戦う「反バラカ」(バラカは長刀のなたを意味する)と呼ばれる武装集団が結成された。キリスト教徒を中心に構成される民兵組織で、報復としてイスラム教徒が中心のセレカに攻撃を開始し、これまでに数千人が殺害されている。

13年後半には、旧宗主国のフランスやアフリカ連合が治安維持を目的に軍事介入をし、14年2月に首都バンギの市長であったカトリーヌ・サンバ・パンザ氏が、同国初の女性元首として暫定大統領に就任。16年4月からは、フォースタン・アルシャンジュ・トゥアデラ元首相が大統領を務めている。(中略)

中央アフリカは、アフリカ中央部に位置する内陸国で、面積は日本の約1・7倍の大きさ。人口は約480万人(2014年)。

1960年にフランスから独立するが、その後不安定な情勢が続いている。

宗教は、土着宗教が35パーセント、プロテスタントが25パーセント、カトリックが25パーセント、イスラム教が15パーセントとされている。キリスト教が多数派となっているものの、アニミズムの影響も大きいという。【6月12日 CHRISTIAN TODAY】
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****中央アフリカで武装集団が衝突、100人死亡 「停戦」あえなく破綻****
紛争が続く中央アフリカで武装集団間の衝突が起き、地元当局者によると21日までに約100人が死亡した。イスラム教徒主体の反政府組織の内部抗争とみられる。

衝突が発生する直前に、政府と複数の反政府組織が停戦協定を結んだばかりだった。
 
中央アフリカでは2013年以降、キリスト教徒の民兵組織「反バラカ(anti-balaka)」と、イスラム教徒主体の反政府民兵組織「セレカ(Seleka)」に属していた集団が対立してきたが、組織内でも分裂が進み、過激化する分派が乱立する状態となっている。

激しい戦闘が発生したのは中部の町ブリア。主任司祭も務める町長によると、19日の停戦協定署名からわずか数時間後の20日未明に銃撃が発生。約6時間にわたる全面的な衝突につながったという。町長はAFPの電話取材に「人道状況が憂慮される」と危機感をあらわにした。
 
衝突はセレカ系の「中央アフリカ復興人民戦線(FPRC)」の対立する派閥間で起きた。FPRCの幹部は指導者らの間で「ささいな」不一致があったと述べ、一種の権力闘争だと説明した。
 
国連(UN)と政府の調査によると、一連の衝突で5月末までに300人が死亡、10万人が避難を余儀なくされている。【6月22日 AFP】
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“「ささいな」不一致”で約100人が死亡・・・なんとも軽い命です。

イエメン:猛威をふるうコレラ 「35秒間に1人の子供が感染している。制御不能だ」】
一方、中東アラビア半島先端に位置するイエメンでは、これまでも何度も取り上げてきたように、イランが支援しているされる反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派と、サウジアラビアが軍事支援するハディ暫定大統領派の戦いが一向に収まりません。

そうしたなかで、戦闘以上に住民の命を奪っているのは、紛争に伴う衛生環境と栄養状態悪化によるコレラの蔓延です。
2017年5月26日ブログ“イエメン 戦闘・飢餓、更にコレラ感染拡大で世界最悪の人道危機が深刻化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170526

日を追うごとに、コレラ犠牲者が増大しています。

****イエメン、コレラの死者1000人に近づく****
国連(UN)のイエメン人道調整官を務めるジェイミー・マクゴールドリック氏は15日、内戦が続く同国で流行しているコレラによる死者が1000人に近づいていると明らかにしさらに、援助が思うように集まらない現状について、「人道が政治に負けようとしている」と強く非難した。

ヨルダンの首都アンマンで記者会見したマクゴールドリック氏は、「殺されるか飢えるかしかない人びとを救える時間はなくなりつつあり、今ではコレラの問題まで加わっている」と述べ、「物資の不足でわれわれは厳しい状況に置かれている。早急に行動が必要だ」と訴えた。
 
マクゴールドリック氏によると、現在コレラの感染が疑われる人々は13万人以上に達し、死者は970人を超え、その約半数は女性と子どもが占めているという。
 
マクゴールドリック氏は、(国連は)2017年のイエメンへの人道的対応のために21億ドル(約2300億円)の拠出を呼び掛けているが、これまではそのうちのわずか29%しか集まっていないと明かし、「イエメンについて心が張り裂けそうな気持ちになるのは、人道が政治に負けようとしていることだ」と語った。【6月16日 AFP】
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****コレラ死者1000人超す=感染者の半数が子供―イエメン****
世界保健機関(WHO)は18日、内戦が続くイエメンで4月以降流行しているコレラによる死者が17日までに1100人に達したと明らかにした。感染が疑われる患者数は15万8960人。感染者は最終的に30万人に上る恐れがあり、国連は「憂慮すべき速さで感染拡大が続いている」と警鐘を鳴らしている。
 
国連によると、感染者の約半数は子供で、大半が栄養失調。国際NGOセーブ・ザ・チルドレンは「35秒間に1人の子供が感染している。制御不能だ」と指摘した。【6月19日 時事】 
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****イエメンのコレラ流行、発症例19万件超 8月末には30万件超も****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は23日、コレラの流行が拡大する内戦下のイエメンで、発症例がおよそ19万3000件近くに達しているとし、8月末までに感染者は30万人を超える見通しだと発表した。
 
ユニセフのメリトセル・レラーノ報道官はスイス・ジュネーブで記者会見し、8月末までに発症例は30万件に達するとの懸念を表明した。同報道官によると、コレラの流行が宣言された今年4月以降、イエメンで1265人が死亡したという。【6月23日 AFP】
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日本や欧米にあっては、数人が犠牲となる事件があっても大騒ぎとなりますが、その一方で、日常的に数千人の命が奪われていく世界もあります。

そうしたなかにあって、自国だけの安全・平和を語ることは欺瞞でもあり、その欺瞞・無関心への失望は容易に怒り・憎しみに変わります。そして難民問題やテロとして自国の安全を揺るがすことにも。
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中国  信号を守り、ごみをポイ捨てすることもなく、きちんとゴミ分別する・・・・そんな日が来るのか?

2017-06-22 23:13:06 | 中国

(乱雑な扱いがされるシェア自転車【4月4日 WSJ】)

【「馬跳び(Leapfrog)」型発展をとげる中国社会
“都市に住む一般の中国人はこの2、3年、タクシーを呼ぶのにスマホを使うのが当たり前になっている。このため、客を乗せていないタクシーもスマホで呼ばれた客のところに向かっていることが多く、手を挙げても止まってくれない。流しのタクシーをつかまえるのは非常に難しくなった。”【6月19日 瀬口 清之氏 JB Press】

その結果、中国金融機関に決済口座をもたず、スマホ決済が使えない外国人旅行者にとっては困った事態にもなっているようです。個人的には中国で訪れたい所はまだまだたくさんあるのですが、これまでのように一人でふらふら・・・というのは難しくなっているのかも。

上記のタクシー配車アプリはほんの一例で、中国ではスマホの決済機能の発達やeコマースの普及を背景に経済活動のIoT化が老若男女を問わず、社会全体に急速に浸透しています。

****日本の方が遅れているIoTベースの各種サービス****
(中略)
●名刺を持たない(スマホをかざし合って情報交換)
●インターネットメールを使わない(スマホのSNSで代替)
●現金を持ち歩かない(スマホ決済で代替)
●クレジットカードを使わない(スマホ決済で代替)
●農村部では商店がなくてもeコマースで買い物(代金はスマホ決済)
●食事代の割り勘は一瞬にしてスマホで決済
●スマホ決済を前提としたレンタル自転車乗り捨てサービス(モバイク)の普及
●スマホ決済履歴を通じた個人信用力審査に基づく消費者ローンの提供
 
中国でこれらのサービスが急速に普及した主因は、以下のような元々の経済活動上の不便さにあると考えられる。
 
第1に、中国ではかつて、固定電話が普及する前に携帯電話が普及したため、固定電話のない家庭が多い。このため、老若男女を問わず、携帯電話の利用が急速に広がった。
 
第2に、中国では、都市郊外や農村部には商店があまり発達していないため、買い物が不便だった。そこにeコマースが登場したため、商店があまり多くない地域の消費活動の利便性が大幅に向上し、eコマースをベースとしたものへと一気に移行した。
 
第3に、中国では金融機関の利便性が低く、現金も偽札が多く、日常的な資金決済の利便性が日本ほど高くなかった。そこにスマホアプリを介した便利で安心な決済手段が登場したため、スマホによる決済が急速に普及した。
 
このように、元々各家庭に固定電話がなかったために携帯電話やスマホが普及し、便利な商店がなかったためにeコマースがそれにとって代わり、便利な金融機関が存在していなかったため、フィンテックが急速に発展した。
 
利便性の高い新技術の登場により、ある段階の技術を飛び越えて、次世代の先進技術が一気に普及する現象は「馬跳び(Leapfrog)」型発展と呼ばれている。
 
Frogはカエルを意味するので、Leapfrogを直訳すると「カエル跳び」であるが、英語では「馬跳び」(前かがみした人の背中を跳び越す子供の遊び)を意味する。日本でも小切手があまり普及せず、金融機関決済が普及したのはこの一例である。
 
「巨龍」と呼ばれる中国が「馬跳び」というのはややしっくりこないが、巨龍の馬跳びが技術力を誇る日本企業ですら、追いつけない世界を生み出している。【同上】
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こうした社会変化の結果、個人情報は細部に至るまで国家に管理される社会ともなっている訳で、そのことによる懸念もまたありますが、その問題には今日は触れません。

戻ってこない?シェア自転車
“スマホ決済社会”浸透の代表例が“レンタル自転車乗り捨てサービスの普及”です。
2年前に西安を旅行した際も街中でよく見かけ、「どうやったら使えるのだろうか?」と眺めていた記憶があります。

しかし、“借りたものは返す”という社会における最低限のルールが守られないことで、うまく回らないケースもあるようです。

****中国で自転車レンタルビジネスは成り立たない?9割戻らず倒産―中国メディア****
2017年6月19日、観察者網によると、中国重慶市でシェア自転車サービスを展開する「悟空単車」がこのほど倒産した。貸し出した自転車1200台のうち9割が持ち去られたためという。

北京や上海など大都市を中心にシェア自転車サービスが広がる中国では、大手の「摩拜単車(mobike、モーバイク)」がこのほど、6億ドル(約666億4000万円)の融資を得たと発表したばかり。一方で、サービス開始から5カ月を迎えた悟空単車は、資金繰りが悪化し業界初の倒産を発表した。

悟空単車を創業した雷厚義(レイ・ホウイー)氏によると、初期投資は300万元(約4887万円)で、自転車1200台を用意してサービスを開始。自転車は大学のキャンパスや繁華街などに配置したという。

しかし、電子キーを壊されるなどして持ち去られるケースが続発。戻ってきた自転車は1割前後で、すぐにサービス継続に支障が出た上、運転資金にも事欠くようになった。

雷氏は業界大手のモーバイクや「ofo」などについて「世界規模のサプライチェーンと協力しているから強い。私たちのような中小業者は、品質の良い自転車をそろえるのも難しい。自転車は壊れやすく維持費もかかる」と話している。【6月21日 Record China】
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事業として成り立っている企業も多々あることから、“電子キーを壊されるなどして持ち去られるケースが続発”したことだけが倒産の理由なのかどうかはわかりませんし、9割が戻ってこないというのもシステム上の問題があるのかも。

安価でロック・セキュリティが比較的簡便な「ofo」でも紛失率は1%、高価でロック・セキュリティが厳重なMobikeでは「喪失率は無視し得るほど小さくなっている」とのことです。【4月4日 WSJより】

ただ、不正に使用されたシェア自転車が散見される・・・という話はよく聞くところで、貸した傘がもどってくる、落し物が届けられる日本社会と比較して中国社会の現状を嘆く、あるいは日本社会のすばらしさを称賛する声もよく聞くきます。

改善されるのか信号無視、ポイ捨て ゴム分別は?】
このあたりの、個人的利益追求のためにマナー・社会ルールがないがしろにされがちなことは中国社会の抱える大問題であり、領土や歴史認識など政治的に大きく取り上げられる問題よりも、個人的には民主・人権といった価値観に関する問題と並んで、中国との関係を考える際に気になるところです。

中国社会の中にも礼節と言った精神性を重要視する向きもあるということは、6月8日ブログ“中国 文革期の批林批孔運動 現在は“儒教ブーム” 共産党は儒教概念を国家支配に利用しつつも警戒”でも取り上げたところです。

中国指導層・当局も改善の必要性は認識しているようで、ここ数日だけでも社会ルールの徹底に関する話題をいくつか目にしました。

****信号無視すればスクリーンに大写し 中国、取り締まりに顔認証活用****
信号無視した人は街頭スクリーンで「さらし者」に──。中国の4省の都市で、交差点に設置した顔認証システムによって赤信号を無視した歩行者を特定し、近くのスクリーンに画像を即座に表示する新手の取り締まりが始まった。

公共の場で恥をかかせることによって交通ルール違反を抑制する狙い。国営新華社通信が20日伝えた。
 
顔認証システムは中国でファストフード大手ケンタッキーフライドチキン(KFC)が客の注文を推測するために導入しているほか、公衆トイレでのトイレットペーパーの盗難防止などにも活用されている。
 
新華社によると、顔認証を通じた信号無視の取り締まりに乗り出した都市のうち、山東省の省都・済南では5月初めの導入以降、6000人以上の違反者を摘発したという。
 
このシステムでは違反者の画像と15秒の動画を撮影。それをすぐ街頭スクリーンに映し出し、違反行為がばれていることをその場で本人らに分からせる仕組みだ。
 
画像は省の警察のデータベースとも照合され、違反者の写真に加え「身分証番号や住所といった個人情報も20分以内に交差点の街頭スクリーンに表示される」(新華社)という。(後略)【6月21日 AFP】
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****中国の市のトップを怒らせた男性3人組、カメラの前で公開謝罪****
2017年6月18日、中国海南省海口市で公共場所にごみを散乱させた男性3人がカメラの前で謝罪し、話題を集めた。海南省の地元紙・南国都市報が伝えた。

男性の若者3人は11日、同市の海沿いにある市営公園「万緑園」のテラスエリアで飲み食いし、ビールの缶やつまみの残りかす、たばこの吸い殻などのごみを放置してその場を立ち去った。

同園の清掃員はよくあることと話していたが、惨状を写真付きで報道したことが同市のトップである共産党委員会書記の目に留まり、男性3人に謝罪させるよう調査を行うよう指示した。市の関連部門が18日に男性3人を見つけ、警告したうえで市の条例に基づき50元(約800円)の罰金を科した。

一方の男性3人は、詰め駆けた多くのメディアの前で「近くの商店でごみを入れる袋をもらおうとしたが、大きな袋がなかった。考えが甘く酒に酔っていたこともあり、片付けることなくその場を去った」と説明し、深く反省していると謝罪した。【6月19日 Record china】
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まあ、違反者の個人情報を公開とか、カメラの間で謝罪させるとか、いかにも中国的ではありますが、社会ルールを徹底させたいという問題意識はあるようです。

日本を訪れた中国人の多くが驚嘆するのが日本の清潔さですが、ゴミの分別については「そこまでやるか?」といった疑問の声も多く見受けられます。(個人的にも、あまりゴミ分別をうるさく言う人は苦手です)

そんな中国でも一応ゴミ分別のルールはあるようですが、無視されていることが多いようです。
その件についても、改善の試みが。

****中国政府、3兆円投じてごみ分別の徹底に乗り出す****
2017年6月20日、シンガポール英字紙ザ・ストレーツ・タイムズによると、中国は2000億元(約3兆2000億円)を投じてごみの分別回収推進に取り組んでいる。

広東省深セン市では先月、ごみの分別制度を奨励から強制へと変更することが発表された。ごみを分別しないで捨てた場合に罰金が科されることになる。

中国政府は同市を含む全国45都市に対して年内にごみの分別制度に関する法規を制定するよう命じており、現在20%にとどまっているごみのリサイクル率を2020年までに35%以上にすることを目指している。この計画には2000億元が投じられ、ごみの収集、処理体系を含む必要なインフラ整備に用いられる。

中国では2000年から大都市でごみの分別がスタートし、色の異なる分別ごみ箱が設置されるとともに市民の意識向上が図られた。

しかし、期限を設けた達成目標が十分に定められていなかったことや、中間層の拡大や電子取引の爆発的発展によって生じた大量のごみにより、分別制度はなし崩し状態に。このため、中国政府による今回の措置に対しても一部で疑問視する声が出ている。

一方で、新たな措置に対して前向きな見方をしている専門家もいる。今回は中央政府が地方政府に対してより大きな圧力を掛けているからだ。

中国の環境に詳しい専門家は、「中国政府はこのプロジェクトを5年以内に全国展開するかもしれない。リサイクルプロジェクトの成否のカギは、実施範囲の拡大にある。人びとはルールを学ぶと同時に、努力を続ける必要がある。ごみのリサイクルは市民の責任だ」と語っている。【6月21日 Record china】
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数年後には、信号をきちんと守り、ごみをポイ捨てすることもなく、きちんとゴミ分別する・・・・そんな社会が中国でも実現するのでしょうか。

「無理でしょ」という答えしかないとは思いますが、問題意識が共有され、改善の取り組みが繰り返されれば、今よりはかなりましな状態になる“可能性”はあるでしょう。

そうなれば、国家間の付き合いも、今とは違ったものもあり得るのでしょうが・・・。

人助け美談が“普通に”評価される日がくれば・・・
社会道徳に関して、中国社会の話で非常に驚くもののひとつに、助けを必要としている人がいても関わり合いを避けて無視する・・・という風潮があります。

今月も、“横断歩道を歩いていた女性がタクシーにひかれた上、さらに別の車にひかれる様子を捉えた動画がソーシャルメディアに投稿され、現場を通りかかった歩行者や車の運転手が誰も女性を助けようとしなかったことに強い怒りの声が上がった。女性はその後死亡している。”【6月21日 AFP】といった話も。

“怒りの声が上がった”ということですから、助けるべきだという認識はあるのでしょう。
しかし、現場では誰も助けない・・・・この風潮を生んだのは、理不尽な判決がなされた10年前のある事件だと言われています。

****誰が中国の道徳を殺したのか、きっかけはあの事件―米メディア****
2017年6月15日、米華字ニュースサイト多維新聞は、「誰が中国の道徳を殺したのか、すべてのきっかけはあの事件」と題する記事を掲載した。

中国河南省で最近、路上で女性が突然倒れ、通りかかった人が誰一人助けようとせず、車にひかれて死亡した事件が起きた。人々の間では再び10年前の「彭宇事件」が話題になっている。

江蘇省南京市で06年、道で転んだ老人を助けた彭宇(ポン・ユー)さんが、逆に老人に「彭さんに突き飛ばされて転んだ」と主張される。裁判所が「本当の正義心からの行動なら、老人を助け起こす前にまず犯人を捕まえるはず」と推測。彭さんを突き飛ばした犯人と認定し、7万9000元(当時約105万円)の支払いを命じた事件だ。

中国の最高裁は河南省で起きた女性死亡事故を受け、短文投稿サイトの微博(ウェイボー)で彭さんの事件に触れ、人々の注目を集めた。「助けられた人が、助けた人が『突き飛ばした』ことを証明できないのであれば、助けた人は何の責任を負う必要もない」としている。

最高裁はまた、人々に「人を助ける行為は他人の権利を侵害する証拠にはならない。彭さんの事件は、市民が他者を敬遠したり、相互扶助の気持ちや道徳心が消えたりしていることの言い訳にはならない」と呼び掛けている。【6月17日 Record china】
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いくら中国とは言え、こんな滅茶苦茶な判決があるだろうか?・・・とも思うのですが、この「彭宇事件」に関しては5年後に、世間に流布されているような話ではなかった・・・という“新たな真相”が明らかにされています。

“中国「道徳崩壊」の象徴、彭宇事件の意外な「真相」=捏造の連鎖は続くよどこまでも”【2012年01月16日 KINBRICKS NOW http://kinbricksnow.com/archives/51768499.html

ことの真相はともかく、「善行を行った若者が無実の罪を着せられた」と伝えられ、人助けには関わらない方がいいとの風潮を助長した事件でした。

そうした風潮にあっても、ちゃんとした人はちゃんとするという話も。

****感動!心肺停止のおじいさんを、通りすがりの女性2人が救助―中国****
2017年6月19日、網易によると、甘粛省蘭州市で80代の男性が心臓発作で倒れ、現場を通りかかった女性2人が心肺蘇生を行って救助した。

17日午前8時ごろ、同市内の路上で80代の男性が突然倒れた。近くにいた女性がすぐに救急車を呼び、到着を待っていたところ、通りがかった看護師だという女性2人が男性のそばに。2人は男性の脈拍がないことを確認すると、衣服を緩めて心肺蘇生を開始。人工呼吸と心臓マッサージを繰り返した。

約10分ほど応急措置が施されると、男性の舌が動き出し顔色が良くなったという。男性は駆け付けた救急車で病院に搬送されたが、2人の応急処置のおかげもあって、危険な状態を脱したという。

中国では近年、路上で倒れている人を市民が助けないことが社会問題となっている。親切心から助けたのに加害者扱いされ、賠償金や治療費を請求されるケースが後を絶たず、要らぬトラブルを恐れる市民が救助を敬遠するようになってしまったからだ。

看護師という職業上の使命を果たしたと言えばそれまでだが、女性2人による救助劇はなおのこと「正義の力」として中国の人びとの心に響いたようである。

中国のネットユーザーからは「この女性2人に『いいね』を送ろう」「自分だったらできないかもしれない」「今年一番『美しい』女性だ」「いい人があまりにも少なすぎる。貴重な正義の力だ!」といった賛辞が送られた。

また、上述のようなトラブルが多いことから、「仮にだけれど、もしお年寄りが助からないで死んでしまったら、遺族は女性たちに賠償を求めるのだろうか」と懸念する声も。そして、「社会や学校で人工呼吸や心肺蘇生の方法をもっと普及させるべきだ」とする声も寄せられた。【6月20日 Record china】
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こうした話が“普通の美談”として扱われる日がくれば、日中関係も大きく進展するのでしょう。
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台湾への外交圧力を強める中国 しかし、台湾社会の対中国硬化は中国にとって得策か?

2017-06-21 22:33:17 | 東アジア

(国交樹立を祝うパナマのイサベル・サインマロ副大統領兼外相(左)と中国の王毅外相(2017年6月13日撮影)。【6月14日 CNN】)

【「決められない政治」と中国への弱腰で支持率が低下した蔡英文政権
昨年1月に行われた台湾総統選挙で56%の票を獲得して、国民党候補(31%)、親民党候補(13%)に圧勝した民進党・蔡英文氏は大きな期待を担って昨年5月に台湾総統に就任しましたが、1年あまりの間に大きく支持率を落としていることが報じられています。

****蔡政権、内憂外患 沈む支持率「改革の過渡期」 台湾、(5月)20日で1年****
(5月)20日に就任1年を迎える台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統が、支持率の低迷に苦しんでいる。

昨年の総統選で改革を掲げて圧勝したものの、慎重な政権運営や野党側の抵抗もあって目に見える成果を示せずにいるためだ。懸案の中台関係も停滞が続く。蔡氏は「今は改革の過渡期」と訴え、市民の期待をつなぎ留めようと懸命だ。
 
「市民の改革への期待は非常に差し迫っている」
17日午後、蔡氏は自ら主席を務める与党・民進党の会合で、政策推進に向けて幹部らに発破をかけた。
 
この日朝、地元紙1面に掲載された世論調査では、蔡氏に「満足」と答えた割合は30%。就任時の52%から落ち込んだ。一方で「不満足」は50%となり、就任時の10%から大幅に膨らむ。調査機関によって設問は異なるが、多くの調査で蔡氏の支持率はこの1年で大きく下がっている。
 
来年は統一地方選を控えており、危機感を抱く蔡氏は3月以降、地方を行脚し、インフラ計画のアピールにいそしむ。(中略)

世論の厳しい視線の背景には政策の足踏みがある。

破綻(はたん)の恐れが指摘され、改革の本丸とされる年金改革では、減額対象となる元軍人や元公務員など野党・国民党の支持者らが立法院(国会)前でデモや騒動を続け、審議がずれ込む。画期的とされた同性婚の法制化は世論が割れ、成立のめどが立っていない。
 
世論調査を行う台湾民意基金会の游盈隆理事長は「不満を抱く層の中には、もともと改革を望まない人々がいる一方、改革を期待していたのに進まず、幻滅した人々もいる。蔡氏が今後、大なたを振るえるかが注目点だ」とみる。
 
蔡政権誕生の背景には、14年に若者らが立法院を占拠した「ひまわり運動」のうねりがある。同基金会の調査では、20代~30代前半で、今なお蔡氏を支持する割合が不支持より高い。改革への期待は続いている。
 
地元紙に今月掲載されたインタビューで、蔡氏はこう語っている。「この1年は最も苦しい1年だった。改革には『陣痛期』が必要とされる。今後は実行を加速させていく」

 ■対中「冷たい平和」
中国と関係改善を進めた馬英九(マーインチウ)・前総統に代わり、蔡氏が就任して以降、中国は態度を硬化させ、両岸関係は膠着(こうちゃく)状態にある。
 
内政同様に低姿勢で対応してきた蔡氏は、今月に入り「(中国は)情勢の変化に応じて思考を改めるべきだ」など、やや強気に転じた発言を繰り出し始めた。
 
蔡氏が主席を務める民進党は、綱領の冒頭に台湾の「独立」を掲げる。中国が受け入れを求める、中台が「一つの中国」に属するとする原則を、蔡政権は認めていない。
 
だが、前回の民進党政権だった陳水扁(チェンショイピエン)氏時代に対中関係が悪化した反省もあり、蔡氏は昨年の総統選では中台関係の「現状維持」を訴えて当選した。

同党関係者は「蔡総統は『独立』を口にせず、中国に善意を示して譲歩している。次は中国側が歩み寄れるかだ」と蔡氏の思いを代弁する。
 
中国は公式の対話窓口を閉ざしており、22日に始まる世界保健機関(WHO)総会への参加問題で、台湾は中国に参加を認めるよう書簡を送ったが、返事はないという。圧力が強まるなか、党内や支持者の一部には蔡氏に対し「弱腰」だという不満も出ており、蔡氏はいつまでも低姿勢ではいられない状況にある。
 
台湾の中央警察大の董立文教授(中台関係)は「(中国では)習近平(シーチンピン)政権が新態勢に移る秋の党大会を控えている。当面は『冷たい平和』と言えるような状態が続くだろう」とみる。【5月18日 朝日】
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内政に関しては「決められない政治」、外交に関しては中国の攻勢に有効に対応できていないとの評価が支持率低下の原因となっています。

****嗚呼がっかりの台湾「蔡英文」 民心離反で早くも「後継探し」へ****
・・・・経済面で中国依存からの脱却を目指して打ち出した「イノベーション推進策」も「新南向政策」も宙に浮き、景気は馬前政権の時より悪化した。蔡氏に投票した民進党支持者は、彼女の「決められない政治」に愛想を尽かしている。
 
政権発足直後、蔡氏は国民党が独裁時代に違法に取得した「不当財産」を没収する方針を打ち出したが、国会で抵抗されると放置。

民進党が推進する台湾本土化運動の一つで、企業や公的な場で使用されている中国、中華という呼称を「台湾」へ置き換える正名運動には支持者から高い期待を寄せられたが、これも手つかず。
 
外交の成果も乏しい。民進党の支持者は、日本に親しみを持つ人が多い。蔡氏は選挙前の一五年十月に訪日して安倍晋三首相と会談し、蔡政権で日台関係が前進すると報じられた。

ところが彼女は就任後、日本に冷淡になった。日本側の関係者は、蔡政権で福島など五県の食品の輸入解禁に期待を寄せていたが「食の安全を守るべきだ」と台湾メディアに反対され、解禁の検討を中断した。
 
日台の関係者が憤慨したのは、日本統治時代の台湾でダム建設など水利事業に貢献した日本人技師、八田與一の銅像が破壊された事件を蔡氏が無視したことだ。(中略)

対中関係でも失点が続く。WHO(世界保健機関)年次総会への出席は中国の圧力で断念し、蔡氏の選挙スタッフを務めた元民進党職員の男性が中国で拘束されても手をこまねくばかり。

民進党筋は「台湾のリーダーという自覚があるなら、日米欧に特使を送って外交を展開し、中国と対峙する姿勢を見せるべきだ」と不満を漏らす。

蔡氏のこの一年で唯一の仕事は、トランプ氏が米大統領選に当選後、お祝いの電話をかけたことだけ」と揶揄する声も聞こえてくる。【「選択」6月号】
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中国:馬英九前総統時代には控えていた外交圧力を再開
内政はともかく、外交における中国への対応は、現在の中台の国際政治における力関係を考えると、蔡総統一人を責めるのはいささか酷な感もあります。

比較的中国に宥和的な国民党・馬英九前総統時代は、中国は中台統一に向けて台湾を引き寄せるべく、過度な圧力を行使することを控えていましたが、「一つの中国」を認めず、独立志向も強い民進党・蔡英文総統になってからは、中国の圧力は容赦ないものに変わっており、台湾・蔡総統の力では如何ともしがたいものもあります。

中国の圧力で台湾は国際会議の場から締め出されています。
前回はゲスト参加ができた昨年9月の国際民間航空機関(ICAO)総会には出席できませんでした。続く11月の国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の総会は、オブザーバー参加を申し込んだものの断られています。

2009年からオブザーバーの立場で参加してきた世界保健機関(WHO)総会の招待状も届きませんでした。

台湾の窮状もさることながら、こうした国際会議で自国の意思を押し通すことができる中国の影響力の強さを改めて認識もさせられます。

また中国は、馬英九前総統時代には控えていた国交をめぐる外交競争を再開させています。
昨年12月のサントメ・プリンシペ(日本では殆ど耳にすることがない国名ですが、西アフリカのナイジェリアやカメルーンの沖合に位置する島国です)に続き、中米パナマも台湾との国交を断絶し、中国に“寝返る”ことが明らかになっています。

サントメ・プリンシペとは異なり、パナマ運河を擁するパナマは国際物流の要衝で、アメリカの影響力も強いだけに、中国は「外交の勝利」と位置づけています。

台湾からすれば、長年の支援を“食い逃げ”されたとの悔しさも。
蔡総統は総統就任直後の昨年6月、パナマを訪れて台湾企業が関わったパナマ運河の拡張工事の完成式典に出席。バレラ大統領と会談し、「友好強化」を確認したばかりでした。

“断交は長年の経済協力を「食い逃げ」する形で、李大維外交部長(外相に相当)は援助の即時停止を発表。「台湾が長く発展に協力してきたことを無視した」とパナマを非難した。”【6月13日 産経】

今回のパナマとの断交で台湾が外交関係を持つ国は20か国となっています。
内訳は、エルサルバドル、グアテマラ、パラグアイなど中南米(11カ国)、パラオ、マーシャル諸島、ソロモン諸島など太平洋(6カ国)、ブルキナファソ、スワジランドのアフリカ(2カ国)、そしてバチカン。

パナマに続いて台湾と断交する可能性のある国として、ニカラグア、パラグアイ、セントルシアの3カ国の名もあがっています。

また、現在外交関係を有する国の中でも国際的影響力が大きいのはバチカンですが、中国は近年、司教の任命権などをめぐり対立してきたバチカンとも外交関係樹立を視野に水面下の交渉を続けているされ、台湾は「断交ドミノ」を憂慮しています。

台湾には厳しい言い様ですが、パナマが国際的影響力を有する中国に乗り換えたのは国益を考えれば当然の話で、台湾が中国と力勝負をしても勝ち目はありません。

パナマを含めて、台湾がこれまで220各国余りと外交関係を維持できていたのは、中国が圧力を控えていたからにすぎません。パナマはもっと早い段階から中国との国交を望んでいたようです。

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・・・だが2009年、いざパナマ側が中国との国交樹立を望んだとき、おりしも台湾は親中派の馬英九が総統。2011年にウィキリークスが暴露した駐パナマ米大使の外交電文によれば、中国側はこのパナマの申し出を拒否したという。
馬英九のメンツを優先させたからだという。

ちなみに、ロイター通信によれば、この当時、中国が外交関係樹立を持ちかけられて、馬英九政権のために拒否した国は五カ国に上るとか。【6月21日 日経ビジネス 福島香織氏「中国がパナマと国交樹立、その意味を考える」】
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台湾の苦境 アメリカ・日本の視線も中国へ
台湾としては、勝ち目のない資金援助合戦などで中国と争うより、国家・社会の質の違いをアピールしたいところです。

****中台の違いは民主と自由」 台湾・蔡総統が談話****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は4日、中国・北京で1989年6月4日に起きた天安門事件から28年になるのに合わせ、自身のフェイスブック上に談話を公表し、中国と台湾の「両岸の間にある最大の違いは民主と自由だ」と訴えた。
 
蔡氏は更に中国国内に民主化を期待する人々がいると指摘し、「北京当局は天安門事件に新たな意義を与えることができる。その意味で、台湾は自らの民主化の経験を対岸と共有することを願う。台湾の経験の力を借りれば、大陸は民主的改革の陣痛を短縮できる」と呼びかけた。(後略)【6月4日 朝日】
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しかしながら、“民主と自由”という価値観を共有し、台湾への支援が期待されているアメリカ、そして日本も、中国の国際的影響力という現実に配慮せざるを得ない・・・というのが現実です。

****日本の反応から見る台湾の苦しい外交的立場****
2017年6月19日、中国メディアの四月網は台湾メディアの記事を引用し、台湾に対する日本の態度から、台湾政府は外交的に苦しい立場に置かれていることが分かるとする記事を記載した。

記事は、先日パナマが台湾と断交し中国と国交を樹立したことについて、米国政府から特別な反応はなく、中台は対話によって緊張が高まるのを避けるべきと呼び掛けるにとどまったことを紹介した。

そして、日本も米国同様、注目はしているがコメントは差し控えるとの「冷たい態度」であったと記事は指摘。この反応は、これより前の世界保健総会(WHA)への台湾参加を強く支持した態度とは大きく異なっているとした。

記事では、日本の態度にこのような大きな違いが出たのには、米国トランプ政権が中国に対する態度を変えたことと関係があると分析。不安を感じた日本は、中国との関係改善に乗り出すことで、外交政策の自主性を主張するようになったとした。

具体的には、トランプ政権誕生後、日米同盟は「漂流状態」となり、米国に対する不信感が強くなっているため、一帯一路構想を支持するなど中国との関係改善に動いている日本にとって、台湾とパナマの断交にそれほど注意を向けないのは当然だと論じた。

また、先月行われた第4回日中ハイレベル政治対話で、中国側から日台関係についての不満が伝えられ、台湾問題で日本側は決まり通りに事を処理するべきと注文をつけられたことや、7月の日中韓首脳会議を通して安倍首相は、来年の日中首脳の相互訪問実現を目指しており、日中関係改善に忙しい安倍首相は、台湾の外交的危機に力になりたくともなれないのだとした。(後略)【6月20日 Record china】
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中国メディアの見方ですから、日本として承服しかねる部分もあるでしょうが、価値観に関心がないトランプ政権も、米中関係の行方に影響される日本も、台湾より中国に目がいく・・・というのは一面の真実でしょう。

圧力をかけるほどに中国から離れていく台湾
ただ、中国としても、パナマとの国交樹立のような外交圧力は台湾に対する“いやがらせ”としては効果的ですが、本来の目的である中台統一という点においては、台湾の対中国感情を悪化させ、台湾をさらに遠くへ押しやる結果にしかなりません。

*****中国がパナマと国交樹立、その意味を考える****
・・・・ただ、蔡英文政権に圧力をかけても、今のところは台湾の国民党自体に、執政党になり得る実力や求心力がないので、国民党に対する追い風にはあまりなっていない。

中国はWHO(世界保健機関)に総会(WHA)参加の招待状を台湾に送らないように圧力をかけたが、この事件にしても、むしろ台湾世論の蔡英文批判は「中国になめられている」という方向に流れる。

もし、中国の圧力に弱腰の蔡英文政権がダメだと台湾有権者に判断されれば、おそらく次に登場するのは、民進党のより反中的な、例えば頼清徳(台南市長)あたりが総統候補として台頭してくるのではないか、と見られている。

仮に彼が台湾総統になれば、おそらく、中国にとって蔡英文よりも扱いづらい相手となろう。(後略)【6月21日 福島香織氏 日経ビジネス】
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三年後の総統選挙には蔡英文氏に代えて・・・との声が民進党内で出ている頼清徳氏(台南市長)は“八田像破壊事件後、日本の関係者に「台日の友好関係は、親中嫌日の感情的行為が破壊できるものではない」との内容の日本語の手紙を送った。親中メディアに「媚日派」と批判されたが、本人は意に介さない。”【「選択」6月号】という人物です。

そうした“副作用”もあるパナマとの国交樹立を中国が敢えて実施したのは、パナマ運河というパナマも持つ特殊性・国際戦略上の重要性を重視した結果ではないか・・・というのが、上記記事の主旨にもなります。(中国が手がけるするニカラグア運河の先行きはまだ不透明です)

前出【5月18日 朝日】でも“(中国の)圧力が強まるなか、党内や支持者の一部には蔡氏に対し「弱腰」だという不満も出ており、蔡氏はいつまでも低姿勢ではいられない状況にある。”とも。

****パナマ断交で台湾に波紋 独立へ余地広がると「歓迎論」も****
・・・・一方、「台湾独立」派長老で総統府資政(上級顧問)の辜寛敏氏(90)は同日の会見で、パナマとの断交で「主権独立国家を宣言する余地が広がった」として「歓迎する」と述べた。

辜氏は「国交国」が将来なくなる可能性も指摘。「北京(中国)を批判するのではなく、国家を正常化させる方法を考えるべきだ」とした。

辜氏は憲法制定委員会を設置し住民投票を行うべきだとの持論を展開。「中華民国」ではなく「台湾」名義での国連加盟申請も念頭にあるとみられる。【6月14日 産経】
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“失うもの”が少なくなれば中国の圧力を気にする必要もなくなり、台湾は台湾としての主張を掲げて進むだけだ・・・という話にもなります。

もちろん経済関係や“中華民族”としての血のつながりを考えれば、話はそう単純ではありませんが、中国としてもそうした台湾側の感情・意識を配慮する必要があるのではないでしょうか。

中台間の対立・緊張を極限まで高めて、一気に軍事力で解決する・・・というなら別ですが。
それはそれで、アメリカ・日本の対応、国際社会の反応を考えると簡単な話ではありません。

過度に台湾を追い込まず、当面は『冷たい平和』を維持するというのが、中国にとっても得策ではないでしょうか。
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シリア  ラッカ奪還で本格化するポストISの“グレート・ゲーム” 最後の勝利者は?

2017-06-20 23:14:42 | 中東情勢

(ラッカから避難した人たちが多く集まる近郊の町アインイッサのキャンプで、地面に座る子ども(2017年6月10日撮影)【6月12日 AFP】 “グレート・ゲーム”で誰が勝利者となろうが、泣くのは住民です。)

時間の問題となったラッカ奪還
「イスラム国(IS)」の最高指導者バグダディ容疑者が、シリア・ラッカ南郊における5月28日のロシア軍の空爆で死亡した可能性が浮上していますが、死亡の確認はとれていません。

ただ、バグダディ容疑者の生死にかかわらずISの支配が最終段階を迎えていることは間違いありません。

しかしながら、ラッカ陥落後もIS戦闘員によるテロ攻撃は続くであろうこと、IS後退後の支配・影響力をめぐる各勢力・関係国の争いが新たな段階に入ることも間違いありません。

****戦闘員、死ぬか降伏かしかない」 対IS作戦の現状は****
過激派組織「イスラム国」(IS)が、これまで猛威を振るってきたイラク、シリア両国で劣勢に追い込まれている。どのように民間人の犠牲を抑え、IS支配地域の奪還を進めるのか。掃討作戦を主導する軍関係者に聞いた。
 
ISは2014年6月以来、イラク北部モスルを最大拠点としてきたが、現在の支配地域は旧市街のわずか約4平方キロ。イラク軍幹部は朝日新聞の取材に「すぐにでもISを壊滅できるが、民間人の犠牲とインフラの被害を最小限に食い止めるのが重要」と語った。
 
現在、モスルにいるIS戦闘員は500人程度とみられ、自爆攻撃や狙撃で抵抗している。国連は旧市街に民間人約15万人がいると推定。ISはこれらの民間人を建物内に閉じ込めて「人間の盾」にしているという。旧市街の道路は狭く、イラク軍は装甲車両などを使えない。歩兵が道路や建物を一つ一つ解放する「ストリート戦争をしている状態」(同幹部)だ。
 
一方、ISが「首都」と称するシリア北部ラッカの奪還作戦を進める有志連合の報道官、ライアン・ディロン米陸軍大佐は朝日新聞の取材に「ラッカは包囲され、解放は近い。IS戦闘員には死ぬか降伏するしか選択肢はない」と指摘した。ラッカに残るIS戦闘員は現在約2500人。ラッカを脱出したIS戦闘員の掃討のため、ラッカ周辺のIS支配地域への空爆も強化したという。
 
また、ヨルダン国境付近の南部タナフで訓練したシリアの反体制派も、東部の都市や砂漠地帯の対IS掃討作戦に投入される見通しという。
 
ただ、ISへの攻勢が強まるにつれ、空爆による民間人被害が増えているとの指摘もある。ライアン氏は「民間人被害の疑いがあるすべての案件を深刻に受け止めて調査している。決して非戦闘員を狙ってはいない」と話した。【6月18日 朝日】
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「戦闘員、死ぬか降伏かしかない」とありますが、実際には、ラッカを脱出してテロ活動・ゲリラ戦を続けるというのが一番ありそうな展開です。

“住民の話として伝えられるところによると、SDF(クルド人勢力を主体とする「シリア民主軍」)の突入作戦が開始される数週間前から、多数の戦闘員が家族とともにラッカからの退去を開始、武器・弾薬、発電機、通信機器も運びだされた、という。
 
退去先はラッカ南東、デイル・アルゾウル県のユーフラテス川沿いのデイル・アルゾウルやマヤディーンと見られている。”【6月17日 WEDGE】

南部・東部ではアサド政権・イランとアメリカが勢力争い
シリアをめぐる最近の情報は、もはや時間の問題ともなったラッカ奪還の話よりは、アサド政権、ロシア、イラン、アメリカ、クルド人勢力などの“ポストISの覇権争い”にもつながる動向が中心になってきています。

IS支配地域が狭まるにつれて、各勢力・関係国が直接に衝突するリスクも高まっています。

軍事的優勢に立つアサド政権は、シリア南部の反体制派支配エリアに進出、一方、この地域のイラク・ヨルダン国境も近いタンフではアメリカ特殊部隊も拠点を拡大し、反体制派支援にあたっています。

ここ数週間は、米軍主導の有志連合が戦闘機で政権派組織を攻撃、政権派組織の前進を妨げているような状況ですが、シリア政府軍・イラン系民兵とアメリカ特殊部隊の地上での直接交戦の危険も大きくなっています。

****米特殊部隊、シリアの砂漠地帯で拠点拡大=関係筋****
シリアの反体制派組織によると、同国南東部の砂漠地帯に展開する米軍の特殊部隊が拠点を拡大している。イランが支援するシリア政権派組織と、米軍が地上で直接対峙するリスクが増しているという。

米軍の特殊部隊は昨年以降、シリア南部のタンフを拠点として、シリアの反体制派組織を支援している。

反体制派組織は、過激派組織「イスラム国」(IS)からの領土奪還を目指しているが、シリア政権派組織もISからの領土奪還を目指しており、政権派と反体制派が競合する形となっている。

ここ数週間は、米軍主導の有志連合が戦闘機で政権派組織を攻撃。政権派組織の前進を妨げている。

反体制派によると、米軍の特殊部隊はタンフの北東60─70キロの地点に2つ目の拠点を設けた。【6月15日 ロイター】
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ロシアはアメリカの政府軍等への空爆を非難していますが、アメリカは移動式の最新式ミサイルをこの地域に持ち込んだとも報じられています。【6月15日 「中東の窓」より】

シリア東部をめぐるアメリカ・イランの“陣取り合戦”も激しくなっています。

****ポストISの覇権争い****
シリアのデイル・アルゾウル県(ISのラッカからの退却先)が次の戦闘の中心地として浮上する中、IS以後のシリアの支配をめぐる覇権争いも一気に激化してきた。

中部方面から東方の同県に迫っているのは、シリア政府軍とイラン配下の武装組織ヒズボラやシーア派の民兵軍団だ。一方、南部から同県に進撃しているのが米支援の反体制派だ。
 
シリア政府軍とイラン支援の武装勢力はロシア、イラン、トルコの3カ国調停によるシリア内戦の停戦合意の結果、余裕が生まれ、これまで内戦に投入していた部隊や予算を東部のデイル・アルゾウ県に回せるようになった。
 
しかし、東部に軍事勢力が集中すれば、緊張も高まる。米軍はイラクとの国境沿いのタンフに特殊部隊の基地を置いているが、シリア政府軍が肉薄してきたとして今月6日、シリア軍を空爆した。米軍は5月にもシリア政府軍を攻撃しており、これまでISを主に標的にしてきた米国がシリアの将来に焦点を移し始めた徴候と見られている。
 
特に米国はイランの動きに神経を尖らしている。同県はバクダッドとダマスカスを結ぶハイウエーが通る交通の要衝でもある。イランはイラク、シリア、レバノンという“シーア派三日月ベルト”の確保を戦略の柱に据えており、そのためにも同県の支配を不可欠だと見ている。
 
逆に米国にとっては、この戦略を阻止することがイランの影響力拡大を封じ込める上で、極めて重要だ。

しかし双方が突っ張り合えば、米軍が今後、イラン支援の民兵軍団やシリアに派遣されている革命防衛隊とすら衝突する懸念も出てくる。

その時、イランとともにアサド政権を支えるロシアが米国と対決するリスクを冒してまでイランを支援するのか、どうか。大きな焦点だ。【6月17日 WEDGE】
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ヒズボラやイランにすれば、多大な犠牲を払ってシリアに介入している以上、何らかの見返りがなければ・・・といったところでしょう。(そのためにアサド政権を支えてきたとも言えます)

米軍により政府軍機撃墜で高まる米ロの緊張
そうこうしているうちに、シリア北部では、アメリカが支援するクルド人勢力をシリア政府軍が攻撃、これに対抗してアメリカ軍機が集団的自衛権を発動してシリア政府軍機を撃墜する衝突も起きています。

****米、シリアでアサド政権の軍用機撃墜 クルド人部隊への爆撃に反撃****
米軍の戦闘機が18日、シリア北部でイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うクルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」を狙って爆撃したバッシャール・アサド政権軍の軍用機1機を撃墜した。ISの掃討作戦を展開している米主導の有志連合が発表した。(中略)

有志連合は声明で「シリア政権のスホイ22(Su-22)1機が(18日)午後6時43分、(シリア北部)タブカの南でSDFの戦闘員らの近くに爆弾を投下した。有志連合部隊の交戦規定に従い、集団的自衛権を発動して、米軍のFA18スーパーホーネット1機が(同機を)直ちに撃墜した」と発表した。
 
声明によると、その2時間前にはアサド政権側部隊がタブカの南にある町でSDFの戦闘員らを攻撃し多数を負傷させ、町から追い出していた。有志連合の航空機がその後、威嚇行動によってアサド政権側部隊の当初の前進を食い止めたという。【6月19日 AFP】
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アサド政権側は、「(米軍によって撃墜された)軍用機は対IS作戦を遂行中だった」として、米軍を非難しています。

アサド政権を支えるロシアも、アメリカがホットラインを用いて撃墜の警告をしなかったとアメリカ批判を強めており、今後米軍等の飛行機・無人機もすべて“標的”とすると発表しています。

****ロシア、有志連合の飛行体は「標的」 シリアめぐり米軍を牽制***** 
ロシア国防省は19日、シリアで米軍機がアサド政権軍機を撃墜したことに関連して、シリア上空でロシア軍が軍事作戦を展開する空域の「あらゆる飛行体」が今後、ロシア軍の対空兵器により「標的」として監視されると発表した。

イタル・タス通信が伝えた。露国防省は、「飛行体」には米軍主導の有志連合が使用する「飛行機、無人機」を含むと強調し、米側を強く牽制(けんせい)した。

対象となる空域は、ユーフラテス川より西側の地域の上空だとしている。
 
アサド政権軍を支援するロシアは、今回の撃墜をめぐり米側への態度を硬化させている。露国防省はまた、米側と交わしたシリア上空での偶発的衝突を避けるための覚書の履行を19日から「停止する」とも発表した。【6月19日 産経】
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アメリカは、ロシアとの衝突にもつながる事態を避けるべく、覚書に基づく連絡回線の回復をロシア当局に働きかけているようです。

****米、対ISで露との連絡回復図る 掃討作戦への影響懸念****
米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は19日、ロシアがシリア上空での偶発的衝突を防ぐ米露間の覚書の停止を発表したことに関し、覚書に基づく連絡回線の回復をロシア当局に働きかけていることを明らかにした。
 
トランプ政権は、シリアでのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に支障が出るのを食い止めるため、ロシアとのこれ以上の緊張激化を防ぎたい考えだ。(後略)【6月20日 産経】
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イランのシリア領内へのミサイル攻撃
一方、イランは18日、7日に起きた首都テヘランで国会議事堂などが襲撃された同時テロに関連して、シリア北東部へミサイルを撃ち込んでいます。

****シリア北東部にミサイル攻撃=「同時テロの拠点」標的―イラン****
イランの革命防衛隊は18日、同国西部からシリア北東部デリゾール県に向けて中距離地対地ミサイル数発を撃ち込んだ。

7日に首都テヘランで国会議事堂などが襲撃された同時テロに関連し、「テロリストの拠点を攻撃した」という。イラン学生通信が伝えた。
 
同時テロは過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張。ISによるイランでのテロは初めてで、デリゾール県にはISの支配領域が所々広がっている。
 
革命防衛隊は声明で、ミサイル攻撃で「多数のテロリストを殺害し、武器などを破壊した」と強調。「イランに対して悪事を働く者は地獄に落とす」と警告した。【6月19日 時事】
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“イランが国外でミサイル攻撃を実施したのは1980~88年のイラン・イラク戦争以来30年ぶり。”【6月19日 AFP】とも。

クルド人勢力を警戒するトルコ
アメリカ、イラン、ロシア・・・・それにもう一つ忘れてはならないプレイヤーがトルコです。

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さらに忘れてはならないのは、クルド人の勢力拡大を食い止めるためにシリアに軍事介入している地域大国トルコの動向だ。

トルコは同国の「警護官逮捕状問題」で米国を強く非難するなど対米関係を悪化させており、ロシアへの接近を一段と強め、シリアに半恒久的に居座るかもしれない。【6月17日 WEDGE】
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【「グレート・ゲーム」の勝者は?】
“かつて中央アジアの覇権をめぐって展開したグレート・ゲームが舞台をシリアに移し、ポストISに向かって再び展開しようとしている。”【同上】とも

アメリカの元シリア大使は下記記事で、今後の「グレート・ゲーム」の行方に関して、アサド政権の復活、イランの影響力拡大と、アメリカにとって厳しい予想していますが、現在アメリカに協力して対IS戦略の中核となっているクルド人勢力は結局アメリカから見捨てられるとも・・・・。

****アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使****
シリア内戦はシリア政府とそれを支援するイランなどの外国勢力が勝利し、シリアで影響力を死守しようとしたアメリカにとってすべてが徒労に終わる。クルド人武装勢力は、ドナルド・トランプ米大統領に協力したことで今後大きな代償を払わされる──これが、アメリカの元シリア大使が描くシリア内戦の今後のシナリオだ。

バラク・オバマ政権下の2011〜2014年にアメリカのシリア大使を務めたロバート・フォードは月曜、ロンドンに拠点を置くアラブ紙「アッシャルク・アルアウサト」の取材に対し、米政府が掲げるISIS(自称イスラム国)の撲滅とシリアでのイランの台頭を抑え込むという目標の達成に関して「オバマはトランプ政権にわずかな選択肢しか残さなかった」と言った。

イランとロシアはシリアのバシャル・アサド大統領を支援し、アサドの退陣を求める反政府諸勢力やISISなどのジハーディスト(聖戦士)に徹底抗戦した。その間にアメリカは、クルド人主体だが他の少数民族やアラブ人なども寄せ集めた反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援してきた。

SDFはここにきて、ISISが「首都」と称するシリア北部の都市ラッカの奪還で快進撃を続けている。それでもフォードは、アサドを退陣させ、シリアでのイランの台頭を阻止するというアメリカの当初の計画について、「もう勝算はなくなった」と言う。

レバノン駐留米軍と同じ運命
「今後はイランの存在感が増す」とみるフォードは、今から2、3年後のシリアの勢力図を予想した。それによれば、シリア西部はアサドが支配を続け、シリア東部ではイランがアサド軍を支援し、最終的にアメリカを撤退させる。1980年代のレバノンで、イランが支援するシーア派のイスラム武装組織ヒズボラがアメリカを追い出したのと同じシナリオだ。

「勝ったのはアサドだし、アサドもそう思っているはずだ」とフォードは言う。アサドは欧米が戦争犯罪と非難した行為で罪に問われる可能性も低い。「恐らく10年以内に、アサドはシリア全土を取り戻すだろう」(中略)

反政府勢力の中にジハーディストが台頭するにつれ、アメリカはISIS掃討を優先する政策に舵を切り、クルド人主体のSDFへの支援を開始した。

シリア内戦が始まった当初、多くのクルド人は、反アサドの機運が高まったことを肯定的に受け止めた。イラク北部のクルド人自治区のように、シリア北部でクルド人自治区を作るチャンスと考えたからだ。

だがSDFの戦闘員たちは戦いが進むにつれ、敵はISISだけではなく、トルコの支援を受けた反政府武装組織もいると思い知った。国内にいる約1500万人のクルド人の独立を阻止したいトルコは、SDFを国家安全保障上の脅威とみなしているのだ。

アメリカはクルド人を守らない
そもそもSDFは、シリア政府軍と反政府勢力の戦いの中では、ほぼ一貫して中立の立場だった。だがISISの支配地域が縮小の一途をたどり、アメリカとアサド政権の緊張関係が高まった今、SDFはシリア政府軍との戦いの前線に立っている。

シリア政府軍とSDFが衝突した後の今週月曜、アメリカは初めてシリア政府軍機を撃墜した。SDF部隊の上空を飛行したのが理由だった。

クルド人がアメリカと手を結んだのは重大な過ちだったと、フォードは言う。イラク侵攻後にイラクを見捨てたのと同様に、米軍はシリアからISISが一掃され次第、クルド人勢力への支援を打ち切るとみるからだ。

「アメリカには、アサド軍からクルド人を守るつもりがない」とフォードは言った。「クルド人を利用するアメリカは、政治的に愚かなだけでなく、反道徳的だ」【6月20日 Newsweek】
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クルド人勢力はアメリカに見捨てられたら、前面にアサド政権軍、後ろには(アサド政権以上に敵意が強い)トルコを抱えて、非常に厳しい状況に置かれます。

もっとも、クルド人勢力もいつまでもアメリカが守ってくれると考えるほどお人好しでもないでしょう。
それなりの成算があっての・・・と言うか、権限拡大のためには“厳しいが、今立つしかない”と覚悟しての戦闘参加でしょう。
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カタール・サウジアラビアの断交問題 アフリカ・アジアへも影響拡大

2017-06-19 22:44:05 | 中東情勢

(【6月18日 六辻彰二氏 THE PAGE「サウジがカタールと断交、スンニ派同士でなぜ“兄弟げんか”」】)

【「要求のむか、孤立か」二者択一を迫るサウジ 「服従の要求には決して屈しない」カタール
アラブ世界の盟主を自任するサウジアラビアが主導するアラブ諸国と、小国ながら豊富な資金力を背景に独自外交を進めるカタールの対立については、6月14日ブログ“カタール断交問題  独自外交のカタール それを許さない中東世界の現実 火をつけたトランプ外交”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170614で取り上げたところです。

各国体制を揺るがす過激派への資金援助停止や対イラン融和策変更などの“要求を完全にのむ”かアラブ世界での“孤立”かの二者択一を迫るサウジアラビアに対し、「服従の要求には屈しない」とするカタールと、依然双方とも硬い姿勢を崩していません。

****汎アラブ紙・アッシャルクルアウサト「サウジの要求のむか、孤立か」二者択一を迫る****
サウジアラビア資本の汎アラブ紙、アッシャルクルアウサト(電子版)は13日付で、「カタールの危機の解決策は2つしかない」とする論評記事を掲載した。

2つの策とは、テロ組織や反体制派と縁を切るよう求めるサウジなどの要求を「完全にのむか」、それとも「周辺国から孤立したままで生きていくか」だ。カタールに二者択一を迫る厳しい内容といえる。
 
論評は、カタールの国防相だったハマド皇太子が父、ハリファ首長の外遊中に無血宮廷クーデターで政権を奪取した1995年から説き起こす。(中略)
 
サウジとカタールの冷たい関係は今に始まったことではない。そう示唆した上で論評は、「度重なる和解にもかかわらず、カタールはサウジやバーレーンの政権転覆を狙う反体制派を支援し、資金を提供し続けた」と非難した。

さらに、2011年の民主化政変「アラブの春」の後はアラブ首長国連邦(UAE)でも反体制派の側に立ち、エジプトでも政権転覆を図る組織に肩入れしたと指摘した。(中略)
 
同紙は14日付の記事でも、地域の各国は共存しようとしてきたが、「忍耐には限界がある」とカタールに対する脅しとも取れる文言を用いた。(後略)【6月19日 産経】
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****カタール・ガルフ・タイムズ「服従の要求には屈しない」 湾岸協力会議「永遠に忠実」と改善模索も****
・・・・カタール紙ガルフ・タイムズ(電子版)は6日の論説記事で、「世界トップの液化天然ガス(LNG)輸出で防護したカタール経済は、突然の衝撃にも耐えられるだけの強さがある」と述べ、サウジアラビアなどによる一斉断交に伴う経済制裁措置には屈しない姿勢をみせた。
 
カタールのLNG輸出は世界で約30%のシェアを占め、今回の断交による世界経済への影響が懸念されている。しかし記事は、サウジなどがカタールの船の領海通過を禁じるなどしてもLNGを届けるルートは確保されており、「ビジネスはいつも通りに行われる」と強調。

カタールがLNG輸出で得た資金は、国家ファンドを通じて世界各地の市場に投資されているとも述べ、各国にカタールとの関係の重要性を再認識するよう迫った。(中略)

一方、今回の断交ではカタールがペルシャ湾を隔てた隣国イランと比較的良好な関係にあることが、イランと敵対するサウジの怒りを買ったのが要因の一つだと指摘される。記事はこの点を念頭に、カタールは湾岸アラブ諸国などで作る湾岸協力会議(GCC)の「永遠に忠実(な加盟国)であり続ける」とも強調。湾岸諸国との関係をないがしろにはしないとの姿勢を明確にすることで、関係改善の糸口にしたい考えもにじませた。
 
ただカタールは小国ながら豊富な資金を背景に独自外交を展開し、アラブ諸国の盟主を自任するサウジに挑戦してきた国だ。意地がある。「国が一丸となり、服従の要求には決して屈しない」。記事は、こう締めくくった。【6月19日 産経】
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スイスのジュネーブで記者会見したカタール国家人権委員会委員長は、周辺国による制裁は集団的処罰の域に達していると批判。母親と赤ちゃんが引き離された例を挙げ、複数の周辺国がカタールと断交を決定したことで全中東市民の権利が踏みにじられていると訴え、その影響は「ベルリンの壁」よりも壊滅的だとも述べています。【6月18日 AFPより】

一方、人道的にも問題な全面封鎖をしているとの批判に対し、13日にワシントンでティラーソン米国務長官と会談したサウジアラビアのジュベイル外相は、「サウジは、カタール航空やカタールが保有する航空機のサウジ空域の飛行を認めていないだけだ。(カタールの)空港や港は開かれており、カタール人は自由に移動できる」と述べ「(全面)封鎖ではない」と強調しています。【6月14日 毎日より】

対立の余波でアフリカ・ジブチにエリトリア軍が侵入
両者の対立は中東を超えてアフリカ、アジアのイスラム世界に拡大しています。

東アフリカの「アフリカの角」に位置するジブチは、日本もソマリア海賊対策で自衛隊基地を置くほか、アメリカや、最近では中国なども基地を置く小国ですが、このジブチもサウジアラビアに追随する形でカタールに対する外交使節のレベルの引き下げています。

これに反発するカタールはジブチに駐留させていたPKO部隊を撤収させ、そこへ・・・・

***カタール問題の余波(ジブチ・エリトリアの緊張****
・・・・エリトリアはジブチとも関係が悪く、1990年代に2回ほど国境紛争があり、その後停戦が続いたが、2008年に再び紛争が発生し、2010年にはカタールの調停で和平が成立し、国境地帯にはカタール部隊がPKOとして駐留していたというわけです。

それが今回カタール問題をきっかけにカタール軍が撤退したすきに、エリトリア軍が侵入したということですが、これまでのところ衝突等は生じていない模様です。(後略)【6月17日 「中東の窓」】
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この問題に関しては、サウジアラビア、国連安保理、アフリカ連合などが対応を協議しているようです。

*****ジブチ・エリトリア問題(サウディ軍の派遣?)*****
この問題に関して、al qods al arabi net は、その後釜としてサウディ軍がPKOとして派遣されることが検討されているとの題名の記事を掲げています。

カタール軍の後にサウディ軍とは随分急な動きだな、と思って記事を読んだら、中身としてはリヤドの外交筋によると、サウディ政府はサウディ軍をPKOとして派遣するか、PKOとして派遣されるべきアフリカ軍を支援するか等の可能性を検討していて、現在各方面と連絡中であるとのことでした。

また同記事は、エチオピアの要請により、17日安保理が非公式協議を行っているが、アフリカ連合はこの問題についてジブチ・エリトリア両政府と緊密に連絡を取り、平和的解決に向けて協議中であるとも報じています。【6月18日 「中東の窓」】
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サウジアラビアの同調要請に苦慮するパキスタン
一方、アジアではパキスタンがサウジアラビアから同調を迫られているものの、過激派への資金援助という点ではカタールと似た立場にもあるため、対応に苦慮しているとか。

****アジアにも及んだカタール断交の圧力****
<カタールと断交したサウジアラビアがパキスタンに対し、どちらの味方かはっきりするよう迫った。だがパキスタンにとって、カタールの孤立は他人事ではない>

サウジアラビアなどが隣国カタールと断交した問題で、南アジアのイスラム教国パキスタンが、どちらの味方かはっきりせよとサウジアラビアに迫られている。パキスタンは今のところ巻き込まれたくないと考えているが、いつまでも中立ではいられないかもしれない。

報道によれば、先週月曜にサウジアラビアのサルマン国王とパキスタンのナワズ・シャリフ首相がサウジアラビア南西部のジッダで会談した際、サルマンはシャリフに対し、サウジアラビアかカタールのどちらか1つを選択するよう最後通告を突きつけたという。(中略)

不安になるパキスタン
・・・・カタールがアラブ諸国から突然仲間はずれにされたことで、パキスタンは不安になった。パキスタンはカタールと同様アメリカの同盟国である一方、テロ組織に資金援助しているとして国際的な批判にさらされており、今のカタールの苦しい状況が他人事とは思えないからだ。

アフガニスタンとインドは、パキスタンがイスラム教スンニ派武装組織を支援していると名指しで批判し、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンや南アジアのイスラム過激派ラシュカレトイバなどもパキスタンが後ろ盾だと主張している。

アメリカもかつて、タリバンの指導者だったオサマ・ビンラディンがパキスタン北部アボタバードの邸宅に潜伏していたことが明らかになると、パキスタン政府に背を向けた。(中略)

それでもアメリカとパキスタンは数年で軍事協力を再開した。昨年バラク・オバマ前米大統領はパキスタンに対して10億ドル超の人道・軍事支援を行うと発表した。だが後任のトランプは、オバマが決めた支援の大幅削減を検討中だ。

パキスタンは大っぴらにサウジアラビアを支持することは依然拒否しているが、トランプはパキスタンのカタールに対する影響力を行使して、湾岸諸国の危機を収拾することを求めているとも伝わる。

一方、パキスタンと敵対する隣国インドは、サウジアラビアの断交に従わず、新たに直通航路を開いたと言われる。【6月19日 Newsweek】
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周知のとおりパキスタンはインドに対抗して核兵器を増強させていますが、その資金はサウジアラビアから出ていると言われています。そしてサウジアラビアに開発した核兵器を渡す合意がなされているとか・・・

****サウジが「パキスタンの核弾頭」を手にする日:ミサイルは中国製の東風21****
・・・・しかしイランは将来の核武装化を完全に断念したわけではなく、核開発を先送りしたにすぎない。このため中東のアラブ諸国などがひそかに核開発を進め、米国などの情報機関が神経を尖らせている。

中でも最も懸念すべき動きを見せているのが、イスラム教シーア派大国イランのライバルであるスンニ派大国サウジアラビアだ。

パキスタンから5~6発
(中略)さらに、2010年の英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の研究会で複数の西側情報筋が「サウド王家はパキスタンの核開発計画の費用60%以下を負担、近隣諸国との関係が悪化した場合、5~6発の核弾頭をその見返りに得るとのオプションが付いている」との情報が明らかにされたという(ガーディアン紙)。(中略) 

サウジとパキスタンの合意とは
サウジ側はこのようにパキスタンからの核兵器入手について徹底的に否定し続けている。

しかし、米情報コミュニティは、そんな建前を信じてはいない。ホワイトハウスの元核不拡散対策担当調整官ゲーリー・セイモア氏は2013年当時、英BBCテレビで「サウジ側は、極端な場合にはパキスタンから核兵器を請求できることでパキスタン側の了解を得ている、と確信していると思う」と語っている。

やや回りくどい言い方だが、サウジとパキスタンの間には何らかの核合意があり、今もその合意は生きていると米国はみていることが分かる。(後略)【2016年2月18日 春名幹男氏 ハフポスト】
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パキスタンにとってはサウジアラビアは核開発のスポンサーであり、そのサウジアラビアの“カタールとの断交”という要求を拒むのは難しいのでは・・・とも想像されます。

ただ、本来の話で言えば、パキスタン自身が気にしているように、カタールのムスリム同胞団やハマス支援よりは、パキスタンのタリバンやラシュカレトイバ支援の方が国際社会に大きな影響を与えており、パキスタンこそが断交の対象となるべき・・・とも思うのですが。

トランプ大統領のカタール批判の一方で、アメリカはカタールへ戦闘機売却
今回のサウジアラビア主導のカタール制裁は、サウジラビアを訪問したトランプ大統領のサウジアラビアを支持する姿勢からもたらされたと言われています。実際トランプ大統領は、今回の国交断絶は自らの中東外交の成果であるかのようにアピールし、カタールの過激派支援を批判しています。

しかし、約1万人の米兵が駐留するカタールは米国にとって重要な同盟国でもあり、武器売却も続けられています。

****米国、カタールにF15戦闘機売却で合意 中東主要国と断交でも****
カタール国防省は14日、米国からF15戦闘機を120億ドルで購入することで合意したと明らかにした。

サウジアラビアなど中東4カ国が国交を断絶したカタールを巡っては、テロリズムを支援しているとトランプ米大統領も非難していた。

関係筋によると、マティス国防長官が14日にカタール代表団と会談し、合意を締結する。ブルームバーグは、36機の戦闘機が売却されると伝えた。

国防総省によると、契約には安全保障面での協力や二国間の相互運用も含まれる。

マティス長官とアティーヤ国防担当相は会談で、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する作戦の現状を協議したほか、湾岸地域のすべての関係国が緊張関係を緩和することの重要性についても意見を交換した。

米政府は昨年11月、カタールに対してF15戦闘機72機を211億ドルで売却することを承認していた。【6月15日 ロイター】
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当然に売却の話と並行して、今回騒動への対処についてもアメリカとカタールの間で話がなされているはずですが、どのように話が進んでいるのかはわかりません。
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イギリス  総選挙敗北で求心力を失なったメイ首相に追い打ちをかけるロンドン火災 対応のまずさも

2017-06-18 22:29:47 | 欧州情勢

(【ロンドン火災】メイ首相、国民感情を読み違えたのか
14日未明にロンドン西部の公営高層住宅を襲った火事をめぐり、テリーザ・メイ英首相は16日夜、BBC番組「ニュースナイト」に出演し、エミリー・メイトリス記者のインタビューに応じた。
首相は政府が住民支援に500万ポンドの資金を提供すると強調。15日に現地を訪れたものの住民に話をしなかったことが非難されている首相に対して記者は、首相が国民感情を読み違えたのではないかと繰り返し尋ねた。【6月18日 BBC http://www.bbc.com/japanese/video-40314195】)

求心力低下で「強硬離脱」方針変更、政局は混迷
EU離脱交渉に向けた強い指導力を確保すべく前倒し総選挙を行ったイギリス・メイ首相ですが、周知のとおり、当初の“圧勝”“地滑り的勝利”の予想(そうした予想があったからこそ、敢えてする必要のない選挙にうって出た訳ですが)に反し、第1党には留まったものの過半数割れに追い込まれる実質的“大敗北”の結果となっています。

北アイルランドのプロテスタント系地域政党・民主統一党(DUP)との協力で、今後とも政権を維持していく姿勢ですが、DUPが同性婚や人工妊娠中絶に反対するような保守党以上に保守的な政党であることや、過去には爆弾テロなどで3千人以上が犠牲になった北アイルランド問題の当事者の一方に肩入れすることにもなり、北アイルランドでのプロテスタント・カトリック系の対立を再燃させかねないことなどから、DUPとの協力を懸念する声も多くあります。

そうした状況でメイ首相の求心力は弱まり、離脱交渉の方針も「強硬離脱」からの変更を強いられ、政権運営自体も不透明な情勢となっています。

****英EU離脱】「穏健離脱」へメイ包囲網 交渉開始前に求心力低下 強硬離脱の修正迫られる****
英国総選挙でメイ首相率いる与党・保守党が過半数割れに追い込まれたことを受け、保守党内ではメイ氏が掲げる欧州連合(EU)から「強硬離脱」方針を穏健な方向に軌道修正すべきだとの声が高まっている。

党内の実力者らが相次いで「企業や他政党と協力する必要がある」と主張、19日開始予定の離脱交渉を前に「メイ包囲網」がじわり狭まっている。
 
「交渉目標を修正し、移民抑制より経済成長優先を明確に示す必要がある。スコットランド保守党や野党、経済界の意見を受け入れるべきだ」。外相経験者の保守党重鎮、ヘイグ氏が12日、デーリー・テレグラフ紙への寄稿で離脱戦略修正を訴えた。

その後、キャメロン前首相も「野党の声も聞く必要がある。野党はより穏健な離脱方針を迫る」とメイ氏に進言した。
 
こうした意見を受けてメイ氏は「離脱にはより幅広いコンセンサスが必要だ」との認識を示し、官邸主導の政治手法を改める方針を示した。

しかし、EUとの妥協を拒む約50人の党内の最強硬派にも配慮しなければならないメイ氏は、離脱戦略をどこまで修正できるのか、苦渋の決断を迫られている。【6月15日 産経】
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上記記事にもある“EUとの妥協を拒む約50人の党内の最強硬派”の造反を考えると、DUPとの協力だけでは乗り切れません。

****<英与党>労働党に秋波 政局混迷、大連立構想浮上****
どの政党も議会の過半数に達しないハングパーラメント(宙づり国会)となった英国の政局が混迷している。

8日の総選挙で議席を減らしたメイ首相の政治力は失われ、欧州連合(EU)離脱を巡る戦略も練り直しを余儀なくされている。

「首相失脚は時間の問題」との見方が強まる中、政権与党内では最大野党の労働党との「挙国一致」構想が浮上中だ。
 
英紙テレグラフによると、与党保守党の一部でEU離脱に関する超党派委員会を設ける計画が浮上。国論を二分する最重要課題をライバル政党の協力を得て乗り切ろうとする狙いで、労働党の一部議員と水面下で協議に入ったという。(中略)

ただ政策の方向性が大きく異なる各党が連携できるかは不透明だ。英国では第二次世界大戦中のチャーチル政権など「挙国一致」の大連立政権があったが、BBCは「ライバルの保守党と労働党が平時に協力し合うのは考えにくい」と伝えた。
 
一部の世論調査で労働党の支持率が保守党を上回ったこともあり、コービン党首は「我々は支持されている。再選挙を争う準備がある」と対決姿勢を強めている。
 
メイ首相は北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の閣外協力を得ることで大筋合意に達し、21日に予定する施政方針演説で新政権をスタートさせたい考え。

だが、少数派政権では、重要法案の採決で身内の保守党から数人の造反が出た時点で立ち往生する。他党を巻き込む協力体制を築けなければ綱渡りの政権運営となる。【6月18日 毎日】
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素人考えからすれば、泥船状態になりつつあるメイ首相・保守党にライバル労働党が手を貸すようには思えません。
あるとしたら、明確な再選挙実施を前提とした場合だけでしょう。

格差問題を露呈したロンドン火災 被災者を慰問しなかった首相の姿勢への批判も
メイ首相の“泥船状態”を加速し、一部からは“致命的”とも評される打撃を与えているのが、ロンドン西部の高層公営住宅で14日未明に起きた火大災です。死者と行方不明者は、17日の警察発表によると58人とされています。

最初にロンドンの高層住宅と聞いて、富裕層の住むようなマンションをイメージしたのですが、TVニュースに映し出される被害者・近隣住民の多くは非白人で、日々の生活にも余裕のないような人々のようです。

それだけに今回火災は単なる火災事故ではなく、貧富の格差という極めて敏感な問題をえぐりだす問題ともなっており、メイ首相はそうした敏感な政治問題への対応を明らかに間違えました。

****ロンドン高層住宅火災で明らかに イギリスが抱える「貧富の格差****
少なくとも17人が死亡した大規模火災が今週発生したロンドン西部の公営住宅がある一角から、徒歩で少しの場所に、数百万ポンドはする優雅な住宅が並ぶ、英国で最も裕福な通りの1つがある。

ケンジントン・アンド・チェルシー王室特別区は、ポップスターやセレブ、富裕層や銀行幹部が住むエリアとして、英国内外で広く知られている。

だがその同じ地区には、今回の火災が起きた24階建ての高層公営住宅「グレンフェル・タワー」が建つ一角のように、貧しい地区も点在している。(中略)

この大惨事にショックを受けたロンドン市民からは、大量の洋服や靴、シーツなどの寄付が押し寄せ、早々にボランティアが対応しきれない程になっている。

だが15日には、黒焦げの無残な姿をさらすタワーの周辺から、はっきりと怒りの声が上がっていた。地元当局が、富裕層を優遇する政策に走り、貧しい市民の安全や福利を軽視している、というのだ。

火災のあった建物に住む受付係員のアリア・アルガッバーニさんは、新たな外装材が取り付けられた昨年の改修工事に立腹していた多くの住人の1人だ。炎が急速に広がった一因に、この改修工事があった可能性を指摘する報道も出ている。

「なぜ外観をきれいにしたのかを考えると、いらだたしい。反対側の高級住宅の住民にとってこのタワーが見苦しいからだ」と彼女は言う。

消防当局は、火災原因を特定するには時期尚早としており、地元当局は、改修工事は住人の住環境改善のために行ったと説明している。

「二都物語」
改修工事中に同タワーの住民と緊密に連携していた地域のまとめ役、ピルグリム・タッカーさんは、今回の火災は、長年の間コミュニティの一部を丸ごと無視したことによる悲劇的な結末だと考えている。

「この公営住宅の住人は、自分たちが無視されていることを知っている」と、彼女は衝撃を隠せない様子で語った。「もし行政がするべき仕事をしていたなら、こんなことは起きなかった」

防災上の懸念を住人が指摘したにもかかわらず聞き入れられなかったとタッカー氏らが声を上げるなか、大惨事の余波は、より大きな政治の世界にも広がりつつある。

先週の総選挙で、財政規律の重視や、減税、ビジネス環境の整備を掲げた与党保守党は、公共事業に対する支出拡大を重視する野党労働党に対し議席を失い、過半数を確保できなかった。

グレンフェル・タワーのあるケンジントンの選挙区では、史上初めて労働党の候補者が当選を果たし、驚きを持って受け止められた。

当選した労働党のエマ・デントコード議員は新聞のインタビューで、安全性を軽視したとして行政当局を批判し、悲劇は防げたはずだと指摘するなど、火災を機に素早い反応を見せた。

メイ首相は15日、グレンフェル・タワーを訪問したが、消防士と会話する一方で住民とは言葉を交わさなかったと批判を浴びた。

対照的に、近隣の教会を訪問して住民やボランティアに面会した労働党のコービン党首は、「来てくれてありがとう」と周囲から声がかかるなど歓迎された。

「ケンジントンが『二都物語』であることは、避けられない事実だ」と、コービン党首は記者団に述べた。「ケンジントンの南側は極めて裕福で、全国で最も高級な地区だ。この火事が起きた地区は、国内でも最貧の部類だと思う」

「ある種の人々」
グレンフェルがある一角のすぐ外側は、多様な層が住むノッティング・デールと呼ばれる区域だ。味気のない1970年代築の公共住宅の周りには、富豪とまではいかないものの、裕福な人々が住む手入れの行き届いた住宅が並ぶきれいな通りがある。富豪たちは、数分は離れたホランド・パークと呼ばれる地区に住んでいる。

ノッティング・デールでは、地元住民の怒りにもかかわらず、火災によってコミュニティの異なる層の人々が団結した。タワーから脱出した人々や、現場近くの自宅から避難を余儀なくされた人々のために、より裕福な住民の多くが住居を開放したのだ。

ゆとりある生活を送る年配の婦人アナベル・ドナルドさんは、自宅アパートを、行き場のない住人6人に貸している。(中略)

彼女は、増税で公共住宅や他の公共サービスへの支出を拡充することは簡単にできるのに、地区の税金が不必要に低く抑えられていると批判する。地区税の負担増があれば、喜んで応じる考えだと語った。

「行政は、倹約する地区であることを自慢に思っている。ある種の人々を喜ばすことができると思ってやっているのだ」と彼女は言う。

火災の衝撃が社会に広まる一方で、社会的な分断はいつもより重要でなくなったと感じているという。
「教会で手助けしていた時ほど、地域で受け入れられたと感じたことはなかった。彼らは、私がどちら側の人間か、まったく気にしなかった。彼らの子供たちと遊んだり、おむつを替えたり、お茶やコーヒーを用意したりしたことだけが、重要だった」とドナルドさんは語った。【6月17日】
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より裕福な人々のなかには上記記事のような支援に立ち上がる方もいますが、貧しいい被災者の怒りは“彼らは、私がどちら側の人間か、まったく気にしなかった”では済まされないものがあります。

今回事故では燃えやすい外壁が被害を大きくしたのでは・・・との推測もありますが、改修工事においてわずかな支出を削減するために耐火性の高い資材ではなく、燃えやすい資材が使用されたとの批判もあります。

****英タワー火災、安全性の懸念無視か 住民「大量殺人だ」と怒り****
英ロンドン西部の24階建て高層住宅で14日未明に発生した大規模火災で、近隣住民らは、安全性への懸念が以前からあったにもかかわらず、富裕層が住む地域ではないため無視されてきたと、憤りをあらわにしている。
 
火災が起きたグレンフェル・タワーの入居者団体の元会長、ダミアン・コリンズ氏はAFPの取材に対し、住民らは昨年完了した同タワーの大規模改装の対処について地元議会に苦情を申し立てていたと説明。「私たちは、実際に悲劇が起きないと皆の目は覚めないし、ビル管理者が責任を問われることもないと言っていた」と述べた。
 
コリンズ氏によると、入居者らは建物内の火災非常口が足りないことを特に懸念していた。また、暖房と照明システムにも欠陥があり、改善を求める2015年の請願書に住民の90%が署名したが、それも無視されたと述べた。
 
グレンフェル・タワーは1974年建築のコンクリート製高層ビル。昨年、総額870万ポンド(約12億円)の改装を終えたばかりで、住民はこの改装の際に使われた新たな外装材が火事を広げた原因となったと批判している。
 
近隣住民の男性(46)は、同地域の住民は自力に頼ることが習慣になっていると語る。男性は住民が過去に何度も苦情を申し立てていたことを指摘し、「もしこれが(高級地区の)ナイツブリッジ近くで起きていたら、既に解決し、問題にはならなかっただろう」と述べた。(後略)【6月15日 AFP】
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また、2013年にはこうした建築物にスプリンクラーを設置するようにとの勧告が政府に対してなされていたにもかかわらず、対応がとられてこなかった・・・・ということも問題とされています。メイ首相は勧告を受けた政府の閣僚でもありました。

何よりも、被災者を慰問しなかったことで、メイ首相に被災者へ寄り添う気持ちが見られなかったということが問題視されています。このことが“メイ政権の命取りにもなる”との懸念も。

****ロンドン火災】被災者を慰問しないメイ首相に批判高まる 政権の新たな難題にも****
ロンドン西部の高層アパートで起きた大規模火災で、15日、被災現場を視察したメイ首相は、警察や消防の説明を受け、徹底した公開調査を指示したが、被災者を慰問しなかったため「被災者に面談すべきだった」との非難が集中。

英メディアも「ブッシュ元米大統領が指導力欠如を露呈した『ハリケーン・カトリーナ』と同じ対応ミス」(ガーディアン紙)と批判しており、テロ対応で支持率が急落したメイ政権の新たな火だねになりかねない。
 
公営高層住宅には400人から500人が居住していたが、移民を中心とした低所得者層だった。15日、被災現場を訪問したメイ氏はイラク戦争参加問題などと同様に独立した公開調査を行う方針を明言したが、遺族や被害者など住民に会わなかった。

首相官邸では「捜査や救急作業に支障をきたすことを回避するため」と弁明するが、対照的に労働党のジェレミー・コービン党首は同日、訪問して被災者と会って、「代替え住宅確保に全力を尽くす」と語り、ロンドンのカーン市長も面談した被災住民に原因究明を約束した。
 
労働党のハーマン議員は、ツイッターで、「メイ氏は被害者と会うべきだった。テレビ経由で話をするだけでは駄目だ」と非難。

英BBC放送は「被災者に共感している姿勢に欠け、誤算だったということになりかねない」と求心力が低下したメイ政権の命取りにもなる懸念を伝えた。【6月16日 産経】
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“総選挙で後退し辞任要求が続く中、英メディアは今回の火災がメイ氏の「政治的な命取り」になりかねないと伝えている。”【6月17日 毎日】という状況で、メイ首相は16日、改めて被災地を訪問して被災者を慰問しました。

しかし、遅きに失した感があります。冒頭画像のBBCインタビューは16日の慰問を終えてのものですが、「先ほど現地では取材を受けなかったのに、今なぜBBCに来られたのですか?」と、「今更何を弁解するつもりなのか?」と言わんばかりの冷たく厳しい質問にさらされることになっています。


先日の総選挙ではメイ首相はTV討論会に出席しなかったことも批判されていますが、国民向けに訴えるようなわざとらしいパフォーマンスは嫌いなのか、あるいは批判が集中するような場を逃げてしまうのか・・・

いずれにしても危機管理のまずさで、ハリケーン・カトリーナに対するブッシュ元米大統領、セウル号事件の際の朴大統領の二の舞になりかねないところに置かれています。

所得格差がらみと言う点では、ハリケーン・カトリーナはよく似ています。

そうでなくても困難を極める離脱交渉に向けて、今の状況ではなかなか・・・・。相手方のEUとしても、国内をまとめきれない“弱い政権”相手では困るところでしょう。

個人的には、この際EU離脱なんて白紙にもどして・・・・と、無責任に思ったりもするのですが、“引き返す勇気”が必要なときもあるでしょう。
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フィリピン・ドゥテルテ大統領 ミンダナオ島の戦闘で垣間見える反米・容共のメンタリティ、レイプ願望も

2017-06-17 22:23:16 | 東南アジア

(首都マニラにあるマラカニアン宮殿(大統領府)で演説するドゥテルテ大統領(2017年6月1日撮影)。【6月15日 AFP】 お疲れのように見えるのはたまたまでしょうか。)

11日を最後に姿を見せない大統領 健康に関する憶測も
フィリピンのドゥテルテ大統領が今月11日を最後に公の場に姿を見せておらず、健康不安説などが出ている・・・という報道は周知のところかと思います。

****ドゥテルテ氏に病気説 飛び交う臆測、5日間姿見せず****
フィリピンのドゥテルテ大統領が、今月11日を最後に公の場に姿を見せていない。多いときは日に数回も演説をしていたリーダーの不在に、国民の間では「病気ではないか」などの臆測が飛び交っている。
 
ドゥテルテ氏は11日、ミンダナオ島で続く過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う武装組織との戦闘で死亡した海兵隊員の遺族と面会した。

翌12日のフィリピン独立記念日には、マニラ首都圏で国旗掲揚式典に参加するはずだったが「体調が悪い」として欠席し、その後、公の場に姿を見せていない。昨年6月末の就任以来、5日も姿を見せないことは珍しい。
 
アベリヤ大統領報道官は15日、「大統領は元気。休養が必要なだけ」と強調。大統領側近が同日、ドゥテルテ氏とされる写真を公開した。

だがネット上では、「大統領は働ける状態なのか」「やせたように見え、心配だ」などの声が飛び交っている。16日にはラクソン上院議員が、「どの国でも大統領の健康問題は個人の問題ではなく社会的関心事だ」と述べ、政府に情報公開を迫った。
 
まもなく就任1年を迎えるドゥテルテ氏は現在72歳。重い持病を抱えているとのうわさも絶えない。【6月16日 朝日】
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“エルネスト・アベリャ大統領報道官は報道陣に対し、ドゥテルテ氏の体調に問題はないと説明した上、「大統領は元気を回復させるため、しばらく休息を取っている」と語った。公務に戻る時期は未定だとしたが、アベリャ報道官は「病気という点では心配することは何もない」と語り、「大統領は健康である」と念を押した。”【6月15日 AFP】とも。

今日もまだ“休養”が続いているようです。

ドゥテルテ大統領はバイク事故の後遺症を抱えていることは以前から報じられています。“がん”の噂は否定しています。

****ドゥテルテ比大統領、強力鎮痛剤の使用認める 健康に懸念も****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテル大統領が強力な鎮痛剤のフェンタニルを使用していたこと認めたことから、ドゥテルテ氏の健康に関する懸念が強まっている。議員らは18日、大統領に健康診断を受けてその結果を公表するよう促した。
 
ドゥテルテ大統領は12日、過去にオートバイの事故で脊髄を痛めたために、がんや慢性疾患の患者に処方されることが多いフェンタニルの貼り薬をよく使用していたと公表した。しかしドゥテルテ氏が処方された量を超えて「フェンタニルを乱用」していると知った医師に、同剤の使用を止められたという。(中略)

フィリピンの議員らは、ドゥテルテ大統領がフェンタニルの使用を認めたことで、同大統領の健康状態に関する憶測が再燃したと主張している。ドゥテルテ氏に関しては大統領選の選挙運動中、がんを患っているとの噂が広まっていた。ドゥテルテ氏は繰り返し噂を否定している。(後略)【12月18日 AFP】
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現地在住の方のブログによれば、脊髄損傷のほか、「私は毎日この片頭痛があります。私は熟睡していない」「癌だと信じてはいけない。私が持っているのは、本当はバージャー病だ。喫煙でのニコチンの影響で、血管を収縮させ、アルコールが血管を拡張する」とも語っているそうです。【http://ameblo.jp/morhicin171816/entry-12228516127.html

「フェンタニルを乱用」するほどの脊髄損傷後遺症、毎日の片頭痛、更にバージャー病・・・・“満身創痍”の感も。
先月の厳しい禁煙令も自身がバージャー病(発症には喫煙が深く関係するとされています)を有することと関係しているのでしょうか。

****比ドゥテルテ大統領、厳格な禁煙政策をさらに強化 大統領令に署名****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は18日夜、公共の場での喫煙を広範囲で禁止する大統領令に署名した。アジア諸国でも特に厳格な反たばこ政策をより強化する内容で、60日以内に発効する。
 
喫煙やたばこの販売は、屋内の公共の場に加え、学校や公園など子どもが集まる場所から半径100メートル以内の屋外でも全面的に禁止される。

たばこ広告禁止や屋外の公共の場での禁煙、たばこ包装に健康被害を警告する画像広告の表示を義務付けるなどの施策は、以前から導入されている。【5月19日 AFP】
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いまだ終息しないミンダナオ島の過激派との戦闘
政治指導者の健康不安説はしばしば流布しますが、本当のこともあれば、そうでないことも。今回のドゥテルテ大統領の健康状態に関してはわかりません。

健康問題はわかりませんが、ドゥテルテ大統領が内憂外患から多大なストレスにさらされていることは事実です。

“外患”の方は、“麻薬犯罪容疑者への超法規的殺人という強硬姿勢で国際社会から「深刻な人権問題」を指摘され、一方南シナ海領有権問題ではフィリピンによる同海域での資源開発に対し中国から「(そんなことをすれば)戦争になる」と「恫喝」されるなど厳しい状況”【5月27日 大塚智彦氏 Japan In-depth 「ミンダナオ島内戦に突入、ISの影」】ですが、目下の最大の問題は“内憂”、ミンダナオ島でイスラム系テロ組織が蜂起した件でしょう。

この問題で、ドゥテルテ大統領はミンダナオ島などに戒厳令を公布したことは、5月24日ブログ“フィリピン・ドゥテルテ大統領の戒厳令 対象地域・期間も拡大の可能性 暴力の矛先も・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170524でも触れたところです。

****ミンダナオ島内戦に突入、ISの影****
■内戦状態のミンダナオ島
フィリピン南部のミンダナオ島周辺地域に対し5月23日にドゥテルテ大統領が戒厳令を布告、イスラムテロ組織と国軍の間で戦闘が激化しているが、現地から伝えられる状況ではもはやテロ組織との戦闘というレベルではなく「内戦状態」という深刻な事態に陥っている。
テロ組織には複数の外国人メンバーの参加も明らかになっており、イラクやシリアでテロ攻撃を続けるイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」が本格的な東南アジアの拠点作りにミンダナオ島で乗り出したとの見方が強まる中、ドゥテルテ政権は国内治安対策だけでなく、国際テロ問題への難しい対応に直面している。

■2つのテロ組織vs国軍
ミンダナオ島西部にある南ラナオ州の州都マラウィで同島を拠点とするISともつながりのあるイスラム過激派「アブサヤフ」のイスニロン・ハピロン幹部の捕獲作戦を23日午後に国軍が開始した。

激しい銃撃戦になったところへ現地で勢力を急速に拡大していた「マウテグループ」と呼ばれる別の組織が参戦、二つのテロ組織と国軍で本格的な戦闘に発展した。

両組織は合同してマラウィ市の主要拠点を次々と確保、国軍は一時劣勢に追い込まれた。この状況を国軍首脳から訪問中のロシアで受けたドゥテルテ大統領は国軍の進言を受け入れて23日夜にただちにミンダナオ島と周辺地域に「戒厳令」を布告した。

戒厳令は地方行政の諸権利が治安部隊に統制されるとともに夜間外出禁止、令状なしの身柄拘束、家宅捜索、抵抗者への発砲・殺害が可能となるもので60日間継続される。フィリピンでは1972年のマルコス大統領、2009年のアロヨ大統領に次いで第2次世界大戦後、ドゥテルテ大統領による今回が3回目となる。(後略)【前出 大塚智彦氏】
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ISともつながるとされる「アブサヤフ」は、昔からこの地域で活動している過激派組織ですが、「マウテグループ」は初耳です。

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フィリピンではこれまでドゥテルテ大統領による「和平停戦」の呼びかけに「アブサヤフ」は応じることなく、外国人誘拐、殺害、身代金要求、銃撃戦を続け国内治安問題の最大の「脅威」となっていた。

その掃討作戦中に乗じる形で登場してきたのが「マウテグループ」と呼ばれる組織。

治安当局によると「マウテグループ」は元警察官で麻薬組織を率いるアブドラ、オマール・マウテ兄弟が組織したといわれ、2016年の調査ではメンバーは263人だった。

その後麻薬組織メンバーや地元犯罪者などが加入し、麻薬を資金源として大量の武器も取得、ISとの関係を深めてミンダナオ地方にISの東南アジアの拠点を構築することで「アブサヤフ」とも思惑が一致、今回の共同作戦になったとみられている。【同上】
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一時はマラウィ市の75%を掌握したとされた過激派グループですが、その後は鎮圧が進んでいるようです。
ただ、抵抗は依然として続いてもいるようです。

****IS系武装勢力が市民を奴隷に、逃げれば射殺 フィリピン****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」系武装勢力と国軍との間で戦闘が続くフィリピン南部ミンダナオ島のマラウィで、武装勢力の戦闘員らが市民を奴隷として動員し、逃げようとした人たちを殺害していることが分かった。当局が13日明らかにした。
 
国軍と武装勢力の戦闘は3週間に及んでいるが、フィリピン政府によると、武装勢力の支配下にあるマラウィの一部地域には、いまだに最大1000人の市民が取り残されている。
 
フィリピン軍は米軍の支援を受け、武装勢力の戦闘員らが身を潜めている住宅地に容赦なく爆撃を加えている。当局によると、マラウィ市内では400人の戦闘員が抵抗を続けている模様。
 
現地のフィリピン軍報道官は記者団に対し「われわれが救出した住民の証言から、彼らが(戦闘員の)食事の用意や武器弾薬の運搬を手伝わされていたことが分かった」と述べた。
 
政府によると、これまでの戦闘で少なくとも市民26人、兵士や警察官58人、武装勢力の戦闘員202人が死亡している。
 
エルネスト・アベリャ大統領報道官は首都マニラで記者団に対し、逃げようとして隠れていた市民5人が12日、戦闘員に見つかり殺害されたことを明らかにした。(中略)

ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、今回の武装勢力による一連の襲撃について、ISが人口約2000万人の同国南部ミンダナオ島に拠点を作ろうとしている企ての一環だと指摘している。【6月14日 AFP】
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13日のフィリピン軍発表では、マラウィ市の20%がまだ過激派支配下にあるとされています。
戦闘を避ける避難民は24万人に及ぶとされ、その衛生面のリスクも懸念されています。

【「米国に接触したことは一度もない」 共産主義反政府勢力には共闘を打診
興味深いのは、この戦闘を支援するためアメリカが武器を供与したと報じられた件。
周知のようにアメリカ嫌いのドゥテルテ大統領は、昨年9月12日の演説で、ミンダナオ島でイスラム過激派の掃討作戦を支援している米軍特殊部隊に「出ていけ」と撤退を求めた経緯があります。

****米、比に武器供与=IS掃討を支援***
在フィリピン米大使館は5日、対テロ戦支援のため、フィリピン海兵隊に銃や拳銃などの武器を供与したと発表した。武器は南部ミンダナオ島マラウィ市での過激派組織「イスラム国」(IS)系グループ掃討作戦に使われる。
 
供与されたのはライフル銃300丁やピストル200丁、マシンガン4丁など。米比両国は同盟関係にあるが、「嫌米」のドゥテルテ大統領は自国からの米軍撤退を求め、米国から供与された武器も「中古品だ。要らない」と文句を付けていた。【6月5日 時事】
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さすがに危機的状況にあってドゥテルテ大統領も個人的好き嫌いを棚上げしてアメリカと協力するのか・・・とも思ったのですが、そうでもないようです。

****フィリピン大統領、米支援「要請していない」 IS系勢力掃討で****
フィリピンのドゥテルテ大統領は11日、南部ミンダナオ島マラウィ市での過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力の掃討作戦で米国が支援の要請を受けたと明らかにしたことに関し、要請はしていないと述べた。

ドゥテルテ氏は武装勢力が占拠するマラウィから約100キロ離れたカガヤン・デ・オロでの記者会見で、支援要請のため「米国に接触したことは一度もない」と強調。米国の支援については「彼らが到着するまで知らなかった」と述べた。

親米派のフィリピン軍が、反米姿勢を繰り返し示しているドゥテルテ氏を通さず米国に支援を要請したかどうかは不明。

フィリピン軍は10日、米軍から技術支援を受けているが、米部隊が地上での作戦に参加しているという事実はないと明らかにしていた。これに先立ち、在フィリピン米大使館は、フィリピン政府に支援を要請されたと発表していた。

米国防総省は声明で、フィリピン軍に治安支援および情報収集、監視、偵察の分野での訓練を提供していると明らかにしている。【6月12日 ロイター】
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アメリカへの支援要請などはしたくないドゥテルテ大統領ですが、政府軍と戦闘を継続している共産主義勢力となら手を組めるようです。ドゥテルテ大統領はかねてより共産党の「理解者」をも自称しています。

****大統領、イスラム組織・共産党組織にも打診****
ドゥテルテ大統領は同じミンダナオ島を拠点とし、反政府武装活動を続けるイスラム過激派の「モロ民族解放戦線(MNLF)」とその分派である「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」に加えて、フィリピン共産党軍事組織「新人民軍(NPA)」に対しても政府軍との戦闘の中断と、国軍によるIS勢力一掃作戦への参加を呼びかけた。(後略)【6月7日 大塚智彦氏 Japan In-depth「ドゥテルテ氏、共産勢力と共闘?」】
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ドゥテルテ大統領は、極端な反米左翼だったベネズエラの故チャベス大統領に似たようなメンタリティを持ち合わせているようです。

【「3人レイプしても、私がやったと言うから」】
ミンダナオ島の戦闘に関連する“場外乱闘”的騒動としては、ドゥテルテ大統領の“レイプ容認発言”、アメリカのクリントン元大統領の長女チェルシーさんとの非難合戦も話題になりました。

****兵士に「3人レイプしても・・・」 ドゥテルテ氏に批判集中****
フィリピンのドゥテルテ大統領が、またレイプを容認するような発言をした。性犯罪を軽んじるような問題発言を繰り返す大統領に、国内外で批判の声が上がっている。

 問題の発言があったのは26日。戒厳令下のミンダナオ島イリガン市で、過激派との戦いに向かう兵士を前に演説したドゥテルテ氏は「責任は私がとる。任務に専念し、あとは任せなさい。3人レイプしても、私がやったと言うから。4人目の妻ができたらぶん殴るけど」と述べた。
 
この発言に、国内の人権団体や上院議員から批判が上がった。アベリヤ大統領報道官は27日、「誇張した表現で犯罪を例に挙げたが、兵士の行動に全責任を持つという意味だった」と釈明した。
 
一方、この発言に海の向こうから激怒しているのが米国のクリントン元大統領の長女チェルシーさん。ツイッターに「全く笑えない」と書き込み、さらに「ドゥテルテは人権に配慮しない残忍な殺し屋(murderous thug)。レイプはジョークではない」とも記した。(後略)【5月29日 朝日】
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チェルシーさんに対しドゥテルテ大統領はビル・クリントン元大統領の大統領時代の不倫スキャンダルに言及しながら口汚く反論しています。

****ドゥテルテ比大統領、レイプ発言非難のクリントン氏娘に暴言連発****
・・・・これを受けてドゥテルテ氏は31日、海軍兵士らとその家族の前で行った長時間にわたる演説の終盤、レイプに関する自身の発言を非難する人々、とりわけチェルシーさんに向け、「売春婦ども」とののしりつつ、「チェルシーは私を非難した。私は冗談など言っていない、ただ皮肉な物言いをしただけだ。私の演説をよく聴いてみろ。私は自分の冗談に笑ったりはしない」とまくし立てた。
 
さらにドゥテルテ氏はクリントン元大統領と不倫騒動を起こしたホワイトハウスの元実習生、モニカ・ルインスキーさんにも言及し、「彼女(チェルシーさん)に尋ねよう、米国の大統領だった父親が、ホワイトハウスでルインスキーや他の女たちとやっていた時にどう思ったのだ?父親を非難したのか?」と批判した。
 
またドゥテルテ氏は、詳細を示さずに米兵がフィリピンや日本で女性をレイプしたと非難。最後に「繰り返す、クリントン大統領がルインスキーとやっていた時に何を述べ、どんな反応をしたのだ?」と付け加えた。【5月31日 AFP】
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レイプ発言に関しては、ドゥテルテ大統領は“前科”がありますので、「またか・・・」としか思えません。
ドゥテルテ大統領は昨年の大統領選のさなかにも、外国人女性が被害にあったレイプ事件に触れ、「美人だった。私が先にやるべきだった」と発言して聴衆の笑いを誘っています。

兵士を鼓舞するのにどうして「3人レイプしても、私がやったと言うから」云々の発言になるのか?
性的問題に関しても特殊な(あるいは古臭いマッチョ的な)メンタリティを持っているようです。

男性の多くにそうした面があると言えばそうですが、それを公言するのはまた別問題です。

健康面でいろいろ万全でないところもあるようですから、この際ゆっくり休養されたら・・・とも思うのですが、そういう“休養が期待される”人に限って、すぐに復帰することが多いのも困ったものです。
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フランス総選挙 「強い大統領」演出で、マクロン大統領が率いる新党が圧倒的な勢い 今後への期待と不安

2017-06-16 23:06:18 | 欧州情勢

(【5月29日 CNN】 話題になったトランプ大領との長い、指の関節が白くなるほどの固い握手 「決して譲歩しない」とのマクロン大統領の意を込めた“握手外交”でした。)

【“新人と経験者のバランス”で「1強体制」へ
6月11日に第1回投票が行われたフランス総選挙(下院・国民議会選挙)は、第1回投票で過半数を取った候補者がいない場合には、1回目の投票で12.5%以上の得票率を得た候補による決選投票が明後日(18日)に行われます。
この選挙でマクロン大統領が率いる「共和国前進」グループが圧勝する見込みであることは報道のとおりです。

「共和国前進」は、マクロン氏が大統領選に向けて1年前に結成した政治グループ「前進!」から発展した新党です。

大統領選挙に当選はしたものの議会内に支持基盤を持たず、新党を率いて総選挙に臨むマクロン大統領は、議会において多数派を形成できないと苦しい政権運営を強いられるのでは・・・との懸念がありました。

“フランス憲法の規定では、立法や予算承認、首相の解任の権限を持つのは議会だけであり、議会で過半数を取れなければ、今後の改革をスムーズに進めることは難しい。

もちろん従来の大統領達は、みな所属する政党を軸に過半数を獲得してきた。しかしながらマクロン氏が建てた政党「前進」は現状ではゼロ議席で大きな政党が築いてきた基盤もなかったのだ。”【6月13日 Japan In-depth】

しかし、「第1党を確保しそう」→「過半数に迫るい勢い」→「過半数越え」→「最大で400議席も」→「400を大きく超える勢い」と、日を追うごとに勢いを増し、決選投票直前の15日の世論調査では440─470議席という驚異的な予測が出されています。470議席だと全体の8割を占めることにもなります。

****仏下院選、マクロン大統領の新党が440─470議席獲得へ=調査****
15日に公表された世論調査によると、18日に第2回投票が行われる仏国民議会(下院)選挙はマクロン大統領が率いる「共和国前進」グループが圧勝する見込み。

調査会社オピニオンウェイとハリス・インタラクティブがそれぞれ行った調査では、同グループが全577議席中440─470議席を獲得すると予想されている。

オピニオンウェイは保守派の共和党と中道右派連合の議席を70─90、社会党は20─30と見込んでいる。

極右の国民戦線(FN)は1─5議席、極左の「不屈のフランス」は5─15としている。

ハリス・インタラクティブも同様の予想を示している。

オピニオンウェイによると、投票率は46%と第1回投票から低下する見込み。【6月16日 ロイター】
*********************

当初は圧勝・地滑り的大勝利が予測されながら、労働党の追い上げにあって、結局過半数割れとなったイギリスのメイ首相率いる保守党とは対照的な推移です。

マクロン新党については圧勝予測もさることながら、そもそも、5月の大統領選挙から時間的余裕もないなかで、ほぼ全選挙区に候補者を擁立できたこと自体も驚きです。上述のように大統領選挙に勝利しても議会選挙で勝たないと意味がないということで、大統領選挙と並行して候補者選びを進めていたことは報じられていましたが・・・。

****仏議会選に向けて右旋回を目指すマクロンの試練****
・・・・国民議会の定数は577。小選挙区制で、REM(「共和国前進」)はできるだけ多くの候補者を擁立しようと、約1万9000人の応募者から有望な人材を絞り込み、最終的に526人の候補者リストを発表した。

候補者選びは困難を極めた。マクロンの試みは現代のフランスばかりか、どこの国の政界でもまず前例のない政治的チャレンジだ。既成政党からのくら替え組と政治の素人を擁立して、全く新しい政党を議会の多数党に仕立てようというのだ。

社会党色の払拭がカギ
マクロンから独立した選考委員会が左右両陣営、さらには新人と経験者のバランスを見計らいつつ候補者の選定を進めた。

マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請。元女性闘牛士のマリー・サラ、長髪の数学者セドリック・ビラニといったタレント候補もリストに含まれる。(後略)【6月5日 Newsweek】
******************

“マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請”ということは、逆に言えば、半数ほどは既成政党(左派の社会党、右派の共和党)からの鞍替え組です。

大統領選挙における“マクロン優勢”の流れに乗る形で、左右両派からの大量の移籍が見られました。今回選挙予測で既存の二大政党は劇的に議席を減らす見込みですが、すでに候補者選定段階でマクロン新党にその基盤を侵食されていたとも言えます。

一方、首相のフィリップ氏が中道右派・共和党の出身、閣内には同党や中道左派・社会党の大物議員が名を連ねるということで、ルペン党首率いる右翼・国民戦線(FN)からは「従来通りの古い顔」などの批判も浴びていますが、環境運動家や企業経営者も閣僚に登用し、そうした印象を薄めています。“新人と経験者のバランス”です。【6月13日 朝日より】

候補者選定段階での“ゴタゴタ”はそれなりにあったようですが、それは当然でしょう。

自身が社会党・オランド政権の経済相だったこと、大統領選の序盤では社会党の支持をバネに有力候補にのし上がったこともあって、マクロン新党は社会党の影響が強いとみられがちでしたので、中道右派の共和党支持者の票も取り込んで議会選で勝つにはそのイメージを払拭する必要もありました。

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フランスのエマニュエル・マクロン大統領率いる新党「前進する共和国(REM)」にとって、それは願ってもない宣言に思えた。

社会党のフランソワ・オランド前大統領率いる政権で首相・内相を務めたマニュエル・バルスが「社会党は死んだ」と宣言。6月に実施される国民議会(下院)選挙ではマクロンの新党から出馬する意向を発表したのだ。

ところが公認候補の選考に当たるREMの委員会は、バルスの申し出を拒否。これには誰もが耳を疑った。マクロンはバルス首相の内閣で経済相を務めている。しかも、大統領選で社会党の候補を差し置いて自分を支持してくれたバルスは、マクロンにとっては恩人のはずだ。

それでもあえてバルスを切った苦渋の決断が、マクロンの直面するとてつもない試練を物語っている。マクロンは自分を選んでくれた有権者を説得しなければならないのだ。議会選ではこれまでの支持政党を捨てて、REMに入れてほしい、と。【同上】
*******************

さすがにマクロン大統領は、バルス氏の選挙区には対立候補を立てていません。
バルス氏だけでなく、協力してくれる他党の候補者には対立候補を立てていません。

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前進が波に乗る中、他党の候補にはその勢いに乗じようとの動きもある。
 
パリ北部の選挙区では保守党の候補が「大統領のための多数派を」と訴え、自身のツイッターに共和党出身のフィリップ氏との写真を掲載。支持率低迷中の左派、社会党の候補もポスターに「マクロン氏と進歩派の多数派のため」と掲げ、社会党のロゴマークを目立たないように記した。
 
前進は他党候補でも協力が見込めれば対抗しない戦略をとり、この選挙区に公認候補はいない。有権者からは「どちらも相手より前進に近いと説明してくる」(前進の支持者)と戸惑いの声も上がる。【6月10日 朝日】
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既成の2大政党である中道左派・社会党と中道右派・共和党の候補からも、マクロン大統領との近さをアピールする動きが出ており、今後の政界再編は不可避の情勢です。

【「強い大統領」演出に成功
マクロン大統領はまだ就任したばかりで実績云々はまだの段階ですが、主要7カ国(G7)首脳会議など外交舞台も無難にこなし、ロシア・プーチン大統領やアメリカ・トランプ大統領に対し1歩も引かない強い姿勢を見せることで、強い指導者という国民の信頼を得ることに成功しています。(今のところは・・・ですが)

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・・・・大統領選でのマクロン氏の勝利は、右翼・国民戦線(FN)のルペン党首の大統領就任を防ぐという消極的選択の面が強いと指摘された。

それを考えると、マクロン陣営の勢いは大方の予想以上だ。政治学者のブルーノ・コトレス氏は「政権はおおむね順調にスタートしてマクロン人気が続いている。一方の野党はおぼつかない」とみる。
 
マクロン氏は、ロシアのプーチン大統領に、同性愛者の人権問題で苦言を呈したと記者会見で説明した。

またトランプ米大統領が温暖化対策の「パリ協定」離脱を発表した際には、深夜に機敏にテレビ演説し、「間違っている」と訴えた。

39歳の若きリーダーは米ロ両大国の首脳と渡り合い、「強い大統領の姿をうまく演じている」(仏紙記者)という。【6月6日 朝日】
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こうした「「強い大統領」のイメージをなるべく広く浸透させるイメージ戦略・印象操作にも力を入れたようです。

****マクロン新党大躍進のわけ****
■マクロン人気の背景
大統領選の時点では、まだまだマクロン氏の実力に疑心暗鬼の有権者も多く、「FNには入れたくないので無難な方を選択」ぐらいの気持ちの人がいたかもしれない。

しかし大統領選出後はマクロン氏の人気はうなぎのぼりだ。階段を駆け上る若さ、今までの大統領とは違う振る舞い、あらゆることが好感を得る結果になっている。

さらにマクロン人気を加速させたのが、トランプ氏が地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した直後の発言だ。トランプ氏の発言「アメリカを偉大な国にする」を皮肉り、「世界をもっと偉大にする。賛同する人はフランスに来てください。」と英語で呼びかけた。

この言葉はツイッターで24万回リツーイトされ、この人気に早速反応したマクロン氏のスタッフ達はすぐさまグレートモアのサイトを立ち上げ、フランスに来る研究者達への窓口を設けたことも話題を呼んだ。「開かれた国」フランスを世界にアピールするだけでなく実際にフランスに来る方法の道筋が作られたのだ。

マクロン氏の言葉が世界中に拡散されていくのを目のあたりにして、年配の有識者で「マクロンはなんて運がいい男なのだ」と言う人がいた。

しかし、ほんとうに運がいいだけなのだろうか?この状態をラッキーとしか考えられないのでは全ての見方を誤るのではないのか?

確かに従来の政治家たちのやり方とは違うかもしれない。しかしながら大きな実績を残す実業家たちが行っている行動そのものに重なってみえる。

マクロン氏を陰で支える頭脳集団は、起業して実績を残す実業家も多い。そしてスピードがある。マクロン氏が「階段を駆け上がる」ことに違いを感じた人がいれば、すぐさまそれをアピールし旧体制を批判してきた層を獲得した。

トランプ大統領に向けた言葉に注目が集まればすぐさま対応し、世界のトランプ反対層を獲得。その上で、マクロン氏のフランス事業基盤を立て直すという計画にもつながる優秀な人材を呼び寄せる宣伝にまでつなげたのだ。

■マクロン政権は「スタートアップ」
大統領就任後の流れには、「取り組みの情熱」「周囲の巻き込み」「スピード」など、新事業を成功させるのに必要とされる全ての要素がうまく詰まっていることが見てとれる。

フランスでは起業する人を応援するスタートアップに力を入れているが、マクロン政権自体がとても見事なスタートアップを実践してみせた。その結果は確実に議員選に現れたと言えるだろう。

来週に2回目選挙が残っているが、現時点では圧勝が予測されている。これでマクロン政権の基盤が確立される。今後の動きにも注目していきたい。【6月13日 Japan In-depth】
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マクロン大統領が好んで着ている青を基調とした細身のスーツ(価格は5~6万円程度)が、人気を集めているそうですが、“大手投資銀行出身のマクロン氏は、かつて日本円で数十万円のスーツを着ていたが、経済相に就任した約3年前、ブリジット夫人(64)の助言で、「庶民派」に変身したと言われている”【6月15日 読売】とも。イメージは重要です。

大統領選挙でのルペン氏、選挙後のトランプ大統領と“敵役”に恵まれた感もあります。

【“古い政治”を脱して新しい政治をつくれるか?】
圧倒的な“マクロン人気”にも見えますが、第1回投票の投票率の低さにも示される政治離れも進行しています。
“投票率は48.7%と、前回2012年の第1回投票時の57.2%から大幅に低下した。アナリストらは反マクロン陣営の支持者たちが投票を控えたためだと分析している。”【6月12日 BBC】

****それでもマクロン支持は「相対的」でしかない****
・・・・この棄権率の高さは、大統領選挙でも見られたような、国民の既成政党への不信と政治離れを再確認したことになる。

有権者は「相対的」にマクロンを支持したに過ぎず、フランス政治そのものに対する期待が小さくなっていることがうかがわれる。

少し意地悪な数字であるが、棄権・無効票に投票事前未登録などを加えると、実際の投票率はもっと下がる。マクロン派が30%以上の支持率を得ているとしても、実際にマクロンに投票した人は有権者の10人に1人程度、という見方である。

これは単なる数字のマジックであるが、表向きの大勝利の裏で、国民の政治離れは歴然としている。

マクロン政権が心機一転、世代交代と政界再編成を目指すのは確かだ。それは候補者の平均年齢が49歳ということにも表れている。

選挙制度が変わって兼職が禁止されたために、市長や地域県議会議長にとどまり、国会議員の再立候補をあきらめた現職議員が200名にも上るといわれる一方、マクロン派の候補者の半数は政治経験のない人たちだといわれる。マクロン大統領もそうだったように、今回が初めての立候補だという候補者も多い。

マクロンに求められている新たな改革は、まずは人心の転換、本当の意味での政治の風を起こすことである。【6月16日 Foresight】
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“政治経験のない人たち”がどれだけ働けるか?という問題とともに、多くの“乗り換え組”の“古い政治”克服も課題となります。

すでに、フェラン国土団結相のパートナーだった女性に利益を誘導した疑惑、バイル司法相のスタッフが欧州議会で勤務していたように装って不正な報酬を得ていた疑惑などが噴き出しています。

“実務を進めるとなると、ベテラン議員の力を借りざるをえないのが実情だ。そしてベテラン議員の中には、旧来型のしがらみや腐敗に染まった人物が混じっていたという皮肉な構図だ。”【6月15日 日経】

今のところは、こうした疑惑を大きく超える“マクロン人気”の順風を受けていますが、今後に向けてはこうした“古い政治”一掃ができるかどうかが、国民の信頼をつなぎとめる重要なカギになります。

もちろん政策面で結果を出す必要もあります。政策面での課題は経済政策でしょう。

“フランス国民は相次ぐテロに加え、高い失業率などの経済問題に辟易していたと言われる。それらを解決できなかった既存の2大政党にそっぽを向いたのだ。

マクロン氏の喫緊の課題は、世論調査でいつも不満のトップの失業率の改善。しかし、EU残留を主張する立場で、有効な対処手段を見いだせるだろうか?”(“伝説のディーラー”藤巻健史氏)【6月7日 dot】といった指摘も。

今回選挙に関しては、マクロン新党以外にも、マリーヌ・ルペン氏の極右FNと、極左ジャン=リュック・メランション氏率いる「不服従のフランス(FI)」の意外な伸び悩みといった話もあります。

簡単に極右FNに関して触れると、大統領選挙でルペン氏が決選投票に残ったとはいえ、その結果が惨敗であったことが支持者を大いに落胆させたこと、組織内の路線をめぐる内紛(その結果、姪のマレシャル・ルペン氏が不出馬)、選挙資金の枯渇(大統領選挙ではプーチン大統領に頼っていましたが)などの要因が指摘されています。【6月16日 Foresightより】

もし、マクロン大統領が国民の期待に応えられない結果に終われば、次はいよいよ“ルペン大統領”・・・・とも言われています。
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